「ドーハ以降」の医薬品アクセスと知的財産権に関する問題処理-TPPにおける「TRIPSプラス・アプローチ」を踏まえて

文献情報

文献番号
201303012A
報告書区分
総括
研究課題名
「ドーハ以降」の医薬品アクセスと知的財産権に関する問題処理-TPPにおける「TRIPSプラス・アプローチ」を踏まえて
課題番号
H24-地球規模-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 克哉(東京大学 先端科学技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 桝田 祥子(東京大学大学院 薬学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,560,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ドーハ・ラウンド終結後の医薬品アクセス問題について、知的財産権問題に焦点を当てて解明することである。
医薬品アクセス問題は、従来、世界貿易機関(WTO)を交渉の場として発展してきた。その主たる成果は2001年のドーハ閣僚宣言と2003年の閣僚理事会決定であるが、そこでは、「人道」を理由とする「途上国側」の主張に、「先進国側」が一方的に譲歩し、TRIPS協定解釈に「柔軟性」を認めるという形で、解決が図られてきた。しかし、ドーハ・ラウンドは成果なく終了し、合意形成の場としてのWTOの機能不全が明確になった。他方、それと並行して多数のFTA/ EPAを主導してきた米国は、TRIPS協定を上回る知的財産権保護の水準(TRIPSプラス)を一貫して各国に要求し、新たな国際ルールの形成を目指している。TPP参加を期待される我が国は、そうした新たな枠組の形成に積極的に寄与すべき立場にあるが、現状のままでは、必要な役割を果たせなくなるおそれある。それを改善するため必要な検討を行うのが、本研究である。
研究方法
本研究は、こうした「ドーハ以降」における医薬品アクセス問題について、我が国が知的財産権政策との関連で取るべき方策を検討する。具体的には、①米国が締結した従前のFTA/EPA条項を分析するとともに(平成24年度)、②韓国、シンガポールなど他の締約国のFTA/EPA戦略を分析することにより(24・25年度)、③「TRIPSプラス」における医薬関連知的財産権制度の現状を総括する(25年度)。また④それが2001年ドーハ閣僚宣言以降の医薬品アクセス問題への処理に与える影響を、対米FTA締結国(24年度)やTPP参加国(主に25年度)につき検討する。その際、各国の政府機関(薬事、知的財産、通商交渉等)のほか、製薬企業、業界団体、研究機関等などへの聞き取り調査を通じて、最新の情報を収集する。それにより、⑤我が国が、TPP交渉などにおいて「TRIPSプラス・アプローチ」と医薬品アクセス問題への貢献を両立させるための方策を検討する(主に25年度)。
結果と考察
Ⅰ.近年、米国を中心とする地域貿易協定により、医薬知財保護の水準は、局所的に上昇している。すなわち、米国は、TRIPs協定設立以降に締結した11のFTAsの中で、医薬知財条項として、(a)特許期間終了前の第三者実施行為の制限(Bolar関連条項)、(b)販売承認手続による特許期間浸食回復のための特許期間延長、(c)医薬品の承認申請データの保護、(d)医薬品承認-特許連携制度(パテントリンケージ制度)の4項目を、ほぼ一貫して採用し、相手国に対し、より高度な保護水準を求めている。
Ⅱ.上記(a)-(d)は、知的財産保護の観点から、新薬とジェネリック医薬品市場のバランスを調整する制度となっている。但し、その影響は、各国の医薬品市場構造(薬価制度、保険償還制度、流通、商慣習等)により異なる。特に、(d)については、各国の医薬品市場構造に応じたバリエーションがあり、適切な制度設計を行うことで、新薬とジェネリック医薬品市場のバランスを調整する制度として機能させることが期待できる。
Ⅲ.2012年3月発効の米韓FTAにより、韓国では、上記(d)の国内制度新設により、現在(2014年5月)、法案審議中である。法案によれば、カナダの制度を原型に用いつつ、一部、ジェネリック企業へのインセンティブ付与のため、米国の規定に倣っている。韓国医薬品産業に与える影響については、今後に注目される。
結論
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に臨む我が国にとって、上述(d)の条項について、将来的にどの程度の影響があるか、また、どの程度まで対応するかが課題である。一方で、(d)の条項は、新薬とジェネリック医薬品市場のバランスを調整する制度として機能させることが期待でき、TPPの動向に関わらず、昨今のジェネリック促進政策に併せて、国内の医薬品安定供給の面から、医薬品市場構造に即した新たな制度設計を検討する価値がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201303012B
報告書区分
総合
研究課題名
「ドーハ以降」の医薬品アクセスと知的財産権に関する問題処理-TPPにおける「TRIPSプラス・アプローチ」を踏まえて
課題番号
H24-地球規模-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 克哉(東京大学 先端科学技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 桝田 祥子(東京大学大学院 薬学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ドーハ・ラウンド終結後の医薬品アクセス問題について、知的財産権問題に焦点を当てて解明することである。
医薬品アクセス問題は、従来、世界貿易機関(WTO)を交渉の場として発展してきた。その主たる成果は2001年のドーハ閣僚宣言と2003年の閣僚理事会決定であるが、そこでは、「人道」を理由とする「途上国側」の主張に、「先進国側」が一方的に譲歩し、TRIPS協定解釈に「柔軟性」を認めるという形で、解決が図られてきた。しかし、ドーハ・ラウンドは成果なく終了し、合意形成の場としてのWTOの機能不全が明確になった。他方、それと並行して多数のFTA/ EPAを主導してきた米国は、TRIPS協定を上回る知的財産権保護の水準(TRIPSプラス)を一貫して各国に要求し、新たな国際ルールの形成を目指している。TPP参加を期待される我が国は、そうした新たな枠組の形成に積極的に寄与すべき立場にあるが、現状のままでは、必要な役割を果たせなくなるおそれある。それを改善するため必要な検討を行うのが、本研究である。
研究方法
本研究は、こうした「ドーハ以降」における医薬品アクセス問題について、我が国が知的財産権政策との関連で取るべき方策を検討する。具体的には、①米国が締結した従前のFTA/EPA条項を分析するとともに(平成24年度)、②韓国、シンガポールなど他の締約国のFTA/EPA戦略を分析することにより(24・25年度)、③「TRIPSプラス」における医薬関連知的財産権制度の現状を総括する(25年度)。また④それが2001年ドーハ閣僚宣言以降の医薬品アクセス問題への処理に与える影響を、対米FTA締結国(24年度)やTPP参加国(主に25年度)につき検討する。その際、各国の政府機関(薬事、知的財産、通商交渉等)のほか、製薬企業、業界団体、研究機関等などへの聞き取り調査を通じて、最新の情報を収集する。それにより、⑤我が国が、TPP交渉などにおいて「TRIPSプラス・アプローチ」と医薬品アクセス問題への貢献を両立させるための方策を検討する(主に25年度)。
結果と考察
Ⅰ.近年、米国を中心とする地域貿易協定により、医薬知財保護の水準は、局所的に上昇している。すなわち、米国は、TRIPs協定設立以降に締結した11のFTAsの中で、医薬知財条項として、(a)特許期間終了前の第三者実施行為の制限(Bolar関連条項)、(b)販売承認手続による特許期間浸食回復のための特許期間延長、(c)医薬品の承認申請データの保護、(d)医薬品承認-特許連携制度(パテントリンケージ制度)の4項目を、ほぼ一貫して採用し、相手国に対し、より高度な保護水準を求めている。
Ⅱ.上記(a)-(d)は、知的財産保護の観点から、新薬とジェネリック医薬品市場のバランスを調整する制度となっている。但し、その影響は、各国の医薬品市場構造(薬価制度、保険償還制度、流通、商慣習等)により異なる。特に、(d)については、各国の医薬品市場構造に応じたバリエーションがあり、適切な制度設計を行うことで、新薬とジェネリック医薬品市場のバランスを調整する制度として機能させることが期待できる。
Ⅲ.2012年3月発効の米韓FTAにより、韓国では、上記(d)の国内制度新設により、現在(2014年5月)、法案審議中である。法案によれば、カナダの制度を原型に用いつつ、一部、ジェネリック企業へのインセンティブ付与のため、米国の規定に倣っている。韓国医薬品産業に与える影響については、今後に注目される。
結論
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に臨む我が国にとって、上述(d)の条項について、将来的にどの程度の影響があるか、また、どの程度まで対応するかが課題である。一方で、(d)の条項は、新薬とジェネリック医薬品市場のバランスを調整する制度として機能させることが期待でき、TPPの動向に関わらず、昨今のジェネリック促進政策に併せて、国内の医薬品安定供給の面から、医薬品市場構造に即した新たな制度設計を検討する価値がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201303012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医薬品アクセスと知的財産権の問題に関し、ドーハ・ラウンドが事実上終結した後に一般化しつつある「TRIPSプラス・アプローチ」の動向を、米国がこれまで締結してきたFTA等の地域貿易協定を分析し、所要の現地調査を行うことにより把握した。また今後の国際社会、特にアジア太平洋地域での位置づけと影響を明らかにした。さらに、TPPにおいて、これまでの米国FTAと同水準の医薬知財保護条項が採用された場合の、わが国の国内法への影響について検討した。
臨床的観点からの成果
新薬とジェネリック薬の市場供給バランスは、知的財産制度だけではなく、処方慣習、商慣習、薬価制度、医療保険制度等の影響を受ける。ジェネリック薬の普及を目指す我が国において、限られた医療資源の中で医薬品安定供給を確実に行うために検討すべき基礎的事項が明らかとなり、将来的に、合理的な社会制度設計に資すると考えられる。
ガイドライン等の開発
国会議員事務所より、米韓FTAの韓国医療システムへの影響に関する影響についての問い合わせがあり、厚労省国際課を通じて、当該研究報告書が国会議員事務所に提出された(平成27年8月5日)。
その他行政的観点からの成果
ジェネリック承認手続きにおいて新薬特許権の侵害性の問題を考慮する「リンケージ」の仕組みは、医薬品に関する規制が専らその安全性と有効性の確保にあるとの建前で運用されてきた薬事法制に対し、医薬品の安定供給という産業政策的な目的を加えるものであり、既存の薬事法の枠を超えた対応を迫る可能性がある。
その他のインパクト
研究期間中、製薬企業(新薬・ジェネリック薬企業)、行政(厚労省)、法曹界(弁護士・弁理士)、アカデミアなどのステークホルダーから成る医薬知財研究会を組織し、3回にわたって、特許制度と医薬品承認手続の「リンケージ」に関してわが国が取りうる方策やTPPリークテキストに基づく課題抽出等、活発な議論を行った。研究期間後も継続的に医薬知財研究会を開催し、パテントリンケージを中心とした医薬知財の課題を議論している。

発表件数

原著論文(和文)
2件
『パテント』2013年8月号78-88頁 『A.I.P.P.I』104年11月号2-18頁
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
『LEGALMIND』2013年9月号1-32頁
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
2013 Pharmaceutical Intellectual Property Forum (2013年11月27日、上海)
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
第1~4回医薬知財研究会(H25.2.25,6.5,H26.1.27,H27.4.7)、製薬協アジア部会講演(H24.5.17)、医法研講演(H24.6.18)、東薬工講演(H26.10.2)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
桝田祥子
医薬品産業と米国自由貿易協定(FTA)知財戦略―米韓FTA の韓国医薬品産業への影響と環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への示唆
パテント , 2013 (8) , 78-88  (2013)
原著論文2
桝田祥子
パテントリンケージ:医薬品の安定供給と特許制度に関する一考察-ジェネリック医薬品申請・承認手続きにおける新薬関連特許権の侵害性判断の国際動向-
A.I.P.P.I , 2014 (11) , 2-18  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-03-10
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201303012Z