高齢者の変形性関節症の成因および病態に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800167A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の変形性関節症の成因および病態に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 久(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石黒直樹(名古屋大学)
  • 原田敦(国立療養所中部病院)
  • 渡辺研(国立長寿医療研究センター)
  • 山田芳司(国立長寿医療研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
岩田は関節液中の各種物質測定と臨床所見との対比により関節破壊の機序を理解する事、臨床的に用いうる関節症マーカー(関節破壊指標物質)の開発を目的とした。石黒は細胞外基質の細胞代謝への影響による関節症発症・進展の機序を明らかにすることを目的とした。原田は椎間板変性と骨量のみでなく、筋肉・脂肪など軟部組織量との比較から、変形性脊椎症の進行要因を明らかとすることを目的とした。山田は骨芽細胞やストローマ細胞におけるOCIFとTGF-β1の相互作用について検討、関節液中の濃度を測定することによりin vitroでの現象と関節症における意義を明らかにすることを目的とした。渡辺は関節症におけるTGF-β作用を細胞内シグナル伝達レベルで検索することにより、その作用を関節構成細胞ごとに細分化すること、新しい治療法への手がかりとして、HA合成酵素の細胞選択性の低いアデノウィルスによる発現系を構築することを目的とした。
研究方法
岩田は変形性膝関節症患者の関節液を得た者の膝関節レ線写真(55例)およびMRI(34例)を調査対象とした。関節液中のMMP-1,-3及びTIMP-1、-2、コンドロイチン4硫酸、6硫酸、HA、ケラタン硫酸、Type II collagen C-propeptideおよびコンドロイチン硫酸846epitopeを測定した。レ線およびMRIはMinkらの方法を参考に軽度・中等度・重度の3段階に分類し各種関節液中物質と比較検討した。石黒はヒト軟骨組織由来細胞株HCS2/8とRA患者の滑膜細胞を用い、各種分子量のHAを20時間作用させた後、TNFα刺激を1O時間作用させ培養液を回収し、lL一8を測定した。またTNFα刺激を1時間作用させ細胞を回収し、NFκ-Bの活性化を観察した。原田は閉経後女性で腰痛等の診断にMRIを必要とする症例221名(46~90歳、平均68.9歳)を対象とした。椎間板変性の評価は、MRIによる平均椎間板突出面積を計算した。全身骨骨密度(BMD)とBody Compositionから脂肪量、Lean Mass、Bone Mineral Content (BMC) も評価しこれらと椎間板変性度との関係を検討した。山田はストローマ細胞株ST2、PA6および骨芽細胞株MC3T3-E1の培養系を用いてTGF-β1を作用させ、OCIFの活性、タンパク量、mRNA発現量、mRNA安定性を検討した。マウス骨髄細胞培養系にて、 TGF-β1およびOCIFの破骨細胞に対する作用について検討した。また変形性膝関節症130例およびRA30例の滑液ならびに健常者および骨粗鬆症242例から得られた血清OCIF濃度を測定した。渡辺はマウス軟骨細胞株ATDC5ならびにヒト胎児由来二倍体線維芽細胞株IMR90, MJ90を低血清濃度条件において、TGF-β処理もしくはBMP処理し、三種類のHA合成酵素遺伝子(Has1, Has2, Has3) の発現変化をノーザン分析した。同時にHA合成酵素遺伝子ベクターの構築に非増殖性アデノウィルスベクターを用い、ウイルスDNAは、大腸菌内で増幅し、平滑末端化したヒトHA合成酵素(Has2) cDNAを組み込んだ。ウイルス化は、293細胞において遺伝子相同組換えにより行った。HA合成量はHAプレートにより測定を行った。
結果と考察
研究関節液中のMMP-1,3 TIMP-1に相関が見られた。PGの合成は関節症初期に亢進し、コラーゲン合成は中等度の関節症で高まった。ケラタン硫酸、コンドロイチン6硫酸濃度も関節症初期に上昇した。どの分子量のHAもHCS2/8に対して1L-8の分泌量を変化させなかった.一方高分子量HAを作用させたRA滑膜細胞ではTNFα刺激によるlL-8の分泌量が低下した。低分子量HAでは低下しなかった。椎間板面積は、全身骨BMDとの間に負の、椎間板突出率は正の相関を有していた。BMCと脂肪量も同じ相関が認められた。Lean Massは椎間板面
積と関連が無く、椎間板突出率と正の相関 があった。各組織量で脂肪量の影響は、骨量や筋肉量より低かった。種々のストローマ細胞や骨芽細胞においてはTGF-β1がOCIFのmRNA発現を誘導した。この作用はOCIF mRNAの転写促進および安定性増加の両者による。骨髄細胞の培養系では、OCIFおよびTGF-β1はいずれも破骨細胞の形成を抑制した。TGF-β1の抑制作用の一部はOCIFを介する効果であった。変形性膝関節症ではRAに比べ滑液中OCIF濃度が約2倍高く、重症度に依存した。また滑液中のOCIF濃度は変形性膝関節症では血中濃度の約8倍、RAでは約4倍と高値であった。血中OCIF濃度は加齢と共に有意に増加し、骨粗鬆症例では正常者に比べ血中濃度が有意に上昇した。HA合成酵素遺伝子のうち、Has1とHas2がマウス軟骨細胞株ATDC5に発現しており、分化段階での発現変化はなかった。TGF-β処理で、Has2遺伝子発現誘導が、BMP処理でも発現が上昇した。発現は濃度依存的に亢進した。Has1遺伝子の発現変化はなかった。ヒト線維芽細胞には、Has1, Has2, Has3が発現した。TGF-β処理で、Has2遺伝子の発現は濃度依存的に亢進した。Has2遺伝子をコードするHas2 cDNAのアミノ酸翻訳配列に翻訳開始コンセンサス配列を付し、アデノウィルスベクターへ挿入。このヒトHA合成酵素遺伝子を各種培養細胞に導入したところ、顕著にHA合成量が上昇した。1.関節液中でMMP-3はMMP-1, TIMP-1濃度と相関を示した。 FreeのTIMPがMMPを阻害することを考えるとMMPの濃度上昇に伴うTIMP-1濃度上昇は生体の防御反応とも考えられる。Type II collagen C-propeptideとコンドロイチン硫酸846epitopeについては関節症の進行による差があり合成系が病態に深く関わる。高分子量HAは、低分子量HAと異なった細胞内シグナルの伝達を行っており、ECMの分子量の違いが細胞の代謝に影響を及ぼしうる。高分子量HAの抗炎症効果は軟骨ではなく、滑膜に対して存在すると考える.変形性脊椎症の検討から、軟部組織も椎間板変性に関与する。筋肉量に相当するLean Massが椎間板変性と低い正の相関を示し、検討を要する。TGF-β1はOCIFを介して作用し関節症の進展に関わると考えられる。滑液ならびに血液中のOCIF濃度の上昇は、骨量減少に対する生体の代償機構と考えられる。現在、滑液中OCIF濃度と傍関節骨破壊との関連について検討中である。さらに破骨細胞分化促進因子についても検討中である。TGF-βによるECM分子の発現調節は関節症の進行に関連すると予想され、局所的なTGF-β作用が問題である。我々はTGF-β作用を阻害する変異型受容体の遺伝子を含んだアデノウィルスベクターを得て、局所的なTGF-β作用について検討している。
結論
1,PGの合成は関節症の初期に亢進し、コラーゲン合成は軟骨マトリックスの破壊が進行した中等度の関節症で高まる変化を示した。ケラタン硫酸、コンドロイチン6硫酸の濃度も関節症初期に上昇する傾向を明らかとした。2,TNFα刺激での転写因子NFκ-Bの活性化抑制が高分子HAの作用下に認められるため、高分子HAは転写因子NFκ-Bの活性化抑制を介し、IL-8産生抑制に働くと結論した。高分子量HAの抗炎症効果が軟骨ではなく、滑膜に対して存在する可能性を示唆している。3,閉経後女性221名の腰椎MRIから椎間板面積と突出率を計測し、DXAによる全身骨BMDとBody Compositionとの関連を検討した結果、骨量と脂肪量および筋肉量は椎間板退行変性と逆相関することが示された。4,TGF-β1はOCIFを介して骨リモデリングに重要な役割を果たしており、傍関節骨破壊の成因に関与している可能性が示唆された。これらの分子メカニズムを解明することにより関節症の新しい治療法の開発が期待される。5,培養軟骨細胞、線維芽細胞においてTGF-β群により、HA合成酵素遺伝子の一過性の発現誘導が検出された。また、高分子量HA合成能を獲得させるヒトHA合成酵素遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを構築した。

公開日・更新日

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