医療費適正化効果のある特定保健指導に関する研究

文献情報

文献番号
201301025A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費適正化効果のある特定保健指導に関する研究
課題番号
H25-政策-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
福田 敬(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 社会医学講座)
  • 多田羅 浩三(日本公衆衛生協会)
  • 北村 明彦(大阪がん循環器病予防センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成20年度から生活習慣病予防を目的として、特定健診および特定保健指導が実施されている。実施率は徐々に高まりつつあり、今後の事業のあり方を検討するために、これらの活動の効果を検証する必要が生じている。
平成25年度研究では、効果的な生活習慣介入の在り方を検討する目的で、糖尿病、高血圧新規発症、重症化防止及び長期的な合併症予防に対する生活習慣介入(食事及び運動)の効果について文献レビュー、循環器疾患(CVD)の主要リスク因子(血圧、血糖、脂質等)とCVD発症および死亡リスクの関係について文献レビュー、特定保健指導による将来的な医療費および健康状態への影響を推計する方法の開発を行った。
研究方法
1. 生活習慣介入効果を検証した無作為介入試験の世界的な動向の検討
生活習慣介入効果に関する研究についてはPubMedを使用し、meta-analysis及びRCTを行ったものを対象とし、特定保健指導の効果については医学中央雑誌を用いて検討した。
2. 循環器疾患の主要リスク因子に関する国内大規模コホート研究のレビュー
MEDLINEデータベース検索およびハンドサーチを実施し、前向きコホート研究及び、そのメタ解析論文を収集した。
3. 特定保健指導の費用対効果の評価に向けた推計方法の検討
マルコフモデルをもとに費用やアウトカムを推計する手法を採用し、短期的な保健指導の効果(血圧低下等の検査値の改善)の結果を用いて、中長期的な費用やアウトカムを推計し、医療費削減額の推計や費用対効果分析を実施した。特定保健指導により発症抑制が期待される疾患として今年度は脳卒中と心筋梗塞を取り上げた。
結果と考察
1. 生活習慣介入効果を検証した無作為介入試験の世界的な動向の検討
糖尿病ハイリスク群であるIGTに対する生活習慣介入は、対照群に比較し新規糖尿病発症をほぼ半減し、その効果は長期に継続することが示されている。しかし網膜症を除く細小血管障害(腎症、神経障害)および心血管疾患罹患率・死亡率においては、対照群と比較して現在までのところ有意な差を認めていない。糖尿病患者に対する生活習慣介入においても、対照群に比較し心血管リスク因子の有意な改善を認めたが、長期的な効果は今のところ不明瞭である。高血圧患者に対する生活習慣介入効果については、多数のRCTが行われており、減量、減塩、定期的な運動が高血圧予防及びその重症化に有効であると考えられる。しかしその長期的な合併症予防の効果については今のところやはり不明瞭である。特定保健指導の効果は短期的には体重、腹囲、心血管リスク因子の改善を認めているが、長期的な効果はこれから検証を重ねる必要がある。
2. 循環器疾患の主要リスク因子に関する国内大規模コホート研究のレビュー
血圧、血糖(HbA1c、耐糖能異常含む)についてはCVDと直線的な正の関連がみられた。脂質異常に関するメタ解析では、総コレステロールと心筋梗塞との関連が示されたが、脳卒中に関しては有意な関連はなかった。肥満に関して、BMIとCVDにU字型の関連があるという報告が複数存在した。喫煙はCVDリスクと有意な関連がみられた。禁煙者の喫煙未経験者に対するCVDリスクは有意ではなかった。メタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome: MetS)もCVDと有意に関連した。MetS因子の保有数とCVDには直線的な正の関連がみられた。
3. 特定保健指導の費用対効果の評価に向けた推計方法の検討
 発症率を推計した結果、保健指導介入により、動機付け支援においても積極的支援においても、ほぼ全ての性・年齢カテゴリにおいて心筋梗塞や脳卒中の将来発症率は改善する可能性があること、またこれらの疾患の医療費が削減される可能性があることが示された。
結論
生活習慣介入は糖尿病、高血圧発症予防、またその重症化防止に有効とする研究が多く報告されている。今後は長期的な合併症予防効果の検証、低BMI群・人種間などの比較、疾病発症だけでなくQOL変化をアウトカムとした研究、生活習慣介入のfeasibility、費用対効果に関する研究なども調査していく必要がある。
 特定健診・特定保健指導の効果を検証する上で、これら因子の経時的変化からCVDリスクの低下度を算出し医療費を推計する方法が有効と考えられる。メタ解析のあるものについてはその結果を使用することが望ましいと考えられる。
特定保健指導の実施による長期的な影響をモデルにより行ったところ、特定保健指導の実施は医療費適正化に寄与すると考えられ、指導実施のための費用を考慮しても、費用対効果に優れる可能性が示唆された。ただし、疾患が限定されていることやデータに海外のものを用いているなどの課題もあり、今後の検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201301025Z