性暴力被害者が安全にかつ安心して必要なケアを受けられるシステム構築のための調査研究

文献情報

文献番号
201237015A
報告書区分
総括
研究課題名
性暴力被害者が安全にかつ安心して必要なケアを受けられるシステム構築のための調査研究
課題番号
H22-健危-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高瀬 泉(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,885,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 性暴力は摂食障害,パニック障害,ひきこもり,うつ,アルコール依存症などの背景に潜んでいる可能性があり,健康づくりに関する施策へ貢献できる可能性がある。さらに,性暴力被害後の休職・退職や労使関係での性暴力も存在するため,雇用・労働施策にも関わる問題である。本研究において実際の対応経験に基づくガイドラインを作成することで,他の関係諸機関においても適切な対応が行われると期待される。そして,関係諸機関を訪れる被害者が増え,性暴力被害の潜在化や同様の事件発生の抑止につながる可能性もあり, Public Safetyという観点からもその果たせる役割は大きいと考える。また,今般のチーム医療の推進という点においてもモデルを示すことができると考える。
研究方法
 1年目は,当初の計画に沿い,性暴力救援センター・大阪で実際に対応にあたったスタッフらから対応上の問題点を抽出した。また,性暴力被害者の医療費全体に占める公的支援あるいは自己負担の割合について検討した。さらに,都道府県警察による公的支援内容についてそれぞれのホームページ上や一般に公開されている資料をもとに情報収集を行った。
 2年目および3年目は,診断書・意見書等記載方法や裁判での専門家証言のあり方についてその都度個々に検討を行った。一方,山口県において,男性被害者が受診する可能性のある診療科(泌尿器科・小児科・救急・精神科)の医師295人を対象に自記式質問紙調査を実施した。さらに,男性の性暴力被害者に半構造化面接を行った。そして,これまでに得られた結果をもとに、医療者や行政・司法関係者向けガイドラインの作成を目標とした。
結果と考察
平成24年度にのべ5325件の電話相談が寄せられた。そのうち,初診は240人で,10代および同未満が59.2%を占め,76.7%が強かん・強制猥褻・性的虐待の被害を受けていた。平成22年4月から24年10月までの初診282人のうち,妊娠が9.2%,アルコール関与が17.0%,薬物関与が5.7%であった。また,性的虐待が疑われる場合の所見の表現が個々の医師で異なり,裁判等への影響が懸念された。さらに,性的虐待で膣内に異物が認められる場合が散見され,摘出した異物の保存・保管方法あるいはDNA鑑定の可否が懸案事項となった。医師を対象とした男性の性暴力被害者に関する自記式質問紙調査では,295人のうち145人から回答を得た(回収率49.2%)。そのうち,4人(2.8%)が対応経験を有すると回答し,小児科が2人,泌尿器科および精神科が1人で,実際の統計以上に存在する可能性が示唆された。性被害神話については,実状とは異なる認識をもっている医師も12.4から24.8%存在することが明らかとなった。さらに,女性の被害者への対応に関するガイドライン等を見たことがあると回答した医師が25人(17.2%)であったのに対し,男性に関してはまったく存在しなかった。また,「二次被害(Second Rape,Secondary Victimization)」という言葉を聞いたことがある者は24人(16.6%)で,その防止に向けた具体的な取り組みを行っていると回答した者はまったく存在しなかった。そして,診察や治療,警察の意見聴取に協力できると回答した医師は44.8%にとどまり,現状では対応が困難であるとした者が37.5%に達した 。男性の性暴力被害者への面接調査については,その内容原稿公表につき承諾を得ているところである。その他,専門家として証言する医師等の安全確保(被告からの遮蔽等)が急務であること,性暴力被害者に明らかな損傷が認められなかった場合,無罪判決につながる可能性があることなどが明らかとなった。
結論
 性暴力救援センター・大阪の存在が認知され、評価されつつある可能性が示唆された。また、できるだけ早い時期からの性に関する教育や取り組みが必要であると考えられた。今後は、国連の勧告である女性20万人に1ヶ所のセンター設立を目指したい。また,男性の被害者への専門的対応システム構築も望まれる。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201237015B
報告書区分
総合
研究課題名
性暴力被害者が安全にかつ安心して必要なケアを受けられるシステム構築のための調査研究
課題番号
H22-健危-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高瀬 泉(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性暴力は、摂食障害、パニック障害、ひきこもり、うつ、アルコール依存症などの背景に潜む可能性があり、ライフサイクルに重大な影響を及ぼすため、健康づくりに関する施策へ貢献できる可能性がある。さらに、被害後の休職・退職や労使関係での被害など、雇用・労働施策との関わりも深い。性暴力救援センター・大阪での対応経験に基づくガイドライン作成により同様のシステム構築および関係諸機関での適切な対応につながると期待される。さらに、Public Safety へ果たせる役割も大きいと考える。また、チーム医療推進のモデルを示すこともできると考える。
研究方法
1年目は、対応上の問題点、医療費全体に占める公的支援・自己負担の割合等を分析した。2年目は、診断書等記載方法や専門家証言のあり方について検討した。一方、山口県で男性被害者が受診する可能性のある診療科(泌尿器科・小児科・救急・精神科)の医師295人を対象に自記式質問紙調査を実施した。さらに、男性の性暴力被害者に半構造化面接を行った。3年目は、医療者や行政・司法関係者向けガイドライン作成を目標とした。
結果と考察
性暴力救援センター・大阪 (SACHICO)への電話相談は、平成22、23、24年度でそれぞれのべ1463、3372、5325件であった。この増加は、同センターの対応への評価を示していると考えられた。初診はそれぞれ128、189、240人で、大半(それぞれ89.1、87.3、76.7%)が強かん・強制わいせつ・性的虐待で、10代および同未満がそれぞれ69.5、66.7、59.2%と過半数を占めていた。また、平成22年4月から24年10月に強かん・強制わいせつの被害で初診の282人のうち、妊娠9.2%、アルコール摂取17.0%、薬物摂取5.7%であった。このように、10代および同未満が多く、ほぼ1割が妊娠しており、早期からの教育や介入等が必要であると考えられた。アルコールや薬物については、それらの危険性を引き続き社会に示し、同様の被害防止につなげたい。さらに、警察へ届けない場合の血液や尿等の各濃度分析等についてマニュアル(案)を作成中である。主な対応上の問題点としては以下が挙げられた。まず、警察へ届けない場合の採取試料(膣内ぬぐい液や人工妊娠中絶時の絨毛組織等)の保存・保管については、超低温冷凍庫を設置し、密封シールおよびシーラーを導入した。次に、診断書・意見書等記載方法等については、特に、性的虐待が疑われる場合に医師により用語が異なり、度々、審判・裁判等での争点の1つになっていた。この点については、勉強会等を重ね、記載例マニュアル(案)を作成中である。また、膣内に異物を認める幼児が少なからず存在し、摘出した異物の保存・保管方法やそのDNA鑑定の可否等が今後の課題である。医師を対象とした自記式質問紙調査では、295人のうち145人から回答を得た(回収率49.2%)。そのうち、4人(2.8%)が男性の性暴力被害者への対応経験があるとし、専門科別では、小児科が2人、泌尿器科および精神科が各1人で、男性の被害者が犯罪統計以上に存在する可能性が示唆された。性被害神話の各項目については、実状と異なる認識をもっている者が12.4から24.8%存在した。さらに、女性の被害者への対応ガイドライン等を見た者が25人(27.2%)であったのに対し、男性に関するものを見た者はいなかった。また、「二次被害 (Second Rape、Secondary Victimization)」という言葉を聞いたことがある者は24人(16.6%)のみで、その防止に向けた具体的な取り組みを行っている者はいなかった。そして、診察や治療、警察の意見聴取に協力できる者は44.8%にとどまり、37.5%は現状では対応困難としていた。なお、男性の性暴力被害者への面接調査については、現在、当方の完成原稿を最終確認して頂いている。法律や裁判に関しては、専門家として証言する医師等の安全確保(被告からの遮蔽等)が急務であること、性暴力被害者に明らかな損傷が認められなかった場合、無罪判決につながる可能性が高いことなどが明らかとなった。後者については、被害者の大半に特記すべき損傷が存在しない実状を伝えるべく、司法関係者等向けのガイドライン(案)を作成中である。また、‘強制わいせつ’と‘強かん’を区別しない、例えば‘Rape’のような概念の必要性を引き続き訴えたい。
結論
性暴力救援センター・大阪の対応が評価されていることが示唆された。早い時期からの性に関する教育や取り組みが必要であると考えられた。今後は、国連の勧告である女性20万人に1ヶ所のセンター設立を目指したい。また,男性の被害者への専門的対応システム構築も望まれる。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201237015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国においても、24時間体制で性暴力の被害に遭った方々に包括的なケアを提供するシステムの需要が大いにあり、その存在意義がいかに大きいかを示すことができた。また、被害に遭った方々の実態および必要とされるケアを把握することができた。さらに、男女ともに犯罪統計以上に被害者が存在すること、初診者の過半数を10代および同未満が占め、初診者の1割が妊娠していたことなど、早い時期からの教育あるいは介入が必要であると考えられた。
臨床的観点からの成果
電話相談を担当する女性支援員などボランティア、産婦人科的救急医療を提供する産婦人科医師、カウンセリングや精神科的治療を担当する臨床心理士や精神科医、子どもの発育・発達等について助言する小児科医師、意見書等作成を行う法医学医師ら医療者、法律的見地から助言を行う弁護士、病院を挙げての協力体制などチーム医療のモデルを示すことができた。また、系統だった診察・証拠採取の方法等を確立し、医療者向けの意見書記載マニュアル(案)を作成した。
ガイドライン等の開発
性的虐待・性暴力が疑われる場合の診断書記載例マニュアル(案)および性暴力救援センター・大阪(SACHICO)の果たせる役割および今後の課題(案)[関係省庁配布用]を作成した。今後、速やかに完成版を作成し、関係諸機関へ配布を行う予定である。
その他行政的観点からの成果
性暴力救援センター・大阪(SACHICO)のノウハウを全国に提供したことで、各地に同様のシステムが設置されたり、構築される機運が高まったりしている。また、各地の関係諸機関や教育機関での講演や講義により、わが国での性暴力被害に遭った方々の現状が周知され、各人の意識変化の一助となり得た可能性がある。今後は、同センターのようなシステムを、国連の勧告による女性20万人に1ヶ所を目標に、まずは各都道府県に1ヶ所を目指す。
その他のインパクト
審判あるいは裁判等へ意見書等を提出したことにより、子どもの安全な環境の確保につながったり、審判での最終判断あるいは判決等に影響を及ぼしたりした。また、刑法が想定している被害者の像と実態との間には大きな隔たりがあることを示した。性暴力救援センター・大阪(SACHICO)は、これまで多数のマスコミに取り上げられてきた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
10件
関係諸機関、教育機関等での講演や講義

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201237015Z