中高年齢者の職業からの引退過程と健康、経済との関連に関する研究

文献情報

文献番号
199800181A
報告書区分
総括
研究課題名
中高年齢者の職業からの引退過程と健康、経済との関連に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 博(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、中高年齢者における引退過程と健康、経済との相互関連を解明することを目的としている。具体的な検討課題は、1)中高年齢者の就労継続・能力発揮という点からみた場合の企業による雇用管理、職場環境の整備、教育プログラムの現状と問題点の把握、2)引退過程とそれを規定する要因を、身体的、心理的、社会的要因との関連で多角的に検討すること、3)引退に伴う経済生活、社会生活、家庭生活、健康の変化を分析し、退職に対する社会適応を促す方策を検討すること、4)高齢者の引退過程が、配偶者の就労状況によってどのように異なるかを明らかにすること、5)米国の同様のデータベースを活用し、引退過程と健康、経済との関連の日本的な特徴を明らかにすることにある。初年度にあたる平成10年度の目標は、既存のデータ解析、米国の「Health and Retirement Study」から日本と比較可能な質問項目の取捨選択、および関係者からのヒアリングに基づき、仮説、分析枠組み、調査票を確定し、それらをふまえて全国の中高年齢者を対象とした調査を実施することにあった。
研究方法
1)既存のデータベースの解析:高齢者の生活と健康に関する縦断的・比較文化的な研究のデータベースを活用して、就労に関する分析枠組み・理論、課題、分析方法、調査方法に関するパイロット的な解析を行った。具体的な解析課題は、職業からの引退を規定する要因、職業からの引退の生活や健康に関する影響、経済的な項目に関する測定方法の検討などであった。2)米国のデータべース「Health and Retirement Study」に基づく日米比較可能な項目の作成:引退への意識や過程、職業からの引退が、健康や就労以外の社会活動、家庭生活、経済水準に及ぼす影響、高齢就労者のおかれた労働環境およびその健康への影響が日米でどのように異なるかを検討できるように、上記の米国のデータベースから関連項目を抽出した。次に、英語に堪能な日本人が英語から日本語に翻訳し、それをプリテストなどを用いて修正した。さらに日本語から英語に再翻訳し、原文と比較対照するなかで、語彙のレベルでの比較可能性を確保した。3)高齢者の就労、社会活動に関わる団体、組織からのヒアリング:高齢者の職業能力の向上あるいは雇用機会の確保のための公的な組織や機関、民間の関連機関を対象としたヒアリングを行い、活動状況、最近の高齢者の就労をめぐる問題点を把握した。また、引退後の高齢者の社会参加の場となる老人会、各種ボランティア団体などに対するヒアリングを行い、活動内容、会員の参加経過、活動上の問題点について整理した。4)全国中高齢者に対する調査票の完成:調査票を作成し、フォーカスグループを活用した調査項目の妥当性の検討、および50人を対象としたプリテストの実施により、調査票を確定させた。5)全国中高年齢者の調査の実施:全国55~64歳の男女4,000人を層化無作為抽出し、配票留置法による調査を実施した。
結果と考察
1)本研究の分析枠組み・仮説の確定:既存のデータの分析および文献レビューから、職業からの引退に関連する要因を分析するには、これまで指摘されている年金受給など経済的要因に加えて、健康、心理的あるいは職業階層的要因を視野に収めることが必要であることが示唆された。職業からの引退の健康や生活への影響については、全国高齢者を対象とした縦断調査の分析では、影響がないとの結果であった。しかし、企業への帰属意識、引退前後の経済条件の変化、職域以外のネットワークなど、このような条件の差異によって、職業からの引退の影響が異なる可能性がある。以上から、調査票には、企業への帰属意識、経済条件、職域以外のネットワークなどの質問項目を位置づ
ける必要があることが考えられた。2)経済項目の欠測値を減少させる方法:既存のデータの解析から、高齢者の場合には、経済に関する項目の欠測割合が高く、さらに欠測はランダムではなく、ある特定の層に偏って生じていることが伺えた。経済に関する項目の欠測の割合を減らすには、調査方法として配票留置法を採用することが有効であると考えられた。すなわち、調査結果で女性および認知障害のある人で欠測率が高いのは、経済に関する情報そのものを知らない、あるいは生計の中心者の許可を得なければ情報提供ができないという制約による場合が多いと思われるが、配票留置法を活用し、不明な場合には家族による回答も許容するとすれば、こうした人たちの項目欠測は低下する可能性が高い。さらに、経済の項目はあまり人に知られたくないものであるため、調査員の面前では回答づらいが、配票留置にすれば、このような抵抗感が軽減するため、項目欠測が減少するのではないかと思われる。3)調査票の確定と調査の実施:調査票は、我が国における職業からの引退に関する実践面、研究面での課題の解明に、比較文化的な分析枠組みの設定を含めて多角的に取り組めるように設計した。さらに、断面調査に基づく分析に加えて、追跡調査も意図して調査票を設計した。項目の面で特徴的であるのが、引退の影響や引退の時期に関する要因を多角的に評価するために、就労以外の社会活動・貢献、社会的ネットワーク、職業への帰属意識や生きがいの対象などの心理的な変数を加えた点にある。
結論
既存のデータおよび米国のデータベースの活用、関係者からのヒアリングに基づき、日米で比較文化的な研究が可能な調査票を完成させ、全国調査を実施した。

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