東日本大震災および東京電力福島第一原発事故対応を踏まえた健康危機管理体制の整備・強化に関する研究

文献情報

文献番号
201237029A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災および東京電力福島第一原発事故対応を踏まえた健康危機管理体制の整備・強化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-健危-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
妻鳥 元太郎(防衛医科大学校 防衛医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 徳野 慎一(防衛医科大学校 防衛医学講座 )
  • 石原 雅之(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 医療工学研究部門)
  • 齋藤 大蔵(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 外傷研究部門)
  • 藤田 真敬(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門)
  • 木下 学(防衛医科大学校 免疫微生物学講座)
  • 金谷 泰宏(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
  • 山口 一郎(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 森村 尚登(横浜市立大学 大学院医学研究科 救急医学)
  • 近藤 久禎(独立行政法人国立病院機構 災害医療センター  救急災害医学公衆衛生)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,295,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 これまで、我が国はCBRNEテロあるいは事故に対して様々な健康危機管理体制の整備を行ってきた。2011.03.11の東北地方太平洋沖地震に端を発する一連の福島第1原子力発電所事故事案は、事故に対処するなかで、奇しくもこれまで想定されていなかった様々な事態が発生し多くの教訓を残した。本研究ではこうした様々な問題点や教訓を収集・分析し、現在の危機管理体制と照らし合わせ、今後の体制の整備・強化への道を探ることを目的とした。
研究方法
 東日本大震災および福島原発事故の実際に対応にあたった多くの機関から専門家の方々に協力を要請し、個別の対応事例の検討と問題点の抽出を行った。研究者の経験および専門分野を考慮して複数のグループに分かれて、検討を行った、班会議を通じて、これらの個別の問題点・教訓事項を共有し、今後のCBRNE対策への教訓という観点から以下の5項目に整理した。

1.被災者や事態収拾のためのレスポンダーに対する健康被害への対応
2.被ばく予防あるいは晩発性被ばく障害予防
3.避難区域・屋内退避区域・計画的区域の設定あるいはこれら区域からの避難、特に病院の避難に関する検討
4.政府・電力事業者・県対策本部・その他各機関の情報共有や連携
5.地域の除染や水・食品の汚染など事態収拾に向けた国民の健康被害に対する対策

(倫理面への配慮)
本研究の一部は防衛医科大学校倫理委員会の承認を受けて実施した。陸上自衛隊の災害派遣隊員に対し、研究に関して口頭および書面にて説明を行い、書面にて同意が得られた者を対象とした。その際、研究不参加による不利益がないことも説明した。
結果と考察
1)被災者や事態収拾のためのレスポンダーに対する健康被害への対応
多くのNBC災害の対処計画等においてレスポンダーの健康被害への対応についての記載がなく、また、あってもエビデンスが乏しいため、現場で試行錯誤を繰り返しながら調整の上対処法を決定する場面が多く見受けられた。今後は基礎研究を含めた検討が必要であると考えられた。

2)被ばく予防あるいは晩発性被ばく障害予防
正確な放射性物質の飛散状況を把握できなかったことが、避難区域の設定、安定ヨウ素剤の内服、災害時要支援者の搬送にあたる職員の装備等に大きく影響していると考えられた。特に低線量被曝では染色体損傷の程度についての医学的なエビデンスが不足している。原爆被爆者の被爆状況調査やチェルノブイリ原発事故後の周辺住民の健康調査は対象者の被曝線量の計測が不正確で、殆どの場合が推定値を用いており、被曝線量と健康被害の程度の正確な実態は全くつかめていない。

3)避難区域・屋内退避区域・計画的区域の設定あるいはこれら区域からの避難、特に病院の避難に関する検討
公衆衛生行政の視点からの課題、すなわち、被災範囲が県境を越え複数の自治体が関与する場合、数十万人規模にも及ぶ被災者への適切な情報伝達、さらには長期に避難が及ぶ場合の健康管理のあり方等についての検討が必要と考えられた。多数、傷病者の搬送については現在の救急車両による域内搬送と航空機を用いた広域搬送の枠組みだけでは困難であり、他の搬送手段(バス・鉄道・船舶)を用いた避難についても検討するとともに、DMATと自衛隊車両の連携強化による搬送についても検討が必要である。

4)政府・電力事業者・県対策本部・その他各機関の情報共有や連携
今般の震災のような大災害に対して、自衛隊を大規模に投入する場合はその支援体制を構築するのに時間を要し、災害の超急性期にはもっとも情報が集まったとされる自衛隊でも情報の共有が困難であった。今後、各機関の情報共有・伝達のためのシステムの構築・強化の必要性が示唆された。

5)地域の除染や水・食品の汚染など事態収拾に向けた国民の健康被害に対する対策
緊急時の食品放射能測定マニュアル、緊急時の食品の暫定規制値の指針が役立ち、地衛研での日頃の測定経験や関係者のネットワークも有効に機能したと考えられた。その一方で、事故のスケールが想定を超えたことが対応を困難にしていた。
結論
 東日本大震災および東京電力福島第一原発事故対応を踏まえて、今後の健康危機管理体制の整備・強化、特にNBC災害への対応として、以下のことが必要である。
① レスポンダーの健康被害に対して充実を図る。
② 被害範囲の迅速な把握のためのシステムを構築する。
③ 災害時とくに超急性期に情報の共有・伝達が可能なシステムを構築する。
④ 基礎研究・臨床研究を強化しエビデンスおよび妥当性に基づいた治療・対応計画を作成する。
⑤ 計画作成においては所掌にこだわることなく各省庁横断的な対応が可能なものとし、対応においてはあらゆるリソースを検討し各機関の連携をより一層深める。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201237029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今後の健康危機管理体制の整備・強化、特にNBC災害への対応への提言
① レスポンダーの健康被害に対して充実を図る。
② 被害範囲の迅速な把握のためのシステムを構築する。
③ 災害時とくに超急性期に情報の共有・伝達が可能なシステムを構築する。
④ 基礎研究・臨床研究を強化しエビデンスおよび妥当性に基づいた治療・対応計画を作成する。
⑤ 計画作成においては所掌にこだわることなく各省庁横断的な対応が可能なものとし、対応においてはあらゆるリソースを検討し各機関の連携をより一層深める.
臨床的観点からの成果
被災者・レスポンダーそれぞれの健康被害について、エビデンスおよび妥当性に基づいた治療・対応計画が必要であることを提言した。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
朝雲新聞 平成24年4月5日 「防衛医大准教授 CBRNE対処紹介パンフ作成」として研究分担者である藤田先生の成果の一部が報道された。
メディカルトリビューン, 2012.4.19(VOL.45 NO.16)「サイトカインの変動パターンでストレスを検知」として研究分担者である徳野先生の成果の一部が報道された。

発表件数

原著論文(和文)
18件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201237029Z