アカントアメーバ角膜炎制御におけるレンズケアの重要性

文献情報

文献番号
201235010A
報告書区分
総括
研究課題名
アカントアメーバ角膜炎制御におけるレンズケアの重要性
課題番号
H22-医薬-指定-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大橋 裕一(愛媛大学 医学系研究科視機能外科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 下村嘉一(近畿大学 医学系研究科 眼科学分野)
  • 中田和彦(メニコン株式会社)
  • 井上幸次(鳥取大学 医学系研究科 眼科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、近年問題となっているコンタクトレンズ関連角膜感染症の中でも、最も難治性であり、かつ増加しつつあるアカントアメーバ角膜炎に焦点を絞り、その制御に向けた方策を種々の視点から検討することにある。
研究方法
1.レンズ消毒剤の抗アメーバ効果評価法の迅速化の試み
生菌選択的蛍光染色法のひとつである5-Cyano-2,3-ditolyl-2H-tetrazolium chloride (CTC)染色色素を用いた迅速評価法を採り上げ、現在広く実施されているlog reduction法との相関性について検討した。
2.市販レンズ消毒剤の効力比較試験
我が国においてレンズケアに広く使用されている種々のレンズ消毒剤を対象に、その抗アメーバ効果についてlog reduction法を用いて比較検討した。
3.光線力学療法をもちいたアカントアメーバ角膜炎治療の試み
アカントアメーバには特効薬がなく、新しい治療法が望まれている。そこで、光感受性物質の存在下で特定の波長の光を照射することで酸化ストレスによる細胞障害を惹起する光線力学的療法の抗アカントアメーバ効果について検討した。
4.アカントアメーバのソフトコンタクトレンズ(SCL)への親和性および擦り、すすぎ、浸漬効果の検討
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズにアカントアメーバを接着させた後、MPSによる各種洗浄処理を行い、残存アカントアメーバを定量して、MPSによる除去効果を比較検討し、「こすり+すすぎ」洗いの効果を検討した。
5.アカントアメーバ角膜炎発症動向の全国定点調査
全国48の大学附属病院をベースに、アンケート調査を行い、アカントアメーバ角膜炎の発生状況を調査した。
6.CLケースおよびSCL消毒剤ボトル汚染状況の定点診療所調査
コンタクトレンズ診療に精通した医師の診療所5カ所を基点に、CLケースおよびSCL消毒剤ボトルを回収し、培養(細菌、真菌、アカントアメーバ)を行うとともに、アカントアメーバに対するreal-time PCRを実施した。SCL消毒ボトルについては、使用期間と汚染状況についても検討した。
結果と考察
1.log reduction法と比較検討した結果、CTC Assay法はアカントアメーバ栄養体、シストに対する効果ともに非常に有意な相関を示した。CTC Assayは数日で結果を得ることができるため、有用な抗アカントアメーバ試験方法となりえる可能性が示された。
2.栄養体に対しては、過酸化水素製剤およびポピドンヨード製剤が高い抗アメーバ効果を示したが、MPS(multi-purpose solution:多目的用剤)の消毒効果は弱く、製品間のばらつきも大きかった。シストに対してはいずれの消毒剤の効果も不十分であった。SCL消毒剤の評価試験にアカントアメーバに対する消毒効果は求められておらず、今後評価試験の再検討の必要性が示唆された。
3.メチレンブルー(MB)を用いた光線力学療法(MB-PDT)によるin vitroでの抗アカントアメーバ効果の検討を行った結果、栄養体とシストの双方に対して抗アメーバ効果がMB認められ、消毒薬、抗真菌薬との併用において相乗効果が認められた。家兎をもちいたin vivoによる検討では、角膜組織への影響が限定的であり、MB-PDT療法は、アカントアメーバ角膜炎治療法につながると期待される。
4.アカントアメーバに対する擦り洗い試験において、「こすり」洗いよりも「こすり+すすぎ」のアカントアメーバ除去効果が最も高く、「こすり+すすぎ+浸漬」によりアカントアメーバ除去の効果が高くなることが認められた。
あらためてCLケアにおけるこすり洗いとすすぎ洗いの有効性が示され、CLケア教育の重要性が示された
5.2007年から2011年までのアカントアメーバ角膜炎発症者数は524例で、発症時に使用していたCLの種類は、FRSCLが323例(61.6%)と過半数を占めていた。AK発症者数は、2008年、2009年をピークに以後明らかな減少傾向をした。その傾向の地域差は認められなかった。
6.CLケース汚染状況を検討したところ、全体の32.6%に細菌、真菌による汚染。SCL消毒剤ボトル汚染状況は、容器内液で3%、注出口で32%において細菌が検出された。これらの結果より、コンプライアンスの良好なCLユーザーにおいてもCLケースやSCL消毒剤の注出口部分汚染は不可避であり、このことを念頭に置いたCLケア指導の重要性が示唆された。

結論
アカントアメーバ角膜炎の制御に向けて、種々の問題点を明らかにすることができ、今後に有益な成果が得られたものと考える。

公開日・更新日

公開日
2013-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201235010B
報告書区分
総合
研究課題名
アカントアメーバ角膜炎制御におけるレンズケアの重要性
課題番号
H22-医薬-指定-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大橋 裕一(愛媛大学 医学系研究科視機能外科学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、近年問題となっているコンタクトレンズ関連角膜感染症の中でも、最も難治性であり、かつ増加しつつあるアカントアメーバ角膜炎に焦点を絞り、その制御に向けた方策を種々の視点から検討することにある。
平成22,23年度において光線力学的療法(PDT)の抗アカントアメーバ効果について検討した。本年度には、臨床応用を目指して、PDTの生体への影響を検討する。また、擦り洗いやすすぎを併用することで、より確実なレンズケアが行われることを報告してきたが、本年度では臨床分離株を用いた検討を行う。
その一方で、発生の基盤となるレンズケース、消毒剤ボトルについても一定の割合で汚染されていることを報告してきたが、本年度ではさらに使用状況と消毒剤ボトル汚染についての検討を行う。また、レンズケアに関する啓発活動の波及効果を確認するため、アカントアメーバ角膜炎の発生動向をモニターすることは重要であり、昨年度には主要施設においてアカントアメーバ発生状況も調査し、減少傾向であることを報告した、本年度ではさらに全国調査を行う。
研究方法
1.光線力学療法をもちいたアカントアメーバ角膜炎治療の試み
前年度では、メチレンブルーを用いた光線力学療法(MB-PDT)が抗アカントアメーバ効果を有することを確認した。本年度は、臨床応用に向けてMB-PDTの生体への影響についてウサギ角膜を用いて検討した。
2.アカントアメーバのソフトコンタクトレンズ(SCL)への親和性および擦り、すすぎ、浸漬効果の検討
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズにアカントアメーバを接着させた後、MPSによる各種洗浄処理を行い、残存アカントアメーバを定量して、MPSによる除去効果を比較検討し、「こすり+すすぎ」洗いの効果を示してきたが、本年度では、臨床株に対する有効性について検討するとともに浸漬効果についても検討した。
3.アカントアメーバ角膜炎発症動向の全国定点調査
アカントアメーバ角膜炎発生状況につき、本年度では全国48大学病院を対象に調査を行った。
4.SCL消毒剤ボトル汚染状況の定点診療所調査
前年度にコンタクトレンズ診療に精通した医師の診療所5カ所を基点に、SCL消毒剤ボトルの汚染動向を調査し、SCL消毒ボトルにも汚染が認められることを示した。本年度にはCLケアとの関連を探る目的に使用期間とSCL消毒剤容器汚染について検討した。
結果と考察
1.光線力学療法をもちいたアカントアメーバ角膜炎治療の試み
MB-PDTにより実質浅層の角膜実質細胞の消失が認められるものの、角膜上皮創傷治癒障害や角膜内皮細胞障害は認められず、角膜組織への影響が限定的であると推測された。MB-PDT療法は、アカントアメーバ角膜炎治療法につながると期待される。
2.アカントアメーバのソフトコンタクトレンズ(SCL)への親和性および擦り、すすぎ、浸漬効果の検討
アカントアメーバに対する擦り洗い試験:ケア方法としては臨床株においても「こすり」洗いよりも「こすり+すすぎ」のアカントアメーバ除去効果が最も高かった。また、「こすり+すすぎ+浸漬」によりアカントアメーバ除去の効果が高くなることが認められた。
3.アカントアメーバ角膜炎発症動向の全国定点調査
2007年から2011年までのアカントアメーバ角膜炎発症者数は、2008年~2009年をピークに以後明らかな減少傾向を示した。その傾向の地域差は認められなかった。
4.SCL消毒剤ボトル汚染状況の定点診療所調査
SCL消毒剤の使用開始後経過日数と、SCL消毒剤ノズル部の細菌汚染発生率には相関が認めならなかったものの、SCL消毒剤のノズル部は高率の細菌汚染が認められた。SCLの清潔なケアと同時に、SCL消毒剤自体も清潔に取り扱い、ノズル部への不用意な接触などがないよう指導する必要があることが浮かび上がってきた。
以上より、光線力学療法が新たなアカントアメーバ角膜炎治療法として有効である可能性が示された。市販SCL消毒剤でも特にノズル部の汚染が顕著であることが明らかとなり、SCL消毒剤自体も清潔に取り扱う必要が示された。レンズケアにおけるすすぎ・擦り洗いの重要性が改めてしまされ、レンズケアに関するユーザー教育の重要性が再認識された。また、アカントアメーバ角膜炎の発症動向については経年的に減少傾向にあることが示唆され、啓蒙活動の有効性が示されたと推測される。
結論
アカントアメーバ角膜炎の制御に向けて、特に、光線力学療法による抗アメーバ治療法の開発、レンズケアにおけるすすぎ・擦り洗いの重要性、およびSCL消毒剤汚染の実態把握などにおいて、今後に有益な成果が得られたものと考える。

公開日・更新日

公開日
2013-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201235010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新たな抗アカントアメーバ効果判定試験としてCTCアッセイ法の有用性を提案することができ、今後の抗アカントアメーバ薬・消毒剤の開発に貢献すると思われる。 メチレンブルー(MB)を用いた光線力学療法(MB-PDT)のアカントアメーバに対する有効性をin vitroで証明し、in vivoにおける組織安全性についても証明した。今後検討を加えることによりMB-PDTがアカントアメーバ角膜炎の新たな治療法になる可能性を示すことができた。
臨床的観点からの成果
標準株および臨床分離株を用いて検討を行い、「こすり」<「こすり+すすぎ」<「こすり+すすぎ+浸漬」によりアカントアメーバ除去の効果が高くなることう実験的に検証することができた。この結果よりCLケア指導における擦り洗いおよびすすぎ洗いの重要性が再確認することができた。市販の各種CL消毒剤の抗アカントアメーバ効果を評価し、MPS製剤には抗アカントアメーバ効果はほとんどないことを広く周知することにより、CLケアの重要性の認識を高める結果となった。
ガイドライン等の開発
市販の各種CL消毒剤の抗アカントアメーバ効果を評価して、その結果を全国学会および国民生活センターを通して広く公開した。これらの結果より、MPS製剤には抗アカントアメーバ効果はほとんどないことを広く周知することにより、SCL消毒剤の評価試験にアカントアメーバに対する消毒効果は求められておらず、今後評価試験の再検討の必要性が示唆された。
その他行政的観点からの成果
市販の各種CL消毒剤の抗アカントアメーバ効果を評価して、その結果を全国学会および国民生活センターを通して広く公開した。これらの結果より、MPS製剤には抗アカントアメーバ効果はほとんどないことを広く周知することにより、CLケアの重要性の認識を高める結果となった。また、全国におけるアカントアメーバ角膜炎の発生状況を確認することができた。その発生状況は2009-2010年をピークに減少傾向にあり、眼科学会におけるアカントアメーバ角膜炎に対する取り組みの成果が表れた結果であると推測された 。
その他のインパクト
市販の各種CL消毒剤の抗アカントアメーバ効果を評価して、その結果を全国学会および国民生活センターを通して広く公開した。これらの結果より、MPS製剤には抗アカントアメーバ効果はほとんどないことを広く周知することにより、CLケアの重要性の認識を高める結果となった。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
国民生活センター

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201235010Z