ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究

文献情報

文献番号
201235050A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(帝京平成大学 薬学部薬学科)
研究分担者(所属機関)
  • 鑪迫 典久(国立環境研究所環境リスクセンター 環境曝露計測研究室)
  • 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部 環境衛生研究科 水質・環境研究科)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 川元 達彦(兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト用の医薬品の成分として用いられる化学物質は、医薬品としての使用や、未使用で廃棄されることにともない、環境中に排出されることにより、医薬品成分としてもつ生理作用に加え、化学物質としての化学的、物理的、生物学的な性状に由来して、生態系に影響を及ぼす恐れがある。新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物が使用されることにより、直接的及び間接的に及ぼす環境に対する負荷を推定し、影響を評価して、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることを目的とする環境影響評価ガイドラインの作成を進めるため、必要な情報の収集と整理を行う。
研究方法
 医薬品の環境影響評価法に関する情報を収集し、我が国で作成する環境影響評価ガイドライン案の基礎的情報を整理した。汎用されているOTC医薬品(一般用医薬品)や既に海外等で検出事例がある医薬品を対象に、多摩川流域の河川及び兵庫県内の2河川流域の河川について、液体クロマトグラフ質量分析法を用いて存在濃度を調査した。さらに、下水処理場で有機物分解のために使用されている活性汚泥による分解性を検討した。生物に対する有害影響は、藻類、ミジンコ、ゼブラフィッシュの胚・仔魚期短期毒性試験を用いて評価した。
結果と考察
 新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の環境リスクを評価するための環境影響評価ガイドライン案の作成の資料となる情報を収集した。文献から、医薬品に関する生態毒性に関する情報を収集し、整理を行った。本ガイドラインが判断基準の要件として求める予測無影響濃度が示されている文献は非常に限られていた。限られた情報からではあるが、抗生物質に対して藻類の感受性が高い傾向がみられた。さらに、情報に基づいて、推奨できる環境リスク評価法の段階的手順を整理した。
 2012年6月及び9月に調査した多摩川流域の河川水では、検出される医薬品の有効成分の種類とその濃度が数年間にわたって同様の傾向が認められた。その中で、ロラゼパムとカンデサルタンは、実測環境濃度(MEC)が推計で得られた予測環境濃度(PEC)を超えていた。これまでの調査では、エピナスチンのMEC値はPEC値よりも大きくなる地点が存在したが、今回の調査ではこの現象はみられなかった。これまでの調査で、エピナスチンの濃度は、冬期から春期にかけて高くなり、夏期から秋期にかけて減少傾向にあった。今年度は夏期に調査したことによると考えられた。兵庫県内の2河川流域、それぞれ2地点について、2012年に4回調査を行った結果、一方の河川ではカンデサルタンのみが、他方の河川ではロラゼパムとカンデサルタンの2医薬品がPEC値よりも高いMEC値であった。以上の結果から、関東と関西の都市河川では共通して、ロラゼパムとカンデサルタンのMEC値はPEC値を超える傾向が認められた。
 また、下水処理場における医薬品の除去率を推測するための方法として検討した活性汚泥を用いた医薬品の分解率と、実際の下水処理場における流入水と放流水の濃度差から求めた分解率との間に、カルバマゼピン、カンデサルタン及びプロプラノロールに大きな相違が認められ、下水処理場における分解性試験の方法に検討の余地があることが示唆された。
 ベザフィブラートは甲殻類に対して繁殖影響、魚類に対して外見異常を示したが、ふ化阻害や致死影響は見られなかった。ケトプロフェンは3生物すべてに影響を示し、藻類に対し、μg/Lレベルで生長阻害影響を示し、その影響は標準培地に継代してもほとんど回復しないことが分かった。6か所の下水処理放流水の生物に対する毒性影響を調べた結果、最高濃度として設定した80%希釈濃度においても、藻類の生長阻害、魚類の致死とふ化遅延の影響は見られなかった。ミジンコに対しては、一か所の多摩川水再生センターの放流水に対して、40%希釈濃度実験群において、有意差は認められないが、産仔阻害(阻害率19%)が見られた。また、既存の毒性評価の結果があるスルピリド、エピナスチン塩酸塩、カルバマゼピン、クロタミトン、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸及びフェノフィブラートの7種について、6か所で得られているそれぞれの河川中の実測濃度を無影響濃度で割った割合の総和を求めたところ、全ての地点の試料、各生物種に対して10-4~10-6と極めて低かった。これらの結果からは、下水処理放流水が一般公共水域で希釈されている限り、生態系に及ぼす影響は大きくないことが示唆された。
結論
 本研究で得られた実態濃度の測定結果、生物に対する毒性影響結果、また、文献上の情報は、ヒト用医薬品の環境影響評価のためのガイドライン案の作成にむけ、現在検討中で段階的に評価する手法を補完する情報を提供できた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201235050Z