地方衛生研究所における網羅的迅速検査法の確立と、その精度管理の実施、及び疫学機能の強化に関する研究

文献情報

文献番号
201237004A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所における網羅的迅速検査法の確立と、その精度管理の実施、及び疫学機能の強化に関する研究
課題番号
H22-健危-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
調 恒明(山口県環境保健センター)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 良一(北海道立衛生研究所)
  • 高橋 和郎(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 田中 敏嗣(神戸市環境保健研究所)
  • 小沢邦寿(群馬県衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,481,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、地方衛生研究所(地衛研)の機能強化のために検査法の開発等を行った。食中毒事例に対する行政処分をできる限り早期に行うためにリアルタイムPCR法を用いた網羅的迅速検査法を実用化した。また、呼吸器、中枢神経系疾患の原因ウイルスについて、ウイルス遺伝子を迅速に検出する方法の開発とその標準化を行った。さらに、健康被害を起こす自然毒は、原因物質が多種に上るため、地衛研がしばしば検査対応に苦慮する。そこで、LC-MS/MSを用いた自然毒の迅速検出法を開発し、その標準化を行った。疫学機能強化については、地衛研における疫学データの分析・情報発信の強化を目的として研修による人材育成と研究を行った。
研究方法
細菌部門:既に開発されていた、リアルタイムPCRを用いて24の病原細菌遺伝子を網羅的に検出する迅速検査法RFBS24を改良し実用化した。完成した方法を用いて実際の食中毒事例について検出感度の検証を行った。
ウイルス部門:平成23年度までに開発した20種類のウイルス遺伝子を検出するmultiplex PCR法を臨床検体に応用し、同一検体を参加4機関で検査を行い、検出感度を比較した。
理化学部門:1.自然毒による中毒事例の集積:地衛研職員専用ホームページにある既存のデータベース「自然毒中毒事例情報システム」を活用し、事例の集積と情報共有を図った。2.LC-MS/MSによる自然毒の迅速試験法の開発:検体にメタノールを加え抽出後、GFP濾紙で濾過、Millex-LG4に通してLC-MS/MSで分析した。
疫学部門:地方感染症情報センター職員に対する研修会を行った。また、都道府県の保健所管轄地域ごとに地図上に患者数を表示する簡便な方法を開発した。
結果と考察
細菌部門:リアルタイムPCR法を用いた食水系感染症原因細菌の網羅的検査法と精度管理
 23年度までに改良した検査法を、実際の食中毒事例(総患者数67名)に応用し、いずれも培養法と同等かそれ以上の感度を得た。山口県では、食中毒事例の早期解決のために使用しており、今後他の地衛研への普及を図って行きたい。

ウイルス部門:原因不明ウイルス感染症に対する迅速網羅的診断法とその精度管理法の開発
研究協力者の4つの参加機関において、作製したマルチプレックスPCR診断法を用いて呼吸器および中枢神経感染症患者検体について病原体の検出を行い、良好な検出感度が得られたと結論した。PCR反応系は、20種類のPCRを4つの反応で行うことから時間と労力を大幅に軽減できる。

理化学部門:健康危機関連化合物特に自然毒の迅速かつ網羅的検査法の構築と精度管理に関する研究
1.自然毒による中毒事例データベースの収録件数
収録総件数は、魚類、貝・蟹類、キノコ、山野草、栽培植物、海藻など、13件であった。
255件である。
2.LC-MS/MSによる自然毒の迅速試験法の開発
 検討した自然毒は、トリカブト毒のアコニチン、メサコニチン;チョウセンアサガオのアトロピン、スコポラミンである。抽出法を検討した結果、メタノールによる2回抽出が効率、迅速性の点からもっとも適していると考えられた。LC-MS/MSの条件もそれぞれ検討した。参加機関(20機関)で添加回収試験を行ったところ全ての機関で良好な回収率を得た。
多くの参加機関があり、自然毒の検出法の開発、標準化に関するニーズが極めて高いことが示唆された。今回検討したLC-MS/MSによる迅速試験法は約2時間で自然毒を定量することができ、また、精度管理も良好な結果であったことから、健康危機管理への迅速、的確な対応に有効な手段として活用が期待される。
疫学部門:疫学情報解析機能の強化と人材育成に関する研究
1.感染症情報センター職員の研修会
 第71回日本公衆衛生学会総会において自由集会を開催した。感染症の地域流行状況を把握している感染症情報センター及び保健所等の担当者間において、感染症情報の活用事例を紹介した。
4.地図表示プログラムの開発
2.感染症情報(患者数)を保健所管区に分けて地図上に表示するための方法を開発した。
感染症情報センターの業務は、マニュアル化しにくいものであり、実地的な要素がある研修が必須である。今後も、感染症情報センターの業務の重要性を認識し、人材の育成確保に努力する必要がある。
結論
ウイルス、細菌、自然毒の地衛研にとって有用な迅速網羅的検査法を開発した。また、疫学部門においても研修による人材育成、有用なソフトの開発を行った。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201237004B
報告書区分
総合
研究課題名
地方衛生研究所における網羅的迅速検査法の確立と、その精度管理の実施、及び疫学機能の強化に関する研究
課題番号
H22-健危-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
調 恒明(山口県環境保健センター)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤良一(北海道立衛生研究所)
  • 高橋和郎(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 田中敏嗣(神戸市環境保健研究所)
  • 小澤邦寿(群馬県衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、地方衛生研究所(地研)の検査機能、疫学調査機能強化のために細菌、ウイルス、理化学の検査、及び疫学部門の研究分担班を構成し検査法の開発等を行った。食中毒事例に対する営業停止などの行政処分はできる限り早期に行う事が望ましいが、食中毒菌の検出時間を短縮するためにリアルタイムPCR法を用いた網羅的迅速検査法を実用化した。また、呼吸器、中枢神経系疾患の原因ウイルスについては、20種類のウイルス遺伝子を迅速に検出する方法の開発とその標準化を行った。さらに、健康被害を起こす自然毒のLC-MS/MSを用いた迅速検出法を開発し、その標準化を行った。疫学機能強化については、地衛研における疫学データの分析・情報発信の強化を目的として人材育成と研究を行った。
研究方法
4つの研究分担班を構成し30以上の地研の協力を得て研究を行った。
1. 細菌部門:リアルタイムPCR法を用いた食水系感染症原因細菌の網羅的検査法と精度管理
2. ウイルス部門:原因不明ウイルス感染症に対する迅速網羅的診断法とその精度管理法の開発
3. 理化学部門:健康危機関連化合物特に自然毒の迅速かつ網羅的検査法の構築と精度管理に関する研究
4. 疫学部門:疫学情報解析機能の強化と人材育成に関する研究
結果と考察
1.  細菌部門 リアルタイムPCR法を用いた食水系感染症原因細菌の網羅的検査法と精度管理
 24セットのうち、8組20本のプライマーについて設計し直すなどの改良により検出感度が100倍以上改善し、迅速かつ正確な食中毒原因の探索が可能となると考えられた。そこで、実際の食中毒事例(総患者数67名)に応用し、いずれも培養法と同等かそれ以上の感度を得た。これにより初めて行政依頼検査に使用できるレベルとなった。
2. ウイルス部門 原因不明ウイルス感染症に対する迅速網羅的診断法とその精度管理法の開発
研究協力者の4つの参加機関において、作製したマルチプレックスPCR診断法を用いて呼吸器および中枢神経感染症患者検体について病原体の検出を行い、検出率等を検討した結果、single PCRと遜色ない検出感度が得られたと結論した。
3. 理化学部門 健康危機関連化合物特に自然毒の迅速かつ網羅的検査法の構築と精度管理に関する研究
1)自然毒による中毒事例データベースの収録件数
収録総件数は255件である。
2)LC-MS/MSによる自然毒の迅速試験法の開発
トリカブト毒のアコニチン、メサコニチン、チョウセンアサガオのアトロピン、スコポラミンについて抽出法を検討した。また、LC-MS/MSの条件もそれぞれ検討した。参加機関で添加回収試験を行ったところ全ての機関で良好な回収率を得た。
20機関と多くの参加機関があり、自然毒の検出法の開発、標準化に関するニーズが極めて高いことが示唆された。今回検討したLC-MS/MSによる迅速試験法は約2時間で自然毒を定量することができ、また、精度管理も良好な結果であったことから、健康危機管理への迅速、的確な対応に有効な手段として活用が期待される。
4. 疫学部門 疫学情報解析機能の強化と人材育成に関する研究
1)研修プログラムの検討
体系的な人材育成研修制度については、平成23年度の情報センター実務研修で作成した研修プログラムを基に、オーダーメイド研修プログラムの作成を行った。情報センター職員として習得が必要とされる基礎項目と、各自治体における優先度や制限により受講する選択項目に分けたオーダーメイド研修のプログラムを提案した。
2)感染症情報センター職員の研修会
 第71回日本公衆衛生学会総会で自由集会を開催し各講演者から報告を受け、質疑、参加者からの追加報告等が行われた。
3)地図表示プログラムの開発
感染症情報(患者数)を保健所管区に分けて地図上に表示するための方法を開発した。

結論
本研究班で開発した食中毒菌の網羅的迅速検査法、multiplex PCRを用いたウイルスの検査法、自然毒検出法のすべてについて有用性が示され、食中毒事例、臨床検体に応用し十分な検出感度があることが検証された。これらの方法が地衛研において使用されれば検査の迅速性、正確性の向上に大きく貢献するであろう。開発した方法についての地衛研の関心は極めて高く、今後普及をはかっていく。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201237004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地方衛生研究所は、地方行政のフロントラインにおける試験検査機関として、感染症、食中毒の原因究明のための検査を、利用可能な最も高いレベルの技術を用いて原因を迅速且つ正確に究明する事を使命としている。本研究班では、多くの病原体の遺伝子を迅速に検出することのできる検査法について検討しその実用化を行い、多くの地方衛生研究所においてその検出感度、精度について検証を行った。その結果、ウイルス、食中毒原因細菌、自然毒について有効な検査法を開発することができた。
臨床的観点からの成果
食中毒原因細菌の迅速検査法は、食中毒事例の早期解決を図り患者数の削減に貢献すると思われる。ウイルス検査法は、老健施設などにおける呼吸器疾患のアウトブレイクの原因究明に役立ち、感染防止策等の感染拡大防止につながる。また、自然毒に関しては事例数が少ないことから患者数削減に大きな貢献はないと思われるが、新聞報道されるなど社会的インパクトは大きいため、食の安心確保には重要である。
ガイドライン等の開発
今後、地方衛生研究所で利用できるようマニュアルを作成する予定である。
その他行政的観点からの成果
食中毒菌の迅速検査法は、今後自治体における食中毒原因究明に使われていることが予想される。
その他のインパクト
○新聞
・朝日新聞 朝刊
取材日:平成25年6月19日(水)  記事掲載日:平成25年6月21日(金)
○テレビ
 ・山陰中央テレビ 
  取材日:平成25年6月19日(水) 
番組名:TSK Super NEWS
  放送日時:平成25年6月20日(木)18時15分~30分
第87回日本細菌学会総会 ワークショップ「食中毒原因菌24標的遺伝子の網羅的迅速検出法の評価」
○メディカルトリビューン
2014年5月1日 「食中毒菌の検出が迅速・効率的に」RFBS24

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
リアルタイムPCR法による食品媒介病原菌の網羅的迅速検出方法
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
リアルタイムPCR法による食品媒介病原菌の網羅的迅速検出方法
詳細情報
分類:
特許番号: 5267293
発明者名: 福島 博
権利者名: 島根県
出願年月日: 20090413
取得年月日: 20130517
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
鈴木智之,神谷信行,八幡裕一郎他
地方感染症情報センター担当者に対する研修プログラムの需要
日本公衆衛生雑誌 , 60 (3) , 146-152  (2013)
原著論文2
池田徹也,山口敬治,嶋智子他
stx1,stx2,eae検出用マルチプレックスリアルタイムPCRの検討
北海道立衛生研究所報 , 63 , 69-72  (2013)
原著論文3
Kawase J, Kurosaki M, Kawakami Y, et al.
Comparison of two methods of bacterial DNA extraction from human fecal samples contaminated with Clostridium perfringens, Staphylococcus aureus, Salmonella Typhimurium, and Campylobacter jejuni.
Japanese Journal of Infectious Diseases , 67 (6) , 441-446  (2014)
原著論文4
Kawase J, Etoh Y, Ikeda T, et al.
An Improved Multiplex Real-Time SYBR Green PCR Assay for Analysis of 24 Target Genes from 16 Bacterial Species in Fecal DNA Samples from Patients with Foodborne Illnesses.
Japanese Journal of Infectious Diseases , 69 (3) , 191-201  (2016)
10.7883/yoken.JJID.2015.027.

公開日・更新日

公開日
2014-06-09
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201237004Z