水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策に関する研究

文献情報

文献番号
201237027A
報告書区分
総括
研究課題名
水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-健危-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤本 尚志(東京農業大学応用生物科学部醸造科学科)
  • 柳橋 泰生(福岡女子大学国際文理学部環境科学科)
  • 高梨 啓和(鹿児島大学大学院理工学研究科)
  • 岸田 直裕(国立保健医療科学院生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,358,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道システムに危害を及ぼす生物には、病原微生物のほか、飲料水の異臭味や着濁原因となる生物、浄水処理を阻害する生物等(以降、障害生物)が存在する。障害生物が水道システムに及ぼす危害は「生物障害」と呼ばれている。一部の浄水場では、生物障害の発生により薬剤・電力使用量が増加し、浄水処理コストが著しく増加することが明らかになっており、生物障害が水道システムに及ぼす影響は無視できない。しかしながら、健康に直接影響を及ぼす化学物質等のリスクと比較して、生物障害のリスクに関しては、その実態把握やリスク低減に関する検討が遅れているのが現状である。そこで本研究では、水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策手法の提案を目的とした。
研究方法
1)国内の浄水場における生物障害の発生および対策実態の把握
全国76の水道事業体および228の浄水場を対象としたアンケート調査によって、平成22年10月から24年9月までの2年間に発生した生物障害の発生実態を明らかとした。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
相模湖等を水源とする浄水場等の各工程水を対象とし、分子生物学的手法を用いてピコプランクトンの生物相について解析した。
3)水道水源における障害生物の発生実態の把握と発生抑制手法の検討
障害生物のうち植物プランクトンについて、水源となっている水資源機構管理ダム等における近年の発生状況を整理した。
4)生物障害に対応した省エネルギー型水道システムの開発
生物障害発生時のエネルギー消費量の変化を明らかにするため、また、自然災害に対する浄水場の脆弱性を検討するために、浄水場へのアンケート調査を実施した。
結果と考察
1)国内の浄水場における生物障害の発生および対策実態の把握
対象期間中に生物障害が発生したのは、アンケート対象76水道事業体のうち47事業体(62%)、228浄水場中96浄水場(42%)であり、多くの水道事業体が生物障害に悩まされていることが明らかとなった。地域別の生物障害の発生割合は、事業体数をベースとすると、北海道・東北で54%、関東で77%、中部で33%、関西で53%、中国・四国で85%、九州・沖縄で64%であり、全ての地域で生物障害が発生していた。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
藍藻綱Synechococcus sp. MH305、緑藻綱Mychonastes homosphaeraに近縁なクローンが複数の浄水場ろ過水中から検出されたことから、これらの微生物がろ過漏出障害の原因となっていると考えられた。
3)水道水源における障害生物の発生実態の把握と発生抑制手法の検討
調査対象とした全てのダム・河口堰において観察された障害生物は、珪藻類のAsterionella、Cyclotella、Fragilaria、Navicula、Nitzschia、Synedra、緑藻類のScenedesmus、クリプト藻類のCryptomonas、渦鞭毛藻類のPeridiniumの計9種類であった。このうち、浄水処理において凝集沈殿処理障害等を引き起こすCyclotellaは、3年間の各年全てで観察されたことから、水道水源において最も発生頻度が高い障害生物であることがわかった。
4)生物障害に対応した省エネルギー型水道システムの開発
ほとんどの障害種類、ほとんどの調査項目において、障害が発生することによって変化率が正の値になっており、障害発生に伴う浄水薬品使用率の上昇や汚泥発生量の増加が確認された。また、災害時等の薬剤確保方法については、常時余分に貯蔵することで対応している事業体が78事業体中31事業体(40%)あり、中心的な対策になっていた。
結論
1) 多少の地域差はあるものの、全ての地域の浄水場で生物障害が発生しており、国内広範囲の水道事業体が生物障害に悩まされていることが明らかとなった。
2) 藍藻綱Synechococcus sp. MH305、緑藻綱Mychonastes homosphaeraに近縁な微生物がろ過漏出障害の原因生物となっている可能性が示された。
3) 浄水処理において凝集沈殿処理障害等を引き起こすCyclotellaが水道水源において最も発生頻度が高い障害生物であることがわかった。
4)浄水薬品の使用量や浄水発生汚泥量は、多くの場合、生物障害の発生に伴い増加する傾向が認められた。これにより、それらの生産や処理にかかる電力消費量やエネルギー消費量、二酸化炭素発生量は増加することが示唆された。薬剤確保方法については、常時余分に貯蔵すること対応している事業体多く、中心的な対策になっていた。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201237027Z