文献情報
文献番号
199800158A
報告書区分
総括
研究課題名
老化に伴う臓器機能不全の分子病態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(鹿児島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 清野進(千葉大学大学院)
- 宮園浩平((財)癌研究会癌研究所)
- 中島利博(筑波大学応用生物化学系)
- 一瀬白帝(山形大学医学部)
- 鄭忠和(鹿児島大学医学部)
- 茆原順一(秋田大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
加齢に伴い、種々の臓器は機能低下に陥り、これが個々人のquality of life を損なうほか、社会的にも大きな損失となっている。今後の未曾有の高齢化社会を考えるとき、加齢に伴う臓器の機能障害を防ぎ、個々人の健やかな老後を保証することは緊急の医学的課題である。今回のプロジェクトは加齢に伴う諸臓器の機能低下の分子細胞病態を明らかにして、機能低下の防止策を立案することである。縦軸としての視点から臓器として、1)心臓、肺、を選び、横軸としての視点から、2)転写制御、3)細胞寿命制御、4)細胞外マトリクス産生制御、5)凝固線溶・血管機能、などの面から検討し、加齢に伴う諸臓器の機能低下の分子病態を明らかにし、その防止策を立案する。
研究方法
1.加齢と心臓の機能:60歳以上の健常者117名と中年層、若年層の心機能
を超音波心断層装置で調べた。2.気道上皮の再生能と増殖因子:肺の機能が加齢とともに
弛緩性となっていくのを確かめたので、次に気管支鏡下にバイオプシー目的で得たサンプ
ルから気管支上皮細胞を培養して、IGF-1 に対する応答性を検討した。3.加齢とインスリ
ン分泌の関係:インスリン分泌のキーファクターとなるKATPチャネルをノックアウトした
マウスを使い、加齢と肥満の影響を調べた。4.加齢と血管・凝固/線溶系:プラスミノゲ
ン遺伝子の5プライム側の遺伝子増幅産物を制限酵素で切断してタイプの決定を行った。
Lp(a)はその分子量からアイソフォームを決定した。5.内皮細胞におけるテロメラーゼの発現と細胞レベルの老化:内皮細胞のテロメラーゼの活性をteromeric RNA amplification
protocol(TRAP) で解析した。内皮細胞はヒト臍帯静脈由来のもの(HUVEC) 、HUVECを
SV40でトランスフォームして不死化したもの(HUVE-SV01)、ヒト鼻粘膜より樹立した内皮
細胞株などを用いた。6.TGF-βは組織の線維化、リモデリングに関わることが判明してい
る。そこでTGF-βのシグナル伝達を明らかにするため、シグナルに関わる因子Smad2, Smad
3, Smad 4 およびこれらのミュータントをCOS細胞に導入し、免疫沈降法、イムノブロッ
ティング法などで、リン酸化、タンパク同士の結合などを調べた。7.転写統合装置CBP
/RNAヘリケースA の機能がどのように血管病変の成立に関わっているのかを検討した。
これにはアセチル化リジンに対する抗体を作成し、動脈硬化病変を染色した。またトロン
ビン刺激した血管平滑筋細胞のヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT) 活性を測定
した。
を超音波心断層装置で調べた。2.気道上皮の再生能と増殖因子:肺の機能が加齢とともに
弛緩性となっていくのを確かめたので、次に気管支鏡下にバイオプシー目的で得たサンプ
ルから気管支上皮細胞を培養して、IGF-1 に対する応答性を検討した。3.加齢とインスリ
ン分泌の関係:インスリン分泌のキーファクターとなるKATPチャネルをノックアウトした
マウスを使い、加齢と肥満の影響を調べた。4.加齢と血管・凝固/線溶系:プラスミノゲ
ン遺伝子の5プライム側の遺伝子増幅産物を制限酵素で切断してタイプの決定を行った。
Lp(a)はその分子量からアイソフォームを決定した。5.内皮細胞におけるテロメラーゼの発現と細胞レベルの老化:内皮細胞のテロメラーゼの活性をteromeric RNA amplification
protocol(TRAP) で解析した。内皮細胞はヒト臍帯静脈由来のもの(HUVEC) 、HUVECを
SV40でトランスフォームして不死化したもの(HUVE-SV01)、ヒト鼻粘膜より樹立した内皮
細胞株などを用いた。6.TGF-βは組織の線維化、リモデリングに関わることが判明してい
る。そこでTGF-βのシグナル伝達を明らかにするため、シグナルに関わる因子Smad2, Smad
3, Smad 4 およびこれらのミュータントをCOS細胞に導入し、免疫沈降法、イムノブロッ
ティング法などで、リン酸化、タンパク同士の結合などを調べた。7.転写統合装置CBP
/RNAヘリケースA の機能がどのように血管病変の成立に関わっているのかを検討した。
これにはアセチル化リジンに対する抗体を作成し、動脈硬化病変を染色した。またトロン
ビン刺激した血管平滑筋細胞のヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT) 活性を測定
した。
結果と考察
1.加齢とともに左室拡張能、末梢血管予備能が低下することが明らかになっ
た。2.肺は加齢とともにその支持組織が弛緩して機能が低下するが、気道上皮細胞は
IGF-1 に対して応答したので、今後動物などでの試みが期待された。3.KATPチャネル欠損マウスでは加齢や肥満とともにインスリン分泌が低下した。4.アポリポプロテイン(a)の濃度が高いものが脳梗塞、網膜中心動脈などの動脈血栓に多く、アポリポプロテイン(a)
がこれらの危険因子であることが明らかになった。5.ヒト臍帯静脈由来の内皮細胞はテロ
メラーゼ活性を有していたが、その他の内皮細胞にはテロメラーゼ活性はなかった。テロ
メラーゼ活性はジャイレースインヒビターで抑制しえた。6.TGFβからのシグナルは細胞
内ではSmad3,Smad4が共同して伝達され、plasminogen activator inhibitor type 1(PAI-1) の発現を強め、これがプラスミンの生成を制御して、マトリックスの分解の抑制、組織の線維化につながる可能性が浮かび上がってきた。7.動脈硬化巣では増殖した血管平滑筋細胞の核内にアセチル化したタンパクが集積しているのが認められた(これをHypernuclear
Acetylation, HNA) と命名した。そしてトロンビン刺激で HAT 活性が上昇し、in vivo の系を再現しえた。加齢に伴う諸臓器の機能低下は必ずしも基本的な共通の基盤があるわけではない。例えば、心臓の場合には加齢とともに拡張能の低下、末梢血管予備能の低下が認められた。これは心血管のリモデリングや線維化が関係しているものと考えられるが、詳しい分子細胞メカニズムは今後の問題として残った。肺の場合は、肺弛緩が起こるが、これは肺支持組織の弛緩によるものである。しかし in vitro の実験系で IGF-1 で気道上皮細胞が増殖したことから、今後の展開が期待される。インスリンの分泌に重要な役割を果たすKATPチャネルノックアウトマウスを使った実験では、加齢あるいは肥満とともにインスリン分泌の低下が認めれた。今後この分子細胞機構の解明をめざしたい。LP(a) の高値は独立した動脈血栓のリスクファクターと見なされているが、これは中心動脈血栓の場合にも当てはまった。おそらく糖尿病や高脂血症などのリスクファクターが加わるとさらにこのリスクは増大するものと考えられ、今後それらとの関係を検討予定である。ヒトは血管とともに老いると言われており、事実臨床統計では、脳血管、心血管の血栓の一番のリスクファクターは実は加齢である。しかしそのメカニズムに関しては不明である。そこでこれを解明するために、血管内皮細胞と老化の問題をテロメラーゼ活性の面から検討した。細胞不死が即テロメラーゼ(+)ではなかったげ、その逆、すなわちテロメラーゼ(+)の細胞は細胞の寿命が長かった。今回TGFβの細胞内のシグナルの一部が明らかになった。
Smad ファミリーの組み合わせにより、細胞内シグナルが変わるので、今後各臓器の加齢
変化の違いがシグナル伝達レベルで解明しうる可能性が出てきた。また動脈硬化巣ではア
セチルトランスフェラーゼ活性が上昇し、細胞核内は Hyper nuclear acetylation(HNA) とも言いうる状態になっていることが判明した。そしてその原因の一つとして、トロンビンが考えられた。
た。2.肺は加齢とともにその支持組織が弛緩して機能が低下するが、気道上皮細胞は
IGF-1 に対して応答したので、今後動物などでの試みが期待された。3.KATPチャネル欠損マウスでは加齢や肥満とともにインスリン分泌が低下した。4.アポリポプロテイン(a)の濃度が高いものが脳梗塞、網膜中心動脈などの動脈血栓に多く、アポリポプロテイン(a)
がこれらの危険因子であることが明らかになった。5.ヒト臍帯静脈由来の内皮細胞はテロ
メラーゼ活性を有していたが、その他の内皮細胞にはテロメラーゼ活性はなかった。テロ
メラーゼ活性はジャイレースインヒビターで抑制しえた。6.TGFβからのシグナルは細胞
内ではSmad3,Smad4が共同して伝達され、plasminogen activator inhibitor type 1(PAI-1) の発現を強め、これがプラスミンの生成を制御して、マトリックスの分解の抑制、組織の線維化につながる可能性が浮かび上がってきた。7.動脈硬化巣では増殖した血管平滑筋細胞の核内にアセチル化したタンパクが集積しているのが認められた(これをHypernuclear
Acetylation, HNA) と命名した。そしてトロンビン刺激で HAT 活性が上昇し、in vivo の系を再現しえた。加齢に伴う諸臓器の機能低下は必ずしも基本的な共通の基盤があるわけではない。例えば、心臓の場合には加齢とともに拡張能の低下、末梢血管予備能の低下が認められた。これは心血管のリモデリングや線維化が関係しているものと考えられるが、詳しい分子細胞メカニズムは今後の問題として残った。肺の場合は、肺弛緩が起こるが、これは肺支持組織の弛緩によるものである。しかし in vitro の実験系で IGF-1 で気道上皮細胞が増殖したことから、今後の展開が期待される。インスリンの分泌に重要な役割を果たすKATPチャネルノックアウトマウスを使った実験では、加齢あるいは肥満とともにインスリン分泌の低下が認めれた。今後この分子細胞機構の解明をめざしたい。LP(a) の高値は独立した動脈血栓のリスクファクターと見なされているが、これは中心動脈血栓の場合にも当てはまった。おそらく糖尿病や高脂血症などのリスクファクターが加わるとさらにこのリスクは増大するものと考えられ、今後それらとの関係を検討予定である。ヒトは血管とともに老いると言われており、事実臨床統計では、脳血管、心血管の血栓の一番のリスクファクターは実は加齢である。しかしそのメカニズムに関しては不明である。そこでこれを解明するために、血管内皮細胞と老化の問題をテロメラーゼ活性の面から検討した。細胞不死が即テロメラーゼ(+)ではなかったげ、その逆、すなわちテロメラーゼ(+)の細胞は細胞の寿命が長かった。今回TGFβの細胞内のシグナルの一部が明らかになった。
Smad ファミリーの組み合わせにより、細胞内シグナルが変わるので、今後各臓器の加齢
変化の違いがシグナル伝達レベルで解明しうる可能性が出てきた。また動脈硬化巣ではア
セチルトランスフェラーゼ活性が上昇し、細胞核内は Hyper nuclear acetylation(HNA) とも言いうる状態になっていることが判明した。そしてその原因の一つとして、トロンビンが考えられた。
結論
各臓器の加齢に伴う機能低下は必ずしも同一の基盤によるものではないことが、例
えば心と肺を取り上げても明らかになった。動物モデルを使った場合の膵臓では加齢とと
もにインスリンの分泌が低下するのが観察された。TGFβからのシグナルの違いは細胞内
Smad システムの違いによる可能性も考えられた。またテロメラーゼの活性と細胞レベル
の寿命は必ずしも1:1の対応はなしていないことがわかった。Lp(a)の高値は網膜中
心動脈血栓症のリスクファクターでもある。動脈硬化では血管平滑筋細胞のHyper Nucelar
Acetylation ともいうべき現象が観察されたが、これは血管壁細胞では活発な転写系の亢進があることを示している。これらのことから加齢に伴う臓器の機能低下にも細胞レベル、
臓器レベルで相は多彩であることが示された。今後これらを分子・細胞レベルで統一的に
理解する理論が必要であろう。
えば心と肺を取り上げても明らかになった。動物モデルを使った場合の膵臓では加齢とと
もにインスリンの分泌が低下するのが観察された。TGFβからのシグナルの違いは細胞内
Smad システムの違いによる可能性も考えられた。またテロメラーゼの活性と細胞レベル
の寿命は必ずしも1:1の対応はなしていないことがわかった。Lp(a)の高値は網膜中
心動脈血栓症のリスクファクターでもある。動脈硬化では血管平滑筋細胞のHyper Nucelar
Acetylation ともいうべき現象が観察されたが、これは血管壁細胞では活発な転写系の亢進があることを示している。これらのことから加齢に伴う臓器の機能低下にも細胞レベル、
臓器レベルで相は多彩であることが示された。今後これらを分子・細胞レベルで統一的に
理解する理論が必要であろう。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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