高齢者の自立・QOL向上のための機能的支援システムに関する研究

文献情報

文献番号
199800178A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の自立・QOL向上のための機能的支援システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
福井 康裕(東京電機大学理工学部電子情報工学科)
研究分担者(所属機関)
  • 関口行雄(職業能力開発総合大学校)
  • 広瀬秀行(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 高橋誠(北海道大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立や日常生活の質(QOL)の向上を目的とした機器開発は、高齢者の積極的な社会参加、豊かな日常生活にとって必要かつ重要な課題である。高齢者の自立・QOL向上を支援する機器の中でも特に行動範囲の拡大、日常生活動作の自立の実現は、高齢化が予想される介助者の負担軽減の点からも高いニーズを持つ。本研究班ではこの移動機器の開発に主眼を置き、従来の移動機能の補助・代行に主眼を置いた機器開発ではなく、高齢者の積極的な行動範囲の拡大、自立意欲の引き出しを狙った機器開発を進めている。そのため、各研究とも装置の機構、制御法等に重点を置き機能性重視の移動支援機器開発を目指している。また、実用化を最重要課題としており実際の高齢者あるいは実用を想定した場面での評価・検討も進めた。
研究方法
在宅および施設における移動に関して、①重度障害を持つ寝たきり高齢者のQOL向上を目的とした離床のための座位保持保持の研究、②座位から立位への体位変換を自然な動作により行う、高齢者の機能を考慮した電動介護椅子の研究、③座位、または寝た状態から被介護者の車椅子等への移動を介助者と機器が協力して移動を可能にする柔軟性のある介助用パワーアシスト制御システムの研究、④高齢者の自立・QOLの向上を目指した移動と姿勢変換機能を同時に備えた機能的姿勢変換機能付き車椅子の開発と言うように、寝たきりから→座位→立位→屋内移動→屋外移動・姿勢変換と言った移動とそれに伴う自立・QOL向上に関連する一連の機器の研究・開発を実用化を目指し進めている。
現在まで①の研究に関しては、関節や脊椎に変形がある重度寝たきり高齢者に適した座位保持装置着き車椅子の開発及び評価を行った。②の研究に関しては、姿勢変換時の筋活動等の計測結果に基づき1個のアクチュエータにて動作可能な電動介護いすの開発を行い、実際に試用を行った。また、③に関しては、市販の介護リフトのアクチュエータ部分に介助力に応じてパワーアシストを行うフィードバック制御機能を導入し、実際に人による評価、リハビリテーションセンターによる評価を行った。④に関しては、車椅子にパワーアシスト機能を付けると同時に電動の姿勢変換機能を付加しコンパクト姿勢変換機能付き車椅子の開発を行った。
結果と考察
現在まで、各テーマとも実用化に近い試作器の開発を行い、各装置ともに人による評価、および検討を行った。また、実際の人および高齢者の試用によるデータから実用化に向けた装置の検討を行った。現在までの結果をまとめると以下のようになる。①重度の変形のある高齢者に対して2種類(モール度型、ブロック型)の開発した座位保持装置にて検討し、座り心地を重視すると座面と体の間に余裕が生まれ変形の矯正に対する効果が低下することが確認された。また、製作費用当を考えると使用者が限定されるモールド型に比べブロック型の方が有利であるが体幹の支持性に関してはモールド型の方が優れていることが確認された。②背もたれの動作も姿勢に合わせ動作させる新方式を採用し、単一のアクチュエータによりこの機構の動作を行わせることが可能であった。このため装置の小型軽量化が行えた。実用化に関しては価格の低減化も重要な項目となり装置の簡便化により実用化が期待できる。実際の高齢者による評価でも自然な姿勢変換に関しては良好な結果を得ることができた。③介護リフトにフィードバック制御を付加したパワーアシストシステムを組み込み、実際に被験者による評価を行った。その結果動作開始から終了までの間、従来の機器に比べ、リモコン操作も必要とせず大幅な操作性の向上が確認できた。安全性、動作特性に関しては従来より検討を行ってきたアルゴリズムにより問題なく動作することが確認された。④新たに試作を行った電動姿勢変換機能付きパワーアシスト車椅子を用い高齢者10名によるフィールド評価の結果、機器の操作に対する慣れが必要なこと操作性に多少の問題があることなどが確認された。しかし、従来の車椅子にない高機能化は高齢者に好評であり、若干の改良による実用化に期待がもたれた。
また以下に、本年度行った実験結果に基づいた考察を行う。①重度の変形を持つ高齢者を対象にモールド型、ブロック型の2種類の座位保持装置により検討を行った。両装置ともに褥瘡の防止能力、介護性の良さ等の要求される基本性能は有していたが、作製に要する費用や時間、変形予防等に関して検討の余地があった。今後は、両者の利点を取り入れたセミモールド型の検討を行い座位保持装置の実用化を検討することが考えられた。実際の高齢者による評価では一時的ではあったが上肢機能の改善が認められた。しかし、最終的な完成時にその機能が低下した場合もあり、時間的な経過による機能低下についても考慮する必要性が示唆された。②現在までに開発を行った電動介護椅子は、一つのアクチュエータにより座面と背もたれが同時に姿勢変化に合わせて動作するという従来にない機能を備えている。これにより装置は大幅に簡便化が図れ、また同時に高齢者による評価でも身体の動作奇跡は自然に近いものが得られ、本いすの有用性が確認できたものと考えられた。③新たに開発を行ったパワーアシスト機構は、介助力に応じ動作スピードが可変となり動作性能が向上し実際の評価でも好評な結果を得た。また、制御機能部分のマイコン化を図りリフト単体での動作が可能となり離床、着床時の制御方法の検討を行うことにより実用化が可能にるものと考えられた。しかし、介助の方法によっては離床・着床時の荷重変化が異なり、特に離着床時の制御方法、に関して検討を要するものと思われた。様々な姿勢による離着床時の荷重変化を検討し制御アルゴリズムを確立していく必要性があるものと考えられた。④新しい姿勢変換機能付き車椅子の試作を行い、その評価を高齢者にて行い、その評価結果を基に対応策を検討した。具体的な対応策としては、重心位置の改善に必要となるバッテリー位置の変更、段差乗り越え時にパワーアシスト部のトルク軽減を図るためのキャスター直径の拡大、座位姿勢の安定化を図るためのバックレスト角度の調節、立位時の姿勢安定のための座面の改良などが考えられた。今後これらの問題点を改善して操作性などの向上により実用化を目指したい。
結論
本研究班の機器開発に関しまとめると、寝たきり→座位保持→座位から起立→移動支援→移動時の活動範囲の拡大という、寝たきりをなくし、積極的に社会参加を可能にするまで、各レベルでの高齢者の自立意欲、QOL向上を支援する一連の機器に関する具体的なテーマを掲げている。これらの各機器に関して、実用化を目標としその開発を進めてきた。本年度は各研究テーマとも、新たに機器設計および試作を行い、健常人および高齢者による評価を行った。評価結果では、幾つか今後に検討の余地を残したものがあるが、いづれも実用領域に近いものとなっており、実用化が期待された。 

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