高齢者死亡関連要因の解明に関する多施設共同前向き研究

文献情報

文献番号
199800184A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者死亡関連要因の解明に関する多施設共同前向き研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
萱場 一則(自治医科大学地域医療学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学)
  • 石川鎮清(自治医科大学地域医療学)
  • 吉村学(自治医科大学地域医療学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化の水準を示す客観的な指標として死亡があり、高齢者死亡との関連因子を同定することは、さらなる介入研究へつなげるために重要な課題である。これまで、多くの疫学研究が動脈硬化危険因子をはじめいろいろな因子と死亡との関連を報告してきた。しかし、その多くは昭和30年代から40年代に開始されており、時代とともに関連因子が変化している可能性を考慮すると地域住民における時代に即した関連因子の抽出を行う必要がある。以上のような背景を基に、本研究は地域住民を対象とした前向き研究により、わが国における高齢者死亡の実態を把握し、生活様式や、血清脂質、凝固因子といった危険因子と高齢者死亡、特に循環器疾患死亡との関連を定量的指標を用いて評価することを目的としている。
研究方法
岩手県岩泉町、千葉県多古町、新潟県大和町、岐阜県久瀬村、岐阜県高鷲村、岐阜県和良村、静岡県佐久間町、兵庫県北淡町、広島県作木村、高知県大川村、福岡県新宮町相島、福岡県赤池町の12地区において、老人保健法の健診受診者を対象に1992年から1995年にかけて、12,490人を調査した。対象年齢は40歳から69歳であったが、一部地域ではそれ以外の年齢についても対象とした。基礎データとしては、身長、体重、血圧、心電図検査、検尿、血液検査(赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、総コレステロール、HDLコレステロール、血糖)、および生活習慣等のアンケート調査(食生活、喫煙歴、飲酒歴、職業、身体活動、既往歴、家族歴)などのデータを収集した。血圧は全対象者に対して、同一機種の自動血圧計を使用し、座位にて5分間安静の後に測定した。血液検査はすべて1ケ所の検査機関で測定した。なお、上述の項目の他に、血中フィブリノーゲン、凝固第VII因子、リポプロテイン(a)、血清インスリン、C-reactive pretein (CRP)等の血液データ、あるいは社会支援、タイプA行動様式などについてのアンケート調査を取り入れた地区もあった。収集した基礎データのうち、心電図は循環器内科の専門医が独立して判読を行い、コード化した。
以上の基礎データを基に各地区で、脳卒中および心筋梗塞といった循環器疾患の発症の追跡調査を行った。発症の確認は、脳卒中では発症時の情報を記載した発症登録票と頭部CT検査を施行しているものについてはCTのコピーとで、また、心筋梗塞は発症登録票と発症時の心電図でそれぞれの疾患の発症確認とした。死亡については、死亡小票の確認により、研究開始から1997年末までの研究対象者の死亡および上記12地区の全住民の死亡を調査した。死亡についてはICD-10に基づいて分類を行い、集計し検討した。
結果と考察
対象者は12,490人で、そのうち男性が4,915人で、女性が7,575人であった。基礎データうち、心電図所見について今回分布を中心に解析を行った。心電図受診者は12,490人のうち11,030人(88.3%)で、男性は4,227人(86.0%)、女性は6,803人(89.8%)であった。心電図受診者の性、年齢階級の分布はほぼ全対象者の分布と同様であった。コード化した心電図所見では、何らかの異常を認めたものは2,055人(18.6%)で、そのうち男性が900人、女性が1,155人であった。心電図異常所見は延べで男性が1,066件、女性が1,311件で全体で2,377件であった。心電図異常の内訳としては、男性ではR波増高が最も多く(35.6%)、次いでT波異常(16.9%)、脚ブロック(15.2%)、不整脈(12.6%)の順であった。女性では、T波異常が最も多く(37.8%)、次いでR波増高(15.8%)、ST降下(15.6%)、不整脈(11.5%)、脚ブロック(10.9%)であった。年齢階級別の有所見率は男女とも年齢とともに上昇していた。ただ、20歳代では男性で20.3%、女性で9.8%と有所見率が30歳代より高かった。
追跡調査では、1998年3月末までで、追跡率94.5%であった。そのうち、脳卒中および心筋梗塞の発症の確認ができているものは、脳卒中発症が120例、心筋梗塞発症が29例であった。本人に対しての追跡調査では発症疑いとなっているものの、カルテ上で確認できていない症例が残っている。
追跡調査の転帰としては、発症の他に、打ち切り例として死亡および転出がある。死亡と転出については、1997年12月末までの集計であるが、対象者の死亡は、男性170人、女性119人で計289人であった。289人の死亡を死亡原因別に見ると、悪性新生物による死亡が103人(35.6%)、脳血管疾患が46人(15.9%)、心疾患が35人(12.1%)であった。男女別では、男性の死亡170人を死亡原因別にみると、悪性新生物が57人(33.5%)、脳血管疾患が24人(14.1%)、心疾患が20人(11.8%)で、女性の死亡119人では、悪性新生物が46人(38.7%)、脳血管疾患が22人(18.5%)、心疾患が15人(12.6%)であった。全国では、97年の統計で第1位悪性新生物(30.1%)、第2位心疾患(15.3%)、第3位脳血管疾患(15.2%)となっているものの、1995年、1996年は全国での死因で第2位脳血管疾患、第3位心疾患と入れ代わっており、今回の研究の対象者の死因とほぼ同様であった。
一方、参加12地区の全住民の死亡については、4,740人で、そのうち、男性の死亡は2,538人、女性の死亡は2,209人であった。全住民の死亡を死亡原因別にみると、悪性新生物が1,263人(26.6%)、心疾患が791人(16.7%)、脳血管疾患が708人(14.9%)、肺炎367人(7.7%)であった。全住民の死亡を男女別の死亡原因でみると、男性の死亡2,538人のうち、悪性新生物が680人(26.8%)、心疾患が388人(15.3%)、脳血管疾患が357人(14.1%)、肺炎が204人(8.0%)で、女性の死亡2,209人のうち、悪性新生物が572人(25.9%)、心疾患が396人(17.9%)、脳血管疾患が360人(16.3%)、肺炎が163人(7.4%)であった。全国集計と比べた場合、参加地区の全住民の死亡は、死因第1位が悪性新生物であり、第2位心疾患および第3位脳血管疾患がほぼ同数であり、死亡原因の上位はほぼ同様であった。また、本研究の対象者も死因の上位は、全国集計とほぼ同様であった。また、対象者の転出は12,490人中、1998年3月末までに199人であった。
年齢階級別の死因別死亡率を検討した。50歳未満では悪性新生物6人(40.0%)、脳血管障害1人(6.7%)、心疾患(6.7%)で、50歳以上60歳未満では悪性新生物16人(34.0%)、脳血管障害4人(8.5%)、心疾患5人(10.6%)、60歳以上70歳未満では悪性新生物40人(44.0%)、脳血管障害17人(18.7%)、心疾患5人(5.5%)、70歳以上80歳未満では悪性新生物32人(38.1%)、脳血管障害15人(17.9%)、心疾患16人(19.0%)、80歳以上では悪性新生物9人(17.3%)、脳血管障害9人(17.3%)、心疾患8人(15.4%)であった。50歳未満を含めて全年齢階級で悪性新生物による死亡が第1位となっていた。50歳未満では、脳血管疾患、心疾患での死亡が少ないのに対し、年齢階級の上昇とともに、脳血管疾患および心疾患による死亡に割合いが増加し、80歳以上では脳血管疾患と心疾患とほぼ同数であった。若年層、中年層に比べ、高齢者での脳血管疾患および心疾患といった循環器疾患による死亡が多く、高齢者死亡の関連要因の検討は不可欠である。
本研究は、高齢者死亡の関連要因について行っている研究で、客観的指標としての死亡およびその原因を検討した。この研究は前向き研究であるため、本年度のみでは、死亡との関連要因の検討はできなかった。前向き研究として、死亡およびその原因、さらに本研究の特徴でもある循環器疾患の発症に関しても追跡調査をより精度を高く行うことが必要である。
結論

公開日・更新日

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