児童虐待の発生と重症化に関連する個人的要因と社会的要因についての研究

文献情報

文献番号
201301002A
報告書区分
総括
研究課題名
児童虐待の発生と重症化に関連する個人的要因と社会的要因についての研究
課題番号
H23-政策-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 武男(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 成育社会医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小稲 文(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 成育社会医学研究部)
  • 佐藤 拓代(独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 企画調査部)
  • 奥山 眞紀子(独立行政法人国立成育医療研究センター こころの診療部)
  • 植田 紀美子(独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 企画調査部)
  • 加藤 曜子(流通科学大学 サービス産業学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、虐待が発生し深刻化する個人的・社会的要因について明らかにするとともに地域のアセスメントを行うことによって、地方自治体等における既存の母子保健サービスや行政システムの中で実施可能な虐待防止介入プログラムを開発することを目的とする。
研究方法
①国立成育医療研究センターで親の発達障害傾向が虐待傾向と関連があるかについて、質的研究を行った。②地域で把握された虐待の把握経緯および支援の検討から、虐待のリスク因子および予防因子について検討した。③児童相談所と市町村の虐待対応件数の分析により地域アセスメント手法を検討した。さらに、保健機関におけるシステム的な虐待予防効果について検討した。④要保護地域対策協議会において、在宅アセスメント指標をツールとして利用し、アセスメントから支援に結びつける効果について検討した。⑤虐待全体のコスト試算を行った。⑥厚労省作成の揺さぶられ症候群予防DVD「赤ちゃんが泣きやまない」を妊娠期に両親教室および母親教室で視聴したときの知識向上の効果を調べた。
結果と考察
①親の発達障害傾向があった場合、食事や検査、治療へのこだわり、融通が利かない、社会との不適応などにより虐待に至ることが示唆された。②子どもの良好な発達状態、定期的な訪問支援、支援者同士および家族との情報共有が予防因子と考えられた。また、被虐歴がリスク因子であり、支援で克服することの困難さが確認された。③虐待対応件数のうち、乳幼児の割合がよい指標となると考えられた。また、保健機関がリスクアセスメントをきちんと行うことで把握率が向上することが示された。④アセスメント指標を活用することで虐待の程度が軽減し、重症化が抑えられていた。支援量の増加も確認された。⑤日本における虐待の直接コストは約1040億円、間接コストは約870億円で、その社会的コストは約2000億円と試算された。⑥厚労省作成の揺さぶられ症候群予防DVD「赤ちゃんが泣きやまない」を視聴することにより、年齢、男女、出生順位、うつ状態を問わず、有意な泣きの知識および揺さぶりの知識の向上を確認することができた。
結論
虐待の発生および重症化に関連する要因として、親の発達障害、被虐歴が確認された。また、市町村および児童相談所できちんと虐待把握がなされるよう研修が必要であり、要保護地域対策協議会で重症化を防ぐにはアセスメントツールが効果的であることもわかった。虐待のコスト試算からその損失は膨大であり、DVDの視聴という安価な介入により、子どもの生命を守ることができるだけでなく、コストの上でも効果があることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201301002B
報告書区分
総合
研究課題名
児童虐待の発生と重症化に関連する個人的要因と社会的要因についての研究
課題番号
H23-政策-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 武男(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 成育社会医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小稲 文(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 成育社会医学研究部)
  • 佐藤 拓代(独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 企画調査部)
  • 奥山 眞紀子(独立行政法人国立成育医療研究センター こころの診療部)
  • 植田 紀美子(独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 企画調査部)
  • 加藤 曜子(流通科学大学 サービス産業学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、虐待が発生し深刻化する個人的・社会的要因について明らかにするとともに地域のアセスメントを行うことによって、地方自治体等における既存の母子保健サービスや行政システムの中で実施可能な虐待防止介入プログラムを開発することを目的としておこなわれた。
研究方法
本研究は、症例対照研究として病院および地域で把握される虐待症例および死亡事例について検討を行った。
また、既存の行政サービスによる介入として児童相談所、市区町村、要保護地域対策協議会(要対協)のあり方について現状を把握し、効果的な介入手法について検証した。具体的には、厚生労働省福祉行政報告例から、児童相談所及び市区町村における全国の子ども人口1万人当たり子ども虐待対応件数の分析を行うとともに調査を行い、特徴的な数値を示す児童相談所及び自治体にヒヤリングを行うとともに分析を深め、地域における虐待対策アセスメント指標を開発した。
そして、開発した保健機関のリスクアセスメント指標を用いてモデル市に妊娠期からの虐待予防支援の介入支援を行い、地域における効果を分析し、システム的虐待予防モデルを開発した。
さらに、要対協については、在宅アセスメント指標を利用し、全国市区町村悉皆調査及び全児童相談所を対象に要対協活動の運営状況から問題点を把握して当面の課題を検討すべく、5市1町の協力をえて、6か月間に新規に通告のあった全ケースに対し、3か月、9か月、15か月ごとにフォローし、虐待の程度とアセスメント項目および支援状況ついて検討した。また要対協活動に対する市区町村全国悉皆調査と、全児童相談所調査を実施し、その在宅支援状況を把握した。
一方、妊娠期からのハイリスク群の把握をするとともに、厚労省虐待対策室と協働し、虐待予防プログラムとして赤ちゃんの泣きの特徴に注目したDVD「赤ちゃんが泣きやまない」を作成し介入を行い、効果検証を行った。
最後に、効果評価のための虐待のコスト試算も行った。方法としては診療録及び診療報酬明細書の詳細分析により虐待による頭部外傷と事故による頭部外傷児の初回入院にかかる疾病コストの比較、コストと臨床像の関連を分析した。
結果と考察
病院における症例対照研究からは、揺さぶられ症候群においてこれまでに知られている乳児期早期だけでなく、乳児期後半にもピークがあることから、この時期もハイリスクであることがわかった。また、親の発達障害傾向が虐待のリスク要因であることも明らかにした。さらに、地域で把握される虐待症例からは、虐待の予防因子として、子どもの発達状態が良好なこと、家族の母に対する理解や支援機関の定期的な訪問面接などの支援、さらに支援者同士が家族も含み情報共有ができるネットワークの構築があげられた。また、地域アセスメントとして虐待対応件数のうち、乳幼児の割合がよい指標となると考えられた。また、保健機関がリスクアセスメントをきちんと行うことで把握率が向上することが示された。さらに要対協でアセスメント指標を活用することで虐待の程度が軽減し、重症化が抑えられていた。支援量の増加も確認された。ハイリスク群の把握については、妊娠届における年齢(24歳以下)、妊娠時うれしくない、夫婦関係の問題、うつ症状ありであった。また、出産後の泣き、愛着がもてない、産後うつ、お産への不満があった。これらの組み合わせから妊娠届によりハイリスク群を抽出するアルゴリズムを作成した。さらに、赤ちゃんの泣きに注目したDVDの効果評価については両親学級で視聴前後で比較したところ有意な知識の向上を確認できた。また、虐待のコストについては、虐待による頭部外傷児の初回入院医療費は乳幼児頭部外傷のみの事故による頭部外傷児と比べた場合、10倍にのぼり、重篤な臨床像を示した。さらに日本における虐待の直接コストは約1010億円、間接コストは約870億円で、その社会的コストは約2000億円と試算された。
結論
これらの研究結果をもとに、どの時期に、どの機関が、何をすべきかについて考察し、虐待予防のための政策パッケージを作成した。今後はこの予防効果を検証していく必要があるだろう。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201301002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
親の発達障害傾向が虐待のリスク因子であることを世界ではじめて明らかにした(Fujiwara et al, Child Abuse and Neglect, in press)。また、保健機関および要保護地域対策協議会におけるアセスメント指標の活用効果を明らかにした。さらに、虐待の社会的コストを算出した。さらに、揺さぶられ症候群予防のためのDVDを視聴することにより、泣きの知識が有意に上昇することを明らかにした。
臨床的観点からの成果
妊娠中から母親の発達障害傾向を把握し、適切な介入をすることで虐待予防につながる可能性があり、臨床的にも母子保健的にも意義がある。また、実際に現場で活用可能なアセスメント指標の効果を示すことで、アセスメント指標を活用する意義を提示できた。さらに、虐待のコストを試算することで虐待予防施策の費用対効果を示すための基礎資料を提示できた。さらに、揺さぶられ症候群予防のためのDVDの効果を示したことで、保健機関および臨床現場で活用する根拠を提示できた。
ガイドライン等の開発
妊娠期から学童期までの時系列および介入機関(保健センター、市町村・児童相談所、産科、小児科、精神科等)ごとにみた虐待予防フレームワークを開発し、提示した。
その他行政的観点からの成果
厚労省虐待対策室と協働し、揺さぶられ症候群予防のためのDVD「赤ちゃんが泣きやまない」を作成した。厚労省のHPにアップされ自由に視聴でき、かつ全国の市町村にもDVDとして配布され、活用されている。
その他のインパクト
揺さぶられ症候群予防のためのDVDについては、NHKおはよう日本、TBS News iで報道されたほか、日経新聞、産経新聞でも報道された。また、平成26年2月1日に公開シンポジウム「1日でわかる 子ども虐待予防研究の最前線」を行い、川鍋虐待対策室長にもご出席いただき、約100名の参加者らと活発な意見交換を行った。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
46件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
7件
その他成果(普及・啓発活動)
37件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fujiwara T, Natsume K, Okuyama M, et al.
Do home-visit programs for mothers with infants reduce parenting stress and increase social capital in Japan?
Journla of Epidemiology and Community Health , 66 (12) , 1167-1176  (2012)
10.1136/jech-2011-200793
原著論文2
Fujiwara T, Kasahara M,Tsujii H, et al.
Association of maternal developmental disorder traits with child mistreatment: A prospective study in Japan.
Child Abuse and Neglect , 38 (8) , 1283-1289  (2014)
10.1016/j.chiabu.2014.04.007
原著論文3
植田紀美子、丸山朋子、藤原武男
2歳未満児の虐待による頭部外傷における初回入院にかかる疾病費用分析
厚生の指標 , 61 (5) , 10-14  (2014)
原著論文4
加藤曜子
要保護児童対策地域協議会の課題―死亡事例検証報告からの学びー
流通科学大学論集―人間・社会・自然編 , vol25 (2) , 39-52  (2013)
原著論文5
加藤曜子
児童虐待予防に向けた県と市町村の取り組みーある自治体例からの一考察―
流通科学大学論集―人間・社会・自然編 , vol26 (2) , 1-11  (2014)
原著論文6
佐藤拓代
地域で取り組む虐待への対応-大阪府
周産期医学 , 44 (1) , 69-72  (2014)
原著論文7
加藤曜子
精神障害をもつ親と要保護児童対策地域協議会
流通科学大学論集ー人間・社会・自然ー , 27巻 (2号) , 11-22  (2015)
原著論文8
Fujiwara T, Yamaoka Y,Morisaki N
Self-reported prevalence and risk factors for shaking and smothering among mothers of 4-month-old infantsin Japan
Journal of Epidemiology , in press (*) , *-*  (2015)
原著論文9
Fujiwara T
Effectiveness of public health practice against shaken baby syndrome/abusive head trauma in Japan
Public Health , in press (*) , *-*  (2015)
原著論文10
Fujiwara T, Kasahara M,Tsujii H, et al.
Association of maternal developmental disorder traits with child mistreatment: A prospective study in Japan
Child Abuse Negl , 38 (8) , 1283-1289  (2014)
原著論文11
Yamada F, Fujiwara T
Prevalence of self-reported shaking and smothering and their associations with co-sleeping among 4-month-old infants in Japan
Int J Environ Res Public Health , 11 (6) , 6485-6493  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-06-06
更新日
2018-06-15

収支報告書

文献番号
201301002Z