在宅高齢者に対する保健・看護・介護プログラム開発とその評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800173A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者に対する保健・看護・介護プログラム開発とその評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
金川 克子(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 石垣和子(浜松医科大学)
  • 別所遊子(福井医科大学)
  • 立浦紀代子(羽咋市訪問看護ステーション)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は在宅高齢者を対象に、自立した生活が少しでも可能な保健・看護・介護プログラムの開発と介入、評価を実施することを目的とする。即ち、在宅高齢者の自立度レベル(ランクJ、A、B、C)と家族介護力レベルによってケア内容には特徴がみられるので、それらを基盤に地区(市町村単位)の特徴も加味してケアプログラムの開発とソーシャルサポート体制を検討するものである。本研究は3年計画としており、全体計画は以下の通りである。①寝たきり(ランクB、 C)の高齢者を中心としたADL維持、低下防止のケアプログラムの開発、介入、評価の検討(別所、立浦)、②準寝たきり(ランクA)高齢者を中心としたソーシャルサポートの強化、生きがいのためのプログラムの開発、介入、評価の検討(安村)、③自立した(ランクJ)高齢者を中心とした生きがい・趣味のためのプログラム、生活習慣の改善を図るプログラムの開発、介入、評価の検討(安村)、④高齢者単独世帯と高齢者夫婦世帯を中心としたソーシャルサポートの強化、サ-ビス内容の周知の強化を図るプログラムの開発、介入、評価の検討(金川)、⑤要介護高齢者家族の介護による負担の軽減を図るプログラムの開発の検討(石垣)、本年度は1年目であり、研究分担者の課題に沿って在宅高齢者の自立度レベルや家族介護力レベルに即したプログラム開発のための地域ニーズの把握、可能なプログラム試案作り、介入の試みを図ることを目的とする。
研究方法
上記の課題に沿って各々の研究分担者を中心として以下の方法で行った。①日常生活自立度の低いランクB、Cの在宅高齢者を対象として、訪問看護婦の実施する在宅リハビリテーションの実態を通して、その適切性を評価し、質の高いケアのプログラム開発に資するために、以下の対象の選定と方法をとった(別所)。対象はF市に在宅要介護老人として登録している2,654人のうち、障害老人の日常生活自立度判定基準B、Cで痴呆なし、又は痴呆性老人の日常生活自立度判定基準Ⅰのレベルとした。方法は同市の保健婦が対象者の家庭を訪問し、対象者の身体機能、筋力・動作能力、ADL、リハビリの実施状況、効果等を面接調査で把握した。また、担当の訪問看護婦に対しては訪問看護婦が行っているリハビリの内容やその効果等について質問紙留置法を実施した。②在宅の寝たきり高齢者を対象に座位耐性訓練を中心としたプログラムによる介入を実施し、介入後3ヶ月後の評価に加えて、1年半後の同プログラムの有効性を以下の対象と方法により、検討した(立浦)。対象はH市在住の65才以上の日常生活自立度判定基準B、Cとし、同市より訪問看護を受けている者を介入群とし、訪問看護を受けていない者を対照群とした。介入プログラムはHamiltonらによって開発されたStrategies for Improving Functional Mobilityを原案とし、修正した。これらを週1~3回、1回2時間程度家庭を訪問し、実施した。対照群には同プログラムは実施せず、経過観察とした。③日常生活自立度判定基準J、Aランクを対象に自立度の1年後の変化とそれに関連する要因の検討と、サービスの周知度・利用度との関連を分析し、それらの知見よりサービスプログラム内容を作成する資料のために以下の対象の選定と方法をとった(安村)。対象はY県内の2市に在住の65才以上(1997.8.1.現在 住民台帳にて)より無作為に抽出した高齢者である。方法は質問紙による郵送法にて1次調査を行い、ランクAとマッチングしたランクJ、及びランクA、B、Cの高齢者に2次調査を行った。また、2次調査の対象者には訪問面接による追跡調査も実施した。④単
独世帯と高齢者世帯の高齢者を対象に社会的支援の状況と日常生活活動能力、うつ状態との関連を以下の対象と方法により検討した(金川)。対象は1996年に住民基本台帳を基に抽出したW市居住の単独世帯と高齢者世帯の65才以上の高齢者のうち、継続して観察できたものである。調査方法は同市の民生委員の協力により、質問紙を配布し、留め置き調査により回収した。⑤特別養護老人ホーム待機者、要介護高齢者の介護者の精神的・身体的負担を以下の対象と方法により検討した(石垣)。対象はH市の特別養護老人ホーム待機者のうち日常生活自立度判定基準B、Cの者を介護している主介護者である。方法は保健婦による面接調査により、介護者の精神的・身体的負担を中心に聞き取り、主に事例検討とした。
結果と考察
各研究課題に沿って主な結果のみを示す。①F市での日常生活自立度の低いランクB、 C264人(平均年齢81才)のうち、ランクCの方が痴呆性老人の日常生活自立度判定基準による自立度が低く、又、移動・食事の動作能力でも全介助の割合が高かった。調査期間中の1ヶ月間のリハビリテーションの実施状況はランクB、Cとほぼ同率であった。リハビリの内容はROM訓練、座位保持訓練、筋力増強訓練、立位保持訓練の順に高かった。また、リハビリの内容はランクB、C間で特徴があった。訪問看護婦とPTのリハビリ実施や必要性の認識にやや違いがみられた。②H市在住のランクB、Cを対象に座位耐性訓練を中心としたプログラムを実施した介入群(41名)では、非介入群(41名)に比べて1年半後の転帰では死亡者が各々6名と10名であった。介入群での1年半後の生存者35名のうち、在宅継続者29名でみると、トイレ動作は1年半後には低下の傾向がみられたが、ADL項目のセルフケア全体では変化は認められなかった。また、非臥床時間についても変化はみられなかった。③Y県内の2市に在住している65才以上を対象にした1年後の自立度の変化は、ランクJの5.8%は自立度が低下した。ランクAではランクJに上昇した者は27.1%、ランクB、Cに低下した者は10.4%であった。自立度の変化はランクJでは聴力低下、過去1年の入院ありの者が有意に自立度が低下していた。ランクAでは排尿、食事の要介助が多いことや、自己効力感尺度の得点の低いことが自立度の低下に関連していた。④W市での単独世帯と高齢者世帯の高齢者のうち、1996年から追跡できている1500名のうち、1年間の主観的な身体的変化では改善7.5%、変化なし59.4%、少し悪化22.9%、悪化3.4%、不明6.8%であり、20%以上が悪化傾向であった。1年間の日常生活活動能力では低下が32.1%、維持が49.7%、改善が18.1%であった。2年間の活動能力の推移と社会的支援との関連では、活動能力の維持している群が他に比べて別居家族、友人・知人・隣人からのトータルサポ-トが高かった。また、活動能力の低下群ではうつ状態の得点が高かった。⑤H市の特養待機者の主介護者17名の事例検討では、介護者の精神負担の要素として被介護者の抱える問題、介護者自身の内在する問題、インフォーマルな関係性の問題、置かれた状況に関する問題、近隣との関連性の問題、経済的な問題、公的サービスの問題が抽出された。
結論
市区町村を単位とした地域では多種多様な高齢者が生活しており、各々の特性に合わせた支援内容のプログラムと、それらを運用する基盤整備が必要となる。本研究の課題は適切な人材と活動拠点、効率性等の課題にも連なると考えられる。今後は、在宅高齢者の自立度レベル、世帯構成、家族介護者の状況の継続的観察や一部介入プログラムの実施の成果を踏まえてプログラムの標準化を図りたい。

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