老年者高血圧の長期予後に関する研究

文献情報

文献番号
199800166A
報告書区分
総括
研究課題名
老年者高血圧の長期予後に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
日和田 邦男(愛媛大学第二内科)
研究分担者(所属機関)
  • 荻原俊男(大阪大学加齢医学)
  • 松本正幸(金沢医科大老年病)
  • 松岡博明(獨協医科大循環器科)
  • 瀧下修一(国立循環器病センター)
  • 島本和明(札幌医科大学第二内科)
  • 鳥羽研二(東京大学加齢学)
  • 阿部功(九州大学第二内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1997年に米国合同委員会から第6次の報告がなされてから、いくつかの大規模介入試験の成績が明らかになり、それらを受け、1999年2月に世界保健機構-国際高血圧学会合同の改訂高血圧治療指針が出された。
欧米の高血圧管理ガイドラインはあくまでも欧米人中心のガイドラインである。これらのガイドラインには世界中で行われた高血圧の研究成果が凝集されており、われわれ日本人の高血圧の管理・治療の基準として参考になる点は多い。しかし、遺伝的背景および社会的背景の異なる日本人にとって、すべてを欧米で作成されたガイドラインにゆだねてよいとは言えない。本研究班は、厚生省長寿科学総合研究事業「老年者の高血圧治療ガイドライン作成に関する研究」班(班長:大阪大学教授荻原俊男)が作成した「老年者の高血圧治療ガイドライン試案 1995」を改訂した。
研究方法
改訂に当たっては同研究事業「老年者高血圧の長期予後に関する研究」班(班長:愛媛大学教授日和田邦男)が荻原班とほぼ同じ班員で構成され、改訂作業を行った。改訂作業の第一歩として、1995年のガイドラインについて、わが国の多数の高血圧専門家にアンケート調査を行った。本報告書においても、基本姿勢は前回の報告書と同じである。すなわち、証拠に基づいた医療の立場から、わが国独自のライフスタイルを加味し、諸外国の成果を盛り込み、わが国における老年者高血圧の管理・治療指針として提示した。この過程で1995年のガイドラインに対する多くの識者からの批判や意見を可能なかぎり取り入れた。しかし、日本人を対象とした大規模な調査研究や大規模介入試験に基づく選択薬の基準となる証拠はなく、現実には、一部コンセンサスに基づくガイドラインにならざるを得なかった。
結果と考察
本報告書の内容は、老年者高血圧について、その特徴、診断に対する注意事項、治療の必要性、治療対象と降圧目標、非薬物療法、薬物療法の実際、合併症を有する場合の降圧薬と治療上の注意、治療上注意すべき薬剤の相互作用、QOLへの配慮などの諸問題を取り上げた。しかし、ガイドラインは老年者高血圧診療における画一的な治療法を示したものではなく、あくまでも原則的な考え方を示したものである。
「老年者高血圧の治療ガイドライン-1998年改訂版-」では、特別な合併症を認めない場合、治療対象血圧を年齢ごとに設定している。老年者といえども収縮期血圧、拡張期血圧はいずれも治療開始のための重要な指標となる。しかし、降圧を必要とする血圧レベルは臓器障害の少ない若・中年者とは異なる。わが国の高血圧を専門とする医師に対するアンケート調査では、降圧薬治療対象血圧値は収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上とする意見が多かった。事実、欧米で行われた老年者高血圧の大規模介入試験では、収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧90~100mmHg以上が対象となっており、治療の有効性が示されたことから、少なくともこの血圧レベル以上であれば治療対象としてよいと考えられる。ただし70歳以上の高齢者では血圧値と生命予後に逆相関がみられることがあるので、治療対象血圧レベルは収縮期血圧に関しては年齢+100mmHgという高めに設定した。
降圧は、老年者高血圧の介入試験においては、収縮期血圧22~35mmHg、拡張期血圧13~23mmHgの降圧であった。一方、降圧目標のレベルに関しては、降圧によるJ型現象が観察されたため、収縮期血圧150mmHg以下、拡張期血圧85mmHg未満に降圧する場合は慎重を要する。60歳代での降圧目標レベルは対象患者の治療前の血圧値にもよるが、忍容可能ならば収縮期血圧140~150mmHg以下、拡張期血圧85mmHg未満とした。ただし、70歳代以上では既に臓器障害を伴っていることが多いので、これよりも高めに設定して、より慎重な降圧が必要となる。
降圧薬の選択に関しては、合併症を認めない老年者高血圧患者においては、持続性Ca拮抗薬、ACE 阻害薬、少量の利尿薬を第一次選択薬として提唱した。一方、中枢性交圧薬、β遮断薬、α遮断薬は注意して使用すべき降圧薬として分類している。降圧効果の不十分な場合や忍容性に問題がある場合には第一選択薬の他薬剤への変更も有効とした。
併用療法に入る場合、2-3ヶ月以上の単独療法後、血圧が150/90mmHg以下に下降しない場合に行う。合併症を有しない場合の好ましい降圧薬の組み合わせは、Ca拮抗薬+ACE阻害薬、ACE阻害薬+低用量の利尿薬である。あるいは上記の3種の第一選択薬の3者併用を行う。
合併症を有する場合は、それぞれの病態に応じて、降圧薬を選択することになる。ガイドラインでは合併症として、脳血管障害、虚血性心疾患、心不全、糖尿病、腎障害、高脂血症、閉塞性動脈硬化症の病態について詳しく述べている。
結論
班全体研究として、老年者高血圧の治療ガイドラインの改訂を行った。最近の老年高血圧患者を対象とした大規模介入試験成績の成果を盛り込み、わが国独自のライフスタイルを加味し、わが国における老年者高血圧の管理・治療指針として提示した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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