文献情報
文献番号
199800172A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者虚血性心疾患における冠危険因子と心臓リハビリテーション法の有用性
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
代田 浩之(順天堂大学大学医学部循環器内科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年わが国では生活様式の欧米化と高齢化社会の到来によって、循環器疾患の患
者数が漸増し、厚生省患者調査によると年齢階級別傷病別入院受療率、外来受療率ともに
65歳以上は循環器疾患が第1位である。国民衛生の動向(厚生統計協会)によると心疾患は
40歳以上の男性、55歳以上の女性で第2位。80歳以上の男性75歳以上の女性の第1位の
死因である。虚血性心疾患患者の長期予後と生活の質は心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化性
疾患の再発によって制限されるため、欧米では再発を防ぐべく二次予防のプログラムが普
及している。壮年者において運動療法、食事療法が虚血性心疾患のリスクファクターを改
善し、長期予後を改善することがいくつかの臨床研究で明らかにされているが、特に高齢
者においては、治療すべきリスクファクターや治療の方法、治療の目標値などが明確でな
い。リスクファクターの改善によりもたらされる長期効果も明らかでない。リスクファク
ターの改善には食事療法と運動療法を中心とした生活様式の改善が基本であり、さらに薬
物療法が追加されるべきであるが、高齢者においても薬物の副作用を避けること、活動性
と生活の質の向上を図ること、さらにcost-effectiveness の面からも運動と食事療法が
まず強調されるべきである。本研究では高齢の虚血性心疾患患者において冠危険因子の特
徴を把握し、高齢者の特殊性を考慮した運動と食事指導のプログラム(phase III cardiac
rehabilitation) を外来ベースで開発し、その効果を評価して、高齢者の虚血性心疾患の
二次予防戦略を検討するものである。
者数が漸増し、厚生省患者調査によると年齢階級別傷病別入院受療率、外来受療率ともに
65歳以上は循環器疾患が第1位である。国民衛生の動向(厚生統計協会)によると心疾患は
40歳以上の男性、55歳以上の女性で第2位。80歳以上の男性75歳以上の女性の第1位の
死因である。虚血性心疾患患者の長期予後と生活の質は心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化性
疾患の再発によって制限されるため、欧米では再発を防ぐべく二次予防のプログラムが普
及している。壮年者において運動療法、食事療法が虚血性心疾患のリスクファクターを改
善し、長期予後を改善することがいくつかの臨床研究で明らかにされているが、特に高齢
者においては、治療すべきリスクファクターや治療の方法、治療の目標値などが明確でな
い。リスクファクターの改善によりもたらされる長期効果も明らかでない。リスクファク
ターの改善には食事療法と運動療法を中心とした生活様式の改善が基本であり、さらに薬
物療法が追加されるべきであるが、高齢者においても薬物の副作用を避けること、活動性
と生活の質の向上を図ること、さらにcost-effectiveness の面からも運動と食事療法が
まず強調されるべきである。本研究では高齢の虚血性心疾患患者において冠危険因子の特
徴を把握し、高齢者の特殊性を考慮した運動と食事指導のプログラム(phase III cardiac
rehabilitation) を外来ベースで開発し、その効果を評価して、高齢者の虚血性心疾患の
二次予防戦略を検討するものである。
研究方法
[対象]順天堂大学循環器内科に受診した虚血性心疾患患者で以下の項目を満た
すものを対象とした。1)年齢65歳以上の男性 2)冠動脈造影上有意狭窄病変を持つか、明
らかな心筋梗塞の既往がある。3)冠動脈疾患のイベントから少なくとも6ヶ月間が経過し
ている。4)独歩が可能で、定期的に循環器内科に通院が可能である。5)本研究にwritten
informed consent が得られる。[方法]前期、後期6ヶ月の2期クロスオーバー法。対象者
は封筒法により、前期介入群と後期介入群に無作為に割り付けた。前期介入群は食事療法
と監視下運動療法を中心とした心臓リハビリテーションプログラムに週1回参加し、少な
くとも週2回の自宅での運動を行った。後期介入群は通常の外来に通院した。前期を6ヶ
月間とし、この時点で前期介入群と後期介入群がクロスオーバーして、さらに6ヶ月間後
期の観察を行こととした。運動プログラム:外来通院中に監視下運動療法を中心とした
phaseIIIの心臓リハビリテーションプログラムに週1回参加し、少なくとも週2回の自宅
での運動を行った。(計24session とeducation)運動処方はプログラムに導入する時に行
われた心肺運動負荷検査に基づいてAerobic threshold (AT)レベルを設定し、専門のトレ
ーナーが処方した。院内で行われる各session は10分間のwarm-upと30~40分の運動、
及び10分間のcool-downから構成した。運動内容は歩行、軽いjogging、bycycling、軽
い筋力強化などである。食事指導:食事は3日間の食事記入表に基づいて、経験のある栄養
士が内容を定量評価し、American Heat Association (AHA) step II diet に沿って指導し
た。Counseling:各sessionの前後には看護婦、保健婦が個別に面接し、運動、食事の他、
禁煙やそのほかの生活指導を随時行った。[観察項目]運動能力:トレッドミルを用いた症候
限界性の運動負荷試験によって、最大酸素摂取量、嫌気性閾値、脚筋力及び柔軟性を評価
した。一般的な危険因子:高血圧、糖尿病、喫煙、総コレステロール、 Low-density
lipoprotein (LDL)コレステロール、中性脂肪、High-density lipoprotein (HDL)コレステ
ロール、Apoprotein A-I A-II B、 E、Lp(a)、75g-Glucose toleranceを測定した。低比
重リポ蛋白(LDL)の被酸化性:血漿約4mlより段階的超遠心法によてLDL分画を単離する。
このLDL(100μg)に対して銅イオン(100μM)により酸化を誘導し生成する共役ジエンを比
色計にてOD234で5分おきに400分まで測定しlag timeを計算し被酸化性の指標とする。
また、血漿及びLDL中の過酸化脂質をチオバルビタール試験(TBARS)により定量した。 LDL
の粒子サイズによる分類:血漿を用いて2~16%のポリアクリルアミド密度勾配電気泳動法
にてLDLの粒子サイズを決定し、小型粒子(small dence ) LDLと正常粒子LDLに分類した。
前腕動脈超音波検査:早朝空腹時に7.5MHzリニアプローブにて前腕動脈の血管径および血
流速度の測定を行う。コントロール測定後、マンシェットによるhyperemia後を血管内皮
依存性の血管拡張とし、ニトログリセリンの舌下投与後を内皮非依存性の血管拡張として
測定した。頚部超音波検査:超音波断層装置は7.5MHzリニアプローブを使用した.患者を
仰臥位として、左右の総頚動脈から内頸動脈起始部までの長軸像、短軸像を描出し、総頚
動脈の球部手前15mmおよびさらにその15mm近位、球部、内頸動脈近位10mmの4セグメン
トに分割し、近位壁、遠位壁の8ヵ所、左右合計16ヵ所のIMTの平均値、最大値を測定し
た。生活の質のスコア:東大国際交流室福原先生の協力により米国 New England Medical
Center のSF36によるアンケート調査を行った。またストレス、鬱症状、不安症状の評価
のためにSTAI (Spielberger, C.D.), SDS (W. Zung)の質問票を使用した。統計解析:2群
間の背景因子と各危険因子は連続変数である危険因子においてはt検定を用い、名義変数
である危険因子の場合はχ2検定により両群間を比較した。
すものを対象とした。1)年齢65歳以上の男性 2)冠動脈造影上有意狭窄病変を持つか、明
らかな心筋梗塞の既往がある。3)冠動脈疾患のイベントから少なくとも6ヶ月間が経過し
ている。4)独歩が可能で、定期的に循環器内科に通院が可能である。5)本研究にwritten
informed consent が得られる。[方法]前期、後期6ヶ月の2期クロスオーバー法。対象者
は封筒法により、前期介入群と後期介入群に無作為に割り付けた。前期介入群は食事療法
と監視下運動療法を中心とした心臓リハビリテーションプログラムに週1回参加し、少な
くとも週2回の自宅での運動を行った。後期介入群は通常の外来に通院した。前期を6ヶ
月間とし、この時点で前期介入群と後期介入群がクロスオーバーして、さらに6ヶ月間後
期の観察を行こととした。運動プログラム:外来通院中に監視下運動療法を中心とした
phaseIIIの心臓リハビリテーションプログラムに週1回参加し、少なくとも週2回の自宅
での運動を行った。(計24session とeducation)運動処方はプログラムに導入する時に行
われた心肺運動負荷検査に基づいてAerobic threshold (AT)レベルを設定し、専門のトレ
ーナーが処方した。院内で行われる各session は10分間のwarm-upと30~40分の運動、
及び10分間のcool-downから構成した。運動内容は歩行、軽いjogging、bycycling、軽
い筋力強化などである。食事指導:食事は3日間の食事記入表に基づいて、経験のある栄養
士が内容を定量評価し、American Heat Association (AHA) step II diet に沿って指導し
た。Counseling:各sessionの前後には看護婦、保健婦が個別に面接し、運動、食事の他、
禁煙やそのほかの生活指導を随時行った。[観察項目]運動能力:トレッドミルを用いた症候
限界性の運動負荷試験によって、最大酸素摂取量、嫌気性閾値、脚筋力及び柔軟性を評価
した。一般的な危険因子:高血圧、糖尿病、喫煙、総コレステロール、 Low-density
lipoprotein (LDL)コレステロール、中性脂肪、High-density lipoprotein (HDL)コレステ
ロール、Apoprotein A-I A-II B、 E、Lp(a)、75g-Glucose toleranceを測定した。低比
重リポ蛋白(LDL)の被酸化性:血漿約4mlより段階的超遠心法によてLDL分画を単離する。
このLDL(100μg)に対して銅イオン(100μM)により酸化を誘導し生成する共役ジエンを比
色計にてOD234で5分おきに400分まで測定しlag timeを計算し被酸化性の指標とする。
また、血漿及びLDL中の過酸化脂質をチオバルビタール試験(TBARS)により定量した。 LDL
の粒子サイズによる分類:血漿を用いて2~16%のポリアクリルアミド密度勾配電気泳動法
にてLDLの粒子サイズを決定し、小型粒子(small dence ) LDLと正常粒子LDLに分類した。
前腕動脈超音波検査:早朝空腹時に7.5MHzリニアプローブにて前腕動脈の血管径および血
流速度の測定を行う。コントロール測定後、マンシェットによるhyperemia後を血管内皮
依存性の血管拡張とし、ニトログリセリンの舌下投与後を内皮非依存性の血管拡張として
測定した。頚部超音波検査:超音波断層装置は7.5MHzリニアプローブを使用した.患者を
仰臥位として、左右の総頚動脈から内頸動脈起始部までの長軸像、短軸像を描出し、総頚
動脈の球部手前15mmおよびさらにその15mm近位、球部、内頸動脈近位10mmの4セグメン
トに分割し、近位壁、遠位壁の8ヵ所、左右合計16ヵ所のIMTの平均値、最大値を測定し
た。生活の質のスコア:東大国際交流室福原先生の協力により米国 New England Medical
Center のSF36によるアンケート調査を行った。またストレス、鬱症状、不安症状の評価
のためにSTAI (Spielberger, C.D.), SDS (W. Zung)の質問票を使用した。統計解析:2群
間の背景因子と各危険因子は連続変数である危険因子においてはt検定を用い、名義変数
である危険因子の場合はχ2検定により両群間を比較した。
結果と考察
(平成11年3月31日現在の進行状況)登録基準に合う16名の症例に研究への
参加を依頼し、15名から了承を得て、登録した。前期介入群9名、後期介入6名の臨床背
景、登録時冠危険因子、食事内容、運動耐容能の評価を以下に示す。臨床背景では年齢、
高血圧、糖尿病、喫煙歴の有無に差を認めなかった。病変枝数の分布には若干の差を認め
たが、まだ登録中で症例数が少ないためと考えられた。左室駆出率、PTCAあるいはCABG
の既往に差は認めなかった。血清脂質を両群間で比較すると、中性脂肪が後期介入群で219
±1群01 mg/dlと前期介入群108±31mg/dlより有意に高値であったが、 Body mass index、%
Fat 、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールに有意差は認めなかっ
た。LDLコレステロールは平均で113-123 mg/dlと動脈硬化学会のガイドラインには及ば
ないが、比較的低値であった。前期介入群と後期介入群に摂取カロリー、脂肪、コレステ
ロール、蛋白、糖分、塩分およびP/S比など食事内容に差を認めなかった。全体では国民
栄養調査1998年の70歳以上の結果とほぼ同様であり、American Heart Association の
step I dietに近い内容であった。心肺運動負荷試験によって評価した運動能力は、 Peak
VO2、 Peak VO2/ kg、 Peak Heart Rate、およびATでの各指標も両群間で差を認めなかっ
た。全体のPeak VO2/ kgは同年齢層の健常対照に比べると、正常下限からやや低下してい
ることが示された。
参加を依頼し、15名から了承を得て、登録した。前期介入群9名、後期介入6名の臨床背
景、登録時冠危険因子、食事内容、運動耐容能の評価を以下に示す。臨床背景では年齢、
高血圧、糖尿病、喫煙歴の有無に差を認めなかった。病変枝数の分布には若干の差を認め
たが、まだ登録中で症例数が少ないためと考えられた。左室駆出率、PTCAあるいはCABG
の既往に差は認めなかった。血清脂質を両群間で比較すると、中性脂肪が後期介入群で219
±1群01 mg/dlと前期介入群108±31mg/dlより有意に高値であったが、 Body mass index、%
Fat 、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールに有意差は認めなかっ
た。LDLコレステロールは平均で113-123 mg/dlと動脈硬化学会のガイドラインには及ば
ないが、比較的低値であった。前期介入群と後期介入群に摂取カロリー、脂肪、コレステ
ロール、蛋白、糖分、塩分およびP/S比など食事内容に差を認めなかった。全体では国民
栄養調査1998年の70歳以上の結果とほぼ同様であり、American Heart Association の
step I dietに近い内容であった。心肺運動負荷試験によって評価した運動能力は、 Peak
VO2、 Peak VO2/ kg、 Peak Heart Rate、およびATでの各指標も両群間で差を認めなかっ
た。全体のPeak VO2/ kgは同年齢層の健常対照に比べると、正常下限からやや低下してい
ることが示された。
結論
今回対象とした平均70歳の男性の冠動脈疾患患者は、血清脂質レベルではLDLコレ
ステロール113-123 mg/dlと動脈硬化学会のガイドラインには及ばず運動耐容能がやや低
いことを特徴としていた。また前期介入群と後期介入群は無作為割り付けによって群間差
なく割り付けられており、今後、目標症例数まで登録を継続し、この集団における冠危険
因子の特徴を明らかにすると共に、phase III心臓リハビリテーションの効果を明らかに
して行く予定である。
ステロール113-123 mg/dlと動脈硬化学会のガイドラインには及ばず運動耐容能がやや低
いことを特徴としていた。また前期介入群と後期介入群は無作為割り付けによって群間差
なく割り付けられており、今後、目標症例数まで登録を継続し、この集団における冠危険
因子の特徴を明らかにすると共に、phase III心臓リハビリテーションの効果を明らかに
して行く予定である。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-