抗酸化物質大量摂取時の安全性評価:運動の有用作用に及ぼす影響

文献情報

文献番号
201234030A
報告書区分
総括
研究課題名
抗酸化物質大量摂取時の安全性評価:運動の有用作用に及ぼす影響
課題番号
H23-食品-若手-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
竹林 純(独立行政法人国立健康・栄養研究所 食品保健機能研究部食品分析研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
種々の疾病の発症及び増悪に関わる活性酸素・フリーラジカルの消去因子として、食品中に含まれている抗酸化物質に大きな関心が寄せられ、抗酸化サプリメントが多数流通している。我々は以前、これらの抗酸化サプリメントの中に、通常の食品と比較して1,000倍以上の濃度の抗酸化物質を含むものがあることを明らかにし、食経験を逸脱した量の抗酸化物質が摂取され得ることを示した。本研究はそれをふまえ、抗酸化サプリメントの安全性をより詳細に検証するものである。抗酸化サプリメントの大量摂取時の安全性評価として、運動の有用作用に及ぼす影響に着目した。運動は、酸素消費の増大に起因する活性酸素の発生増加を伴うため、抗酸化サプリメントの利用が推奨されてきた。ところが近年、運動時に発生する活性酸素は種々の酵素や転写共役因子の発現を介して運動の有用面(持久力増加、耐糖能改善等)に寄与しており、抗酸化物質の大量摂取により活性酸素を消去すると運動の有用性が損なわれるという研究結果が報告された。そこで本研究では、種々の抗酸化物質の大量摂取が運動の有用性に及ぼす影響について詳細に検討することを目的に検討を行った。前年度の検討では、ビタミンCの大量投与が運動による有用な遺伝子応答を抑制するという結果は得られなかった。そこで今年度は、動物個体レベルで、ビタミンCの大量投与が運動の有用作用に及ぼす影響について研究した。
研究方法
1) Wistarラットを、ビタミンC非投与群、投与群(750 mg/kg)に分け、それぞれをさらに非運動群、運動群の2群の計4群に分けた。ビタミンCはゾンデを用いて運動4時間前に強制経口投与した。運動群にはトレッドミルを用いて6週間の運動負荷を行った(トレッドミル速度:25~30 m/分、運動時間:10~60 分/日)。持久力は、トレッドミルを用いて疲労困憊するまでの強制走行試験を行い、走行可能距離で評価した。2) Wistarラットを、ストレプトゾトシンおよびニコチンアミドを腹腔内投与することで2型糖尿病とした。ビタミンC非投与群、投与群(750 mg/kg)に分け、それぞれをさらに非運動群、運動群の2群の計4群に分けた。ビタミンCはゾンデを用いて運動4時間前に強制経口投与し、運動群にはトレッドミルを用いた4週間の運動負荷を行った(トレッドミル速度:20 m/分、運動時間:60 分/日)。耐糖能を経口糖負荷試験およびグリコアルブミン等で評価した。
結果と考察
1) Wistarラットに6週間の運動トレーニングを行うと持久力が増加したが、先行研究の結果と異なり、ビタミンCの大量摂取により、持久力の増加が妨げられることはなかった。2) 運動による耐糖能の改善は、糖尿病の運動療法として重要である。そこで、ビタミンCの大量摂取が、糖尿病の運動療法の効果に及ぼす影響について検討した。2型糖尿病としたWistarラットに3週間の運動トレーニングを行うと耐糖能が改善したが、ビタミンCの大量摂取により、それが妨げられることはなかった。
結論
ビタミンCの大量摂取が、動物個体レベルで運動の有用作用を妨げるか否か検討したが、先行研究の結果に反し、抑制は認められなかった。抗酸化物質の大量摂取が運動の有用性に及ぼす影響は単純ではなく、運動の種類や強度、実験動物の遺伝的背景等の様々な影響を受け変化する可能性がある。今後、健康増進目的で行う中強度運動時の知見をさらに蓄積する必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201234030B
報告書区分
総合
研究課題名
抗酸化物質大量摂取時の安全性評価:運動の有用作用に及ぼす影響
課題番号
H23-食品-若手-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
竹林 純(独立行政法人国立健康・栄養研究所 食品保健機能研究部食品分析研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
種々の疾病の発症及び増悪に関わる活性酸素・フリーラジカルの消去因子として、食品中に含まれている抗酸化物質に大きな関心が寄せられ、抗酸化サプリメントが多数流通している。我々は以前、これらの抗酸化サプリメントの中に、通常の食品と比較して1,000倍以上の濃度の抗酸化物質を含むものがあることを明らかにし、食経験を逸脱した量の抗酸化物質が摂取され得ることを示した。本研究はそれをふまえ、抗酸化サプリメントの安全性をより詳細に検証するものである。抗酸化サプリメントの大量摂取時の安全性評価として、運動の有用作用に及ぼす影響に着目した。運動は、酸素消費の増大に起因する活性酸素の発生増加を伴うため、抗酸化サプリメントの利用が推奨されてきた。ところが近年、運動時に発生する活性酸素は種々の酵素や転写共役因子の発現を介して運動の有用面に寄与しており、抗酸化物質の大量摂取により活性酸素を消去すると運動の有用性が損なわれるという研究結果が報告された。そこで本研究では、種々の抗酸化物質の大量摂取が運動の有用性に及ぼす影響について詳細に検討することを目的に検討した。
研究方法
ビタミンCの大量摂取が運動の有用作用に及ぼす影響を、動物を用いて、遺伝子応答レベル、動物個体レベルで評価した。
結果と考察
1) ビタミンCの大量摂取が運動による有用な遺伝子応答を妨げるという先行研究の追試を行った。ODSラットに3週間の運動トレーニングを行うと同時に、ビタミンCを3段階の用量で飲料水に混和して投与した。後肢筋肉において運動トレーニング後のPGC-1αや抗酸化酵素のmRNA発現レベル等を解析したが、ビタミンCが運動による有用な遺伝子応答を抑制することはなかった。2) 先行研究の追試で再現性が得られなかったため、他の研究を参考に再度検討を行った。Wistarラットに単回の運動負荷を行うと同時に、大量のビタミンCを強制経口投与あるいは腹腔内投与する系を用いて検討したが、ビタミンCが運動による有用な遺伝子応答を抑制することはなかった。3) 先行研究で示された結果と異なり、ビタミンCの大量投与が運動による有用な遺伝子応答を抑制するという結果が得られなかったため、動物個体レベルで、ビタミンCの大量投与が運動の有用作用に及ぼす影響について検討した。Wistarラットを、ビタミンC非投与群、大量投与群に分け、それぞれをさらに非運動群、運動群の2群の計4群に分けた。ビタミンCを運動4時間前に強制経口投与し、トレッドミルを用いて6週間の運動負荷を行った。各群の運動持久力を、トレッドミルを用いて疲労困憊するまでの強制走行試験を行い評価した。運動群では静止群と比較して、走行距離が増加したが、ビタミンCの大量投与によりそれが抑制されることはなかった。4) 2型糖尿病としたWistarラットを、ビタミンC非投与群、大量投与群に分け、それぞれをさらに非運動群、運動群の2群の計4群に分けた。ビタミンCを運動4時間前に強制経口投与し、トレッドミルを用いて3週間の運動負荷を行った。各群の耐糖能を、経口糖負荷試験等を行い評価した。運動群では静止群と比較して、耐糖能の改善が認められたが、ビタミンCの大量投与によりそれが抑制されることはなかった。このように、個体レベルにおいても、ビタミンCの大量摂取が運動の有用作用を打ち消すと言う結果は得られなかった。
結論
ビタミンCの大量摂取が運動の有用作用を妨げるか否かを、動物実験により、遺伝子応答レベル、個体レベルで評価したが、先行研究の結果と異なり、ビタミンCによる抑制は認められなかった。近年、我々が得た結果と同じく、ビタミンCの大量摂取は運動による有益な遺伝子応答を妨げないという報告が複数なされている。これらのことから、抗酸化物質の大量摂取が運動の有用性に及ぼす影響は単純ではなく、運動の種類や強度、実験動物の遺伝的背景等の様々な影響を受け変化すると考えられる。従って、健康増進目的で行う中強度運動時の知見をさらに蓄積することが必要だと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201234030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
運動には、持久力向上や耐糖能改善などの有用性があるが、酸素消費の増大に伴い活性酸素が発生するため、ビタミンCなどの抗酸化物質の摂取が推奨されてきた。しかし、近年、ビタミンCの大量摂取により、運動の有用性が打ち消されるとの報告があり、運動時の抗酸化物質の摂取に疑念が生じた。本研究では、動物実験で先行研究の検証を行い、ビタミンCの大量摂取により運動の有用作用が必ずしも打ち消されないことを示した。
臨床的観点からの成果
運動と栄養は、健康の維持・増進に重要であり、ビタミンCの大量摂取が運動の有用性を阻害するという先行研究を検証する必要があった。本研究の結果、先行研究の結果は必ずしも再現せず、ビタミンC大量摂取時の安全性について、国民に注意喚起すべき知見は得られなかった。現行の食事摂取基準(2010年版)においては、ビタミンCに関して耐容上限量は定められていないが、本研究はそれを否定しない。
ガイドライン等の開発
現時点では、直接ガイドライン等の開発に利用されてはいない。
その他行政的観点からの成果
現時点では、直接行政施策等に反映されてはいない。
その他のインパクト
現時点では、特にない。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Jun Takebayashi, Tomoyuki Oki, Jun Watanabe et al.
Hydrophilic antioxidant capacities of vegetables and fruits commonly consumed in Japan and estimated average daily intake of hydrophilic antioxidants from these foods
Journal of Food Composition and Analysis , 29 (1) , 25-31  (2013)
http://dx.doi.org/10.1016/j.jfca.2012.10.006

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201234030Z