文献情報
文献番号
201305019A
報告書区分
総括
研究課題名
全国の医師の需給推計に関する研究
課題番号
H25-特別-指定-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
濃沼 信夫(東北薬科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
今後の医師養成に関する施策判断の参考とするため、わが国の医師需給に関する様々な研究を踏まえて推計方法の比較・分析を行い、将来的な医師需給の推計方法を検討する。
研究方法
医師の需給に関する国内外の研究・知見を収集し、わが国における医師需給の課題、今後の見通し、社会環境の変化に対応した将来推計の手法などを検討した。また、人口当たりの医師数が特に多いドイツ、イタリアでは、医師需給に係る政策はどのように展開されたか、医師「過剰」の現状で何が起きているか等について実地調査を行った。
結果と考察
医師需給に係る国内文献として22件の報告書・論文・解説・資料、また海外文献として12件の報告書を入手した。国内における研究は、平成18年の厚生労働省研究班報告書「日本の医師需給の実証的調査研究」が基軸となるが、その後、医学部定員増など行政施策の見直しが行われ、女性医師の増加、医師の勤務環境の変化など社会状況は変貌している。今後の推計モデルの因子として、医師の供給量に関しては医師のキャリアパスのデータ、医師の需要量に関しては、地域ごとの住民の疾病構造に係るデータが必要になると考えられる。海外の需給モデルをみると、OECD諸国でいくつかの将来推計が行われているが、多くの場合、起点となる現在の需給バランスが適正であるかどうかについての判断はなされていない。不足や過剰の明確な定義がないこと、医療は不確実性が大きいことなどによる。
実地調査として、ドイツでは連邦保健省、連邦医師会、連邦保険医協会、保険医医療供給中央研究所、イタリアでは保健省、医師会、大学がんセンター、地域保健公社の各責任者からヒアリングを行った。ドイツでは、医師の偏在解消等を目的とした保険医需要計画が策定されており、全国が区域に分けられ、区域ごとに1990年の住民対医師の比率を基準として医師の過剰と不足が判断されている。一般比率と比べ、供給度が110%以上の場合には新たな保険医の認可を制限し、50%未満の場合には財政面等の誘導策が行われる。計画では、過去の一時点の住民対医師の比率を需給の均衡点と仮定されており、科学的に理想的な医師の需要を求めることが難しいことから、この比率の決定には、財政面など政治的な要素が多分に加味されている。しかし、保険医需要計画の実施にも関わらず、都市部の医師過剰と地方の医師不足は改善が見られていない。このため、2013年に、診療科別に地域区分を設けること、および、計画の対象をすべての診療科に拡大すること等の改正が行われており、制度改正の結果が注目される。イタリアでは、全国民を対象とする公的医療として国民保健サービス機構(SSN)により、主に地域保険公社(ASL)と公立病院を通して医療サービスが提供される。病院は大半が公立であり、一部に私立の診療所や小規模病院が存在する。患者は地域の家庭医に登録し、ここを受診することで処方箋の交付や、専門医や病院の紹介を受ける。過去には、医学部は入学定員が設けられておらず、医師の過剰状況が生じたことから、約10年前から、州政府・保健省・医師会が参加する会議で、入学定員と卒後研修定員が決定されている。財政的な観点から医師の採用数は抑制されており、今後、退職医師や海外流出医師が増加すると予想され、需要推計と供給推計の比較に基づく養成数の調整が重要となっている。
実地調査として、ドイツでは連邦保健省、連邦医師会、連邦保険医協会、保険医医療供給中央研究所、イタリアでは保健省、医師会、大学がんセンター、地域保健公社の各責任者からヒアリングを行った。ドイツでは、医師の偏在解消等を目的とした保険医需要計画が策定されており、全国が区域に分けられ、区域ごとに1990年の住民対医師の比率を基準として医師の過剰と不足が判断されている。一般比率と比べ、供給度が110%以上の場合には新たな保険医の認可を制限し、50%未満の場合には財政面等の誘導策が行われる。計画では、過去の一時点の住民対医師の比率を需給の均衡点と仮定されており、科学的に理想的な医師の需要を求めることが難しいことから、この比率の決定には、財政面など政治的な要素が多分に加味されている。しかし、保険医需要計画の実施にも関わらず、都市部の医師過剰と地方の医師不足は改善が見られていない。このため、2013年に、診療科別に地域区分を設けること、および、計画の対象をすべての診療科に拡大すること等の改正が行われており、制度改正の結果が注目される。イタリアでは、全国民を対象とする公的医療として国民保健サービス機構(SSN)により、主に地域保険公社(ASL)と公立病院を通して医療サービスが提供される。病院は大半が公立であり、一部に私立の診療所や小規模病院が存在する。患者は地域の家庭医に登録し、ここを受診することで処方箋の交付や、専門医や病院の紹介を受ける。過去には、医学部は入学定員が設けられておらず、医師の過剰状況が生じたことから、約10年前から、州政府・保健省・医師会が参加する会議で、入学定員と卒後研修定員が決定されている。財政的な観点から医師の採用数は抑制されており、今後、退職医師や海外流出医師が増加すると予想され、需要推計と供給推計の比較に基づく養成数の調整が重要となっている。
結論
医師需給の将来推計に関する国内外の報告を検討したところ、将来推計は、科学的な正確性を求めることは困難であり、医療提供体制に係る議論や政策決定のガイダンスに用いるべきものという考え方が多かった。推計モデルの仮説やこれに用いるパラメータは、社会経済状況や疾病構造、ライフスタイルの変化を踏まえて、定期的に変更を加える必要があるということが多くの報告で指摘されている。また、医師は地域や診療科の偏在が少なくないことから、全国レベルの推計には、地域レベルでの推計を積み上げることの重要性が述べられている。ドイツ、イタリアにおける現地調査では、両国とも人口当たりの医師数がわが国の2倍弱と相当に多い国であるが、一部で医師の不足(特にプライマリケア医師)と偏在の課題に直面していることが判明した。
公開日・更新日
公開日
2015-05-27
更新日
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