機能を温存する外科療法に関する研究

文献情報

文献番号
199800151A
報告書区分
総括
研究課題名
機能を温存する外科療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
海老原 敏(国立がんセンタ-東病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小宮山荘太郎(九州大学医学部)
  • 波利井清紀(東京大学医学部)
  • 武藤徹一郎(東京大学医学部)
  • 鳶巣賢一(国立がんセンタ-中央病院)
  • 佐々木寛(東京慈恵会医科大学)
  • 野口昌邦(金沢大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
69,772,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)頭頸部がんでは、舌、中咽頭、下咽頭など摂食、会話等重要な機能に影響を及ぼす臓器を中心に喉頭を温存する外科療法を開発または改良を進める。2)がん治療に伴う味覚障害ついては、自覚的味覚検査、唾液分泌量の測定を照射前、中、後に行った。3)再建外科では、下顎骨広範囲切除後の再建法の確立にむけた研究を行う。4)骨盤臓器では、直腸切断術において、永久的人工肛門を造設せずに、会陰部に便禁制と排便機能を有する機能的肛門を再建する術式の実用化を目指す。4)泌尿器科がんでは、膀胱尿道全摘術後の非失禁型(導尿型)代用膀胱の方法に改良を加える。5)婦人科がんでは、腹腔鏡下骨盤内リンパ節郭清術および基靱帯処理と腹式(凖)広汎性子宮全摘術との組み合わせる術式を確立する。6)乳がんでは、センチネル・リンパ節を同定し、生検する方法により腋窩リンパ節郭清を省略できるか否かの検討をする。
研究方法
1)頭頸部がんにおいては、これまで開発された機能温存手術の適応と限界について検討すると共にさらに中咽頭切除再建について検討する。いずれの術式についても、その適応と限界を明確にすることを目的として、臨床例で施行した。2)放射線治療を行った頭頸部がん患者を対象として、全口腔法を用いて4 基本味の味覚認知閾値と閾値上値、唾液分泌量を照射前、照射中、照射後に測定した。また、舌切除手術前後での認知閾値の変化も検討した。3)1979年より1997年までの間に、がん切除後の下顎再建に対して行った遊離皮弁あるいは血管柄付き遊離骨移植は149 例について検討した。4)実験的検討:雑種成犬22頭を用い、直腸肛門を切除後、会陰部人工肛門周囲に大腿二頭筋で括約筋を再建し、同筋を支配する神経と陰部神経を吻合した。臨床例:直腸切断術を施行した下部直腸がん症例7 例に施行した。陰部神経を同定して切離し、下部大殿筋を支配する神経に10ナイロン糸によって神経上膜縫合した。下部大殿筋を、会陰部に引き下ろした口側結腸断端の周囲にまいて固定し、括約筋を再建した。5)輸出脚に可能ならば虫垂を、さもなくば極端に狭小化した回腸を作成し、導尿ルートの大半を蓄尿に供するパウチ壁に埋めた。ストーマは臍に形成した。この術式の改良を8 例の症例において試みた。6)子宮頚がんIa期5 例、Ib期6 例、子宮体がん3 例に対して腹腔鏡補助腟式(準)広汎性子宮全摘術を施行した。7)手術前にRI医薬品を乳腺腫瘍の周囲組織内に注入し、術中1 %パテントブルーを腫瘍周囲に局注し、青く染まったリンパ節あるいはRIの集積したリンパ節をセンチネル・リンパ節と同定した。その後に通常通りの腋窩リンパ節郭清をおこない、同ンパ節におけるがん転移の有無と腋窩リンパ節転移の有無とを比較検討した。
結果と考察
1)喉頭・下咽頭双方の切除をし、その欠損部を再建する新しい術式を施行した症例は 7例となった。いずれの症例でも経口摂取は可能で誤嚥が問題となる症例は認められなかった。中咽頭の側壁を合併切除し、中咽頭、下咽頭の欠損を遊離空腸で、喉頭腔を局所皮弁で再建した1 例で、再建に用いた前腕皮弁の辺縁に壊死が生じ創治癒に時間を要したものを除き、 6例は極めて順調な経過であった。術後、気道が狭めで気管切開孔の閉鎖に時間を要したものが2 例に認められた。いずれの症例も術後機能は極めて良好であり術式の術後機能の面での安全性は確立されたものと考える。中咽頭がんに対する機能を温存する外科療法では、大容量の再建材を用いると良好な機能が得られた。
2)苦味の認知閾値は30Gyまで上昇した後低下した。塩味は軽度上昇し、甘味、酸味は変化しなかった。舌根部が照射野に含まれる例が多く、舌根部に最も高い感受性を持つ苦味が最も強く障害されたと考えた。6 ヶ月後には、認知閾値は回復した。閾値上検査では、濃度-自覚強度直線の傾きは変化せず、濃度-自覚強度直線が高濃度方向に移動した。舌半切・亜全摘例7 例では、認知閾値の有意な上昇は認めなかった。味蕾は舌に2/3 、軟口蓋・口腔粘膜に1/3 存在するので舌が3/4 切除されても50%の味蕾は残り、外科手術による味覚障害についてはあまり配慮しなくてよいと考えられた。
3)今回の分析では完全壊死が肩甲骨移植で43例中1 例(2.3 %)と比較的良好な成績であった。反面、腸骨移植では31例中5 例(16.1%)、腓骨では31例中3 例(9.7 %)と、他の遊離皮弁と較べ高い壊死率であった。また、AO再建プレートとチタンプレートで移植骨の固定を行っているが、後者の方が瘻孔などの合併症が少なく固定材料として優れたものと思われた。しかし、血管柄付き骨、皮弁移植をもってしても瘻孔などのトラブルが多く、他の部位に較べて下顎再建の難しさが明らかになった。
4)殿筋を用いた肛門括約筋の再建は、第1 例は、難治性感染による筋萎縮のため永久的結腸瘻を造設した。第1 例を含む6 例では、5 ~6 ヶ月後より肉眼的に随意収縮が観察された。4 例の肛門内圧測定では、静止圧32.6±8.2mmHg、収縮圧80.2±46.4mmHg、機能的肛門管長43.0±8.9mmであった。第2 、3 、4 例では、術後6 ~8 ヶ月後に回腸瘻を閉鎖した。いずれも、通常の日常生活を送っており、患者のQOLの改善が得られたと考えられる。第5 、6 、7 例は、神経の再生には術後経過期間が短く評価前の段階である。
5)8 例中6 例で昼夜を問わず尿失禁を認めず、他の2 例でも尿失禁は極めて軽度であった。全例で導尿困難を認めなかった。さらにストーマを臍に形成し、真皮と白線をストーマと一緒に固定したため、ストーマが目立たず、かつ導尿時にストーマが落ち込むことがなかった。
6)腹腔鏡下骨盤内リンパ節郭清術および基靱帯処理は可能であり、術中平均出血量は 198±115ml平均手術時間は 195±33分、平均摘出リンパ節数は26±7個であった。引き続き腟式準広汎性または広汎性子宮全摘術を施行した。術後、平均排ガス日数は 2±0.7日間、術後のリンパ嚢腫は3 例であり、広汎性例での排尿障害は10日間で残尿が50・以下となった。
7)87例の乳がん症例にセンチネル・リンパ節の生検と腋窩リンパ節郭清を行い、その診断能を検討した。色素法単独で同定率が81%であったのに対し、色素およびガンマ・プローベの併用法では93%で同定率の向上に有効であった。全体での正診率は93%、敏感度86%、特異度100 %であったが、原発巣の腫瘍径1.5 cm以下の腫瘍では正診率100 %であった。これらの症例でセンチネルリンパ節生検により腋窩リンパ節郭清を省略できる可能性があると考えられた。
結論
1)喉頭・下咽頭を部分切除し再建する術式の適応となる症例の数は必ずしも多くはないが音声ならびに経口摂取機能を温存する療法として極めて優れた術式といえる。2)放射線性味覚障害は認知閾値が上昇し、濃度-自覚強度直線がそのまま右方移動することによって発生し、認知閾値の変動から味覚障害の程度が判断できると考えられた。3)血管柄付き骨、皮弁移植による下顎再建術の149 症例を分析し、同時に、新しい再建法である仮骨延長法、骨トランスポート法なども行った。いまだ確実な方法はなく今後の研究が必要である。4)肛門括約筋の再建により直腸切断術後に機能的肛門を再建することが可能であると考えられた。5)今回の新しい工夫は非失禁型(導尿型)代用膀胱の輸出脚の形成法として、ほぼ確立したものと考えられる。6)腹腔鏡補助腟式(準)広汎性子宮全摘術は実施可能であり、術後の回復、とくに膀胱神経障害の回復は良好であり、新術式の開発ができた。7)色素法およびガンマ・プローベ法の併用がセンチネル・リンパ節の同定に有用であり、センチネル・リンパ節生検で腋窩リンパ節転移を認めない腫瘍径1.5 cm以下の症例には腋窩リンパ節郭清を省くことができる。

公開日・更新日

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