高齢者支援のための高度技術の応用

文献情報

文献番号
199800176A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者支援のための高度技術の応用
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
星宮 望(東北大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 上野照剛(東京大学大学院医学系研究科)
  • 山口隆美(名古屋工業大学大学院工学研究科)
  • 島田洋一(秋田大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
機能的電気刺激(FES)、磁気計測・磁気刺激、バーチャルリアリティといった高度技術を応用した高齢者支援機器の開発を目的とする。FESに関しては、FESシステムの高機能化と実用性の向上、治療的電気刺激(TES)の検討、新しい刺激方法の開発を進め、麻痺や筋力低下に起因する寝たきりの予防、日常生活動作の獲得や生活の質の向上を実現する。また、生体磁気計測により生体機能解明を図り、生体の無侵襲診断システムの構築を目指すと共に、パルス磁気刺激を利用した各種神経系疾患の機能検査法の開発や、静磁場の医療応用のための基礎的な機構解明を含めた検討を行う。そして、今後の高齢化社会において、ますます重要になると予想される在宅高齢者の健康管理・介護サービスを、バーチャルリアリティを利用したハイパーホスピタルに組み込むための技術開発を検討する。
研究方法
1.機能的電気刺激(FES)(星宮、島田)
(1)筋・骨格モデルの構築とそのFESシステムへの応用、FESシステム用インターフェイスの改善、貫皮的埋め込み電極の生体内での評価に関して検討を行った。
(2)高齢者の廃用性筋萎縮に対するFESの効果、脊髄損傷における急性期筋萎縮に対する治療的電気刺激(TES)、FESによる片麻痺歩行矯正に用いるセンサについて検討した。
(3)神経・筋情報のFES制御への応用、ブロック刺激による筋疲労抑制について検討した。
2.磁気計測・磁気刺激(上野)
(1)磁場に応答する細胞及び生体物質の探索、(2)骨細胞、腫瘍細胞に対するパルス磁気刺激実験、(3)高分解能SQUID磁束計による生体磁気計測に関する検討を行った。
3.バーチャルリアリティ(山口)
患者家庭内のネットワークと医療機関等のサポート側ネットワークをPHS公衆回線を利用してPPP接続し、双方の動画像・音声を交換すること、患者のアナログ臨床データをサポート側からの操作でリアルタイムに取得することを可能にする在宅患者支援システムについて検討した。
結果と考察
1.機能的電気刺激(FES)
(1)非線形性を有するFES用筋モデルで、刺激周波数-張力特性を含めることを可能にした。肘関節についての筋・骨格モデルにおいて、健常被験者での刺激実験により、昨年度と同程度の動作の推定結果を得た。簡略化した筋・骨格モデルと動的最適化手法を利用した刺激データの自動生成において、起立時間を規定しない場合でも妥当な結果を得ることができた。
(2)頭部動作を利用したインターフェイスをC5-6四肢麻痺者に適用し、臨床的有効性を確認した。また、C5-6四肢麻痺者の上肢に対しても適用可能であることを示し、本インターフェイスが異なる麻痺の患者でも使用可能であることを示唆した。
(3)FESシステムの新しいインターフェイスとして、任意のリーチングを再建するための目標位置検出装置を試作し、健常被験者で原理的可能性を確認した。また、片麻痺者のFES歩行再建のために、健側下肢に装着した加速度センサで計測した加速度波形の違いから異なる歩行状態を識別する手法の実現可能性を示唆した。
(4)表面電気刺激を用いた感覚フィードバックにおいて、受容感覚の安定化を図るため、運動に伴う感覚変動、絶対閾値の経時変動と皮膚インピーダンスとの間に関連性があることを示唆した。
(5)患者に埋め込まれた貫皮的埋め込み電極の電極間インピーダンスの周波数特を計測し、断線、コネクタ部での接触不良を検出し、電極不良検出法の臨床的有効性を確認した。
(6)高度の関節拘縮のために人工関節の手術を行った場合の健常な筋で、TESにより筋力欠損比の改善、大腿周径の増加がみられた。麻痺筋では、TESにより多くの筋で筋断面積が増加し、筋力も増加した。
(7)ラットの前脛骨筋の経皮的埋め込み電極による刺激実験を通して、高頻度刺激を用いたTESが速筋の急性期筋萎縮を軽減し、予防する可能性があることを示唆した。
(8)健常者の歩行中の大腿の鉛直方向からの傾斜角をtilt sensorと2次元自動座標計測装置で同時計測し比較した。両者の推移は近似しており、角度の最低値とtoe-offとのタイミングに相関関係が認められた。
(9)健常者で、電気刺激中の近赤外光による筋の局所酸素代謝と等尺性筋張力を計測し、刺激開始初期を除いて、筋張力と酸素飽和度との間に相関関係があることを確認した。また、M波振幅と筋張力との関係についても、刺激開始から数分の時間内では高い相関関係が見られた。
(10)ラットにおいて、100Hzの駆動刺激と20、50、100Hzのブロック刺激を用いた場合、ブロック刺激周波数が大きくなると、それによる筋張力の低下も大きくなるが、筋疲労抑制効果も増大することを確認した。
(11)家兎の坐骨神経または脛骨神経に装着したカフ電極で計測した神経活動電位群を、それらの波形情報を基に、客観的、かつ定量的に自動分類することに成功した。
2.磁気計測・磁気刺激
(1)水平方向の磁場を発生する超伝導マグネットのボア内に水を入れた容器を入れ、磁場を8Tまで変化させた結果、水面が分割されて容器の底が大気にさらされた。
(2)超純水に14T磁場を暴露した場合、0.1mmの光路長で、1900nm近傍における水の変角振動と逆対称伸縮振動の結合音の近赤外スペクトルのピーク波長が2~3nm赤色シフトし、磁場をオフにした後、数分以内に復帰したことを確認した。
(3)大気中の酸素分圧下での溶存酸素濃度約8-9mg/lである水を8T磁場に暴露しても濃度変化は見られなかったが、溶存酸素濃度を約12mg/l以上にした場合、8T磁場において有意な濃度変化が見られた。
(4)赤血球サスペンションと空気が接触する状態に最大14Tの磁場を印加した場合、赤血球サスペンションの波長550nmでの吸光度低下速度が増加し、赤血球内ヘモグロビンへの酸素結合によるものと思われた。
(5)フィブリン凝固過程における波長350nmでの吸光度変化率を測定した結果、吸光度上昇時、すなわち凝固過程では、14T磁場曝露群の変化率が顕著に増加した。
(6)活性酸素系について、環境磁場(~0T)と14Tの強磁場での酵素反応速度の比較を調べたが、明瞭な強磁場影響は認められなかった。
(7)ラットの8T定常磁場暴露前10分間の血管径をコントロール径とした場合、14例中9例において磁場暴露後に10%以上の血管拡張が見られ、8T磁場暴露中に体温は顕著に減少した。
(8)大腸ガン細胞に40℃の熱刺激のみを加えた場合HSP70の発現の増強が認められたが、パルス波の連続磁気刺激と40℃の熱刺激の両方を加えた場合との有意差はみられなかった。骨芽細胞でも同様の実験を行ったが、これまでに明瞭な影響は得られていない。
(9)ラットへの視覚刺激による網膜電位と視覚脳磁図を計測した。両方の潜時がほぼ一致しており、網膜磁場が観測されたと考えられる。眼球付近のデータから単一電源推定を行い、眼球位置とほぼ同じ位置に推測されたが、網膜の電源の単一双極子の非適合と、視覚脳磁図と網膜磁場の混在等によると考えられる違いも含まれていた。今後、広がりを持った電源推定モデルを用い、視覚脳磁図の電源推定を行う予定である。
3.バーチャルリアリティ
(1)サポート側及び家庭側を、TCP/IPを用いたインターネット接続のネットワークを用いて接続した。この両者で、相互宛のパケットが発生すると自動で接続する設定とした。
(2)WWWをインターフェイスとする移動患者・要介護者モニタリングシステムとして、必要時に患者の所に移動してきて、搭載されたセンサで健康チェックを行うと共に、カメラやモニタを介したコミュニケーションインターフェイスとして利用できるユニットを構築した。外観は、ぬいぐるみをかぶせ、心理的障壁を少なくした。
(3)患者、要介護者が、予め配置した薬剤、応急処置用品での作用について、ネットワークを通じ助言を受け、最適な薬剤処置などを選択できるようにするためのネットワーク化日常薬管理システムを開発した。これにより、任意の薬の指定をネットワーク経由でできるようになった。
(4)物理的に移動が困難な患者の健康状態を把握するためのモニタシステムの例として血圧脈拍計を導入した。電源の投入、加圧、データの読み取り・送信、電源の切断などの一連の作業をネットワーク経由の遠隔操作で実行できるものを試作した。
(5)徘徊、異常行動等を示す患者、要介護者の支援のため、1-Wireデバイスネットワークを用いて、要介護者、在宅患者のモニタを可能にするシステムを開発した。
(6)各センサから得られたデータ等を用いて遠隔地から見守ることができ、また、ベッドに設置したセンサで測定した温度データを利用して、寝ている患者の姿を再現すること等が可能になった。
結論
機能的電気刺激、磁気計測・磁気刺激、バーチャルリアリティといった高度技術を高齢者支援に応用するシステムについて検討した。多くの研究で、実用化の基礎を確立することができたといえる。本研究をさらに展開し、現システムの改良や新システムの開発を行うことが、高度技術を応用した実用的な高齢者支援機器の実現のために期待される。

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