個体の成長期における神経系および肝臓系細胞の機能解析による化学物質の健康影響評価法に関する研究

文献情報

文献番号
201236004A
報告書区分
総括
研究課題名
個体の成長期における神経系および肝臓系細胞の機能解析による化学物質の健康影響評価法に関する研究
課題番号
H22-化学-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐見 誠(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 薫(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 石田 誠一(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 簾内 桃子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
27,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前年度までの結果を基にして、各実験系の特徴および有用性を検討し、成長期の個体における各発達段階において、遊走、分化、増殖、神経回路形成、神経応答および薬物動態を指標とすることによって体系的に発達段階特異的な毒性を評価できる健康影響評価法を確立することを目的とした。
研究方法
①ラット神経堤細胞遊走実験法を用いて、発生毒性を有する種々の化学物質による神経堤細胞の遊走に及ぼす影響を調べた。神経堤細胞の遊走を阻害した化学物質について、神経堤細胞におけるRhoシグナルパスウェイのリン酸化アクチン結合タンパクを調べた。
②新生ラット前脳矢状面切片培養系を用いて、メカニズムに基づくマーカー分子の探索を行った。また、鉛およびサリチル酸の影響評価を行った。
③ヒトEmbryonic Carcinoma細胞株由来の神経幹/前駆細胞を用いて、鉛、銅がヒト胎児性癌細胞の生細胞数、糖輸送、酸素消費量に及ぼす影響を調べた。
④メタボローム解析により、成人肝細胞と胎児肝細胞由来の細胞における尿素回路の機能を調べた。化学物質暴露実験として、成人肝臓および胎児肝臓に対する毒性の差について調べた。
⑤幼若期ヒト肝細胞を用いて、成体における薬物動態データを利用するために、ヒト周産期薬物動態関連因子の発現解析を行い、データを蓄積した。
⑥細胞外に遊離するγ-アミノ酪酸の可視化法と海馬反回抑制の電気生理学的評価法を用いて、化学物質への胎児期曝露が脳の生後発達にもたらす影響を調べた。
結果と考察
①ラット神経堤細胞遊走実験法においては、種々の発生毒性物質による影響を調べ、神経堤細胞遊走に及ぼす化学物質の影響のメカニズムおよびそれを利用した健康影響評価法について検討した結果、本実験法は化学物質の発生毒性メカニズムに関する探索に利用できると考えられた。
②新生ラット前脳矢状面切片培養系においては、ヒトへの外挿を目指すため、メカニズムに基づくマーカー分子の探索を行った結果、マーカー分子として FGFR1, PDGF が有望であることを見いだした。また、鉛およびサリチル酸の影響評価を行い、両化学物質が生後初期オリゴデンドロサイトの分化、遊走を阻害することを明らかにした。
③神経幹/前駆細胞を用いた化学物質評価システムの構築においては、発達神経毒性が懸念される化学物質として鉛、銅がヒト胎児性癌細胞の生細胞数、糖輸送、酸素消費量に及ぼす影響を調べた結果、酸素消費量の低下が最も高感度のマーカーであったことから、酸素消費量は毒性評価に応用できる可能性が示唆された。
④胎児肝細胞による化学物質への細胞応答のゲノミクス、メタボロミクス解析においては、成人肝細胞がアミノ酸代謝過程で産生するアンモニアを主に尿素回路を通して代謝しているのに対し、胎児肝細胞由来の細胞では尿素回路が機能していないことを明らかにした。化学物質暴露実験では、トリブチルスズ、アセトアミノフェン、バルプロ酸ナトリウムの3種の化学物質が成人肝臓に比べ、胎児肝臓に対してより毒性を示しやすいことが示唆された。
⑤幼若期ヒト肝細胞においては、成体における薬物動態データを利用するために、ヒト周産期薬物動態関連因子の発現解析を行い、データを蓄積した。
⑥成長期の大脳辺縁系回路機能解析による評価法においては、細胞外に遊離するγ-アミノ酪酸の可視化法と海馬反回抑制の電気生理学的評価法を用いて、抗てんかん薬であるバルプロ酸の胎児期曝露が脳の生後発達にもたらす影響を調べた結果、海馬神経活動の亢進と小脳抑制性神経伝達物質の放出量の増加が認められ、抑制性神経回路の早熟化が示唆された。生後の早い段階の脳スライス標本を用いたこれらの解析が発達神経毒性評価に有用であることを示した。
以上の結果および前年度までの結果を基にして、各実験系の特徴および有用性を検討し、成長期の個体における各発達段階において、遊走、分化、増殖、神経回路形成、神経応答および薬物動態を指標とすることによって体系的に発達段階特異的な毒性を評価できる健康影響評価法を確立した。
結論
この評価法は、化学物質による健康被害を受けやすい遺伝的・環境的要因を持つハイリスク集団の特定、および感受性の高い個体についても安全を確保できるような安全係数の実験データに基づく決定法の確立、等に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201236004B
報告書区分
総合
研究課題名
個体の成長期における神経系および肝臓系細胞の機能解析による化学物質の健康影響評価法に関する研究
課題番号
H22-化学-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐見 誠(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 薫(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 石田 誠一(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 簾内 桃子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、神経系および肝臓系の細胞を用いた、発生・発達・再生過程の神経系においての、メカニズムおよび薬物動態を考慮したヒトへの外挿を可能とする、個体の成長期における化学物質の健康影響評価法の確立を目的とする。
研究方法
実験系の確立として、神経堤細胞の機能解析法、発達成長期の脳神経系におけるニューロン・グリア新生評価実験法、神経幹/前駆細胞の培養法、及び胎児肝細胞の培養系を確立する他、胎児・新生児肝における薬物動態関連因子の発現解析を行った。確立した実験系を用いて、毒性発現メカニズムに基づく化学物質の健康影響評価法としての有用性について調べた。さらに、共通の化学物質を被験物質として用いることにより、これらの実験系の特徴および有用性を検討し、化学物質の健康影響評価法として確立した。
結果と考察
①ラット神経堤細胞の遊走に及ぼす化学物質の影響を調べるための簡便な実験法を確立した。Rhoシグナルバスウェイにより制御される、アクチン結合タンパクのリン酸化を介した神経堤細胞の遊走に及ぼす化学物質の影響を解析することが可能であると考えられた。
②新生ラット前脳矢状面切片培養系において、生後初期のオリゴデンドロサイト新生に化学物質が及ぼす影響について薬理学的に検討可能なin vitro 評価系を確立した。オリゴデンドロサイトの分化および遊走への影響に関する結果をヒトへ外挿するためのバイオマーカー候補分子として、 fibroblast growth factor receptor (FGFR) 1、platelet derived growth factor receptor (PDGFR)αを見いだした。
③ヒト胎児性癌細胞を用いて、発達神経毒性が懸念される化学物質(有機スズ、鉛、銅)の影響を検討した。その結果、いずれもミトコンドリアにおいて酸素消費量を低下させることを明らかにした。従って、酸素消費量は毒性評価に応用できる可能性が示唆された。
④メタボローム解析では、胎児・新生児においても重要な薬物代謝器官であるが成体とは機能に差異があることが知られている肝臓について、ヒト胎児肝細胞の単層培養、胎児肝細胞より分化誘導された肝芽細胞の単層培養、肝芽細胞のスフェロイド培養、および、成人肝細胞の単層培養の4種のin vitro培養系について、メタボローム解析を行い、胎児および成人肝細胞間の代謝機能の差異を明らかにした。
⑤成体における薬物動態データを利用するために、ヒト周産期薬物動態関連因子の発現解析を行った。幼若期ヒト肝細胞においては、尿素系除草剤リニュロン並びにCYP1ファミリーの誘導剤であるメチルコラントレンおよびオメプラゾールにより、薬物代謝酵素のCYP1ファミリーが強く発現誘導されることを示した。
⑥発達期の脳組織での神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸による抑制機能を測定する種々のインビトロ実験手法の、化学物質の成長期における神経系への影響の評価系としての利用を検証した。胎児期にバルプロ酸に曝露されると、脳の成長期において海馬神経活動の亢進と小脳抑制性神経伝達物質の放出量の増加が認められることを示した。
各実験系の特徴および有用性を検討し、成長期の個体における各発達段階において、遊走、分化、増殖、神経回路形成、神経応答および薬物動態を指標とすることによって体系的に発達段階特異的な毒性を評価できる健康影響評価法を確立した。
結論
この評価法は、化学物質による健康被害を受けやすい遺伝的・環境的要因を持つハイリスク集団の特定、および感受性の高い個体についても安全を確保できる安全係数の実験データに基づく決定法の確立、等に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201236004C

収支報告書

文献番号
201236004Z