文献情報
文献番号
201236011A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコーホート研究に基づく先天異常,免疫アレルギーおよび小児発達障害のリスク評価と環境化学物質に対する遺伝的感受性の解明
課題番号
H23-化学-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
- 水上 尚典(北海道大学 大学院医学研究科)
- 遠藤 俊明(札幌医科大学 医学部)
- 千石 一雄(旭川医科大学 医学部)
- 野々村 克也(北海道大学 大学院医学研究科)
- 有賀 正(北海道大学 大学院医学研究科)
- 梶原 淳睦(福岡県保健環境研究所)
- 松村 徹(いであ株式会社 環境創造研究所)
- 石塚 真由美(北海道大学 大学院獣医学研究科)
- 松浦 英幸(北海道大学 大学院農学研究院)
- 安住 薫(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 佐々木 成子(北海道大学 大学院医学研究科)
- 吉岡 英治(旭川医科大学 医学部)
- 池野 多美子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 荒木 敦子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 宮下 ちひろ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
51,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
妊婦を対象に、前向きコーホート研究で環境化学物質曝露による先天異常、SGAおよび低出生体重、免疫アレルギー・感染症、発達障害への影響をリスク評価し、遺伝的感受性を含めてそのメカニズムを解明し、環境化学物質による健康障害の予防策を構築する。
研究方法
産科施設の協力により二つの前向きコーホートを設定した。地域ベースの37病院が参加している大規模コーホート研究では、医師が記載した新生児個票から先天異常と55種マーカー奇形を調べた。1産院514人の小規模コーホートの児については、母児のPCBs・ダイオキシン類や有機フッ素化合物(PFCs)、ビスフェノールA(BPA)など化学物質曝露評価を行った。曝露評価のため、血液中のPFCs11化合物の一斉分析方法、微量PCBs・ダイオキシン類、水酸化PCB(OH-PCB)の一斉測定法およびBPA分析方法を確立した。PFCs濃度の経年変化とPFCs曝露による出生体重、1歳児アレルギーへの影響を評価した。大規模コーホートの先天性心疾患症例と対照各22例について臍帯血を用いPCBs・ダイオキシン類、OH-PCB曝露との関連を検討した。妊婦血中OH-PCB値と母児甲状腺機能の関連、BPAの母体血と臍帯血の血中濃度測定、および毛髪水銀濃度曝露レベルと出生時体格に影響する生活要因を検討した。胎児期環境化学物質曝露が児ゲノムDNAのメチル化に与える影響について研究動向を精査した。ADHD関連症状への妊娠中喫煙および学童期受動喫煙曝露による影響を検討した。
結果と考察
(1)平成24年度までの新生児個票提出者19,680名のうち、先天異常の児総数は378名、マーカー奇形266名、その他の異常143名で、先天異常児の出産頻度は1.92%であった。この結果は日本産婦人科医会先天異常モニタリングの結果より高かった。産科施設の規模が様々であることから一般的な地域の傾向を反映していると考えられる。(2) PFCs11化合物の一斉分析法を確立し、PFOSだけでなく近年曝露量増加が指摘され、生物濃縮が高いことが示唆されるPFNA,PFDA,PFHxSも含めたリスク評価が可能となった。経年変化では2003年から2011年で母体血中PFOS,PFOA濃度は有意に減少した一方で、PFNA,PFDA濃度は有意に上昇した。PFNA曝露レベルが高いほど出生時体重と身長が有意に低く、特に男児に影響が強かった。PFCs曝露と1歳までのアレルギー症状に有意な関連は認められなかった。今後2歳、4歳のアレルギー疾患および感染症との関連を検討する。(3) OH-PCB類の一斉分析法を用い、先天性心疾患をアウトカムにコーホート内症例対照研究で検討した結果、臍帯血中の総PCB濃度は小規模コーホート妊婦の約73%であった。OH-PCB曝露による母児甲状腺への影響は小規模コーホートでは認められなかった。今後大規模コーホートを用いて学童期の神経発達まで影響を評価する。(4)血中微量BPA分析方法を確立した。母児の濃度相関では、臍帯血BPA濃度が母と同程度であったことから胎児への移行が示唆された。 (5) メチル水銀は胎児発育を促進させる魚介類摂取により曝露するが、毛髪中の総水銀濃度と出生体格に有意な関連は認められなかった。現状の水銀濃度では胎児発育に大きな影響はないことが示唆された。 (6) 先行研究の精査により、環境化学物質の胎児期曝露による児ゲノムDNAのメチル化パターン変動、また喫煙曝露によるメチル化変化率が高いことが確認された。 (7) 妊娠前及び妊娠中の喫煙者は、ADHD関連症状の得点が高い傾向を示し、7歳時の母親または父親の喫煙状況がADHDに影響を及ぼすことが示唆された。生育環境としてストレスイベント数の多さが症状を強める可能性が示された。今後社会経済要因と学童期の尿中コチニン測定による受動喫煙曝露も含めADHDへの影響を検討する。
結論
本研究により、PFCs11化合物、PCBs・ダイオキシン類、水酸化PCB、BPAの一斉分析方法を確立し、これら環境化学物質について微量血液を用いた曝露評価が可能となった。今後は先天異常や発育、アレルギー・感染症、発達障害などをアウトカムに出生コーホート内症例対照研究の形で分析を確実に行う。さらに、先天異常、発育など次世代影響の重要な交絡要因となる母体血中葉酸濃度や葉酸サプリメント摂取、母の能動・受動喫煙の有無による影響を検討し、化学物質代謝関連酵素遺伝子多型やDNAメチル化などの先天的・後天的遺伝変異を解析することで、環境と遺伝の交互作用を考慮したリスク評価を行う。その結果、先天異常、胎児発育、乳幼児期の発達や免疫アレルギーなど環境化学物質による次世代影響について、世界的にも初めて人の疫学研究で実証的に解明することが可能となる。
公開日・更新日
公開日
2013-06-04
更新日
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