後期高齢期における家族・経済・保健行動のダイナミックス

文献情報

文献番号
199800183A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢期における家族・経済・保健行動のダイナミックス
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 弘子(東京大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、70歳以上の高齢者を無作為抽出した全国調査を通して、1)保健福祉サービスに対するニーズの発生にかかわる社会・心理的要因、2)高齢者の収入、資産などの経済状態と家族による支援および健康との相互関連、の2点を解明することにより、後期高齢者の経済状態に応じてどのような形での援助が可能かを検討することを第1の目的とする。この全国調査は、1987年からの長期縦断研究のパネルを継続しつつ、新しく経済的側面を付与して、後期高齢期における保健行動、経済状態、家族および健康との相互関係という現代的な課題に重点を移すことを意図している。さらに、政策的な観点から、後期高齢者の健康や生活を支える基盤の整備のあり方を考えるために、特定の地域に限定した調査を実施し、社会資源の整備状況などの地域環境が家族、経済、健康のダイナミックな関係にどのような影響を与えるのかを検討する。プロジェクトの初年次にあたる平成10年度は、平成11年度に実施予定の全国調査に向けて、パネルとして継続する質問項目の取捨選択を行うと同時に新規項目の開発を行い、調査票を作成することを課題とした。特に、経済指標、精神的健康、プロダクティブ・アクティビティの3点について集中的に検討した。
研究方法
調査項目作成にあたり、1)関連文献の検討、2)既存のデータベースの解析、3)専門家および高齢者からのヒアリングを行った。1)に関しては、課題に関連のある論文や、項目作成の参考になる既存の調査票および報告書を収集して検討した。2)に関しては、本研究と共通する課題である高齢者の経済と健康のダイナミックな関係に焦点をあてた、米国の「Asset and Health Dynamics among Oldest Old(AHEAD) 」データと、4回にわたる既存のパネルデータを分析した。3)では新規項目開発のために専門家の意見を聴取したり、高齢者数名に作成した項目に実際に回答してもらい、回答のしやすさを確認した。また、高齢者自身が家族や家族以外の人々に対してどのような貢献(プロダクティブ・アクティビティ)を行っているかについて、2つの老人ホームの入居者330名にヒアリングした結果を分類・整理した。これらの作業をふまえて作成した調査票を用いて、全国から無作為抽出された70歳以上の300名に対しプリテストを実施した。プリテストの結果は現在分析中であるが、この結果をふまえて問題のある質問項目の削除または修正を行う予定である。
結果と考察
経済指標に関しては、経済指標として何を設定すればよいのかと、欠損値を減らすための方策を検討した。その結果、いずれも実際の金額を聞くより、「××万円~××万円未満」などの用意されたカテゴリーから選択する方が回答しやすいこと、収入については、勤労による収入、年金収入、仕送りや財産収入などのように収入源を区別して尋ねる必要があること、収入の月額と年額を併記する形式で回答させるなど回答方法を工夫することによって欠損率が低下する余地があることがわかった。また、金融資産や不動産についての金額は欠損率が高いことから、質問の仕方を工夫したり、金額の幅をより広くして答えやすくするなど、さらに工夫が必要である。
次に、高齢者自身はどのような活動を社会的貢献とみなしているかについての自由回答を分析したところ、高齢者の考える社会的貢献は、①有償労働(仕事)、②家庭内無償労働(家事、介護、子守など)、③家庭外の支援提供(別居親族等への支援、ボランティアなど)、④社会活動の世話役・手伝い、⑤金品の寄付・経済援助、⑥相談・話相手/助言、⑦その他に分類された。社会的貢献として整理された活動の一部は、就業行動や提供サポートなど、前回までの縦断調査において別の概念で用いられていた変数と重なりがあるが、プロダクティブ・アクティビティ全体としての分析を可能にするためには、それらの活動を共通の基準で評価するための質問(活動時間数など)を調査項目に含める必要がある。残された課題として、本研究において上記7分類のどの活動までを扱い、その活動をどのような基準に基づいて測定するのかという点が挙げられる。
精神的健康の尺度については、まず、主観的幸福感(subjective well-being)の構造を、初回調査(1987)におけるPGCモラール、人生満足度(LSI-A)、CES-D、自尊感情、の4尺度の項目に基づき検討した。因子構造としては、上位に主観的幸福感を、下位に「認知的評価」「肯定的感情」「否定的感情」「疎外感」の4つの因子を設定する2次の確証的因子分析を行った。分析の結果、この構造のあてはまり度がきわめて高いことが示された。次に、上記4尺度の欠損値の状況を調べた結果、CES-DとLSI-Aの項目の欠損値は比較的少ないが、PGCモラール尺度と自尊心尺度には欠損値が1割を越える項目があり、回答しにくい項目が含まれていたことが示唆された。主観的幸福感に関する尺度の選択に当たって注意すべきことは、1)主観的幸福感の4因子それぞれをカバーできるように複数の尺度を組み合わせて用いる、2)日本人高齢者に合う項目を選択する、ことである。さらに、ローカス・オブ・コントロール尺度は全般に欠損値が多いこと、他の変数との関連が弱いことから、コントロール感については別の新たな尺度に変更することを考慮すべきである。
結論
関連文献の検討、既存データの分析、専門家等からのヒアリングを通して、前回までのパネル調査の項目の何を維持し、どのような点を改善し、また新たにどのような枠組みを設定すればよいかの指針を得ることができた。今後は、プリテストの分析およびそれに基づいた質問項目の修正を繰り返すことによって調査票を完成させる。

公開日・更新日

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