構造並びに機能再生を目指す脂肪組織由来幹細胞治療の開発

文献情報

文献番号
201244002A
報告書区分
総括
研究課題名
構造並びに機能再生を目指す脂肪組織由来幹細胞治療の開発
課題番号
H24-実用化(国際)-指定-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 百万(名古屋大学医学部付属病院 泌尿器科)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 徳則(名古屋大学医学部附属病院 泌尿器科)
  • 舟橋 康人(名古屋大学医学部附属病院 泌尿器科)
  • 亀井 譲(名古屋大学医学部附属病院 形成外科)
  • 水野 正明(名古屋大学先端医療・臨床研究支援センター)
  • 安藤 昌彦(名古屋大学先端医療・臨床研究支援センター)
  • 加藤 勝義(名古屋大学先端医療・臨床研究支援センター)
  • 平川 晃弘(名古屋大学先端医療・臨床研究支援センター)
  • 清水 忍(名古屋大学先端医療・臨床研究支援センター)
  • 松尾 清一(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科)
  • 丸山 彰一(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科)
  • 尾崎 武徳(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科)
  • 若林 俊彦(名古屋大学医学部附属病院 脳神経外科)
  • 高橋 雅英(名古屋大学大学院医学系研究科 病理)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(国際水準臨床研究分野)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
再生医療には、骨、皮膚、角膜等、身体の一部を再生する「構造再生」と、がんや膠原病など現在では完治できない病的状態の正常化をはかる「機能再生」の2つがある。現在、世界は再生医療を、次代を担う重要な医療と位置づけ、その開発に鎬を削っている。海外ではすでに400件以上の臨床試験が行われており、特許やノウハウが固められつつあり、そのソースの約7割が骨髄由来であることから、わが国が再生医療分野において世界を先導するには、iPS細胞による再生医療開発と並行して、骨髄以外の組織より抽出する幹細胞を活用した再生医療を、構造再生と機能再生の両分野において戦略的に確立することが喫緊の課題となっている。本事業では、体性幹細胞のひとつである脂肪組織由来幹細胞(ADSCs: adipose-derived stem cells)を用いて構造再生医療と機能再生医療のそれぞれを共通基盤に載せて開発することを目的とし、対象疾患として構造再生医療開発では「腹圧性尿失禁」を、機能再生医療開発では「強皮症」を取り上げ、5年以内の治験実施を目指す。
研究方法
腹圧性尿失禁治療においては、自己皮下脂肪組織からADSCsを培養操作を行うことなく採取し、経尿道的内視鏡下に尿道括約筋に注入する新規手技を開発し、探索的臨床試験を行った。本プロトコールは名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認を得ると共に、平成23年3月に厚生労働省ヒト幹臨床研究審査委員会(第62回厚生科学審議会科学技術部会)において承認され、平成24年度は、本研究事業の初年度の研究として、自己ADRCsの傍尿道注入による腹圧性尿失禁治療の探索的先行臨床研究を実施し、有効性と安全性に関する中間成績を解析した。また、臨床研究と並行して、注入に用いるADSCsの性状解析を行った。ADSCsを用いた再生治療の臨床研究において、細胞の活性、および安全性・品質評価法において必要となるバイオマーカに関する基礎的研究を実施し、脂肪結合蛋白(FABP)のバイオマーカとしての可能性とその品質評価法の標準化を検討した。また、マイクロブタでの顔面皮下欠損モデルを用いた欠損組織へのADSCs付加脂肪組織注入の効果および安全性、ブタでの右反回神経切断による一側声帯麻痺モデルにおけるADSCs注入による組織学的変化を検討した。さらに注入するADSCsの特性を基礎、臨床のin vitro, in vivoで検討し、継代培養細胞の平滑筋分化特性、サイトカイン分泌特性について検討を行った。強皮症に対する機能再生医療の開発では、低血清培養脂肪由来幹細胞(LASC)の臨床応用を見据え、LASCの性状・性質解析を行うとともに、その安定的かつ安全な培養法についての検討を行った。名古屋大学医学部附属病院における新たな治療方法の提供を推進するにあたり、信頼性の高い臨床試験成績を創出するため、ADSCsを用いた腹圧性尿失禁と強皮症を対象に、ICH-GCPに基づいた臨床試験の支援体制を提供するためのDesign Build-up Team(DBT)を構成し、次相の臨床試験計画を検討した。
結果と考察
腹圧性尿失禁治療の探索的先行臨床研究では、実施症例13例中6カ月以上の経過観察を行った11例のうち、8例で1日尿失禁量が平均59.8%減少し、1例では尿失禁が完全に消失した。全例で有意な合併症を認めず、本治療の有効性と安全性が示唆された。基礎的研究により腹圧性尿失禁に対するADSCs注入及びADSCs付加脂肪注入治療において用いるADSCs細胞特性、作用メカニズム、安全性に関する基礎的・科学的根拠を確立した。強皮症については、低血清培養ADSCsを用いた細胞治療法が難治性疾患に対する実用的な治療法になり得ることを確認した。多施設共同臨床試験実施に向けての基盤整備では、信頼性の高い臨床試験成績を創出するため、脂肪組織由来幹細胞を用いた腹圧性尿失禁と強皮症を対象に、ICH-GCPに基づいた臨床試験の支援体制、即ち、研究責任者及び研究分担者に加え、臨床試験を実施する上で必要な臨床試験支援スタッフ、すなわちプロジェクトマネージャー、企画立案担当、生物統計家、データーマネージャー、薬事担当者等からなるDesign Build-up Team(DBT)を構成し、次相の臨床試験計画を検討した。
結論
平成24年度の研究結果に基づき、腹圧性尿失禁治療については、名古屋大学医学部附属病院において次年度より、前向き臨床治験のためのプロトコールを作成し、厚生労働省医政局研究開発振興課と面談しながら、医師主導型治験、あるいは先進医療Bとして多施設臨床研究を進める。また、強皮症については、低血清培養脂肪組織由来幹細胞の細胞特性と安全性が確認され、臨床研究を目指して、次年度の研究を進める。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201244002Z