肝疾患病態指標血清マーカーの開発と迅速、簡便かつ安価な測定法の実用化

文献情報

文献番号
201240007A
報告書区分
総括
研究課題名
肝疾患病態指標血清マーカーの開発と迅速、簡便かつ安価な測定法の実用化
課題番号
H23-実用化(肝炎)-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
成松 久(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 溝上 雅史(独立行政法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 田中 靖人(公立大学法人名古屋市立大学大学院 医学研究科)
  • 伊藤 浩美(公立大学法人福島県立医科大学 生化学講座)
  • 伊藤 清顕(学校法人愛知医科大学 医学部 内科学講座)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
  • 坂元 亨宇(慶應義塾大学 医学部 病理学教室)
  • 武冨 紹信(北海道大学大学院 医学研究科 外科学講座)
  • 梶 裕之(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
  • 久野 敦(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
  • 栂谷内 晶(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
  • 佐藤 隆(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
  • 髭 修平(JA北海道厚生連札幌厚生病院 第三消化器科)
  • 上野 義之(国立大学法人山形大学 医学部 内科学第二講座 消化器内科学)
  • 泉 並木(日本赤十字社武蔵野赤十字病院 消化器科)
  • 松本 晶博(国立大学法人信州大学医学部附属病院 消化器内科・肝臓病学)
  • 市田 隆文(順天堂大學醫學部附属静岡病院 消化器内科)
  • 熊田 卓(大垣市民病院 消化器内科)
  • 日野 啓輔(川崎医科大学 肝胆膵内科学)
  • 阿部 雅則(愛媛大学大学院 医学系研究科 地域医療学講座)
  • 調 憲(国立大学法人九州大学大学院 医学研究院 消化器 総合外科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
43,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型慢性肝炎患者の多くは、肝線維化が進展し、肝硬変を経て、やがて肝がんを発症する。この慢性肝炎の治療には抗ウイルス療法が適用されるが、その効果判定や肝硬変、肝がんハイリスク群の囲い込みには肝線維化の程度を知ることが重要である。しかしその判定は高侵襲性の生検によるため、臨床上の隘路となっている。また、現行の肝がんマーカーでは、早期発見は難しい。我々はこれまでに肝臓由来血清糖タンパク質の糖鎖構造が、肝疾患の進展に伴って変化することに着目し、肝線維化および肝がんマーカーの候補糖タンパク質を多数見いだした。そこで本研究では、肝線維化マーカーWFA+-M2BPについては血清を用いた測定法を確立し、多施設・多検体での有効性検証を行って実用化を図る一方、並行して新たな肝疾患病態指標マーカーの探索とその正当性検証を目的とする。
研究方法
1) 新規肝疾患病態指標マーカー開発:線維化ステージや肝がんの有無など臨床情報の規定された患者血清を試料とし、抗体と疾患糖鎖プローブレクチンを用いたサンドイッチELISAによりH1-12を定量し、小規模な有効性検証を行った。この分子およびプローブレクチンの標的糖鎖の各局在は肝硬変患者肝組織切片の染色により検証した。また、新規肝がんマーカー候補は、AFP非産生肝がん細胞の培養上清より新規プローブレクチンを用いて捕集し、質量分析法で同定、リストアップした。AFP産生株試料との比較、およびバイオインフォマティクスによって有望な候補を選択し、培地や少数の患者血清を用いて、正当性検証を開始した。
2) 多施設多検体検証:参画臨床機関・大学より提案され、研究代表者および臨床機関統括者により承認された研究課題を対象に、肝線維化マーカーWFA+-M2BPの測定を行った。測定は昨年度までに構築した迅速測定法(Fastlec-Hepa)を用いた。サンプルは各施設より臨床機関統括者へ集約され、連結可能二重匿名化後、測定機関へ移送された。測定値はカットオフインデックス値に換算され、速やかに提案者へ報告された。提案者は測定値をもとに、各課題における検証作業を行った。
結果と考察
1) 新規肝疾患病態指標マーカー開発:正当性検証の行われた候補分子H1-12については、肝疾患(肝硬変および肝がん)患者組織切片を、H1-12の抗体およびプローブレクチンを用いて染色した。その結果、H1-12と、プローブレクチンによる染色領域は、少なくとも結節周辺部にてほぼ重なり、H1-12と疾患関連糖鎖エピトープは共局在することが判明した。また各種患者血清を用いた正当性検証の結果、この分子は、肝がんの早期発見マーカーというよりは、肝硬変の予後の推測に利用できる可能性が示唆された。これは染色から推測されることと一致する。今後は、より有効性の期待される試料セットを用いて、その正当性、有効性を検証する必要がある。一方、新規マーカーの探索では、6種の肝細胞がん培養液より、レクチンーIGOT-LC/MS法で約1,000種のプローブレクチン反応性の糖タンパク質が同定され、AFP非産生株群からのみ検出された糖タンパク質は約150種であった。これらの糖タンパク質プロファイルの比較情報と、肝臓での発現傾向、肝がんがん部での発現傾向など、各種の情報を利用したバイオインフォマティクスの手法により、期待される候補タンパク質を絞り込んだ。またプローブ結合性の糖タンパク質の検出、同定からは7種のメジャータンパク質バンドが同定され、そのうちの一種については、肝硬変の段階から高値を示す傾向が見出された。AFP産生との関連性などについて、今後検証が必要であろう。
2) 多施設多検体検証
各機関より15の課題が提案され、HBV, HCV感染ないし非感染の慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん患者および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を対象として、累計4095サンプルの測定が行われた。各課題のデータ解析の結果、線維化ステージF3以上で今回検証した他の非侵襲型線維化評価技術(LSM, ARFI)およびインデックス(APRI, FIB-4, )と遜色ない、もしくは凌駕する肝線維化との相関が得られた。また、インターフェロン治療後経過観察例などの測定結果から、肝発がんリスクを有する症例の囲い込みへの有効性を見出した。
結論
新規線維化マーカーWFA+-M2BPの臨床的有用性が見出された。保険収載へ向けた肝線維化検査のガイドラインの提案が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201240007Z