異臭被害原因物質の同定・評価及び浄水処理工程における挙動並びに低減化に関する研究

文献情報

文献番号
201237007A
報告書区分
総括
研究課題名
異臭被害原因物質の同定・評価及び浄水処理工程における挙動並びに低減化に関する研究
課題番号
H22-健危-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(帝京平成大学 薬学部薬学科)
研究分担者(所属機関)
  • 越後 信哉(京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻)
  • 松下 拓(北海道大学大学院工学研究院 環境創生工学部門)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部 水管理研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臭気原因物質及びその前駆体物質の削減と臭気を低減化するため、オゾン/紫外線処理と陽陰イオン交換処理を組み合わせたプロセスにおけるオゾン注入率、活性炭処理の有無によるカルキ臭低減効果と、本プロセスの処理性の評価を行った。また、二段階塩素処理によるトリクロラミン生成能に対する抑制効果の有効性を検討した。さらに、微粉化活性炭を用いたトリクロラミンの除去機構の解明を行った。一方、多次元データベースを用いた迅速、精確、網羅的な計量学的に精確な自動定量分析法の開発を進めた。
研究方法
トリクロラミン濃度は、ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ/質量分析(HS-GC/MS)法により測定した。酸化処理は、オゾン/真空紫外線処理(O3/VUV)+イオン交換処理、O3/VUV+活性炭処理+イオン交換処理、高度浄水処理として一般的に用いられているオゾン処理+活性炭処理について検討した。二段階塩素処理として、浄水場の原水と沈殿処理水について、次亜塩素酸ナトリウムを添加してから30分後の遊離塩素濃度がおおよそ0.1mg/L及び0.5mg/Lとなるように調整した。さらに、二回目の次亜塩素酸ナトリウムを加え、24時間後に遊離塩素濃度が1.0±0.2mg/Lとなるように調製した。原水に0.1mg-N/Lのアンモニアを添加した試料についても、二段階塩素処理を実施した。微粉化活性炭処理には、市販の粉末活性炭を、50 %粒径が0.7μm程度となるように粉砕して使用した。計量学的に精確な自動定量分析法の開発では、揮発性有機化合物23種を対象に、HS-GC/MS法に関して、測定した結果を検討した。
結果と考察
O3/VUV処理+イオン交換処理において、カルキ臭生成能はオゾン注入率の違いや活性炭処理の有無にかかわらず、超純水に塩素処理した際と同等の臭気強度まで低減可能であった。消毒副生成物生成能についても、最終的な生成量としてはオゾン注入率の違いや活性炭処理の有無による影響はみられなかった。塩素処理副生成物のトリハロメタン、ハロ酢酸生成能については、O3/VUV処理により増加がみられたが、陰イオン交換処理により大幅に低減した。オゾン処理副生成物である臭素酸イオンは、陰イオン交換処理により完全に除去できた。以上のことから、O3/VUV処理+イオン交換処理は、カルキ臭生成能、消毒副生成物の同時制御が可能であり、現行の高度浄水処理プロセスに比べ、カルキ臭と消毒副生成物の両方の観点から優れていた。
二段階塩素処理によるトリクロラミン生成の抑制効果は、アンモニアの濃度が高く、共存物質が少ない場合に認められた。二段階塩素処理では、トリハロメタンを増加させず、トリクロラミン生成を制御することができることが示唆されたが、二回目の添加時間の変化による差は認められなかった。 生成したトリクロラミンは活性炭処理により除去できるが、超微粉化活性炭により「還元的に分解」されて効果的に除去できることが明らかとなった。自然由来有機物が共存すると分解が阻害されたが、共存下においても分解除去は可能であった。
臭気物質及び揮発性有機化学物質(VOC)の信頼性の高い網羅的迅速定量分析法のため、精度が高く、不確かさの小さい定量値が算出可能な新規キャリブレーション法を用いた多次元データベースシステムを構築した。その結果、VOCによる水道水質試験の微量分析を想定したモデル実験において、複数の装置に適用した結果、操作過程を含めた不確かさが付随するにもかかわらず、定量値において精度及び確度ともに高い定量値を得ることができた。本研究により、新規網羅的迅速定量分析法として、SIトレーサビリティを確保した自動定量が可能な信頼性の高い分析法を構築できた。
結論
カルキ臭生成の抑制に、オゾン注入率の違いや活性炭処理の有無にかかわらず、O3/VUV処理+イオン交換処理が有効であり、同時に臭素酸イオンや消毒副生成物の制御も可能であることが示された。また、現行の高度浄水処理プロセスより本プロセスの処理性が優れていた。二段階塩素処理は、アンモニアの濃度が高く、共存物質が少ない水質に対しては、トリハロメタンを増加させることなく、トリクロラミンの生成の抑制に有効であった。二回目の塩素注入時間による相違は認められなかった。生成したトリクロラミンの除去に関しては、自然由来有機物はトリクロラミンの分解反応を阻害するが、共存化においても、超微粉化活性炭処理が有効であった。
検討した新規網羅的迅速定量分析法は、水道水中の臭気物質やVOC等の検査において、測定対象の標準物質や検量線を必要とせず、迅速且つ高精度で網羅的な自動モニタリング法等に応用可能であることが示された。今後、さらに精度の向上と本データベースの拡充を行い、実用化を目指す。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201237007B
報告書区分
総合
研究課題名
異臭被害原因物質の同定・評価及び浄水処理工程における挙動並びに低減化に関する研究
課題番号
H22-健危-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(帝京平成大学 薬学部薬学科)
研究分担者(所属機関)
  • 越後 信哉(京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻)
  • 松下 拓(北海道大学大学院工学研究院 環境創生工学部門)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部 水管理研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 化学物質による異臭発生や塩素処理による異臭物質生成が原因となる水道水の臭気を低減するため、異臭原因化学物質の同定及び的確な定量分析方法の確立など、「水道水の臭気」を科学的な根拠に立って解析するとともに、臭気原因物質及びその前駆体物質の削減と臭気を低減化するための効率的で効果的な新たな技術の確立により、臭気被害を未然に防止する施策に貢献する。
研究方法
 臭気物質は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析法によって測定した。二段階塩素処理の評価は、全国の浄水場の原水、トリクロラミン前駆物質として知られているアンモニア水溶液、グリシン水溶液を用い、次亜塩素酸ナトリウムを添加後、2回目塩素添加を行い、その24時間後の遊離塩素濃度が1.0±0.2 mg-Cl2/Lとなるように設定した。超微粉化活性炭は、市販の粉末活性炭(N-PAC、 50%粒径 15 m程度)と、50%粒径 が0.7 m程度になるように超微粉砕した超微粉化粉末活性炭を用いた。臭気物質の網羅的迅速定量分析法の開発には、23種混合標準溶液中の揮発性化学物質を模擬臭気物質とし、HS-GC/MSを使用した。
結果と考察
 トリクロラミン生成には、アンモニアが主要な前駆体物質であるが、アミノ酸等のアンモニア態窒素の寄与も認められた。全有機炭素濃度、遊離アミノ酸濃度、全アミノ酸濃度との間には相関性は認められなかった。臭気強度と全有機窒素濃度との間には一定の相関があり、全有機窒素によりカルキ臭を評価できる可能性がある事例も認められた。フェニルアラニンを塩素処理すると、微量生成物を含む複数の原因物質が寄与するカルキ臭が生成し、カルキ臭原因の複雑さが示された。
 促進酸化処理(オゾン/真空紫外線処理)とイオン交換処理の組み合わせが、カルキ臭生成能の制御に対して、現行のオゾン/GAC処理よりも有効であった。また、カルキ臭生成能の低減化、TOCの低減化や塩素消費量削減、トリハロメタン等の消毒副生成物の低減を含め、臭気原因物質の削減に、陰イオン交換処理を行うことが効果的で有効な方法であることが明らかとなった。
アンモニア態窒素濃度が比較的高い場合は、一段階塩素処理に比べて、二段階塩素処理によりトリクロラミン生成能への抑制効果が認められた。2回目塩素添加の時間による差は、あまり違いがなかった。トリハロメタン生成については、一段階塩素処理と二段階塩素処理で違いがなかった。
 活性炭の添加により、窒素ガスへの還元的分解として、トリクロラミンをほぼ完全に分解除去可能であることが分かった。活性炭を微粉化した超微粉化粉末活性炭を用いることにより、残留遊離塩素の消毒効果を軽減することなく、短時間で効果的に、トリクロラミンの選択的な分解除去が大幅に向上することが示された。分解速度は活性炭の種類により異なり、活性炭表面の塩基性官能基当量と分解速度定数の間に正の相関があった。また、低水温時(5 ℃)には、活性炭によるトリクロラミンの分解が抑制されるが、超微粉化粉末活性炭添加濃度を5mg/Lに増加することにより、水温20℃と同程度に分解することができ、冬期や北部地域の低温下における臭気低減化に有用な処理法を示すことができた。分解効果は、共存する自然由来有機物(NOM)存在下で、組成により異なるが、ある程度抑制されるもののトリクロラミンを分解除去できた。
 GC/MS定量分析法とは根本的に原理が異なり、測定対象化合物に関する多次元情報 (純度、MSスペクトル、保持時間、検量線情報等) をデジタルデータとして登録し、一度設定した検量線を参照するトレーサブルで、精度が高く不確かさの小さい定量分析ができる新規分析法を開発・確立した。
結論
 トリクロラミン生成の前駆物質として、アンモニア態窒素が相関性高く寄与していた。しかし、トリクロラミン生成の前駆物質の種類や濃度は、原水によって大きく異なり潜在的に存在するため、臭気原因物質の前駆体の削減が臭気発生の阻止に有効であった。カルキ臭の生成を抑制するためには、促進酸化処理(オゾン/真空紫外線処理)とイオン交換処理の組み合わせや、二段階塩素処理が有効であった。カルキ臭の原因物質であるトリクロラミンは、活性炭処理により除去が可能であった。しかし、通常活性炭に比べ、超微粉化粉末活性炭を用いることにより、残留遊離塩素の消毒効果を軽減することなく、短時間で効果的に、選択的な分解除去が可能であった。さらに、添加濃度を増加することにより、冬期や北部地域の低温下における臭気低減化に有用な処理法となることが示された。新たに開発・確立したGC/MSを用いる定量分析法は、トレーサブルで精度が高く不確かさの小さい定量分析を可能となり、臭気原因物質に対する水質管理に有用な手法と期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201237007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
塩素処理により生成する水道水の臭気を低減する手段として、トリクロラミン生成の主要前駆物質であるアンモニア態窒素の総量削減が効果的であった。カルキ臭の生成を抑制するためには、浄水工程における促進酸化処理(オゾン/真空紫外線処理)とイオン交換処理を組み合わせた処理方法や、二段階塩素処理が有効であった。生成したトリクロラミンの除去は、通常粉末活性炭をさらに微粉化した超微粉化粉末活性炭の適用がより有効であった。また、トレーサブルで精度が高く、不確かさの小さい臭気物質等の定量分析法を開発・確立した。
臨床的観点からの成果
本研究は、臨床的な成果が得られることを対象とする研究ではないため、特記する事項はない。
ガイドライン等の開発
本研究で得られた試験方法は、水道水質の検査法の指針となっている上水試験方法2011(日本水道協会編)の解説編に、新規検査法として掲載された。水道水質分野の関係者では、従来用いられている官能試験法の判断を、科学的根拠に基づいた判定ができる客観的方法として、流布されてきている。今後、妥当性評価の段階を経て、公定法としての開発が検討されている。トレーサブルで精度が高く、不確かさの小さい臭気物質等の定量分析法は、広範囲な適用ができる推奨方法として開発がすすめられている。
その他行政的観点からの成果
おいしい水道水を安定供給し、飲料用に水道水を有効に利用できるようにしておくことは、安全で安心した生活環境を保持する厚生労働行政では重要な課題である。水道水の苦情が多い臭いに関して、塩素処理における臭気原因物質の前駆体を明確にし、臭気原因物質の生成機構を明らかとしたことと、臭気原因物質の前駆体の削減策をとることにより、浄水工程での臭気発生を低減化する方策を示すことができた本研究の成果は、水道水の質的な向上に大きな貢献となる。
その他のインパクト
本研究の成果は、水道水の異臭を人の感覚に頼り、主観的な判断を行ってきた従来の判定方法を、科学的な根拠と手法で、客観的な判定を示すことができるようになり、臭気に関する説明根拠に大きな科学的な進歩を及ぼした。浄水処理工程において、臭気原因物質の生成と除去に関する技術を提示することができ、水道関連分野の技術発展と適用による低減化に、大きな貢献が期待されている。特に、臭気の制御が難しい低温環境の状況や冬季の臭気除去処理方法に新しい適用技術を提供することが可能となった。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小坂浩司、他
アミノ酸の塩素処理によるトリクロラミンの生成特性
環境工学研究論文集 , 47 , 93-98  (2010)
原著論文2
久本祐資、他
溶存有機物を構成する窒素化合物のカルキ臭生成能
環境工学研究論文集 , 47 , 99-108  (2010)
原著論文3
久本祐資、他
水道原水中のアミノ酸の存在実態
土木学会論文集G(環境) , 67 (7) , III23-III30  (2011)
原著論文4
佐藤尚行、他
塩素処理水の臭気に対するカルキ臭原因物質の寄与
土木学会論文集G(環境) , 67 (7) , III41-III49  (2011)
原著論文5
久本祐資、越後信哉、伊藤禎彦
浄水酸化処理過程におけるアミノ酸の挙動:カルキ臭に及ぼす影響
土木学会論文集G(環境) , 68 (7) , III673-III679  (2012)
原著論文6
中村怜奈、他
塩素処理によるトリクロラミン生成能と一般水質項目との関係
土木学会論文集G(環境) , 68 (7) , III641-III650  (2012)
原著論文7
久本祐資、他
促進酸化処理とイオン交換処理の組み合わせによるカルキ臭と有機物の制御
環境衛生工学研究 , 26 (3) , 65-68  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201237007Z