文献情報
文献番号
201303017A
報告書区分
総括
研究課題名
ポスト国連開発ミレニアム開発目標における熱帯アフリカマラリア根絶可能性に関する研究
課題番号
H25-地球規模-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
金子 明(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 皆川 昇(長崎大学 熱帯医学研究所)
- 平山 謙二(長崎大学 熱帯医学研究所)
- 脇村 孝平(大阪市立大学 大学院経済学研究科)
- 五十棲 理恵(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,885,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
熱帯アフリカにおけるマラリア撲滅は地球規模マラリア根絶にいたる困難かつ重要な踏み石である。本研究はこの課題にケニア・ビクトリア湖島嶼より挑戦する。熱帯アフリカ高度マラリア流行地域を対象とすることに最大の学術的特徴がある。島嶼モデルにより挑戦することが第2の特徴である。アルテミシニンによる集団治療を応用することが第3の特徴とする。
研究方法
研究対象地域
本研究はケニア・ビクトリア湖スバ地区で実施される。対象地は高度流行地中核に位置する。撲滅干渉実施へ以下の研究段階を経て推進する。
(1)マラリア感染率調査:住民感染率変動を撲滅前後で検討。以下研究の為に血液を濾紙採血にて保存する。
(2)原虫薬剤耐性:Pf薬剤感受性変動を評価。最近Pfアルテミシニン耐性が示唆されている。その分子マーカーは依然不明だがPfmdr1コピー数等の候補を検討する。最近アルテミシニン耐性マーカーとして報告されたpropellar gene変異についても検討を行う。
(3)赤血球異常症:G6PD欠損症者はprimaquineで血管内溶血を起こすことがある。予備的に対象地域で7-15%のG6PD欠損症が見いだされた。
(4)血清疫学:Pfに対する特異的抗体の年齢群別陽性率と種類の変動を集団治療実施前後で検討する。
(5)薬剤投与試験:artemisinin + piperaquine + 少量primaquine (APP)投薬についてPf抗生殖母体効果および安全性(特にG6PD欠損症)を無症候性感染者で検討する。WHOはprimaquine 15㎎が有効かつG6PD欠損症者にも安全との見解を出した.
(6)短期的マラリア撲滅干渉:オコデ島でマラリア撲滅を目指す。集団治療はLiのFEMSEに従い、乾季に全住民を対象に35日間隔でAPP2サイクル実施する。
(7)社会経済学的インパクト:マラリア撲滅の影響評価。
(8)熱帯アフリカマラリア撲滅モデルの提言:国際ワークショップを企画。
本研究はケニア・ビクトリア湖スバ地区で実施される。対象地は高度流行地中核に位置する。撲滅干渉実施へ以下の研究段階を経て推進する。
(1)マラリア感染率調査:住民感染率変動を撲滅前後で検討。以下研究の為に血液を濾紙採血にて保存する。
(2)原虫薬剤耐性:Pf薬剤感受性変動を評価。最近Pfアルテミシニン耐性が示唆されている。その分子マーカーは依然不明だがPfmdr1コピー数等の候補を検討する。最近アルテミシニン耐性マーカーとして報告されたpropellar gene変異についても検討を行う。
(3)赤血球異常症:G6PD欠損症者はprimaquineで血管内溶血を起こすことがある。予備的に対象地域で7-15%のG6PD欠損症が見いだされた。
(4)血清疫学:Pfに対する特異的抗体の年齢群別陽性率と種類の変動を集団治療実施前後で検討する。
(5)薬剤投与試験:artemisinin + piperaquine + 少量primaquine (APP)投薬についてPf抗生殖母体効果および安全性(特にG6PD欠損症)を無症候性感染者で検討する。WHOはprimaquine 15㎎が有効かつG6PD欠損症者にも安全との見解を出した.
(6)短期的マラリア撲滅干渉:オコデ島でマラリア撲滅を目指す。集団治療はLiのFEMSEに従い、乾季に全住民を対象に35日間隔でAPP2サイクル実施する。
(7)社会経済学的インパクト:マラリア撲滅の影響評価。
(8)熱帯アフリカマラリア撲滅モデルの提言:国際ワークショップを企画。
結果と考察
マラリア感染率モニタリング:現地島嶼マラリア撲滅計画の干渉前調査をスバ地区人口約2万5千人のMfangano島、各々約千人の Ngodhe、Takawiri、Kibuogiの3小島および内陸側Ungoi村で、2013年8月に実施した。総計2251名を調べマラリア原虫陽性者はmicroscopeにて522名(23.2%)、RDTにて662名(29.4%)であった。各島嶼で特徴的な年齢群特異的パターンが見られた。内陸部では乾季、雨季を通じて感染率が安定して高かった。島嶼部では島毎に感染率の変動がみられた。
4種のヒトマラリア原虫のPCR鑑別:マラリア原虫には、1個のミトコンドリア(mt)内に6 kbのゲノムDNA(mtgDNA)がコンカテマー状態で複数個存在し、熱帯熱の場合で、mtgDNAは1原虫あたり20-150コピーあり18SrDNAの4-8コピーと比べ多い。そこでmtgDNAを原虫種判別の標的遺伝子にして、これらを改善しようと試みた。
G6PD欠損症率:従来、川本らの開発による G6PD Assay Kit-WST (Dojindo)が流行地で実施可能な 方法として使用されてきた。しかし血液のヘモグロビンの色とWSTの発色が似通っている事から、肉眼観察による陰性の判定には誤診のリスクが存在した。また女性heterozygoteおける中間値判定も問題となった。今回、上記キットに対して簡易型光電比色計とドライバスを用い、反応の開始時と終了時の2回吸光度を測定して、酵素反応量をWSTの吸光度変化量として表す事で改良をおこなった。原虫薬剤耐性分子マーカーの年次的推移:近年のACT導入に伴うクロロキン使用停止に連動して、熱帯熱マラリアクロロキン耐性マーカー変異率の顕著な減少が観察されている。Kibuogi、Takauwiri 、Ngodheの3小島においては、Pfcrt-K76Tが2008年、20012年1-2月、2012年9月において各々82.2%(37/45)、42.2%(19/45)、16.7%(5/30)と減少した。内陸部Ungoyeにおいては2008年、2009年、2012年1-2月で各々52.8%(28/53)、46.2%(30/65)、30%(18/60)であった。かようにこの減少は小島嶼で内陸部原虫集団より顕著であった。Pfmdr1-N86Yにおいても同様な傾向がみられた。しかしアルテミシニン耐性と関連すると報告されているPfmdr1 においてはこの傾向はみられていない。
4種のヒトマラリア原虫のPCR鑑別:マラリア原虫には、1個のミトコンドリア(mt)内に6 kbのゲノムDNA(mtgDNA)がコンカテマー状態で複数個存在し、熱帯熱の場合で、mtgDNAは1原虫あたり20-150コピーあり18SrDNAの4-8コピーと比べ多い。そこでmtgDNAを原虫種判別の標的遺伝子にして、これらを改善しようと試みた。
G6PD欠損症率:従来、川本らの開発による G6PD Assay Kit-WST (Dojindo)が流行地で実施可能な 方法として使用されてきた。しかし血液のヘモグロビンの色とWSTの発色が似通っている事から、肉眼観察による陰性の判定には誤診のリスクが存在した。また女性heterozygoteおける中間値判定も問題となった。今回、上記キットに対して簡易型光電比色計とドライバスを用い、反応の開始時と終了時の2回吸光度を測定して、酵素反応量をWSTの吸光度変化量として表す事で改良をおこなった。原虫薬剤耐性分子マーカーの年次的推移:近年のACT導入に伴うクロロキン使用停止に連動して、熱帯熱マラリアクロロキン耐性マーカー変異率の顕著な減少が観察されている。Kibuogi、Takauwiri 、Ngodheの3小島においては、Pfcrt-K76Tが2008年、20012年1-2月、2012年9月において各々82.2%(37/45)、42.2%(19/45)、16.7%(5/30)と減少した。内陸部Ungoyeにおいては2008年、2009年、2012年1-2月で各々52.8%(28/53)、46.2%(30/65)、30%(18/60)であった。かようにこの減少は小島嶼で内陸部原虫集団より顕著であった。Pfmdr1-N86Yにおいても同様な傾向がみられた。しかしアルテミシニン耐性と関連すると報告されているPfmdr1 においてはこの傾向はみられていない。
結論
これらの結果は熱帯熱マラリア抗生殖母体薬としてのプリマキンを含む集団治療による島嶼マラリア伝播阻止計画の基盤となる。今後、来年度の集団治療による島嶼マラリア撲滅介入研究実施にむけて以下進めていく。
公開日・更新日
公開日
2015-03-10
更新日
-