文献情報
文献番号
201302007A
報告書区分
総括
研究課題名
死因統計の精度向上の視点から病院医療の質に資する退院時要約の検討
課題番号
H25-統計-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大井 利夫(一般社団法人日本病院会)
研究分担者(所属機関)
- 川合 省三(医療法人さくら会さくら会病院)
- 高橋 長裕(千葉市青葉看護専門学校)
- 宮内 文久(愛媛労災病院)
- 松本 万夫(埼玉医科大学国際医療センター)
- 三木 幸一郎(北九州市立医療センター)
- 阿南 誠(独立行政法人国立病院機構九州医療センター)
- 荒井 康夫(学校法人北里研究所北里大学病院)
- 大塚 秋二郎(一般社団法人巨樹の会宇都宮リハビリテーション病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,064,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
退院時要約を検討する目的は、診療経過を総括し、主要な事実を記載する診療記録としてその特質と要件を改めて検証し、提案することであり、このことは死因統計の精度向上の視点からも極めて重要である。元来、診療記録としての目的は、(1)患者の記録であること、(2)医療における連携の媒体であること、(3)データの有効活用の基になること、(4)医療の質の改善に結びつくこと、の4点にまとめられる。今回、研究協力病院における退院時要約の実態を評価し、その記載指針を含め、入院診療記録の総括として適切に機能し活用できるものとするために体系的に整理する。
研究方法
【資料の収集】DPC対象病院、特定機能病院、臨床研修指定病院など217病院に診療科が偏らないようにし、非手術例、(腰椎麻酔または全身麻酔を伴う)手術例および死亡例の5症例ずつ退院時要約の提供を依頼した。また、死亡例については死亡診断書の写しの提供も求めた。いずれも患者基本情報および個人情報を匿名化した形で提供を受けた。また、退院時要約記載指針を整備している医療機関にはその写しを依頼した。【退院時要約の評価】退院時要約に必要と思われる項目23項目設定し、提供された退院時要約に該当する項目の記載欄があるか否か、その該当項目に記載されているか否かを点検した。【退院時要約記載指針の評価】記載指針として必要と考えられる規定内容35項目を設定し点検した。【死亡例の評価】先行研究と同様に死亡診断書の記載に基づいた原死因と退院時要約の内容に基づいた原死因を比較した。
結果と考察
【分析対象】130の研究協力病院から非手術例、手術例と死亡例各650症例を分析対象とした。そのうち109病院から記載指針の提供を受けた。【退院時要約に求められる項目】(1)退院時要約の書式は統一されておらず、医療機関毎で異なっていた。(2)同一機関内でも診療科により退院時要約の書式が異なる場合が存在した。(3)従来、退院時要約に必要とされる項目の記載欄が設けられていないものが多くみられた。(4)今回提供を受けた退院時要約はそのほとんどが電子媒体またはパソコンから出力されたものであった。その多くは、類似した様式のためか共通の不備がみられた。(5)記載欄として患者への説明、上級医監査氏名、考察の各項目についての設定と記入状況のいずれも3割以下であり、退院時要約としては不十分。これらから必要不可欠と考えられる項目について今後特定の記載欄を設けることの重要性が改めて認識され体裁も含めた標準化・統一化への改善とともに実際に使用し実証することが望まれる。【退院時要約における記載欄への記入】記載の量・質の両面での不備が目立った。記載欄の整備と記入の工夫が喫緊の課題である。【診療科名の問題】記された診療科名は極めて多岐にわたった。標榜診療科名としての不適切なものも認められ、今後実態調査が必要である。【死亡診断書の精度に係る検証】死亡診断書の記載に基づく原死因と退院時要約の内容に基づいて決定した原死因を比較した結果、死因統計に直接影響を及ぼす原因となる不一致度が21.1%生じており、改善のための施策を講じることが急務と考える。【退院時要約記載指針】主要な項目についてさえ規定されていない現実が明らかになり改善のために記載の原則および記載内容を規定する指針の充実が極めて重要である。
結論
本研究結果から、退院時要約の書式は統一されていないことがわかった。その中の一部には類似した様式になっているものがあり、同一の電子カルテシステムからの印字ではないかとうかがわれた。また、退院時要約の書式については必要とされる項目の記載欄が設けられていないものが多かった。実際の記入についても不備が目立ち、退院時要約の本来の機能が果たせていないと考えられる。病院内完結型医療から地域完結型医療提供体制の構築の観点から、病診・病病連携の改善・効率化は最重要課題のひとつであり、退院時要約の現況は極めて深刻な問題である。退院時要約記載指針については、記載についての基本的な方針と規定が不明確なものがほとんどであった。特に、記載の目的や記載量を明らかにしていないところが多かった。退院時要約の質の向上のためには、作成の目的、記載項目、分量の規定が重要と考える。その上で、全ての項目を確実に記入させるためにそれらの項目を独立欄として設定することを提案する。退院時要約は、その書式および内容に医療機関により差が大きく、全体としてその質は不十分であるのが現状である。本来の目的である医療連携などの向上のためにはその標準化が切望され、必須情報を網羅できる標準的な書式、記載指針の統一化に向けた施策が急務と考える。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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