文献情報
文献番号
201301032A
報告書区分
総括
研究課題名
次世代育成支援対策推進法が出産、女性の就業継続に与える影響:21世紀成年者縦断調査を用いた分析
課題番号
H24-政策-若手-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
水落 正明(南山大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本の出生率は人口置換水準を大きく下回っている。低出生率は、公的年金や医療保障など社会保障システムに深刻な影響を与えるため、解決すべき問題として広く認識されている。これに対して政府は1994年のいわゆるエンゼルプラン以降、数々の少子化対策を実行してきた。そうした中、2005年に次世代育成支援対策推進法(以下、次世代法。)が施行された。次世代法は、企業に従業員の出産・子育てをサポートすることを義務付けるものであった。この次世代法の導入によって、特に女性は仕事と家族のバランスを取りやすくなり、それが出産と就業継続を促すと考えられる。したがって、その効果を測定することは政策的に重要であると考えられる。しかしながら、次世代法のこうした効果に関する研究は、ほとんど行われてきていない。そこで本研究では、データ分析を通して、次世代法が出産および女性の就業継続に与える影響を明らかにする。
研究方法
次世代法の効果のとらえ方には2つの方法がある。一つは、次世代法の施行によって整備の進んだ個別の制度や取り組みの影響を明らかにするものである。そして、その制度や取り組みの結果を次世代法の効果として解釈する。しかしながら次世代法は、幅広い制度および対象を含んで企業に取り組みを求めるものであり、個別の制度や取り組みの効果ではとらえきれない。
もう一つは、次世代法の総合的な効果を明らかにする、という方法である。次世代法は施行時点で、企業規模によって強制力を変えている。すなわち、常用雇用者301人以上の企業(以下、大企業。)には、従業員へのサポートを義務化する一方、常用雇用者300人以下の企業(以下、中小企業。)には努力義務とするにとどまった。したがって、従業員に対する支援は次世代法の導入によって企業規模間で差が出ており、これが企業規模間で出生および女性の就業継続の差を生み出している可能性がある。その差が次世代法の効果であると言える。本研究では、この準実験的状況を生かして、次世代法の総合的な影響について明らかにする。
もう一つは、次世代法の総合的な効果を明らかにする、という方法である。次世代法は施行時点で、企業規模によって強制力を変えている。すなわち、常用雇用者301人以上の企業(以下、大企業。)には、従業員へのサポートを義務化する一方、常用雇用者300人以下の企業(以下、中小企業。)には努力義務とするにとどまった。したがって、従業員に対する支援は次世代法の導入によって企業規模間で差が出ており、これが企業規模間で出生および女性の就業継続の差を生み出している可能性がある。その差が次世代法の効果であると言える。本研究では、この準実験的状況を生かして、次世代法の総合的な影響について明らかにする。
結果と考察
最初に、仕事と子育てのための両立支援制度の有無と、制度利用に当たっての雰囲気に関する分析を行った。その結果、次世代法施行前から大企業でも中小企業でも制度の導入が進んでいたが、次世代法施行後では、大企業のほうが、より多く導入するようになったことが明らかになった。一方、利用に当たっての雰囲気については、次世代法施行前は、大企業でも中小企業でも、やや利用しやすくなる傾向があったものの、次世代法施行後、そうした傾向について、大企業と中小企業で差は生じていないことが明らかになった。
続いて、次世代法の総合的な効果として出産確率および出産が離職確率に与える影響について推定を行った。出産に関する分析結果からは、次世代法施行以降、大企業と中小企業の従業員間で出産確率に差は生じていないことが明らかになった。一方、出産による離職確率の推定結果からは、次世代法施行前は、大企業と中小企業の従業員とも出産で離職する確率が高かったが、次世代法施行後は、中小企業の従業員は依然として出産が離職確率を高めているが、大企業の従業員では、出産による離職への影響はなくなったことがわかった。
最後に、両立支援制度の有無が出産と離職確率に与える影響について推定を行った。その結果、育児休業制度が出産確率を高めることがわかった。また、子どもの看護のための休暇制度と育児のための勤務時間短縮等が、離職確率を低めることがわかった。
これらの結果から、次世代法の総合的な効果の分析結果について解釈すると以下のようになる。育児休業制度は先行研究でも示されているように、出産を促進するものであるが、次世代法の施行によって、育児休業制度はそれほど導入が進んだわけではない。その結果として、次世代法の施行が出産に与える影響が確認できなかったと考えられる。それに対して、離職については、看護休暇や短時間勤務の制度があることが離職確率を低めることがわかった。次世代法の施行によって、これらの制度の導入が進んだことが確認されており、そのことが次世代法の効果として現れたと考えられる。
続いて、次世代法の総合的な効果として出産確率および出産が離職確率に与える影響について推定を行った。出産に関する分析結果からは、次世代法施行以降、大企業と中小企業の従業員間で出産確率に差は生じていないことが明らかになった。一方、出産による離職確率の推定結果からは、次世代法施行前は、大企業と中小企業の従業員とも出産で離職する確率が高かったが、次世代法施行後は、中小企業の従業員は依然として出産が離職確率を高めているが、大企業の従業員では、出産による離職への影響はなくなったことがわかった。
最後に、両立支援制度の有無が出産と離職確率に与える影響について推定を行った。その結果、育児休業制度が出産確率を高めることがわかった。また、子どもの看護のための休暇制度と育児のための勤務時間短縮等が、離職確率を低めることがわかった。
これらの結果から、次世代法の総合的な効果の分析結果について解釈すると以下のようになる。育児休業制度は先行研究でも示されているように、出産を促進するものであるが、次世代法の施行によって、育児休業制度はそれほど導入が進んだわけではない。その結果として、次世代法の施行が出産に与える影響が確認できなかったと考えられる。それに対して、離職については、看護休暇や短時間勤務の制度があることが離職確率を低めることがわかった。次世代法の施行によって、これらの制度の導入が進んだことが確認されており、そのことが次世代法の効果として現れたと考えられる。
結論
次世代法の施行が出産に与える影響は確認できなかったが、出産した場合の就業継続を促進しているという点で、影響があることが確認できた。次世代法が出産にともなう離職確率を減少させたことは、出産コストを減少させたと言え、長期的に考えれば、今後の出産年齢の女性就業者が直面する出産コストの減少を通じて、少子化に歯止めをかける可能性が示唆される。したがって、次世代法の導入は、少子化対策として、一定の有効性を持った政策であったと評価できるものと判断する。
公開日・更新日
公開日
2014-08-27
更新日
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