癌幹細胞を制御する転写因子を標的とした難治性乳癌治療法の開発

文献情報

文献番号
201239014A
報告書区分
総括
研究課題名
癌幹細胞を制御する転写因子を標的とした難治性乳癌治療法の開発
課題番号
H24-実用化(がん)-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 博昭(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長村 文孝(東京大学 医科学研究所)
  • 片岡 一則(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 西山 伸宏(東京工業大学 資源化学研究所)
  • 谷 憲三朗(九州大学 生体防御医学研究所)
  • 平田 公一(札幌医科大学 外科学第一講座)
  • 前佛 均(札幌医科大学 外科学第一講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(がん関係研究分野)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
97,112,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は乳癌の臨床検体の約2/3の症例で発現亢進するPR domain containing 14 (PRDM14)が、乳癌の増殖や抗癌剤耐性に関与することを証明した。PRDM14が癌部特異的に発現亢進しており、PRDM14が乳癌の幹細胞性を制御するという知見を得ており、独創性かつ優位性の高い分子標的である。また、本遺伝子の癌診断、治療応用に関して特許を有している。これら基礎・臨床研究の成果、特許を活用し、患者数が増加し解決が急務である「乳癌」を対象に、本遺伝子を標的とした治療を確立させる。
PRDM14は核内抗原であるため、核酸医薬による治療法を確立する。そのため、核酸医薬の問題点を克服したキメラ型RNAiを用い、さらに、核酸医薬のドラッグデリバリーシステム(DDS)については、高い実績を誇る共同研究先と選定したナノキャリアーを評価する。以上により、臨床試験への移行が可能な核酸医薬の確立が確実視できる。製薬企業へのライセンスアウトを目指し、PMDAと十分な相談を行いGLPに準じた非臨床試験を行う。最終的に、臨床研究に関する倫理指針に基づく多施設における臨床試験計画へ移行させ、我が国発のオリジナルな標的分子に対する治験へと歩みを進める。
研究方法
本年度は、PRDM14を標的とした核酸医薬のPOC取得と臨床検体を用いたTRを進めた。具体的な実験方法は、
A)PRDM14分子の核酸医薬のPOC取得
1.培養細胞を使用したcDNA microarray, qRT-PCR arrayによる網羅的遺伝子発現解析、次世代型シークエンサーによるChIP-seq、さらに、高性能FCMによる表面抗原解析、液性因子解析を行い、癌幹細胞形質とPRDM14の関連性を探求。
2.上記1で得られた結果を基盤に、臨床検体数を増やしPOC取得を継続、対象患者の選定・治療効果に関する血清サロゲートマーカーを同定、副作用予測マーカーを解析。
3.多角的なin vitro実験を介してPRDM14のキメラ型RNAiの最適配列を見出し、in vivoモデルによりPOCを取得。
4.共同研究先と協議して選定した核酸医薬用ナノキャリアーをin vivoモデルを用いて選定開始。
B)PRDM14分子に関する臨床検体でのPOC取得
1.臨床検体を用いた解析に関して医科研倫理審査の通過。
2.症例数確保を目的に札幌医大・腫瘍組織バンクからの組織入手、及び研究・倫理審査の通過。
3.既得試料を用いたPRDM14発現と乳癌組織の網羅的遺伝子発現プロファイルとの関連性の評価。
4.臨床検体数を増やしPOC取得を継続、対象患者の選定・治療効果に関する血清サロゲートマーカー、副作用予測マーカーを網羅的に解析。
結果と考察
【結果】
申請時の計画に沿って研究を推進し、以下の成果を得た。
1.乳癌幹細胞形質とPRDM14分子の密接な関連性を解明。
2.臨床検体によるPRDM14分子のプロファイリング。
3.本遺伝子のキメラ型RNAiを用い、in vitro/in vivoモデルによる効果判定を経て、有力な配列を同定。
4.数種の有力なナノキャリアー候補をキメラ型RNAiと評価する系を樹立し評価を開始。
5.本プロジェクトの核酸医薬が、化療剤効果の増強、さらに、遠隔転移に関与する乳癌細胞の撲滅に繋がる根拠を得た(追加特許申請)。
また、PMDAへの事前面談、GLP施設との相談を完了しており、申請時の計画を達成している状況にある。
【考察】
PRDM14分子の発現抑制を可能とする核酸医薬により、単剤治療での抗腫瘍活性、化療剤効果の増強、さらに、経年後再発、遠隔転移に関与する乳癌幹細胞の撲滅に繋がる可能性が示唆された。
また、核酸医薬の問題点として、1.核酸の配列特異性・安定性、2.核酸医薬に最適化されたDDS、が知られる。1は標的分子に限定した発現抑制が治療効果、副作用の回避の上で重要であり、また、一般的なsiRNAは半減期が極めて短く頻回投与が必要となり、患者のQOLが低下する。2に関しては、癌の転移巣を含めて治療を行う上で不可欠であり、さらに、核酸の血液中での安定性の保持、また、EPL効果による腫瘍細胞への特異的な集積を可能とする上で不可欠である。1はキメラ型RNAiを使用することで克服し、2に関しては片岡教授・西山教授の御尽力により、最適なミセル型DDSの選定に至りつつある。
結論
乳癌治療において最大の課題は、再発・遠隔転移である。PRDM14分子の治療応用によりこれらの事象を抑制することが可能である。その発現の抑制を可能とする核酸医薬は、単剤使用、及び術前・術後の化学療法薬との併用で、既存抗癌剤の効果の増強、さらには、経年後の再発、遠隔転移に関与する乳癌幹細胞の撲滅に繋がり医療現場における必要度は高い。

公開日・更新日

公開日
2016-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201239014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
126,245,000円
(2)補助金確定額
126,245,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 77,714,555円
人件費・謝金 3,791,052円
旅費 1,176,341円
その他 14,430,052円
間接経費 29,133,000円
合計 126,245,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
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