心理学と情報工学を利用した食品リスク情報コミュニケーションツールとその評価手法の開発

文献情報

文献番号
201234048A
報告書区分
総括
研究課題名
心理学と情報工学を利用した食品リスク情報コミュニケーションツールとその評価手法の開発
課題番号
H24-食品-若手-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
和田 有史(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所食品機能研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 湯浅 将英(東京電機大学 環境情報学部)
  • 木村 敦(東京電機大学 環境情報学部)
  • 小川 真規(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,849,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報工学および心理学の知見と技術を応用することで、一般消費者や専門家などの多様なステークホルダーに対して食品のリスクに関する共通理解を促す食品情報開示法を開発する。
農薬の残留量などの食品のリスク情報は、基準に基づいて管理がなされている。科学的に定義された基準は、食品中の残留量がそれ以下である、ということを明示しているという意味では誠実だが、科学的なデータを読み取る知識がない消費者はその値の持つ意味を理解できない。そのために、基準値を上回る事例が発生すると、実際のリスクが非常に小さくても過度な不安を感じる。つまり、科学データをそのまま開示しても、人間の認知・心理的な要因によって、その数値の持つ意味に基づく情報理解が妨げられることすらあり、このことが科学者や行政・生産者・流通といったリスク分析に関わる側の理解と、消費者の理解との間にギャップを生じさせる。このような理解のギャップを減らすためには、テレビや新聞などのマスメディア上での利用が可能で、一般消費者が適切に情報を理解できる情報開示法の開発が必要である。特に食品における放射性物質について、我が国では昨年より、世界でも類を見ない厳しい基準値を設定したこともあり、その理解を促進するツールは非常に有用である。
研究方法
本年度は、I.農薬に関する表示による理解の支援の効果測定(担当:和田・木村・小川)、II.放射性物質に関する消費者の情報認識と認知特性に関する調査(担当:和田・木村・小川)、III.消費者態度の類型化に関する研究(担当:木村・和田・小川)、IV.対話型学習ツールの開発(担当:湯浅・小川・和田・小川)、に着手した。
結果と考察
当初の計画では、最初にステークホルダーが抱きやすい放射線と食品に関連する疑問についてのインターネット調査を実施する予定であった。その前段階として、消費者が実際に食品会社などに問い合わせる内容を明らかにするために、食品会社の受け答え担当者へのインタビュー調査を行った。また、一般消費者のリスク認知には個人の認知傾向も関与することが最近報告されたことから、一般消費者の認知傾向の類型化のために、一般消費者の認知特性を測定する直感的・分析的思考に関する検査を導入した。これらの情報をも含むインターネット調査を実施するために、予定よりも多くの時間を準備に要した。しかし、24年度予定していた3回のインターネット調査は実施することができ、分析も進んでいる。
これらの調査の一部である、情報開示アイコンの理解促進効果に関する調査結果は論文化し、現在、学術雑誌で審査中になっている。また、新しい消費者の類型として直感的・分析的思考傾向の検査と食品に関するリスクの調査を行い、両者に強い関連を見出すことができた。詳細な分析はまだ完了していないが、今後のリスクコミュニケーションの促進にとって、新たなきり口を提案するインパクトの強い結果になると予測している。
さらに、webでの情報開示ツールについては、テキストで消費者が質問を入力した時にキーワードを拾って適切なアウトプットを提示するシステムのプロトタイプを作成し、論文をして出版した(湯浅ら, 2012)。今後の、Webツールの開発は、この入力システムを活かす予定である。自由記述をベースとした本システムを快適に運用するためには、膨大なデータベースが必要であるが、25年度中に今後の開発のプロトタイプとなるレベルのコンテンツを部分的に完成させることを第一目標として開発を進めることができるだろう。
結論
 本年度の研究の結果により、情報理解には消費者の認知的特徴による影響が存在することが明らかになった。また、直感的思考傾向が強い消費者が理解しやすいように食品情報リスクの提示を行うとより多くの消費者の理解を促進できることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
201234048Z