食品安全行政における政策立案、政策評価に資する食品由来疾患の疫学的推計手法に関する研究

文献情報

文献番号
201234028A
報告書区分
総括
研究課題名
食品安全行政における政策立案、政策評価に資する食品由来疾患の疫学的推計手法に関する研究
課題番号
H23-食品-指定-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 百瀬 愛佳(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 大西 俊郎(九州大学経済学研究院)
  • 宮川 昭二(国立感染症研究所 国際協力室)
  • 大田 えりか(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細菌・ウイルス・寄生虫・化学物質などを原因とする食品由来疾患は、総体的に見れば死亡率は高くないものの、患者の健康的生活の質を低下させ、公衆衛生上重要な懸案事項と考えられる。本研究では、行政統計や科学論文を対象に食品由来の健康被害実態について情報収集・整理を行い、疫学的推計手法を用いてDALYsを算出し、施策立案における優先順位決定・政策評価の指標として用いる可能性を検証する。これは、適切な政策立案・政策評価による効率的で質の高い行政及び成果重視の行政の推進に必要な研究であり、更には国民に対する行政の説明責任の充実に資するものである。
研究方法
我が国の食品由来疾患の負担を包括的に推計するために、各危険因子への暴露の現実の分布を最適な分布へ修正することによって回避可能な死亡数を推定し、それを危険因子間で比較する。必要な投入変数は、1)人口における各危険因子への暴露の現実の分布と、2)暴露が死因別死亡にもたらす病因的影響(相対危険度)、3)暴露の代替的分布、4)人口における死因別死亡数である。3に関しては、理論的最小リスク、すなわち現在達成可能ではないが理論的に考えうる最小限の暴露を用いる。24年度は、3年計画の2年目として、主要な食品由来疾患に関してDALYsを算出するとともに、専門家調査を実施し、その結果を分析して食品寄与率の推計を行う。更に、日本の食品安全行政システム等を分析し、我が国の食品安全確保対策におけるDALYsの利用可能性について検証する。
結果と考察
平成24年度は、カンピロバクター属菌による食品由来の急性胃腸炎の実被害患者から、その続発性疾患の実被害患者数を求め、カンピロバクター属菌による被害実態をDALYsを用いて推計した。食品由来疾患の実被害患者数を推計するために必要な病原因子毎の感染源寄与率(source attribution)及び食品安全行政の施策立案の優先順位付けにおける1つの指標である病原因子毎の食品寄与率(food attribution)について、当該分野の専門家から意見を統計学的に解析し、集約する我が国で初めての試みを行った。また、各種行政統計を活用した食品由来疾患による被害実態のDALYsの算出プロセスを確認した。しかしながら、感染源寄与率、食品寄与率及びDALYs推定における活用データの制約等の課題も抽出され、他の情報源を有効に活用した推計手法を開発していく必要があることが提示された。さらに、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌に関する疾患の文献をレビューし、DALYs算出のための基礎データを収集した。カンピロバクター属菌似よる疾病負担、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌に関する疾患の系統的レビューおよび感染源寄与率及び病原因子毎の食品寄与率に関しては、投稿論文の準備ができている。また、平成23年3月に発生した原子力発電所事故後の食品安全行政を俯瞰し、日本の食品安全行政における科学的エビデンスの活用を検証した。特に、WHO/FERGによる研究枠組みが求めるPolicy Situation Analysisについて、昨年度の分析に引き続き、今年度は東京電力福島第一原子力発電所事故への食品安全行政の対応について、食品衛生法に定める基準値設定以降の検査計画等の策定、原子力災害特別措置法に基づく出荷制限、食品中の放射性物質検査結果及び食品からの一日摂取量推定について着目した。こうした当研究班の試みは国別パイロットにおいて、WHOや参加国からも高い評価を受けており、わが国の取り組みがほかの国をリードする形で行われている。
結論
食品由来疾患によるDALYsを求めるという試みは世界的にもまだ少なく、日本ではまだ行われていない。包括的な食品由来疾患の負担の推計は、日本の食品安全行政システムの全体像を把握すると共に、食品安全行政の施策の科学的データに基づいた評価を可能にし、今後の施策策定のための基盤整備に資するものである。更に、政策立案における優先順位付けなど、効率的な食品安全行政の推進のためにも必要な研究課題である。2年目の平成24年度は、FERGのfull studyに対応し、より広い範囲の食品由来疾患のDALY推計、食品寄与率推計に関する様々な手法の比較解析、我が国の食品安全行政に適応可能な疫学的推計手法の開発などのわが国独自の環境(食品汚染、食事習慣、食品安全行政を含む)に対応した手法の開発を行った。最終年度は、開発した疫学的推計手法の検証と、DALY推計の精度向上のためのデータ特定とそれを収集するための課題の分析を行い、食品由来疾患の疫学的推計手法の我が国における適用可能性の検証を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-07-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201234028Z