文献情報
文献番号
199800160A
報告書区分
総括
研究課題名
心房細動の病態、発生機序の分子生物学的解明と新しい治療法の開発 -心筋筋小胞体Ca2+制御機構からのアプローチ
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松崎 益徳(山口大学医学部内科学第二講座)
研究分担者(所属機関)
- 大草知子(山口大学医学部内科学第二講座)
- 矢野雅文(山口大学医学部内科学第二講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
心房細動(atrial fibrillation, AF)は日常臨床で最もよく見かける不整脈であり、70歳以上の健常者と思われる人の約6-10%にみられるとの報告がある。特に近年の高齢化に伴いその罹患率は増加している。AF時には心房内での血流の停滞をもたらすため長時間持続すれば心不全を惹起したり、血栓症を合併する危険性がある。特に高齢者での脳血栓塞栓症は重篤な合併症であり、その予防は医学界での重要なテーマの一つである。従来よりAFの病態の検討として、主に臨床的な電気生理学的解析が行われてきたが、心房筋細胞内の分子レベルでの検討は少なく、近年、AFの発生、維持機構の一つとして細胞内イオンレベル、なかでもCa2+ホメオスタシスの異常によるtriggered activityの亢進が考えられているが、その詳細なメカニズムも未だ不明である。 一方、心筋細胞の筋小胞体(sarcoplasmic reticulum,SR)には興奮、収縮連関に関与する重要なチャンネル(ryanodine receptor, RyR)や蛋白質(Ca2+-ATPase, calsequestrin, phospholamban等)が存在し、我々はこれまで種々の心疾患(心肥大、心筋症等)におけるSRのCa2+取り込み、放出機能やCa2+制御蛋白の蛋白発現量、遺伝子発現量の変化を報告してきた。これまでの我々の研究に基づくと、AFにおいても細胞内Ca2+動員機構の中心的役割を担っているSR機能の質的、量的変化が生じている可能性が十分考えられる。本研究の目的は、生化学的、分子生物学的手法を用いて、AFの発生機序、病態へのSR機能及びCa2+制御蛋白の関与を解明することにある。さらに、AFの発生機序へのSRの関与を明らかにし、SR機能を直接的に調節する治療法(薬)を開発し、AFの的確な治療法を確立することを目的とする。
研究方法
対象は心疾患患者の開心術中に得られた人工心肺脱血管挿入部位からの、または心房縫縮時に得られたAF患者ヒト心房筋を用い、対照として同様に開心術中に得られた正常洞調律患者(NSR)の心房筋を用いて以下の指標の解析を行う。1)患者の心機能の評価;心エコー法、心臓カテーテル法、心臓電気生理学的検査法より得られたデータをもとに各患者のマクロレベルでの心機能、心臓の形態の評価を行う。2)SRのCa2+制御蛋白の蛋白質及びmRNA発現量の解析;SRのCa2+制御蛋白として、ryanodine receptor(RyR)、Ca2+-ATPase、phospholaamban(PL)、calsequestrin(CQ)に焦点をあて、ウエスタン法にて蛋白質発現量を解析する。3)SRのCa2+放出チャンネル(ryanodine receptor, RyR)のチャンネル数(Bmax)の検討。4)SRのCa2+放出、取り込み機能の解析。以上1)から4)の方法を統合することによりAF患者心房筋のSRのCa2+動員機構の変化をそのCa2+放出、取り込み機能という質的変化と、それを制御する蛋白の蛋白質及び遺伝子発現量の量的変化が同時に検索できる。
結果と考察
慢性AF患者では1)両心房筋のRyR最大結合数(Bmax)はNSR患者のRAのBmaxに比べ有意に低下していた。2)左房のBmaxは右房のそれに比べ有意に低下していた。3)左房のBmaxは肺動脈楔入圧の上昇に伴い低値を示した。4)RyR mRNA発現量は両心房筋において、NSR患者の右房に比べ有意に低下していた。5)Ca2+-ATPase mRNA発現量も両心房筋において、NSR患者の右房に比べ有意に低下していた。以上の結果より、僧帽弁膜疾患による心房への機械的負荷は、RyR数及びRyRやCa2+-ATPaseの遺伝子発現量の減少を引き起こすことが示された。
結論
慢性心房患者では細胞内Ca2+ handlingに異常が生じ、心房筋の電気生理学的特性が変化してAFの発生、維持につながると考えられた。従来よ
りAFの発生、維持に心筋細胞膜の電気生理学的特性の異常や細胞内Ca2+ overloadが論じられてきたが、細胞内のCa2+ handlingやCa2+制御因子の変化を直接検討した報告は少ない。AF慢性患者の心房筋SRのCa2+制御蛋白の異常がAFの直接的な原因であるのか、または結果であるのかについてはさらなる検討を要するが、少なくともAF begets AFの一つの要因となりAFの発生、維持に関与しているものと考えられ、新しい治療法開発のための一つの新しい病態解明につながる可能性が示された。
りAFの発生、維持に心筋細胞膜の電気生理学的特性の異常や細胞内Ca2+ overloadが論じられてきたが、細胞内のCa2+ handlingやCa2+制御因子の変化を直接検討した報告は少ない。AF慢性患者の心房筋SRのCa2+制御蛋白の異常がAFの直接的な原因であるのか、または結果であるのかについてはさらなる検討を要するが、少なくともAF begets AFの一つの要因となりAFの発生、維持に関与しているものと考えられ、新しい治療法開発のための一つの新しい病態解明につながる可能性が示された。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-