高齢者在宅酸素療法のコンプライアンスと酸素吸入効率の評価方法の確立

文献情報

文献番号
199800164A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者在宅酸素療法のコンプライアンスと酸素吸入効率の評価方法の確立
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 好規(名古屋大学医学部第一内科)
研究分担者(所属機関)
  • 下方薫(名古屋大学医学部予防医療部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の在宅医療では、知的側面と身体的側面の2面からのハンディキャップを有し、疾患の十分な自己管理が期待できない場合が予想される。このような高齢者において、在宅医療が医学的な立場から効果的に実施されているかどうかを客観的に評価する方法の確立が、高齢化社会の在宅医療を考える上で不可欠であると考えられる。本研究は、在宅酸素療法患者を対象として、在宅における酸素吸入効率についての客観的評価方法の確立を目的とした。さらに、吸入酸素療法が心機能に与える影響についても検討した。
研究方法
(1)対象:65歳以上の慢性肺疾患を有し、在宅酸素療法を行っている患者を対象とした。エントリークライテリアとして、2ヶ月以上症状の安定していること,腎疾患・肝疾患・コントールされていない糖尿病・高血圧・心不全を合併していないこと,睡眠時無呼吸の症例でないことの条件を満たしている症例を対象とした。対象となる被検者全員より同意を得たうえでエントリーを行った。(2)方法:携帯用ホルター装置(SM-50,フクダ電子, 東京)及びパルスオキシメーター(Siemens Medical Systeme Inc., Danvers, MA, USA)を24時間装着した。パルスオキシメーターの測定は中指より行った(Dispo-sensor D-25, Nelcore, USA)。記録カセットの第1、2チャンネルには心電図、第3チャンネルにはSpO2のデータを入力し、SpO2値と心電図の同時記録を行った。データ解析は、フクダ電子社製 DMW-9000H を使用した。患者には24時間の行動の記録を依頼した。
(3)解析:解析はSpO2の値によりFletcherの定義に従い患者を2群に分類した。すなわち、24時間のSpO2を測定し、SpO2が90%未満の値を5分以上持続する症例をDesaturation群とし、それ以外をNon-Desaturation群として患者背景と測定結果について検討を行った。昼間、トイレ歩行等の夜間体動時,睡眠時の3区分し、SpO2の基準値と最低値の差、SpO2平均値、動脈血液ガス分析、呼吸機能、年齢、Hb の相関関係につき検討を行った。基準値は朝ならびに夜間臥床後のSpO2が安定している30分間のSpO2の平均を用いた。
結果と考察
症例:症例は13例(男性10例、女性3例)であり、年齢は65歳から81歳であった。基礎疾患は肺気腫5例、間質性肺炎4例,陳旧性肺結核2例、気管支拡張症1例、肺アスベスト症1例であった。外来症例9例、入院症例5例で実施した。在宅酸素導入期間は、導入初期症例から,最長4年7ヶ月の症例であった。日常使用酸素投与量は0.5~2L/分、24時間経鼻投与であった。昼間の安静時の室内気呼吸下の動脈血液ガス分析は、PaO2が40mmHg 台の患者2人、50mmHg 台の患者6人,60mmHg台の患者3人、70mmHg台の患者2人であった。PaO2が60mmHg以上の症例が5名含まれているが、体動時にSpO2が50mmHg 台へ低下する症例であった。PaCO2は30mmHg 台7人、40mmHg 台4人、50mmHg 台2人であった。呼吸機能検査は、拘束型を示す症例が3名、閉塞型3名、混合型5名、正常1名であり、1人は測定ができなかった。
Desaturation群の解析:(1)90%未満のSpO2の値が5分以上続くDesaturation群は、検討した14例中2例に認められた。その基礎疾患は気管支拡張症と肺気腫であった。90%未満のSpO2値が、5分以上続く症例と5分未満の症例に分け、患者背景をWilcoxon(Kruskal-Wallis Tests) にて検討を行ったところ、昼間のSpO2最低値は、Desaturation群では、Non-Desaturation群に比べて有意に低値であった。また、Desaturation群では昼間の平均SpO2値においてもNon-Desaturation群に比べ有意に低値であった。(2)昼間のSpO2の基準値、夜間睡眠時のSpO2の基準値についての検討では、Desaturation群において2者の基準値ともにNon-Desaturation群に比べ有意に低値であった。(3)Desaturation群は、昼間安静時のPaCO2、PaO2、呼吸機能検査からは予測できなかった。
One point のSpO2低下に関する検討:(1)夜間睡眠時および夜間体動時の夜間基準値からの差(DSpO2)とPaCO2、PaO2との相関関係につき検討した結果、夜間体動時のDSpO2とPaCO2は相関が認められた。PaO2との間には相関は認められなかった。夜間睡眠時のDSpO2と,PaCO2,PaO2との相関関係は認められなかった。
(2)夜間体動時のDSpO2と%VCは逆相関が認められた。FEV1.0%とは相関は認められなかった。夜間睡眠時のDSpO2と%VC,FEV1.0%との相関関係は認められなかった。
その他:(1)夜間SpO2の値が90%未満となる時間の合計について検討を行ったが、PaCO2,PaO2,呼吸機能についての相関関係は認められなかった。(2)不整脈に関しては連発の心室性期外収縮が6例,上室性期外収縮が10例と多く認められたが,不整脈の出現とSpO2の低下時とは一致しなかった。ST低下は認められなかった。
本研究は、高齢者の在宅酸素療法患者において、在宅での血液酸素飽和度の24時間測定を行うことにより、在宅酸素療法のコンプライアンスを評価するとともに、酸素吸入効率についての客観的な評価方法を検討し、安全で効率的な高齢者における在宅酸素療法の確立を目的として実施された。その結果、高齢者では日常動作そのものが低下しており、24時間SpO2モニターにより評価される在宅酸素療法のコンプライアンスは2例を除き比較的よく保たれていた。今回の検討から、この2例のDesaturation群の予測は、昼間安静時のPaCO2,PaO2、呼吸機能検査からは予測できなかった。しかし、昼間のSpO2の最低値と昼間の平均SpO2値が低い患者においては,夜間睡眠時における低酸素状態をきたす可能性があり、昼間の一定期間のSpO2が低値である症例における夜間のSpO2の測定の必要性が示唆された。さらに、夜間体動時のSpO2の低下と%VCとの間に相関が認められた。これまでに、Connaughtonらにより%VCが低いと予後が悪いと報告されており、今後夜間体動時のSpO2の低下する症例についての予後の検討が必要であると考えられた。一方、ホルター心電図との連動によるSpO2の解析では、不整脈の誘発と低酸素状態とは必ずしも相関していなかったが、かなりの症例で不整脈が観察されており、今後の検討が必要であると考えられた。
結論
本研究結果より、高齢者の在宅酸素療法患者に対する24時間SpO2モニターは、在宅酸素療法のコンプライアンス評価における有用性のみならず、酸素投与方法の個別化、特に夜間睡眠時低酸素状態の認識とその予防にきわめて有効な方法であることが示された。昼間の一定期間の平均SpO2が低値である症例では、24時間SpO2モニター法を用いた夜間のSpO2の測定が推奨された。今後、夜間体動時のSpO2の低下する症例について予後も含めた検討の必要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-