全ゲノムエクソン配列解析法による先天性内分泌疾患の分子基盤の解明

文献情報

文献番号
201238014A
報告書区分
総括
研究課題名
全ゲノムエクソン配列解析法による先天性内分泌疾患の分子基盤の解明
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 奉延(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 石井 智弘(慶應義塾大学 医学部 )
  • 鳴海 覚志(慶應義塾大学 医学部 )
  • 古川 徹(東京女子医科大学 統合医科学研究所)
  • 安達 昌功(神奈川県立こども医療センター)
  • 長谷川 行洋(東京都立小児総合医療センター)
  • 荒木 俊介(産業医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
76,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、全ゲノムエクソン配列解析法(エクソーム解析)を用いて先天性内分泌疾患の新規責任遺伝子を同定し、その分子病態を解明することである。本研究は1. 解析対象設定 2.エクソーム解析 3. 検証実験 の3段階よりなるが、平成24年度は第2段階までの完了を主目的とした。
研究方法
先天性下垂体機能低下症、先天性甲状腺機能低下症、先天性カルシウム代謝異常、性分化疾患、先天性副腎機能低下症の5疾患につき、各疾患7~20名の対象患者のエクソーム解析を行った。
先天性副腎機能低下症の新規責任遺伝子候補である「A遺伝子」に関して、検証コホートでの解析、およびその分子特性の解析を行った。
結果と考察
・結果
(1)先天性下垂体機能低下症
患者15名(うちトリオ解析8名)から、常染色体優性モデルの候補遺伝子69種(de novo変異の遺伝子48種、3症例以上で変異が共有される遺伝子21種)、常染色体劣性モデルの候補遺伝子34種、X連鎖モデルの候補遺伝子7種を同定した。

(2)先天性甲状腺機能低下症
患者20名(うちトリオ解析6名)から、常染色体優性モデルの候補遺伝子13種(de novo変異の遺伝子10種、3症例以上で変異が共有される遺伝子3種)、常染色体劣性モデルの候補遺伝子33種、X連鎖モデルでの候補遺伝子3種を同定した。

(3)先天性カルシウム代謝異常
患者7名(うちトリオ解析7名)から、常染色体優性モデルの候補遺伝子30種(de novo変異の遺伝子29種、3症例以上で変異が共有される遺伝子1種)、常染色体劣性モデルの候補遺伝子4種、X連鎖モデルの候補遺伝子2種を同定した。

(4)性分化疾患
患者7名(うちトリオ解析3名)から、常染色体優性モデルの候補遺伝子18種(de novo変異の遺伝子13種、3症例以上で変異が共有される遺伝子5種)、常染色体劣性モデルの候補遺伝子5種、X連鎖モデルでの候補遺伝子1種を同定した。

(5)先天性副腎機能低下症
患者9名(うちトリオ解析4名)のうち1例は、研究途中で2012年に責任遺伝子であることが報告されたCDKN1C変異であることが判明したため、以下の解析から除外した。
常染色体優性モデルの候補遺伝子を1種同定した(A遺伝子)。この遺伝子の変異は患者4名で共有されており、トリオ解析を行った1名ではde novo変異であった。常染色体劣性モデルの候補遺伝子は2種、X連鎖モデルでの候補遺伝子は0種であった。
A遺伝子は新規責任遺伝子として有望と考え、さらに検討を進めた。エクソーム解析対象とは独立の検証コホート20名で遺伝子解析を行い、新たに3名の変異陽性患者を同定し、総計変異陽性患者は6家系7名となった。変異はいずれもヘテロ接合性であり、両親では不在であった。大半は発端者でde novoに生じた変異と考えられたが、例外的に1同胞罹患例では、両親のいずれかが性腺モザイク変異を持つと推測した。
A遺伝子の分子特性を解析した。健常ヒト組織RNAを用いたリアルタイムPCR解析では、A遺伝子は副腎、脾臓、卵巣、胸腺に高発現していた。また、A遺伝子産物を強制発現するプラスミドベクター(RFPタグつき)を作製し、共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、A遺伝子産物は細胞内で顆粒状に存在し、先行研究で相互作用が示唆されるBたんぱく質と共局在した。

・考察
既知責任遺伝子に変異を認めない先天性内分泌疾患5種に対し、トリオ解析を含むエクソーム解析を行い、計199種の候補遺伝子の同定に成功した。先天性副腎機能低下症患者の解析を通じてみいだされた遺伝子Aは、複数の同一表現型の症例で変異が同定されており、いずれもがde novo変異あるいは性腺モザイク変異によるヘテロ接合性変異であった。少なくとも臨床遺伝学的な見地からは先天性副腎機能低下症の新規責任遺伝子である可能性が極めて高いと考える。
一方、責任遺伝子であることを確定するには、A遺伝子の機能を明らかにし、変異によりこの機能が障害されることを示す必要がある。予備実験のデータにより、過去に相互作用が報告されているBたんぱく質との細胞内共発現を確認した。Bたんぱく質の機能への影響も含めて今後検討を進める予定である。
結論
先天性内分泌疾患患者検体を用いたエクソーム解析により、多数の新規責任遺伝子候補を同定した。先天性副腎機能低下症患者コホートを用いた検証解析の結果、エクソーム解析を通じてみいだされたA遺伝子の変異が複数患者で同定され、A遺伝子が真の責任遺伝子である可能性は極めて高いと考えた。
次年度は、1. 先天性副腎機能低下症以外の疾患の責任遺伝子の絞り込み 2. 先天性副腎機能低下症発症におけるA遺伝子変異の役割・分子機序の解明 を進める予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201238014Z