文献情報
文献番号
199800162A
報告書区分
総括
研究課題名
老年者頻尿・尿失禁の有効な治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
八竹 直(旭川医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 栗田孝(近畿大学)
- 小柳知彦(北海道大学)
- 宇高不可思(財団法人住友病院)
- 井川靖彦(信州大学)
- 嘉村康邦(福島県立医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢化社会を迎え、尿失禁は老年者の生活の質を著しく損なうのみならず介護者の負担を増すものであり、大きな社会的・医学的な問題となっている。さらに尿失禁は寝たきり、痴呆等のもうひとつの社会的問題とも密接に関連しており、老年者の尿失禁対策の確立は社会的急務である。また老年者に見られる頻尿は睡眠障害や切迫性尿失禁の原因ともなり、日常生活での快適さを大いに損なうものであり尿失禁とともにその解決が急がれている。老年者においては加齢とともに合併症等による身体的、精神的変化も加わり、頻尿・尿失禁の病態の解明には通常の神経学的あるいは泌尿器科学的検査では十分に対応できていない。本研究ではこのような老年者の頻尿・尿失禁に対して、その病態の特殊性と介護等の社会的因子に対応した有効な治療法の開発を目的とする。
研究方法
平成10年度の研究においては平成8、9年度の研究“老年者尿失禁の有効な治療法の開発"で明らかになった問題点を解決し、尿失禁およびそれと密接に関連する頻尿をも含めたより有効な治療法の開発と、安全性の確認を行う。尿失禁の重症度および効果判定については尿失禁重症度分類・治療効果判定基準(H7/7/22班会議承認、班長 小川秋實)に準じた。
1. 神経疾患に伴う老年者尿失禁の薬物治療と排尿管理方法の開発
(1) 膀胱容量自動監視装置 (宇高):痴呆や運動機能障害等を合併した患者もふくめた尿失禁患者を対象とし、膀胱 容量自動監視装置を用いた蓄尿排尿リズムの解析により、効率的な排尿管理・介護の方法、薬物療法の開発を行った。
2. 尿失禁に対する非侵襲的治療法の開発
(1) エストロゲン補充療法(栗田): 頻尿、尿失禁を訴え、明らかな泌尿器科学的神経学的異常を認めない閉経後女性10名(54-83歳)を対象とし8週間のエストラジオール(エストラダームTTSR 2mg)貼付療法の有効性、安全性について検討した。 (2) バイオフィードバック療法(嘉村): 真性腹圧性尿失禁(McGuire-Blaivas分類、type1 又は type2)と診断され、1時間パッドテストによる尿失禁量 が10 g 以下であった36名に、骨盤底筋筋電計ME300( MEGA社、フィンランド)を用いたバイオフィードバックPFEを4週間施行し、尿失禁量、骨盤底筋の筋力への効果を検討した。さらにPFEが無効だった症例について、その後の臨床経過を追跡調査し、その病態について検討した。 (3) 携帯型経皮的電気刺激療法(八竹):頻尿、尿失禁を有する高齢患者の9名(55~80歳、女2名、男7名)を対象とし、 市販の低周波治療器(オムロン社、京都市)に筋電図用の表面電極を接続できるように加工した刺激装置を使用した. 刺激部位は、男性では陰茎背面(陰茎背神経)で、女性では恥骨上や経穴の足三里とした。1回30分の刺激を、2~3回/日から1回/週の頻度で最低10回行った. また効果不十分な患者においては自宅での長期治療を継続した。
3. 過活動膀胱による難治性尿失禁の治療
(1) カプサイシン膀胱内注入療法(井川):過活動膀胱による難治性尿失禁患者15名を対象として、カプサイシン膀胱内注入療法の有効性について検討した。またカプサイシンよりも膀胱刺激症状が少なくより強い効果が期待できるレジニフェラトキシンについても検討した。
4. 外科的治療法
(1) 尿道スリング手術(小柳):老年女性の全てのタイプの腹圧性尿失禁に対応しうる術式として、腹直筋膜を用いた尿道スリング手術 (pubovaginal fascial sling) を施行し、尿失禁に対する長期成績につき検討した。
1. 神経疾患に伴う老年者尿失禁の薬物治療と排尿管理方法の開発
(1) 膀胱容量自動監視装置 (宇高):痴呆や運動機能障害等を合併した患者もふくめた尿失禁患者を対象とし、膀胱 容量自動監視装置を用いた蓄尿排尿リズムの解析により、効率的な排尿管理・介護の方法、薬物療法の開発を行った。
2. 尿失禁に対する非侵襲的治療法の開発
(1) エストロゲン補充療法(栗田): 頻尿、尿失禁を訴え、明らかな泌尿器科学的神経学的異常を認めない閉経後女性10名(54-83歳)を対象とし8週間のエストラジオール(エストラダームTTSR 2mg)貼付療法の有効性、安全性について検討した。 (2) バイオフィードバック療法(嘉村): 真性腹圧性尿失禁(McGuire-Blaivas分類、type1 又は type2)と診断され、1時間パッドテストによる尿失禁量 が10 g 以下であった36名に、骨盤底筋筋電計ME300( MEGA社、フィンランド)を用いたバイオフィードバックPFEを4週間施行し、尿失禁量、骨盤底筋の筋力への効果を検討した。さらにPFEが無効だった症例について、その後の臨床経過を追跡調査し、その病態について検討した。 (3) 携帯型経皮的電気刺激療法(八竹):頻尿、尿失禁を有する高齢患者の9名(55~80歳、女2名、男7名)を対象とし、 市販の低周波治療器(オムロン社、京都市)に筋電図用の表面電極を接続できるように加工した刺激装置を使用した. 刺激部位は、男性では陰茎背面(陰茎背神経)で、女性では恥骨上や経穴の足三里とした。1回30分の刺激を、2~3回/日から1回/週の頻度で最低10回行った. また効果不十分な患者においては自宅での長期治療を継続した。
3. 過活動膀胱による難治性尿失禁の治療
(1) カプサイシン膀胱内注入療法(井川):過活動膀胱による難治性尿失禁患者15名を対象として、カプサイシン膀胱内注入療法の有効性について検討した。またカプサイシンよりも膀胱刺激症状が少なくより強い効果が期待できるレジニフェラトキシンについても検討した。
4. 外科的治療法
(1) 尿道スリング手術(小柳):老年女性の全てのタイプの腹圧性尿失禁に対応しうる術式として、腹直筋膜を用いた尿道スリング手術 (pubovaginal fascial sling) を施行し、尿失禁に対する長期成績につき検討した。
結果と考察
1. 神経疾患に伴う老年者尿失禁の薬物治療と排尿管理方法の開発
(1) 膀胱容量自動監視装置(宇高):本装置による膀胱容量の経時的な記録から、一回排尿量、残尿量が推測でき、夜間・昼間の蓄尿速度、残尿量、膀胱容量が個々の症例で異なり、多彩な病態を示すことが判明した。対象症例すべて(30名)で尿失禁の病態が把握でき、この結果、薬物治療の効果判定、排尿指導・排尿誘導による尿失禁の予防が可能となった。また膀胱留置カテーテルからの離脱がみこまれる症例(15例)の判別を行い、全例でカテーテルの抜去と自排尿指導ができた。
2. 尿失禁に対する非侵襲的治療法の開発
(1) エストロゲン補充療法(栗田):検討可能な尿失禁症例は7例で,その結果は、尿失禁重症度分類では、全例でgrade downを示し、尿失禁治療効果判定では"著効"3例、"改善"2例、"やや改善"1例、"不変"1例であった。検討可能な頻尿症例は3例で、全例改善した。本療法は閉経後の尿失禁、頻尿に有効であると考えられた。 (2) バイオフィードバック療法(嘉村):骨盤底筋筋力は全例で経時的な増加がみられ、開始前と4週後の間に有意差を認めた。本療法で改善しない症例は内因性の尿道括約筋不全であった。 (3) 携帯型経皮的電気刺激療法(八竹):難治性尿失禁患者対象9例中4例で有効であった。腹圧性尿失禁および切迫性尿失禁では、十分な効果を得られなかった。無抑制括約筋弛緩による尿失禁患者では、薬物療法などが無効な難治性の症例であるにもかかわらず、電気刺激療法が十分な効果があった。また長期間刺激で効果が得られる症例もあり在宅での治療継続も有用と思われた。前立腺全摘後の難治性尿失禁に対しても、十分な効果が得られた。全例において安全性に問題はなかった。
3. 過活動膀胱による難治性尿失禁の治療
(1) カプサイシン膀胱内注入療法(井川):カプサイシン膀胱内注入療法は特に脊髄性排尿筋過反射および不安定膀胱による尿失禁に対して有効であり、その効果は3カ月から5年間持続した。再発例2例(脊髄性排尿筋過反射、不安定膀胱各1例)に対して行われたレジニフェラトキシン膀胱内注入療法は有効であった。これらの治療法は、過活動膀胱のうち脊髄性排尿筋過反射および不安定膀胱による尿失禁に対する新しい治療法として有用と思われた。レジニフェラトキシンはカプサイシンに比べて治療中および治療直後の副作用が軽微で、より好ましい治療薬として期待されることが示唆された。
4. 外科的治療法
(1) 尿道スリング手術(小柳):女性腹圧性尿失禁患者4例(タイプ2 尿失禁:3例、タイプ3 尿失禁:1例)に対し、尿道スリング手術を施行し、全例で腹圧性尿失禁の消失を認めた。術前から排尿筋収縮力の低下を認めていた1例をのぞき、術後2カ月後には正常な排尿機能になった。尿道スリング手術は尿失禁のタイプを問わず腹圧性尿失禁の治療として有効であるが、排尿筋収縮力低下のある症例では今後 tension-free をはかるための術式の改善が必要と思われた。
(1) 膀胱容量自動監視装置(宇高):本装置による膀胱容量の経時的な記録から、一回排尿量、残尿量が推測でき、夜間・昼間の蓄尿速度、残尿量、膀胱容量が個々の症例で異なり、多彩な病態を示すことが判明した。対象症例すべて(30名)で尿失禁の病態が把握でき、この結果、薬物治療の効果判定、排尿指導・排尿誘導による尿失禁の予防が可能となった。また膀胱留置カテーテルからの離脱がみこまれる症例(15例)の判別を行い、全例でカテーテルの抜去と自排尿指導ができた。
2. 尿失禁に対する非侵襲的治療法の開発
(1) エストロゲン補充療法(栗田):検討可能な尿失禁症例は7例で,その結果は、尿失禁重症度分類では、全例でgrade downを示し、尿失禁治療効果判定では"著効"3例、"改善"2例、"やや改善"1例、"不変"1例であった。検討可能な頻尿症例は3例で、全例改善した。本療法は閉経後の尿失禁、頻尿に有効であると考えられた。 (2) バイオフィードバック療法(嘉村):骨盤底筋筋力は全例で経時的な増加がみられ、開始前と4週後の間に有意差を認めた。本療法で改善しない症例は内因性の尿道括約筋不全であった。 (3) 携帯型経皮的電気刺激療法(八竹):難治性尿失禁患者対象9例中4例で有効であった。腹圧性尿失禁および切迫性尿失禁では、十分な効果を得られなかった。無抑制括約筋弛緩による尿失禁患者では、薬物療法などが無効な難治性の症例であるにもかかわらず、電気刺激療法が十分な効果があった。また長期間刺激で効果が得られる症例もあり在宅での治療継続も有用と思われた。前立腺全摘後の難治性尿失禁に対しても、十分な効果が得られた。全例において安全性に問題はなかった。
3. 過活動膀胱による難治性尿失禁の治療
(1) カプサイシン膀胱内注入療法(井川):カプサイシン膀胱内注入療法は特に脊髄性排尿筋過反射および不安定膀胱による尿失禁に対して有効であり、その効果は3カ月から5年間持続した。再発例2例(脊髄性排尿筋過反射、不安定膀胱各1例)に対して行われたレジニフェラトキシン膀胱内注入療法は有効であった。これらの治療法は、過活動膀胱のうち脊髄性排尿筋過反射および不安定膀胱による尿失禁に対する新しい治療法として有用と思われた。レジニフェラトキシンはカプサイシンに比べて治療中および治療直後の副作用が軽微で、より好ましい治療薬として期待されることが示唆された。
4. 外科的治療法
(1) 尿道スリング手術(小柳):女性腹圧性尿失禁患者4例(タイプ2 尿失禁:3例、タイプ3 尿失禁:1例)に対し、尿道スリング手術を施行し、全例で腹圧性尿失禁の消失を認めた。術前から排尿筋収縮力の低下を認めていた1例をのぞき、術後2カ月後には正常な排尿機能になった。尿道スリング手術は尿失禁のタイプを問わず腹圧性尿失禁の治療として有効であるが、排尿筋収縮力低下のある症例では今後 tension-free をはかるための術式の改善が必要と思われた。
結論
個々の患者の昼夜にわたる蓄尿排尿パターンを詳細にとらえることは尿失禁の予防、治療に重要であり、QOLの向上、看護・介助側の人的資源の効率化、経済効率の向上に寄与するものと思われた。老齢者の尿失禁の多様な病態にあわせた非侵襲的治療、膀胱内注入療法、手術療法はいずれも有効であり、今後の治療法の改良により更に有用性を高めることが期待された。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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