文献情報
文献番号
201236019A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトへの外挿を目指したナノマテリアルの健康影響評価手法の開発
課題番号
H24-化学-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
武田 健(東京理科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 立花 研(東京理科大学 薬学部)
- 梅澤 雅和(東京理科大学 総合研究機構)
- 新海 雄介(東京理科大学 薬学部)
- 菅又 昌雄(栃木臨床病理研究所)
- 井原 智美(栃木臨床病理研究所)
- 中村 伸(NPOプライメイト・アゴラ)
- 光永 総子(NPOプライメイト・アゴラ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究課題は、ナノマテリアルの健康影響について特に、1)低用量曝露による次世代雄性生殖系への影響、2)次世代の免疫系・中枢神経系への影響、3)霊長類免疫系・中枢神経系に対する影響を明らかにしようとするものである。1)では妊娠期におけるナノマテリアルの低用量曝露が次世代に及ぼす影響について、次世代の雄性生殖系機能をマーカーとしたげっ歯類の影響評価系の確立を目指している。2)3)を通して、ナノマテリアルが免疫系に及ぼす影響について、ヒトに外挿できる霊長類及びげっ歯類の評価系を確立することを目指している。
研究方法
1)次世代雄性生殖系への影響評価では、妊娠マウス1匹あたり0.5μg(ヒト換算で約0.5~1mg/人)という低用量の二酸化チタンが次世代雄性生殖器に及ぼす影響を、精子・精巣の超微小形態を中心に評価した。さらに、二酸化チタンを妊娠マウスに投与した際に生じる胎児及び出生児血液中の小分子 RNA(マイクロ RNA)の変動プロファイルを解析した。2)次世代免疫系への影響評価では、ナノマテリアルの妊娠期経気道曝露による次世代免疫系への影響を、カーボンブラックナノ粒子を用いて、胸腺及び二次リンパ組織の変化に焦点を当てて進めた。3)霊長類を用いた研究では、ナノマテリアルが二次リンパ組織(リンパ節)に及ぼす影響を、組織病理学的解析及びトランスクリプトミクス解析により進めた。
結果と考察
次世代雄性生殖系への影響評価では、二酸化チタンナノ粒子の仔への移行と影響の程度について、粒子のコーティング(アルミナ)の有無による差異が生じることを示した。次世代免疫系への影響評価では炭素系ナノマテリアルの妊娠期投与(経気道)が次世代新生児期の胸腺のリンパ球分化・選択に影響を及ぼし、二次リンパ組織のT細胞比率を低下させるというデータを得た。
霊長類を用いた研究では、皮内投与した各種ナノ材料が、近傍リンパ節のマクロファージにおけるアポトーシスとファゴサイトーシスを亢進し、免疫機能を顕著に変調することが示された。とくに、リンパ節での遺伝子発現の転写過程への影響が特徴的であり、スプライシング異常に伴う機能遺伝子の転写障害につながる可能性が示唆された。さらに、クエン酸代謝系の主要遺伝子の発現抑制を起因とするミトコンドリア機能障害ならびにエネルギーバランス失調の可能性が示唆された。
ナノ粒子による次世代影響は仔への移行・蓄積だけでなく、それに伴いどのような影響が生じるのかという機能的な解析が必須である。現在のところ、ナノ粒子の次世代影響としての機能的変化は不明な点が多いが、「次世代免疫系・中枢神経系への影響解析」で示した“機能的トランスクリプトミクス解析”(遺伝子アノテーションを活用)を駆使してこれが明らかになることにより、ナノマテリアルの次世代影響のリスク評価に利用できるエンドポイントの創出に迫ることができる期待される。すでに、げっ歯類を用いた研究で確率した本手法の、霊長類を用いた研究への応用を進めている。
本研究の大きな特色の一つは、ヒトに外挿可能なリスク評価系を確立するために、霊長類モデルを活用している点である。本プロジェクトの2年目以降も、げっ歯類モデルで得られる多くのデータ・知見の霊長類モデルでの検証を進め、ヒトへの外挿可能性を考察していくことが必要であると考えている。
霊長類を用いた研究では、皮内投与した各種ナノ材料が、近傍リンパ節のマクロファージにおけるアポトーシスとファゴサイトーシスを亢進し、免疫機能を顕著に変調することが示された。とくに、リンパ節での遺伝子発現の転写過程への影響が特徴的であり、スプライシング異常に伴う機能遺伝子の転写障害につながる可能性が示唆された。さらに、クエン酸代謝系の主要遺伝子の発現抑制を起因とするミトコンドリア機能障害ならびにエネルギーバランス失調の可能性が示唆された。
ナノ粒子による次世代影響は仔への移行・蓄積だけでなく、それに伴いどのような影響が生じるのかという機能的な解析が必須である。現在のところ、ナノ粒子の次世代影響としての機能的変化は不明な点が多いが、「次世代免疫系・中枢神経系への影響解析」で示した“機能的トランスクリプトミクス解析”(遺伝子アノテーションを活用)を駆使してこれが明らかになることにより、ナノマテリアルの次世代影響のリスク評価に利用できるエンドポイントの創出に迫ることができる期待される。すでに、げっ歯類を用いた研究で確率した本手法の、霊長類を用いた研究への応用を進めている。
本研究の大きな特色の一つは、ヒトに外挿可能なリスク評価系を確立するために、霊長類モデルを活用している点である。本プロジェクトの2年目以降も、げっ歯類モデルで得られる多くのデータ・知見の霊長類モデルでの検証を進め、ヒトへの外挿可能性を考察していくことが必要であると考えている。
結論
本研究課題では、ナノマテリアルの健康影響について、1)次世代雄性生殖系への影響解析、2)次世代免疫系への影響解析を通して次世代影響の短期間(新生児マウス)での評価、ならびに、3)霊長類免疫系に及ぼす影響解析を通して、ヒトへの外挿が可能な低用量ナノマテリアルによる影響の鋭敏かつ定量的な評価を実現しつつある。さらに、トランスクリプトミクス及びその機能的解析により、未知の毒性も含めて低コストで検出できる評価系を確立できると考えている。
以上の研究を2年度目以降にさらに進展させ、ヒトに外挿可能なナノマテリアルの健康影響評価系(胎児や新生児という高感受性集団への影響評価を含む)を確立することにより、国民の健康・安全を守ることとナノテクノロジー産業の健全な発展との両立に貢献できると期待している。
以上の研究を2年度目以降にさらに進展させ、ヒトに外挿可能なナノマテリアルの健康影響評価系(胎児や新生児という高感受性集団への影響評価を含む)を確立することにより、国民の健康・安全を守ることとナノテクノロジー産業の健全な発展との両立に貢献できると期待している。
公開日・更新日
公開日
2013-05-20
更新日
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