文献情報
文献番号
201237033A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災にみる災害時居住環境を汚染する真菌のアレルギーリスク評価及び予防衛生管理に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-健危-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
真菌は通常、室内空気環境中の常在菌として存在する。大災害時、被災者は、温湿度がコントロール不能、掃除不行届き等の劣悪な住環境に長期間おかれることが多い。このような室内空気環境中では真菌数が増加する一方で、真菌叢も通常時と比較して大きく変動し、真菌叢はある特定の菌種に占められることが多い。これら高検出真菌はヒトへの暴露量が多く、特に危害性を検証する必要がある。住環境の真菌汚染がもたらすヒトへの健康被害の中でも、アレルギーは、あらゆる年齢層が罹患し、患者数も非常に多い疾患群である。アレルギーリスクに特に着目して住環境を評価する意義は大きい。そこで本研究では、被災地住環境における真菌性アレルゲン汚染の現状把握を行う目的で、応急仮設住宅室内の真菌数調査を行った。
研究方法
宮城県石巻市内のプレハブ製の応急仮設住宅の寝室・リビング・台所を対象として空中浮遊真菌の調査を行った。地理的条件の異なる仮設団地として2つの団地を選択して重点的にサンプリングを行った。2012年7月に7世帯、8月に12世帯、10月に14世帯、2013年3月に19世帯、以上延べ52世帯から、エアサンプラーを用いて真菌を採取した。これを適当な条件で培養後、生じたコロニー数を計測し、空気1m3当りの総真菌数値を算出した。また、室内浮遊真菌数を屋外浮遊真菌数で除したI/O比を算出した。また、サンプリング時での気温および相対湿度を計測した。
結果と考察
今回調査を行った応急仮設団地では、年間を通じて真菌数が1,000 CFU/m3を大きく超える値を記録し、一般家屋と比較して真菌数は非常に高い傾向にあった。重点的にサンプリングを行った2団地のデータを用い、部屋を区別せず集計した真菌数平均値を団地間で比較したところ、片方の団地においては検出菌数が特に3月では高い傾向にあった。また、これら2団地間で世帯毎のI/O比を部屋を区別せずに集計し比較したところ、10月および3月では、上述の真菌数の高い団地のほうが、I/O比が室内で真菌発育が進行している目安となる1以上となった世帯数が多い傾向にあった。さらに、3月では特に城内団地での値のばらつきが大きいことが示された。以上のことから、室内の真菌汚染程度は団地間で差があること、冬季では一部の世帯で特に高度な真菌汚染が進行していることが示唆された。加えて、これらの2団地における室内の相対湿度を比較したところ、室内の真菌汚染程度が高かった団地の3月における湿度は残る団地よりも有意に高く(p>0.05)、当団地の室内は、年間を通じて、他の団地よりも高い水準の湿度が維持されていたことが明らかとなった。よって、当団地での3月の高い真菌数は、直接的には冬季の室内の高湿度が影響して発生したものである可能性が高い。
また、年間を通じての経時的なサンプリングが可能であった6世帯間で菌数増減の傾向を比較したところ、全ての世帯において年間を通じて一般家屋よりも菌数は高いこと、中でも7月に高く、3月に低いという共通した傾向が見られた。新潟県中越沖地震の応急仮設住宅では、冬季の結露水を原因とした著しい真菌発育が問題視されていた。空気中の浮遊真菌数についての報告は無いが、菌数は高かったと推測される。本研究の調査においても、他の時期と比較して冬季の高い真菌汚染程度が予想されたが、それとは異なる結果であった。
本研究によって得られた応急仮設住宅室内の真菌汚染状況および団地間または世帯間の汚染程度の差は、建築条件や住人のライフスタイルなど、多様な条件の違いによってもたらされたものと考えられた。本研究で得られたデータのみでは、団地間での真菌数の差が生じた要因を特定することはできない。しかしながら、現時点での応急仮設住宅における真菌汚染改善のため、さらには今後発生する震災時において建築される応急仮設住宅での真菌汚染予防策を講じるため、今後、さらなるデータ収集と解析を進め、団地間および世帯間の差の原因を追究する必要があると考えられた。また、本研究によって明らかとなった室内汚染真菌の量と菌種がもたらすヒトへの健康危害性について、今後研究を行っていくことによって、応急仮設住宅の居住者における真菌汚染がもたらすリスクを評価する必要がある。
また、年間を通じての経時的なサンプリングが可能であった6世帯間で菌数増減の傾向を比較したところ、全ての世帯において年間を通じて一般家屋よりも菌数は高いこと、中でも7月に高く、3月に低いという共通した傾向が見られた。新潟県中越沖地震の応急仮設住宅では、冬季の結露水を原因とした著しい真菌発育が問題視されていた。空気中の浮遊真菌数についての報告は無いが、菌数は高かったと推測される。本研究の調査においても、他の時期と比較して冬季の高い真菌汚染程度が予想されたが、それとは異なる結果であった。
本研究によって得られた応急仮設住宅室内の真菌汚染状況および団地間または世帯間の汚染程度の差は、建築条件や住人のライフスタイルなど、多様な条件の違いによってもたらされたものと考えられた。本研究で得られたデータのみでは、団地間での真菌数の差が生じた要因を特定することはできない。しかしながら、現時点での応急仮設住宅における真菌汚染改善のため、さらには今後発生する震災時において建築される応急仮設住宅での真菌汚染予防策を講じるため、今後、さらなるデータ収集と解析を進め、団地間および世帯間の差の原因を追究する必要があると考えられた。また、本研究によって明らかとなった室内汚染真菌の量と菌種がもたらすヒトへの健康危害性について、今後研究を行っていくことによって、応急仮設住宅の居住者における真菌汚染がもたらすリスクを評価する必要がある。
結論
プレハブ製応急仮設住宅の真菌調査を行い、一般住宅と比較して室内空気の真菌数が非常に高い傾向にあることを示した。また、真菌数は団地間または世帯間でも差があることが示された。これらの傾向は、建築条件や住人のライフスタイルなど、何の要因によるものなのかを今後明らかにする、さらに、室内汚染真菌の量と菌種がもたらすヒトへの健康危害性とこれがもたらすリスクを評価する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2013-07-25
更新日
-