医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有の推進に向けた東アジアにおける民族的要因に関する研究

文献情報

文献番号
201303020A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有の推進に向けた東アジアにおける民族的要因に関する研究
課題番号
H23-地球規模-指定-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
川合 眞一(東邦大学 医学部医学科 内科学講座膠原病学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 頭金 正博(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 医薬品安全性評価学分野)
  • 竹内 正弘(北里大学 薬学部 臨床医学)
  • 吉成 浩一(東北大学 大学院薬学研究科 薬物動態学分野)
  • 渡邉 裕司(浜松医科大学 医学部 臨床薬理学講座)
  • 宇山 佳明(医薬品医療機器総合機構 レギュラトリーサイエンス推進部)
  • 斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 松本 宜明(日本大学 薬学部 薬物動態学)
  • 田中 廣壽(東京大学 医科学研究所附属病院 アレルギー免疫科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における新薬開発期間の長期化を解消する有効な手段として、遺伝的な背景が類似している日本を含む東アジア地域を一つの地域として効率的に東アジア諸民族を国際共同治験に組み込む治験システムが考えられる。しかし、医薬品の有効性や安全性は、遺伝などの内的要因以外にも環境などの外的要因にも影響を受けることから、医薬品の応答性に関する民族差についての科学的な検証を行う必要がある。平成19~20年度には文献調査により薬物動態学的観点から民族差に関する包括的な検討を行った。また、平成21~22年度には日中韓米を対象とした臨床薬物動態試験を実施し、東アジア民族間での薬物動態における共通点および相違点を明らかにした。しかし、民族差を知るためには薬物動態のみならず、医薬品の応答性、すなわち薬力学的観点から検討する必要がある。そのため、平成23-25年度の本研究では、医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有において、薬物動態および薬力学的観点から特に東アジアでの民族的要因を明確化することを目的とした。以下、平成25年度の結果を示した。
研究方法
 東アジア民族における薬物動態および薬力学の特性を明らかにし、欧米系民族と東アジア民族との間で民族差がみられる要因、および東アジア内で民族差が生じる要因を明らかにするため、臨床的また基礎的研究を行った。
結果と考察
【薬物動態における民族差が生じる要因に関する研究】
 平成21~22年度の日中韓米における薬物動態試験について母集団薬物動態解析を行った。メロシキカムの解析では、クリアランスに対するCYP2C9遺伝子多型などの影響が認められた。これらを既存報告論文と比較し、さらにPK/PD解析により薬効の予測を行った。シンバスタチンの解析では、オープンアシッド体の分布容積に対する年齢の影響が認められた。モキシフロキサシンの未変化体については、若干の民族差の影響が示唆された。(松本)
 薬物動態関連の6遺伝子12多型について、東アジア諸民族と日本人との多型頻度差を調査した。特にCYP2A6*4は、2倍以上の頻度差が日中間で認められた。また、フェニトインの蛋白質アダクト形成に関与するCYP2C19の活性消失型多型は、副作用発現の人種差の一因となっている可能性が考えられた。(斎藤)
 コレステロール摂取量が低下すると肝CYP3A4発現レベルが低下する。その機序として、コレステロールホメオスタシス調節因子であるSREBP-2の活性化が示唆された。(吉成)また、CYP3A4の発現調節に関連するpregnane X receptorのコファクターとして、PKM2を同定した。(田中)
【薬力学における民族差が生じる要因に関する研究】
 ワルファリンの維持量の民族差を検討した。その結果、3地域の一日平均処方量は、日本と韓国がほぼ同量であり、米国はその約2倍であった。ワルファリンの標的分子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)の遺伝子多型のうち、投与量に影響するハプロタイプ頻度には民族差があると報告されていることから、処方量の違いには、VKORC1のハプロタイプ頻度の差が影響していると考えられた。(頭金・川合)
 関節リウマチ治療薬に対する薬物反応性は国によって異なることがある。手術時に得られた関節リウマチ患者の滑膜組織からDNAを抽出し、外来微生物の潜在感染を検討した。今年度はEBウイルス感染を検討したが、対照の変形性関節症とは感染率に有意差がなかった。他の外来微生物および民族差については今後検討の予定である。(川合)
 緑茶とその成分であるエピガロカテキンガレートは、薬物トランスポーターOATP1A2を特異的に阻害した。緑茶はβ遮断薬ナドロールのみならず他のOATP1A2の基質となる薬物の吸収を阻害することから、薬物応答の民族差の外的要因となる可能性がある。(渡邉)
 民族差の存在が示唆される国際共同試験において、地域間の治療効果の一貫性を評価する方法として経験ベイズ法がある。今回、モンテカルロシミュレーションによって提案法の性能評価を行った結果、従来法よりも有用な場合があることが示唆された。(竹内)また、 国際共同治験を主たる臨床成績として承認された医薬品数が近年増加し、国際共同治験の実施が開発ラグを有意に短縮していることが確認された。(宇山)
結論
 東アジアにおける医薬品の国際共同開発および臨床データ共有の推進に向け、薬物動態および薬力学的ないくつかの要因を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201303020B
報告書区分
総合
研究課題名
医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有の推進に向けた東アジアにおける民族的要因に関する研究
課題番号
H23-地球規模-指定-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
川合 眞一(東邦大学 医学部医学科 内科学講座膠原病学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 頭金 正博(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 医薬品安全性評価学分野)
  • 竹内 正弘(北里大学 薬学部 臨床医学)
  • 吉成 浩一(東北大学 大学院薬学研究科 薬物動態学分野)
  • 渡邉 裕司(浜松医科大学 医学部 臨床薬理学講座)
  • 宇山 佳明(医薬品医療機器総合機構 レギュラトリーサイエンス推進部)
  • 斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 松本 宜明(日本大学 薬学部 薬物動態学)
  • 田中 廣壽(東京大学 医科学研究所附属病院 アレルギー免疫科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
本研究班開始時の分担研究者であった山添 康氏(前東北大学大学院薬学研究科教授)が内閣府食品安全委員会に平成24年7月1日付で異動したことに伴い、吉成浩一氏(東北大学大学院准教授)に交替した。なお、本件については平成24年7月18日付の研究者交替届を「別紙第15号様式」にて厚生労働省に届け出済みである。

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国における新薬開発期間の長期化を解消する有効な手段として、遺伝的な背景が類似している日本を含む東アジア地域を一つの地域として効率的に東アジア諸民族を国際共同治験に組み込む治験システムが考えられる。しかし、医薬品の有効性や安全性は、遺伝などの内的要因以外にも環境などの外的要因にも影響を受けることから、医薬品の応答性に関する民族差についての科学的な検証を行う必要がある。平成19~20年度には文献調査により薬物動態学的観点から民族差に関する包括的な検討を行った。また、平成21~22年度には日中韓米を対象とした臨床薬物動態試験を実施し、東アジア民族間での薬物動態における共通点および相違点を明らかにした。しかし、民族差を知るためには薬物動態のみならず、医薬品の応答性、すなわち薬力学的観点から検討する必要がある。そのため、平成23-25年度の本研究では、医薬品の国際共同開発及び臨床データ共有において、薬物動態および薬力学的観点から特に東アジアでの民族的要因を明確化することを目的とした。
研究方法
 東アジア民族における民族差がみられる要因を明らかにするため、臨床的また基礎的研究を行った。
結果と考察
【薬物動態における民族差が生じる要因に関する研究】
 平成21~22年度の日中韓米におけるメロシキカム、シンバスタチンおよびモキシフロキサシンの薬物動態試験について母集団薬物動態解析を行った。薬物によって異なった要因による若干の民族差が認められたが、全体としては、薬物動態の変動は小さいと考えられた。(松本)
 薬物動態関連の23遺伝子40多型について、東アジア諸民族間の多型頻度差を調査した。CYP2A6*4、CYP2D6*10、HLA-A*31:01、HLA-B*58:01、HLA-B75、HLA-DQA1*02:01、FCGR2A H131Rで基準値以上の頻度差が認められた。また代謝酵素の遺伝子多型が医薬品の蛋白質アダクト形成に関与することが示唆され、副作用発現の人種差の一因となっている可能性がある。(斎藤)
 コレステロール代謝物で活性化されるLXRαはCYP3A4の構成的発現を正に調節し、LXRαの活性化は異物応答性pregnane X receptor (PXR)を介してCYP3A4発現を抑制した。また、コレステロール欠乏時にはSREBP-2過剰発現を介してCYP3A4発現を抑制した。(吉成)
 PXRのコファクターとして種々の因子を同定した。特に、PKM2は腫瘍増殖促進因子として注目されており、悪性腫瘍治療薬開発における応用が考えられる。(田中)
【薬力学における民族差が生じる要因に関する研究】
 日韓米の実診療における抗凝固薬(4薬剤)、降圧薬(8薬剤)、抗糖尿病薬(3薬剤)の処方量を調査した。その結果、日韓では平均処方量の差はないが、米国の平均処方量とは大きな差が認められるものが多かった。一部の医薬品については、各国での承認用量の影響も考えられ、日韓の間においても差がみられた。(頭金・川合)
 中心的な関節リウマチ治療薬であるメトトレキサートの細胞内濃度を検討し、細胞内代謝酵素の遺伝子多型により影響されることを示した。また、手術時に得られた関節リウマチ患者の滑膜組織からDNAを抽出し、外来微生物の潜在感染を明らかにした。(川合)
 高カテキン含有緑茶の飲用によりβ遮断薬ナドロールの吸収が低下し、その降圧や心拍数低下作用が消失した。緑茶は薬物トランスポーターOATP1A2を阻害することにより薬物応答を変化させた。薬物応答の民族差には、習慣的に摂取する食物や飲料などの外的因子も関与する可能性がある。(渡邉)
 多地域臨床試験における薬物動態、治療効果の一貫性を評価するために、頻度論および経験ベイズ法による評価指標を提案した。モンテカルロシミュレーションを用いて、これらの指標と従来法との比較検討を行った。頻度論に基づいた指標は量的かつ包括的な方法で、従来の質的な方法とほぼ同程度の性能があると示唆された。経験ベイズ法に基づいた指標は、ある条件のもとでは従来法よりも高い性能を持つことが示唆された。(竹内)
 わが国の国際共同治験の実施状況、審査における留意点、開発戦略による開発ラグへの影響等を検討した。国際共同治験の実施が増加し、民族的要因の影響や集団間での結果の一貫性等が承認審査における主たる論点となった。日本での開発を遅延なく適切に進めるためには、日本の臨床開発能力を高く維持し、海外と同調しながら開発を進めることができるように開発戦略を構築することが重要と考えられた。(宇山)
結論
 東アジアにおける医薬品の国際共同開発および臨床データ共有の推進に向け、薬物動態および薬力学的ないくつかの要因を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201303020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成21-22年度の厚生労働科学研究費補助金(H21-地球規模-指定-01)において、日中韓および米国での臨床試験を行い、本研究班(平成23-25年度)でもその成績を詳細に分析した。従来の報告で民族差が想定された3薬剤について同一プロトコールの臨床試験により薬物動態を検討したところ、大きな民族差がないことが明らかとなった。この結果は、2016年1月にBr J Clin Pharmacolに報告した(DOI:10.1111/bcp.12884)。
臨床的観点からの成果
臨床試験、特に薬物動態試験においては、グローバル試験などでプロトコールを極力一致させて各国で臨床試験を行うことで、見かけの民族差を最小限にすることが可能である。この結果は、グローバルな臨床開発を進める点で意義のある成果と考えられる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
2011.4~2017.6
原著論文(英文等)
26件
2011.4~2017.6
その他論文(和文)
56件
2011.4~2017.6
その他論文(英文等)
2件
2011.4~2017.6
学会発表(国内学会)
217件
2011.4~2017.6
学会発表(国際学会等)
20件
2011.4~2017.6
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hasunuma T, Tohkin M, Kaniwa N, et al.
Absence of ethnic differences in the pharmacokinetics of moxifloxacin, simvastatin, and meloxicam among three east Asian populations and Caucasians.
Br J Clin Pharmacol. , 81 (6) , 1078-1090  (2016)
10.1111/bcp.12884

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201303020Z