文献情報
文献番号
201234031A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児用食品中のビスフェノール系化合物の汚染実態の解明及びその健康影響評価
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-食品-若手-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中尾 晃幸(摂南大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 角谷 秀樹(摂南大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
食品の安全性確保のため、過去より厚生労働省等を中心に多くの食品中の有害化学物質による汚染調査が行われ、国民に情報提供がなされてきた。しかし、乳幼児用食品中のBPAやTBBPA等による汚染実態及びその健康影響評価に特化した研究は、現在まで皆無に等しい。BPAの健康影響への知見は、乳幼児の知能の発育障害等の多数の報告が行われている。一方、TBBPAの毒性機構は未だ不明な点が多く、TBBPA曝露マウスにおける、総コレステロール値や肝重量の増加、甲状腺ホルモン受容体の活性化等が観察されている。従って、乳幼児用食品の安全性の確保には、分析法を構築し乳幼児が摂取する食品・食事試料の汚染調査、さらには、1日摂取量を基礎としたBPA及びTBBPAによる健康影響の検討が急務となる。本研究の目的は、我々の環境中で大量に使用されているビスフェノール系化合物に焦点を当て、乳幼児食品・食事中の汚染実態と1日摂取量の解明並びに健康影響評価を行うことである。
研究方法
ビスフェノール系化合物の高精度迅速型分析法の構築では、最適な抽出・精製・定量法の検討を行った。抽出法は高速溶媒抽出装置を用いることやフロリジルを用いたフラッシュカラムクロマト法を精製法として採用し、分析時間の短縮化を図った。定量法は、高分解能GC/MS法により同時一斉定量可能な測定法を構築した。次に、乳幼児食品中の汚染実態の解明では、日本食品標準成分表に従い18群の食品群の中、日本人の摂取量が多い、野菜類、果実類、肉類、乳類、穀類、芋類、豆類、菓子類、きのこ類の計9群の食品を対象とした。健康影響評価では、TBBPA曝露マウスにおける体内動態に関する検討を行い、各臓器・組織・血液中のTBBPA代謝物及びBPAを定量した。また、ヒト肝がん由来細胞を用いたインビトロアッセイ系並びにTBBPA曝露マウスを用いたインビボアッセイ系により脂質・糖代謝系への恒常性攪乱作用の解明を試みた。
結果と考察
分析法の構築では、ブランクを低減し、高精度迅速型の分析法の構築に成功した。乳幼児用食品中の汚染実態では、すべての粉ミルクから両化合物が検出され、その濃度はTBBPAが3.3~3.8 ng/g、BPAが3.5~11 ng/gであった。一方、離乳食調理用食品として野菜類、きのこ類、果実類はTBBPA及びBPAはいずれも1 ng/g(湿重量)以下であった。肉類はTBBPAが2.2~3.9 ng/g、BPAが2.9~4.1 ng/gであった。また、芋類、菓子類および豆類、穀類についても、いずれも1 ng/g(湿重量)以下であった。次に、TBBPA曝露マウスにおけるTBBPA及びその代謝物等の体内動態においては、24時間後には全投与量の約40%が未変化体として糞及び尿中に排泄されていた。また、未変化体の各臓器への分布を調査したところ、投与量に対する分布率は極めて低いものの、その分布濃度は肝臓>腸管>心臓>腎臓>腸管膜脂肪>褐色脂肪>脳の順であった。HepG2細胞を用いたルシフェラーゼアッセイを行った結果、PPARサブタイプに対するTBBPA活性はγ特異的であることが明らかとなった。TBBPAの代謝物と推定されるMoBBPA、DiBBPA、TriBBPAのPPARγに対する活性は、臭素の置換数が多くなるほど活性が高くなることが判明した。脂質、糖代謝系への健康影響として、TBBPA曝露マウスの肝臓中の糖脂質代謝遺伝子の発現解析を行った結果、TBBPA濃度依存的に脂肪酸輸送に関連するCD36及びFSP27のmRNA量が上昇した。
結論
高精度迅速型分析法の構築に成功し、一部の乳幼児用食品の汚染実態が明らかとなった。その汚染レベルは1グラムあたり数ナノグラムであり、比較的低濃度であった。2年間の汚染実態調査という比較的短期間での調査であったものの、日本食品成分表18群の食品群の中、9群の食品の汚染実態を明らかにし、乳幼児用の食品汚染レベルの基礎的な知見が得られたものと判断した。今後、追跡調査等を行い、より詳細な汚染実態の解明に努めたい。健康影響評価では、マウスによる動態解析と細胞を用いたレポータージーンアッセイによる評価を中心に行った。TBBPAは速やかに排泄されるものの、一部は全身に分布し、臓器中に検出されることが判明した。興味深いことに、肝臓中で脱ハロゲン化されたTriBBPA、DiBBPAおよびMoBBPAが検出されたことより、これら代謝物による二次的な毒性影響の可能性も示唆される結果となり、今後の課題といえる。レポータージーンアッセイによる評価では、マウス肝臓において脂質代謝に関連する遺伝子の発現が増加したことにより、肝臓の脂質代謝を攪乱する可能性が指摘された。
公開日・更新日
公開日
2013-06-24
更新日
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