ヒトES/iPS細胞由来心筋細胞を用いた薬剤性不整脈評価の薬事申請利用における妥当性の検討

文献情報

文献番号
201305009A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトES/iPS細胞由来心筋細胞を用いた薬剤性不整脈評価の薬事申請利用における妥当性の検討
課題番号
H25-特別-指定-015
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 カリウムチャンネルを発現させたヒト細胞などを用いた心毒性試験は、Torsade de pointes型心室頻拍などの致死的な薬剤性不整脈の可能性を評価する重要な試験として位置づけられており、薬事申請資料の一部を構成するものである。
 ヒトES/iPS細胞心筋細胞を従来の動物細胞やヒト培養細胞(カリウムチャンネル発現ヒト胎児腎細胞)に代わる安全性薬理試験系として利用しようとする動きが出てきている。しかしながら、分化心筋細胞の株間及びロット間での活動電位の波形、心電図のQT間隔、拍動数に大きなばらつきがあり、医薬品による致死的不整脈など副作用の予測に有効なのか判断する必要がある。
 そこで本研究において、市販のヒトiPS細胞由来分化心筋細胞を入手して、複数の分化心筋細胞株の品質評価を行った。また、同一の分化心筋細胞を用いて、我々が整備した標準的プロトコルの再現性を評価した。
研究方法
 複数の市販の分化心筋細胞を用いて、βアドレナリン受容体作動薬イソプレテノロールに対する反応性を株間で解析した。とくに、拍動数BPM (Beat per Minute)およびPKA活性の解析をした。
 また、1社の分化心筋を用いて、我々が標準化したプロトコルに従って、多点電極のディッシュで密に播種することにより拍動が同期した心筋シートを作成した。QT間隔に相当する指標として、細胞外電位のField Potential Duration (FPD) およびEAD/TAの発生率を解析した。
結果と考察
1)心筋シートの電気化学的評価
 分化心筋細胞をβアドレナリン受容体作動薬イソプレテノロール(30 nM)で刺激したところ、A社の分化心筋細胞は速やかに拍動が早くなったのに対して、B社は全く影響が認められなかった。そこで、A社の分化心筋細胞を高密度培養して心筋シートを作製し多点電極システムを用いて解析した。30nMのイソプレテノロールによってBPMの増加やISIの減少が認められた。さらに、アドレナリン受容体のGs/cAMP/PKAシグナルが重要であることから、イソプレテレノール刺激により活性化されているのか検討した。その結果、A社の心筋は活性化が認められたが、B社の心筋はあまり影響が認められなかった。従って、不整脈発生に重要である交感神経刺激応答に明確な株間差が存在することが示唆された。
 本研究により、市販の分化心筋細胞を使用する際にはβアドレナリン受容体の反応性およびPKA活性の重要性が明らかとなった。よって交感神経系の活性化は検討すべき項目であると考えられる。
今後、より多くの分化心筋細胞を用いてアドレナリン受容体の機能を比較することにより、分化心筋の性質の差を説明できる可能性が考えられる。

2)分化心筋細胞のバリデーション研究
 今回のバリデーション研究には、iCellをモデル細胞として用いて検討を行った。iCellの品質評価のために、実験プロトコルを統一化して、エーザイ、国立衛研、東邦大学の3施設でバリデーションを行った。陽性対象物質としてhERG阻害剤E-4031を用いた。その結果、3施設すべてにおいてE-4031の添加により、濃度依存的にFPDの延長が認められた。延長の程度は10nM処理により10~20%であった。
さらに、E-4031によるEAD/TAの発生も観察された。EAD/TAの発生率に関して3施設で比較した結果、発生する濃度は10~30nMと施設間の差が認められたが、100nMにおいては3施設ともすべてのMEDプローブにおいてEAD/TAの発生率が認められた。
 今回、市販の心筋で同一ロットという条件下ではあるが、3施設で同じ細胞を用いて共通のプロトコールのもとで薬理試験を実施することにより、再現性を検証することが可能になった。今後は、元のiPS細胞株や分化誘導法を比較検討することにより、分化心筋細胞の再現性・信頼性がより明らかになると期待される。
 さらに、EAD/TAの発生率を指標とすることにより、QT延長とは異なる催不整脈作用を評価でき、本研究においては3施設で検証することに成功した。今後、EADやTAの判断基準を設定することにより、新規の試験法に発展することが期待される。
結論
 本研究において、複数の市販のiPS細胞由来分化心筋細胞用いて、βアドレナリン受容体による心拍亢進が品質評価に重要であることを明らかにした。また市販のヒトiPS細胞由来分化心筋細胞を1株使用して多施設バリデーションを行い、どの施設においてもE-4031の薬理作用を検出できることを明らかにした。さらに、EAD/TAの発生率を指標とすることにより、QT延長とは異なる催不整脈作用を評価できることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201305009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
iPS由来分化心筋細胞の株間差の評価ポイントを明らかにした。アドレナリン受容体の反応性によって、薬理試験に必要な心筋としての特性を有しているのかチェックできることを明らかにできた。また、iPS心筋細胞の特性を評価して、成体心筋と比較して未熟であることを明らかにした。KCNJ2などの方法で成熟した分化細胞の開発も可能であることから、催不整脈作用のリスク評価に適した細胞の規格化を議論している。
臨床的観点からの成果
iCell心筋細胞をモデル細胞として用いて、陽性対照物質E4031の薬理試験を行った結果、臨床で心毒性を起こしうる濃度域でFPD延長やTriggered activity、Early after depolarizationが起こることを明らかにした。従って、分化心筋細胞の品質が安定であれば、一定の薬理学的な評価が可能である。その後、大規模検証を行ってTdPデータベースとの相関を検証し、催不整脈作用のリスク評価が可能であることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
iPS由来分化心筋細胞を用いることにより、従来のhERG試験では検出ができないTriggered activity、Early afterdepolarizationなどの不整脈作用を検出できる可能性を明らかにした。その後、大規模検証を行い、
催不整脈作用のリスク評価が可能であることを明らかにし、現行のhERG試験よりも予測性が高いことを示した。現在、厚労省と意見交換会を実施中である。
その他行政的観点からの成果
オールジャパンJiCSAでバリデーションを行った多点電極プロトコルをもとにして、FDAを中心とした国際コンソーシアムCiPAと協調のもと国際ブラインド試験を実施した。ヒトiPS心筋細胞を用いる評価法の再現性や催不整脈作用の予測性を検証して、論文を投稿した(2018年1月)。これをもとに、国際学会などで産官学の議論を行っている。
その他のインパクト
国内に関しては、安全性薬理研究会の技術交流会において薬理試験法を行う際の問題点をまとめて議論した。国際協調に関しては、公開シンポジウムを開催して、国際コンソーシアムCiPAのメンバーであるDavid Strauss(FDA)を招待し、ICHガイドラインに向けて心毒性評価法に関する現状と課題について議論を行った。さらに、国際安全性薬理学会で招待講演を行うとともに、産官学のパネルディスカッションを行い、参加者にアンケートを実施した。アンケート結果は論文を投稿した(2018年3月)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
Journal of Pharmacological Sciences (in press)
その他論文(和文)
1件
諫田泰成、再生心筋細胞を用いた安全性薬理評価系の開発、再生医療における臨床研究と製品開発、p572-576、技術情報協会 (2013)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
1件
特許出願番号:2013-116243 「正常な内向きのカリウム電流特性を有するiPS細胞由来心筋モデル細胞」
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
正常な内向きのカリウム電流特性を有するiPS細胞由来心筋モデル細胞
詳細情報
分類:
特許番号: 2013-116243
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura Y., Matsuo J., Miyamoto N. et al.
Standardization of testing methods with iPS derived cardiomyocytes for evaluating drug-induced repolarization delay
Journal of Pharmaceutical Sciences  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
2019-05-30

収支報告書

文献番号
201305009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,600,000円
(2)補助金確定額
5,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,786,690円
人件費・謝金 354,060円
旅費 413,250円
その他 46,316円
間接経費 0円
合計 5,600,316円

備考

備考
預金及び解約利息が発生したため

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-