急性期病院におけるソーシャルワーカーの実務基準と質指標(クオリティーインジケーター、QI)の開発に関する実践研究

文献情報

文献番号
201301007A
報告書区分
総括
研究課題名
急性期病院におけるソーシャルワーカーの実務基準と質指標(クオリティーインジケーター、QI)の開発に関する実践研究
課題番号
H23-政策-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
笹岡 眞弓(文京学院大学 人間学部 人間福祉学科)
研究分担者(所属機関)
  • 福井 次矢(聖路加国際病院)
  • 小山 秀夫(兵庫県立大学)
  • 大出 幸子(聖ルカ・ライフサイエンス研究所)
  • 高橋 理(聖ルカ・ライフサイエンス研究所)
  • 西田知佳子(聖路加国際病院)
  • 原田とも子(NTT東日本関東病院)
  • 宮内佳代子(帝京大学医学部附属溝口病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、保健医療と福祉の連携の要となりうる医療ソーシャルワーカー(以下SW)の業務基準を標準化し、その質を担保するための質指標(クオリティーインジケーター、以下QI)を策定し、現状把握と標準的な業務体制の構築を行うことである。これまでわが国においてSWの実践を分析したQIに関する研究はなく、本研究においてわが国のSWのQIが策定されることで、SWの支援を必要とする人に適切な支援とその体制の構築が推進される。その結果、療養継続を必要とする高齢者、障害者、小児等に対して、疾病の初期から終末期まで状態に合った慢性期の療養先への移行の支援を行うことができ、急性期医療の効率のよい病院運営にも貢献することができる。
研究方法
 2011年度2012年度で開発したQI案とSW介入必要基準案の実用性の有無について、明らかにするための全国の急性期病院を対象とした入院時患者の支援に関する調査(前向きコホート研究)、SWのアウトカムを明らかにするための脳卒中患者に関する調査(後ろ向きコホート研究)及びSWのQIに関する意識調査の集計並びに分析を行い、QIとSW介入必要基準の確定を行った。統計学的手法については、①はSWの介入をアウトカムとして、多変量ロジスティック回帰分析を行って、関連する変数の抽出を行った。②については、退院と施設退院をイベントとし、在院日数を生存変数として、KM曲線を描きログランクテストを行った。策定されたQIとSW介入必要基準は、日本医療社会福祉協会のデータベースへの組込みを行い、全国のSWに普及啓発のために講演会を開催した
結果と考察
入院時患者の支援に関する調査は、回答病院数70病院(回収率70%)患者数合計7438人(欠損除)SW介入数合計1157人(15.5%)であった。SWへのQIの調査への回答は、81病院であった。脳卒中患者の調査は54病院、641名の回答を得られた。SWの介入率は328名(介入率51.2%)であった。1)急性期病院のSWの介入は、疾患はチャールソンインデックス1点の疾患と社会的要因10項目が有意差のある項目であり、必要介入基準項目と考えた。これらの項目についてロジスティック解析をおこないスコアリングした結果、16点以上の人には70%介入しているなど、SWは複数のニーズを有する患者に優先して介入する傾向があることが分かった。今後急性期病院のSWが、必要介入基準を使うことで、SW介入の現状把握が明確になり、標準化も推進する。2)SWの介入率は、最小値4.6% 、中央値16.8% 、最大値63.2%と差があったが、QI項目にある対象者は、リハビリ患者44%、認知症患者47%、脳血管疾患46%といずれも介入率が高くQIとして必要な項目と判断した。「30日以内の予定外の再入院」「無保険」「キーパーソン不在」「虐待」は、該当数が少なく、患者調査からその根拠を見出すことはできなかったが、SWの意識調査ではいずれも「必要性」が約8割と高く、QIとして残すべきと判断した。患者調査を行なっていない3項目については、推奨するQI.項目として提示しQI.の開始後の調査によって、再検証することとし13項目を確定した。3)SWの介入時期により、自宅退院率の上昇に影響が認められた。介入時期によって疾患や患者の社会的状況で補正しても、MSW介入が7日未満の群のほうが自宅・施設退院率が高く、SWが早期介入することで、医療資源が適切に使われることが推察された。4)脳卒中患者へのSWの介入に関しては自宅退院、回復期リハビリテーション病院施設入所への転院及び平均在院日数の短縮に関して影響が認められた。
結論
急性期病院のSWのQI13項目と、SWの介入すべき必要基準の項目を特定し、スコアリングシステムを提示することができた。SWのアウトカムとして、早期介入の効果として自宅・施設退院率に影響が認められた。脳卒中の患者への早期介入が回復期リハビリテーションへの転院、及び平均在院日数の軽減にも寄与していることが明らかになった。本研究により、急性期病院においてSW支援を必要とする患者の介入基準とQIが策定できたので、SWの支援が適切に提供される体制が推進されることが見込まれる。全国に均等なSWが配備されることで、患者が十分に納得した上で安心して地域で療養生活を送ることが可能となる。患者ニーズに対応した支援を向上させていくためには、SW介入の施設機能別やSW配置数による業務の分析、業務の職務記述書の作成、SW介入の質的研究の継続の必要性も示唆された。




公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201301007B
報告書区分
総合
研究課題名
急性期病院におけるソーシャルワーカーの実務基準と質指標(クオリティーインジケーター、QI)の開発に関する実践研究
課題番号
H23-政策-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
笹岡 眞弓(文京学院大学 人間学部 人間福祉学科)
研究分担者(所属機関)
  • 福井 次矢(聖路加国際病院)
  • 小山 秀夫(兵庫県立大学)
  • 大出 幸子(聖ルカ・ライフサイエンス研究所)
  • 高橋 理(聖ルカ・ライフサイエンス研究所)
  • 西田知佳子(聖路加国際病院)
  • 原田とも子(NTT東日本関東病院)
  • 宮内佳代子(帝京大学医学部附属溝口病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 保健医療と福祉の連携が、今後のわが国の医療及び福祉政策にとって重要な課題である今日、連携の要となりうる医療ソーシャルワーカー(以下SW)の業務を標準化し、その質を担保することを目的として、SW介入必要基準とSWの質指標(クオリティインジケーター、以下QI)を開発すること、およびSWの介入効果を明らかにすることを目的とした。SWの業務が標準化され、QIによってSW援助の質が向上することで、SWの支援を必要とする患者・家族に適切な支援が提供され、患者・家族の十分な納得の上で地域での療養生活を送ることができる。またSWの介入効果を明らかにすることで、SWの適正な配置に寄与でき、わが国の保健・医療・福祉サービスの効果的な提供システムの構築に寄与できる。
研究方法
 2011年度には、国内の急性期病院のSWへの業務に関するインタビュー調査と、米国のミシガ大学ヘルスシステム、ニューヨークプレスビテリアン病院のソーシャルワーカー、ストーニーブルック大学、ニューヨークハンターカレッジ大学の教授にSW業務とQIのインタビュー調査を行った。2012年度には、急性期病院のSWを対象としたフォーカスグループインタビューにより、QI案を作成した。また、神奈川県の15大学病院における質的研究によって、ソーシャルワーカーの介入必要基準案の作成を行った。作成されたQIとSW介入必要基準は、実用性の有無を明らかにするため全国の急性期病院を対象とした入院時患者の支援に関する調査(前向きコホート研究)を行った。QIは、SWのQIに関する意識調査も行い2つの調査結果から評価を行った。SWのアウトカムを明らかにするために、脳卒中患者に関する調査(後ろ向きコホート研究)も行った。2013年度には、上記の調査の集計ならびに分析を行い、QIとSW介入必要基準の確定を行った。統計学的手法については、①はSWの介入をアウトカムとして多変量ロジスティック回帰分析を行い関連する変数の抽出を行った。②は退院と施設退院をイベントとし、在院日数を生存変数として、KM曲線を描きログランクテストを行った。策定されたQIとSW介入必要基準は、日本医療社会福祉協会のデータベースへの組込みを行い、全国のSWに普及啓発のために講演会を開催した。
結果と考察
 1)急性期病院のSWの介入項目を検討し、必要介入基準項目と考えられた項目についてステップワイズロジスティック回帰分析を行いスコア値が高いとSWが介入が多いことが分かった。SW必要介入基準として統計学的に検証した19項目を、各々1点から4点にスコアリングし、SW介入必要基準のスコアリングシステムを作成した。2)QI項目13項目を確定した。患者調査からQI6項目が分析できたが、4項目は該当者数が少なく分析できなかった。SWは発生率の低い困難患者への支援を行っており、SWの意識調査でも約8割が必要だとの回答を得たのでQIとして残すべきだと判断した。3項目は推奨項目として提示した。今回開発したQIは、わが国における全国調査を経た最初のモデルであり、各病院においてQIの作成や改善を図ることが重要であると思われた。3)SWが7日以内に介入することで、自宅退院率の上昇に影響が認められた。疾患や患者の社会的状況で補正しても、SW介入が8日未満の群のほうが自宅・施設退院率が高く、SWが早期介入することで、医療資源が適切に使われることが推察された。4)脳卒中患者へのSWの介入に関して、早期に介入することは転院、退院にかかわらず急性期病院から早くに退院することが出来、在院日数を短縮することが出来る可能性があることが分かった。
結論
急性期病院のソーシャルワーカーのQI、13項目とSWの介入すべき必要基準の項目が特定でき、スコアリングシステムを提示することができた。さらに、SWのアウトカムについては、早期介入の効果による、自宅・施設退院率に影響が認められた。脳卒中の患者についても早期介入が回復期リハビリテーションへの転院、及び平均在院日数の軽減にも寄与していることが明らかになった。本研究により、急性期病院における高齢者、障害者等のSW支援を必要とする患者の介入基準とQIが策定できたので、SWの支援を必要とする人に適切な支援が提供される体制が推進されることが見込まれる。今後各病院での推進活動により、全国に均等なSWが配備されることで、患者が十分に納得した上で安心して地域で療養生活を送ることが可能となる。今後引き続き、患者ニーズに対応した支援を向上させていくためには、SW介入の施設機能別やSW配置数による業務の分析、業務の具体的な職務記述書の作成、SW介入の質的研究を継続する必要性も示唆された。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201301007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 十分なサンプル数をもった全国規模のソーシャルワーカー(以下SW)の非介入ケースも含めた調査はわが国において初めてであり、この調査によってSWの必要介入基準を考案し、実践に基づいたQIを策定し、SWの介入効果を明らかにした。これまでわが国においてSWの実践を分析したQIに関する研究はなく、本研究においてわが国のSWのQIが策定されることで、SWの支援を必要とする人に適切な支援とその体制の構築が推進される。
臨床的観点からの成果
 SW必要介入基準のスコアリングシステムを使用することでSW介入の優先順位が明確になり、QIデータをとることでSW援助の質を担保できる。またSW介入の標準化ができ、SWの早期介入効果が明らかになることで、病院のSWの適切な配置に貢献でき、療養継続を必要とする高齢者、障害者、小児等に対して、疾病の初期から終末期まで状態に合った慢性期の療養先への移行の支援を行うことができ、急性期医療の効率のよい病院運営にも貢献することができる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
介入基準は複数の大学病院で採用され、要介入患者・家族への介入の漏れを防ぐことに貢献している。また医療ソーシャルワーカーのトップ研修である専門研修のスクーリングで2014年、2015年に講義及び演習科目としてQIと介入基準の使用について啓発した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
2014年2月、3月に東京、兵庫でQI,SW必要介入基準、介入効果に関する研修会を開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-06
更新日
2016-06-27

収支報告書

文献番号
201301007Z