住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築

文献情報

文献番号
201303015A
報告書区分
総括
研究課題名
住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築
課題番号
H24-地球規模-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森 傑(北海道大学 大学院工学研究院 建築都市空間デザイン部門 )
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,260,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、東日本大震災の被災地において住民主導により高台への集団移転の計画が進められている先進事例に注目し、そこで挑戦されている住民主体の復興まちづくりにおける関係者の合意形成・意志決定のプロセスと内容と方法、それがもたらすコミュニティの継承における効果と課題を、社会・経済・組織・建設等の複合的視点から理論的・事例的に検討することを目的とする。
 具体的には、研究代表者がコミュニティ・アーキテクトとして参画している、宮城県気仙沼市小泉地区(以下、小泉地区)の集団移転協議会による高台移転への取り組みに注目し、災害に対して復元力のあるコミュニティとソーシャル・キャピタルをいかに再構築するのか、我が国の喫緊の行政課題を解決すべく、現在進行形の先進事例の詳細なケーススタディと過去の事例および国内外の既往研究との比較分析を行い、今後の復興まちづくりにかかわる厚生労働政策の再設計へ繋がる発展的知見を得ることを目指すものである。
研究方法
 平成25年度は、集団移転計画にみる住民のコミュニティ意識の構造の解明へ向けて、防災集団移転の整備計画内容と現況についての俯瞰的分析に注力した。具体的には、平成24年度に行った小泉地区の集団移転ワークショップに関する住民評価の分析を踏まえながら、他の東日本大震災の被災地域における協議会型の集団移転事業についての整備計画の分析および関係者へのヒアリング調査を実施し、コミュニティ継承の視点からみた集団移転計画のあり方と進め方を考察した。
結果と考察
 気仙沼市の協議会型集団移転について、37協議会が設定した移転促進区域の中央値は11,353㎡、移転後の合計面積の中央値は8,400㎡であることから、気仙沼市ではほぼ半数が10,000㎡以下という規模となっている。移転世帯数をみると、平均値が21世帯であり中央値が13世帯である。東日本大震災における特例措置で防集事業を活用可能な最低戸数が10戸から5戸に引き下げられたことにより、防集事業を活用できていることや、大規模に移転を行う協議会は少数であるものの、参加世帯数が非常に多いため、市内における平均値を引き上げているといえる。
 新規造成宅地計画の面積内訳平均をみると、住宅と道路によって約75%の用途が決定し、残り25%を集会施設、広場、その他の用途が占めている。防集事業はコミュニティの維持・持続を前提としている一方で、コミュニティの維持・持続に効果が期待される集会施設や広場などの用途に十分な面積を割くことができていないことがわかる。
 大臣同意の時期を基準として第1~第6期の防集事業が動いているが、立地の分布としては、気仙沼市街中央部から南部にかけては第3期、第4期が集まっており、北東部には第1期、第2期の地区が集まっている。移転率と立地をみると、移転率100%で全戸移転を行っている協議会は、気仙沼中央部から階上地区、本吉地区に広がっている。一方で、北東部の唐桑半島方面で全戸移転を行う協議会はない。また、防集事業適用の条件である、移転が必要と判断される地区内における移転率が50%を下回っており、特例を受けて防集事業を活用する協議会は気仙沼市内で3協議会存在するが、その全てが北東部に集中している。
 移転の型と移転先の宅地の形状という2つの空間的視点から分類すると、小規模な地区を中心に同一型と統合型という既存コミュニティ単位を尊重した移転で、気仙沼市の主要幹線道路である国道45号線への接続を重視するリニア形状の宅地計画が主である。気仙沼市の協議会型防集事業の移転型は同一型と統合型で大半が占められていることから、ほとんどの地区において従前のコミュニティ単位が重視されているといえる。
結論
 気仙沼市の協議会型集団移転については、結果的には従前のコミュニティの継承へ繋がる計画が選択されているが、防集事業の枠組みから自動的に導かれる宅地計画といえる。世帯数により事業総面積が決まる防集事業では、例えば10世帯であれば、宅地に1,000坪、共有面積に1,000坪がそれぞれの上限面積となる。移転が小規模であろうと大規模であろうと、宅地内および周辺への接続のための道路が必要である。だが、集団移転が小規模である場合、道路に必要となる面積の総事業面積における割合は相対的に大きくなる。つまり、宅地内の道路面積を抑え、かつ、周辺への接続道路をできるだけ短くする計画とならざるを得ない。そのような中、最もその標準的な形式と対照的であるのが、小泉地区である。小泉地区は約100世帯というスケールメリットを活かし、宅地クラスターで囲んだ広々とした共有緑地を確保し、地域の自立的なまとまりを居住者も認識できる空間・環境の実現が目指されている。

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201303015Z