地域社会における自動体外式除細動器(AED)の役割と費用に関する研究

文献情報

文献番号
201237019A
報告書区分
総括
研究課題名
地域社会における自動体外式除細動器(AED)の役割と費用に関する研究
課題番号
H23-健危-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小川 俊夫(公立大学法人奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 田邉 晴山(財団法人救急振興財団救急救命東京研修所)
  • 今村 知明(公立大学法人奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 自動体外式除細動器(AED: Automated External Defibrillator)は、心停止傷病者の心電図を自動的に解析し、必要に応じて電気的なショック(除細動)を与え、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器である。わが国では、平成16年にAEDの市民による使用が認可されて以来急速に普及しており、平成22年時点の累計で、約25万台の市中設置のAED(以下、AED)が販売されたと推計されている。しかしながら、わが国におけるAEDの費用対効果については充分には検証されていない。
 本研究の目的は、都道府県におけるAED導入の関連費用と導入効果を推計した上で、その費用対効果を推計することである。さらに、地域の健康安全・危機管理対策の視点でAEDの負担と効果について考察を実施し、危機管理の観点からAEDの適正配置について提言を実施する。
研究方法
 本年は、昨年度の成果をもとにAEDの費用対効果を試算し、既存研究との比較分析などを実施した。またAEDの適正配置などについて政策提言を実施した。
 具体的には、抽出した奈良県、広島県、長崎県において、AEDの費用と効果の試算の精緻化を行った。AEDの費用分析については、分析モデルを見直してAED本体費用、保守費用、講習会費用などを含むAED一台あたりの費用モデルを構築した。AEDの導入効果については、消防庁により集計されている「救急蘇生統計」(いわゆるウツタイン様式統計データ)に収載されている脳機能カテゴリー(CPC)を用い、既存研究で報告されている質調整生存年(QALY)に変換する手法よりAEDの導入効果を推計した。これらの推計したAEDの費用と効果よりAEDの費用対効果(増分費用対効果比)を試算し、諸外国で実施された既存研究との比較分析を実施した。これらの結果と昨年度の成果を踏まえ、わが国におけるAEDの適正配置などに関する政策提言を実施した。
結果と考察
 分析対象として抽出した広島県、長崎県、奈良県におけるAEDの導入費用は、2005~2010年の6年間累計で、奈良県で約2.2~3.9億円、広島県で約6.6~8.6億円、長崎県で約3.8~4.8億円と推計された。なお全国では6年間で250,030台、約447~473億円と推計された。AEDの導入効果として、ウツタイン様式統計データにおける脳機能カテゴリーを質調整生存年(QALY)に変換して推計した。
 推計したAEDの費用と効果を用いて、AEDの増分費用対効果比(ICER)を推計したところ、抽出した広島県、奈良県、長崎県の増分費用対効果比はそれぞれ約316~702万円、275~822万円、764~1,606万円と推計された。また全国の増分費用対効果比は1,130~1,196万円であり、抽出した3県は47都道府県の中で平均あるいはやや高い傾向にあることが示唆された。
 本研究で試算したわが国におけるAEDの費用対効果は、既存研究で推計された欧米各国のAEDの費用対効果と概ね同等の範囲にあった。具体的には、欧米諸国で実施された既存研究の市街地や公的な場所における推計値よりやや悪いものの、住宅街や空港や駅、航空機内設置のAEDの費用対効果と同等の結果であった。また、AEDの利用に関する意識調査より、心肺蘇生講習会受講者にはAEDの利用に対する抵抗感が低く、特に2年以内の受講者の抵抗感が最も低い結果となった。
 本研究により、わが国のAEDの費用対効果は諸外国と同等程度と推計されたが、今後もさらなる利用促進が必要と考えられる。また、AEDの費用対効果には都道府県別の差が見られることから、今後は都道府県別にAEDの費用対効果の視点からAEDの効率的な配置と利用の一層の促進策の実現が必要と考えられる。
結論
 本研究により、既存データを用いてAEDの費用対効果分析が可能なことが示唆された。本研究の分析結果より、わが国のAEDの費用対効果は諸外国とほぼ同等と示唆されたが、いっぽうで都道府県別に大きな差があることも示唆された。今後、本研究の成果は各都道府県の健康安全・危機管理対策の検討・立案に活用できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201237019B
報告書区分
総合
研究課題名
地域社会における自動体外式除細動器(AED)の役割と費用に関する研究
課題番号
H23-健危-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小川 俊夫(公立大学法人奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 田邉 晴山(財団法人救急振興財団救急救命東京研修所)
  • 今村 知明(公立大学法人奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 自動体外式除細動器(AED: Automated External Defibrillator)は、心停止傷病者の心電図を自動的に解析し、必要に応じて電気的なショック(除細動)を与え、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器である。わが国では、平成16年にAEDの市民による使用が認可されて以来急速に普及しており、平成22年時点の累計で、約25万台の市中設置のAED(以下、AED)が販売されたと推計されている。しかしながら、わが国におけるAEDの費用対効果については充分には検証されていない。
 本研究の目的は、都道府県におけるAED導入の関連費用と導入効果を推計した上で、その費用対効果を推計することである。さらに、地域の健康安全・危機管理対策の視点でAEDの負担と効果について考察を実施し、危機管理の観点からAEDの適正配置について提言を実施する。
研究方法
 本研究は、AEDの費用対効果の推計手法を検討したうえで、抽出した都道府県におけるAEDの費用対効果を試算し、既存研究との比較分析などを実施した。またAEDの適正配置などについて政策提言を実施した。
 具体的には、抽出した奈良県、広島県、長崎県において、既存データやヒアリングなどにより2005~2010年度の6年間のAEDの導入台数を、AED販売台数と設置台数の範囲として推計した。AEDの導入費用については、AED本体費用、保守費用、講習会費用などを含むAED一台あたりの費用モデルを用いて推計した。AEDの導入効果については、消防庁により集計されている「救急蘇生統計」(いわゆるウツタイン様式統計データ)に収載されている脳機能カテゴリー(CPC)を質調整生存年(QALY)に変換する手法について既存研究を用いて検討したうえで、AEDの導入効果をQALYを用いて推計した。これらの推計したAEDの費用と効果よりAEDの費用対効果(増分費用対効果比)を試算し、諸外国で実施された既存研究との比較分析を実施した。また、インターネットを用いたAEDと心肺蘇生の実施に関する意識調査を実施した。これらの結果を踏まえ、わが国におけるAEDの適正配置などに関する政策提言を実施した。
結果と考察
 分析対象として抽出した広島県、長崎県、奈良県におけるAEDの導入台数は、2005~2010年の6年間累計で、広島県で3,896~4,849台、長崎県で2,649~3,140台、奈良県で1,428~2,397台と推計された。AEDの導入費用を、本体費用、保守費用、講習会費用を用いて試算したところ、6年間累計のAED導入費用は奈良県で約2.2~3.9億円、広島県で約6.6~8.6億円、長崎県で約3.8~4.8億円と推計された。なお全国では6年間で250,030台、約447~473億円と推計された。AEDの導入効果として、ウツタイン様式統計データにおける脳機能カテゴリーを質調整生存年(QALY)に変換して推計した。
 推計したAEDの費用と効果を用いて、AEDの増分費用対効果比(ICER)を推計したところ、抽出した広島県、奈良県、長崎県の増分費用対効果比はそれぞれ約316~702万円、275~822万円、764~1,606万円と推計された。また全国の増分費用対効果比は1,130~1,196万円であり、抽出した3県は47都道府県の中で平均あるいはやや高い傾向にあることが示唆された。本研究で試算したわが国におけるAEDの費用対効果は、既存研究で推計された欧米各国のAEDの費用対効果と概ね同等の範囲にあった。具体的には、欧米諸国で実施された既存研究の市街地や公的な場所における推計値よりやや悪いものの、住宅街や空港や駅、航空機内設置のAEDの費用対効果と同等の結果であった。また、AEDの利用に関する意識調査より、心肺蘇生講習会受講者にはAEDの利用に対する抵抗感が低く、特に2年以内の受講者の抵抗感が最も低い結果となった。
 本研究により、わが国のAEDの費用対効果は諸外国と同等程度と推計されたが、今後もさらなる利用促進が必要と考えられる。また、AEDの費用対効果には都道府県別の差が見られることから、今後は都道府県別にAEDの費用対効果の視点からAEDの効率的な配置と利用の一層の促進策の実現が必要と考えられる。
結論
 本研究により、既存データを用いてAEDの費用対効果分析が可能なことが示唆された。本研究の分析結果より、わが国のAEDの費用対効果は諸外国とほぼ同等と示唆されたが、いっぽうで都道府県別に大きな差があることも示唆された。今後、本研究の成果は各都道府県の健康安全・危機管理対策の検討・立案に活用できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201237019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 本研究は、諸外国での先行研究で実施されている質調整生存年(QALY)を用いたAEDの費用対効果分析を、わが国において初めて実施した研究である。また、地域全体の広範囲なAEDの費用対効果の分析手法を検討・確立し、分析を実施したことは、既存研究での限定された施設や一部地域での分析とは一線を画すもので、学術的に大きな意義があると考えられる。さらに、本研究で確立した既存データを用いた費用対効果の分析手法は、今後AED以外の様々な分野に適用可能と考えられる。
臨床的観点からの成果
 心肺停止傷病者の予後に対するAEDの効果は既存研究等より認められており、その点からわが国でAEDの普及が進んできたと考えられる。本研究よりAEDの費用対効果には地域差があることが明らかになったことより、AED導入数の増加のみならず、AEDの利用促進が重要であり、それにより心肺停止傷病者の予後の向上に繋がると考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
 本研究により、AEDの費用対効果が既存データを用いて試算可能であることが明らかになったことから、国や自治体においても、費用対効果を試算することで政策立案に資する新たな基礎データを整備できるようになった。また本研究で確立した手法を用いることで地域間の比較分析なども可能であり、さらにAED以外の各種分析でも本研究の手法が応用可能であることから、様々に活用できると考えられる。
その他のインパクト
本研究の中間報告を2012年度の米国心臓協会(AHA: American Heart Association)総会にて発表し、当該研究分野での最新の知見を提供した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Manabu Akahane, Seizan Tanabe, Soichi Koike, et al.
Elderly out-of-hospital cardiac arrest has worse outcomes with a family bystander than a non-family bystander.
International Journal of Emergency Medicine. , 5 (1) , 41-  (2012)
10.1186/1865-1380-5-41
原著論文2
Seizan Tanabe, Hideo Yasunaga, Soichi Koike, et al.
Monophasic versus biphasic defibrillation for paediatric out-of-hospital cardiac arrest patients: a nationwide population-based study in Japan.
Critical Care. , 16 (6) , R219-  (2012)
10.1186/cc11864

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201237019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,800,000円
(2)補助金確定額
2,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 160,416円
人件費・謝金 1,241,308円
旅費 745,495円
その他 652,781円
間接経費 0円
合計 2,800,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-06-03
更新日
-