ステロイドホルモン受容体に作用する化学物質の構造活性相関に基づく毒性評価システム

文献情報

文献番号
201236002A
報告書区分
総括
研究課題名
ステロイドホルモン受容体に作用する化学物質の構造活性相関に基づく毒性評価システム
課題番号
H22-化学-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
早川 和一(金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 信雄(金沢大学 環日本海域環境研究センター)
  • 細井 信造(京都薬科大学 薬学教育研究センター)
  • 杉本 直樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
18,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon: PAH)類のようにステロイド系ホルモン受容体に結合してかく乱作用を発現する医薬品や化学物質の毒性発現の有無を予測可能とするために、構造-活性(酵母two-hybrid法によるエストロゲン様/抗エストロゲン作用)相関に基づく物理化学的手法と魚のウロコや受精卵を用いる生物学的手法を組み合わせた方法を開発する。また、信頼性向上を目的に、被検化合物の純度検定法を開発する。
研究方法
 PAHとその酸化代謝物である水酸化体、キノン体等を対象として、次のことを行った。
1.大気及び海洋のPAH汚染レベルを測定。
2.Ames試験による変異原性、酵母two-hybrid アッセイによる内分泌かく乱作用、FOXアッセイ及びDTTアッセイによる活性酸素種(ROS)産生作用を評価、
3.酵母two-hybrid法を用いて活性があった化合物について構造-活性相関を詳細に解析。
4.3において強い活性が認められた物質について魚ウロコ培養系及び受精卵培養系で影響を評価。
5.核磁気共鳴(NMR)及びGC-MSでの市販試薬の純度測定法について、より詳細に検討。
結果と考察
1.能登半島先端では、冬季(10月中旬~4月中旬)にPAH、ニトロPAH(NPAH)濃度が高く、組成及び後方流跡線解析からPAH、NPAHが日本まで長距離輸送されていることを証明。
2.PAHQのうちオルト体にのみROS過剰産生作用があることを発見。
3.酵母two-hybrid アッセイで強い内分泌かく乱作用を示したPAHQ及びOHPAHについて、種々の構造パラメータと活性の間の相関性を精査したが、環数、L/B比、O-H距離、部分電荷の組み合わせを上回るパラメータ見つからず。
4.3において強い活性が認められた4-Hydroxybenso[a]pyreneは魚ウロコ培養系及び受精卵培養系でも強い影響があり、酵母two-hybrid アッセイの結果と相関。
結論
 PAH類の構造と酵母two-hybrid法によるエストロゲン様/抗エストロゲン作用との間に構造-活性相関があり、いくつかの構造パラメータに基づいて毒性を有する可能性がある候補物質を大まかに予測可能であることがわかった。しかし、魚ウロコ培養系や受精卵培養系はエストロゲン受容体以外の関与も含まれることから、酵母two-hybrid法の結果とは一致しない場合があることが確認された。また、これら評価系で活性が現れるOHPAH濃度は、実際の油流出事故海域等で生息する動物体内に予想される濃度範囲にあることもわかった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201236002B
報告書区分
総合
研究課題名
ステロイドホルモン受容体に作用する化学物質の構造活性相関に基づく毒性評価システム
課題番号
H22-化学-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
早川 和一(金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 信雄(金沢大学 環日本海域環境研究センター)
  • 細井 信造(京都薬科大学 薬学教育研究センター)
  • 杉本 直樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon: PAH)類のようにステロイド系ホルモン受容体に結合してかく乱作用を発現する医薬品や化学物質の毒性発現の有無を予測可能とするために、(1)酵母two-hybrid法によるエストロゲン様/抗エストロゲン作用の強さと披検物質のエストロゲン受容体結合・作用発現に必要な物理化学係数との相関に基づく物理化学的予測手法と、(2)魚のウロコや受精卵に及ぼす影響の強さを用いる生物学的評価手法を組み合わせた方法を開発する。また、信頼性向上を目的に、被検化合物の純度検定法を開発する。
研究方法
 PAHとその酸化代謝物である水酸化体、キノン体、ケトン体合計90種以上を対象として、次のことを行った。
1.大気及び海洋のPAH汚染レベルを測定し、開発する方法が測定できる濃度範囲と比較する。
2.Ames試験による変異原性、酵母two-hybrid アッセイによる内分泌かく乱作用、FOXアッセイ及びDTTアッセイによる活性酸素種(ROS)産生作用を測定し、可能なものは相対活性値として数値化。
3.酵母two-hybrid法を用いて活性があった化合物について構造-活性相関を詳細に解析し、密接に関連する構造パラメータを抽出。
4.3において強い活性が認められた物質について魚ウロコ培養系及び受精卵培養系で影響を評価。
5.核磁気共鳴(NMR)及びGC-MSでの市販試薬の純度測定法について、より詳細に検討。
結果と考察
1.能登半島先端では、冬季(10月中旬~4月中旬)にPAH、ニトロPAH(NPAH)濃度が高く、組成及び後方流跡線解析からPAH、NPAHが日本まで長距離輸送されていることを証明。
2.日本海のPAH負荷ルートとして大気経由の寄与が小さくないことを試算。
3.PAHQのうちオルト体にのみROS過剰産生作用があることを発見。
4.酵母two-hybrid アッセイで強い内分泌かく乱作用を示したPAHQ及びOHPAHについて、種々の構造パラメータと活性の間の相関性を精査したが、環数、L/B比、O-H距離、部分電荷の組み合わせを上回るパラメータ見つからず。
5.4において強い活性が認められた4-Hydroxybenso[a]pyreneは魚ウロコ培養系及び受精卵培養系でも強い影響があり、酵母two-hybrid アッセイの結果と相関。
6.油流出事故時には、海洋中PAHは上記3~5の毒性が現れる濃度レベルに達していたと考えられる。
7.披検物質の中には純度が低いものがあり、相対毒性の数値化の精度を上げるためには、純度補正が必要である。
結論
 酵母two-hybridアッセイから導かれた構造パラメータに基づく物理化学的予測手法と魚のウロコまたは受精卵を用いる生理学的評価手法の組み合わせはステロイド受容体に作用する化学物質の毒性評価に有効である。後者は前者以外のメカニズムに基づく影響も含まれていることを踏まえる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201236002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多環芳香族炭化水素(PAH)及びPAHの水酸化体(OHPAH)とキノン体(PAHQ) を合せて約100種類について、酵母two-hybrid法によるエストロゲン様/抗エストロゲン作用を調べた結果、OHPAHとPAHQの中に活性を示すものがあった。試験化合物の構造と活性の間に相関が認められたことから、構造活性相関について解析した結果、いくつかの構造パラメータに基づいて毒性を有する可能性がある候補物質を大まかに予測可能であるとの学術的に意義のある研究成果を得た。
臨床的観点からの成果
酵母two-hybrid法は、エストロゲン受容体結合に基づく反応を選択的に検出するが、魚ウロコ培養系や受精卵培養系はエストロゲン受容体以外の関与も含まれることから、これらを総合した影響を観察することになり、両者の結果は一致しない場合があることが確認された。この結果は、毒物検出スクリーニング法開発において、両者の組み合わせに有用な知見である。また、これら評価系で活性が現れるOHPAH濃度は、実際の油流出事故海域等で生息する動物体内に予想される濃度範囲にあることもわかった。
ガイドライン等の開発
魚ウロコ培養系や受精卵培養系による評価系を二次スクリーニングとして、これに酵母two-hybrid法で得られる構造パラメータを一次スクリーニングとして結合する場合は、後者がステロイドホルモン類のうち、エストロゲン受容体結合に基づく反応のみを検出していることを踏まえる必要がある。また、本スクリーニング法による予測精度を上げるためには、構造パラメータの選択も含めて、さらに詳細な検討が必要である。
その他行政的観点からの成果
PAH及びその誘導体には内分泌かく乱作用や受精卵毒性を示すものがあり、これらの前駆体であるPAHは環境中に多く存在していることが明らかになった。油汚染海域だけでなく大気中でもこれらPAHは主要有害大気汚染物質の一つとして見出されており、その誘導体であるPAHOH、PAHQも存在している。この事実は、PAH類の環境汚染の実態を調査してそのリスクを明らかにすることが重要なことを示している。
その他のインパクト
本年大きな社会問題になった中国のPM2.5は主に石炭燃焼粉塵(煤)であり、一方、日本のPM2.5の主要排出源は自動車排ガス粉塵であるが、いずれのも粉塵もPAH類は主成分の一つである。しかも、本研究は、PAH類に発がん性以外にも重要な毒性があることを明らかにしている。このことは、水環境だけでなく大気環境でも、呼吸から曝露される有害化学物質としてPAH類の汚染実態を十分に調査することが重要なことを示している。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
35件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
早川和一,鳥羽 陽,鈴木信雄 他
多環芳香族炭化水素から見た海洋油汚染
安全工学 , 50 (2) , 85-92  (2011)
原著論文2
北村敬一郎,早川和一,鈴木信雄 他
自動面積測定法によるキンギョのウロコを骨のモデルとしたアッセイ法の改良
日本海域研究 , 42 , 27-34  (2011)
原著論文3
Suzuki, N., Hayakawa, K., Hattori, A. et al.
Effects of inorganic mercury on osteoclasts and osteoblasts of the goldfish scales in vitro
Journal of the Faculty of Agriculture Kyushu University , 56 , 47-51  (2011)
原著論文4
Suzuki, N., Hayakawa, K., Martin T.J. et al.
Parathyroid hormone 1 (1-34) acts on the scales and involves calcium metabolism in goldfish
Bone , 48 , 1186-1193  (2011)
10.1016/j.bone.2011.02.004
原著論文5
Satone, H., Suzuki, N., Oshima, Y. et al.
Tributyltin-binding protein type 1, a lipocalin, prevents inhibition of osteoblastic activity by tributyltin in fish scales
Aquatic Toxicology , 103 , 79-84  (2011)
10.1016/j.aquatox.2011.02.009
原著論文6
Kameda, T., Akiyama, A., Hayakawa, K. et al.
Mutagenicities and endocrine-disrupting activities of 1-hydroxy-2-nitropyrene and 1-hydroxy-5-nitropyrene
Journal of Health Science , 57 (4) , 372-377  (2011)
10.1248/jhs.57.372
原著論文7
鈴木信雄,早川和一,服部淳彦 他
メラトニンの新規作用:骨に対する作用とその誘導体を用いた骨疾患治療薬の開発
比較内分泌学 , 37 (143) , 194-203  (2011)
10.5983/nl2008jsce.37.194
原著論文8
Suzuki, N., Hayakawa, K., Sasayama, Y. et al.
Cloning of two members of the calcitonin receptor family from stingray, Dasyatis akajei: Possible physiological roles of the calcitonin family in osmoregulation
Gene , 499 , 326-331  (2012)
10.1016/j.gene.2012.03.042
原著論文9
Thamamongood, T.A., Suzuki, N., Hattori, A. at al.
Expression of osteoblast-specific genes during spontaneous goldfish scale regeneration and role of cell-to-cell contact in controlling the onset of resorption/regeneration process found in intra-scale pocket autotransplantation of modified scales
Bone , 50 , 1240-1249  (2012)
10.1016/j.bone.2012.03.021
原著論文10
Kakikawa, M., Hayakawa, K., Suzuki, N. et al.
Determination of calcium sensing receptor in the scales of goldfish and induction of its mRNA expression by acceleration loading
Biological Sciences in Space , 26 , 26-31  (2012)
10.2187/bss.26.26
原著論文11
Omori, K., Hayakawa, K., Suzuki, N. et al.
Prostaglandin E2 increases both osteoblastic and osteoclastic activities in the scales of goldfish and participates in the calcium metabolism in goldfish
Zoological Science , 29 , 499-504  (2012)
10.2108/zsj.29.499
原著論文12
鈴木信雄,早川和一,服部淳彦 他
魚類のウロコを用いた評価系の開発と骨代謝研究への応用
まぐね , 7 (4) , 174-178  (2012)
原著論文13
Thamamongood, T.A., Suzuki, N., Hattori, A. et al.
Expression of osteoblastic and osteoclastic genes during spontaneous regeneration and autotransplantation of goldfish scale: A new tool to study intramembranous bone regeneratio
Bone , 50 , 1240-1249  (2012)
10.1016/j.bone.2012.03.021
原著論文14
Yano, S., Hayakawa, K., Suzuki, N. et al.
Static and dynamic hypergravity responses of osteoblasts and osteoclasts in medaka scales
Zoological Science , 30 (3) , 217-223  (2013)
10.2108/zsj.30.217
原著論文15
Suzuki, N., Ogiso, S., Yachiguchi, K. et al.
Monohydroxylated polycyclic aromatic hydrocarbons influence spicule formation in the early development of sea urchins (Hemicentrotus pulcherrimus)
Comparative Biochemistry and Physiology, Part C , 171 , 55-60  (2015)
10.1016/j.cbpc.2015.02.004
原著論文16
Morisaki, H., Nakamura, S., Hayakawa, K. et al.
Benzo[c]fluorene in urban air: HPLC determination and mutagenic contribution relative to benzo[a]pyrene
Analytical Scineces , 32 (2) , 233-236  (2016)
10.2116/analsci.32.233
原著論文17
Hayakawa, K.
Environmental behaviors and toxicities of polycyclic aromatic hydrocarbons and nitropolycyclic aromatic hydrocarbons
Chemical and Pharmaceutical Bulletin , 64 (2) , 83-94  (2016)
10.1248/cpb.c15-00801.
原著論文18
Hayakawa, K., Makino, F., Yasuma, M. at al.
Polycyclic aromatic hydrocarbons in surface water of the Southeastern Japan Sea
Chemical and Pharmaceutical Bulletin , 64 (6) , 625-631  (2016)
10.1248/cpb.c16-00063

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201236002Z