細胞・組織加工製品の開発環境整備に向けたレギュラトリーサイエンス研究

文献情報

文献番号
201235058A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞・組織加工製品の開発環境整備に向けたレギュラトリーサイエンス研究
課題番号
H24-医薬-指定-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 堤 秀樹(公益財団法人実験動物中央研究所)
  • 澤田 留美(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
  • 安田 智(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,新たなガイドライン作成に資する細胞・組織加工製品,特に幹細胞加工製品の品質・安全性評価法の開発を行うことを目的とする.
研究方法
①汎用性・定量性のある幹細胞加工製品の造腫瘍性試験法の開発を目指した実験研究,②培養工程での遺伝子発現の動態解析に基づく品質・安全性評価指標の開発に関する研究,③製造工程における遺伝子安定性評価法の開発に関する研究,④幹細胞(未分化細胞)における分化プロペンシティの評価系の開発に関する研究を実施した.
結果と考察
①我々は,重度免疫不全動物であるNOGマウスとヌードマウスにおけるHeLa細胞単独,あるいはマトリゲルとの混合物のTPD50(投与した動物の半数で腫瘍を形成するために必要な細胞数)を検討し,マトリゲルに検体細胞を懸濁してNOGマウスに投与することにより,ヌードマウスを用いた従来の国際ガイドラインにある方法より数千倍高感度で腫瘍細胞を検出することが可能であることを示すデータを得ている.実験動物中央研究所では,このNOGマウスをヘアレス化した系統を樹立しており,NOGマウスと同様の条件におけるTPD50の調査を行った(その際の動物は,体外受精させた胚を仮親に移植して大量生産する手法を用いて作出した80匹以上の同一週齢雄動物を用いた).雄NOGヘアレスマウスにおけるHeLa細胞のTPD50は,ヌードマウスの1/11(3.7×104/4.2×105),マトリゲルを混合した場合は 1/2040(2.1×102/4.2×105)であり,NOGマウスにおけるそれらよりも高値であった.これは,導入したヘアレス遺伝子がBalb/cマウス由来であり,免疫不全度が僅かながら低下したこと推測された.NOGヘアレスマウスはNOGマウスと比較し,目視・触診による腫瘍形成の検出が容易であり,造腫瘍性試験の効率化が期待される.②ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)のin vitro培養時の遺伝子発現変化を網羅的に解析し,Ewing肉腫4種類(Hs822.T, Hs863.T, RD-ES, SK-ES-1)を陽性対照として比較検討することにより,細胞のがん化の指標となり得る候補遺伝子として,これまでにCyclin D2, IGF2BP1など9遺伝子を見出している.そこで平成24年度は,hMSCへのCyclin D2, IGF2BP1の過剰発現によるhMSCの増殖能,老化及び染色体数等への影響について検討し,さらにhMSCの遺伝子発現パターンの変化について網羅的に解析した.その結果,Cyclin D2の強制発現によってhMSCの増殖が亢進され,遺伝子発現の網羅的解析により細胞増殖などに関わる遺伝子発現の有意な変化が認められた.Cyclin D2はhMSCでは細胞増殖に正に関与し,さらに細胞老化を遅らせることによって増殖の亢進に寄与した可能性も示された.遺伝子発現の網羅的解析でhMSCと発現パターンが似ていたHs822.T及びHs863.Tはほぼ正常な染色体数だったのに対し,RD-ES及びSK-ES-1はどちらも染色体数が大きく変化し,hMSCの遺伝子発現パターンとの類似性と同様の傾向が見られた.③細胞の遺伝的安定性評価を目的としたホールゲノムシークエンスおよびエクソンシークエンスから得られるデータの品質評価および遺伝子変異検出の効率に関して,モデル細胞を用いた実データから検討を行った.その結果,点突然変異および小さな増幅,欠失変異に対する検出率および正確性の高さが確認できた.一方,大きな欠失,増幅ならびに転座などの複雑なリアレンジメントに関しては,通常の解析では検出が難しいことがわかり,これらに特化したデータ解析手法の検討が必要であることがわかった.④無フィーダー培養した未分化状態のヒトiPS細胞株(9株,n=6)において網羅的なmRNA発現情報をジーンチップにより取得した.さらに細胞特性評価に用いる候補遺伝子の今後の絞り込みのため,iPS細胞株間で統計学的に有意に発現量の異なる遺伝子群を抽出した.ヒトiPS細胞9株から低吸着ディシュ上で胚葉体を形成させRNAの抽出の後に,三胚葉マーカー遺伝子発現を定量的RT-PCRで測定し,各々の細胞株の分化プロペンシティを主成分分析により数値化した.その結果,第1主成分得点は中胚葉分化の正の指標および初期外胚葉分化の負の指標となることが示された.
結論
これらの成果を更に展開することにより細胞・組織加工製品の有効性・安全性に関する品質評価に必要な指標・評価法が示され,迅速で適切な製品開発・審査および再生医療の実用化推進に貢献できると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2013-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201235058Z