母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究

文献情報

文献番号
201234015A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡 明(杏林大学 医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 裕(東邦大学 医学部新生児学教室)
  • 中村 好一(自治医科大学 地域医療学センタ-公衆衛生学部門)
  • 近藤 直実(岐阜大学大学院 医学系研究科小児病態学)
  • 板橋 家頭夫(昭和大学 医学部小児科)
  • 河野 由美(自治医科大学 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,820,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母乳中のダイオキシン分泌量は、母体のダイオキシン汚染の状況を反映するものであり、環境汚染の観点からは、母体が長期間生活していた中で採取したダイオキシン量を評価する指標ともいうことができる。厚生労働科学研究として平成9年度より母乳のダイオキシン汚染による影響に関する調査を継続して行ってきており、その結果として母乳中ダイオキシン類濃度は1970年代に比して格段に改善し現在も漸減傾向にあることを報告してきた。これはダイオキシン対策の効果を反映したものを考えられる一方で、乳児について見ると母乳育児ではいまだに耐用一日摂取量(TDI)の20倍近いダイオキシン類を摂取していることとなり、ダイオキシン汚染はいまだに母乳栄養の上で大きな課題となっている。乳児への栄養食品という観点および環境汚染の評価の視点で、これまでに引き続き母乳中のダイオキシン濃度を測定すると共に、ダイオキシン摂取と発育発達への影響を調査した。
研究方法
25~34才の年齢の初産婦29名より、産後1か月の母乳の提供を受けダイオキシン類濃度を測定した。ダイオキシン類摂取量と1か月および1歳時の身体発育と精神発達指標との関連を検討した。本研究班の調査で母乳からのダイオキシン類の摂取量が分かっている1997年~2009年出生の児の保護者に対し、行動スクリーニング尺度である「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ)の質問用紙を郵送し回収した。SDQのすべての項目に回答した341名についてSDQのtotal Difficulties score(TDS)および5つの分野のサブスコアとダイオキシン類摂取比の相関、スコアから判定した支援の必要度とダイオキシン類摂取比について男女別に検討した。
結果と考察
初産婦の産後1か月の母乳中のダイオキシン濃度(PCDDs+PCDFs+Co-PCBsの合計)は、本年度は平均12.579 pg-TEQ/g-fat(最低4.8pg-TEQ/g-fat、 最高25.0pg-TEQ/g-fat、中央値12.0 pg-TEQ/g-fat、SD4.735)であり、昨年の11.236 pg-TEQ/g-fatとほぼ同様のレベルであった。1997年から2011年までの母乳測定者について回帰分析の結果、全体ではPCDDs, PCDFs, PCDDs+PCDFs, Co-PCBs, total dioxinsすべてで有意な低下が観察され、1997-2004年と2005-2011年に区切った場合のいずれでも低下は有意であった。母体のダイオキシン暴露は1ヵ月時点の体重や身長に影響する可能性が示唆されたが、その関与は他の要因に比べてわずかで、さらに1歳になるとその影響は消失した。乳児期の運動発達について、total高量群で「お座り」の時期が遅かったが、以後の運動発達指標に有意差を認めなかった。また1歳時の精神発達指標のいずれの発達指標でも母乳毒性等価係数の増加と指標ができないリスクの増加の関連性は認めなかった。行動や発達の評価として行ったSDQのTDS 、サブスコアとダイオキシン類摂取比とにも有意な相関は認めなかった。アレルギー性疾患については、発症例はダイオキシン類摂取が多いという傾向を認めなかった。
結論
母乳中ダイオキシン類レベルは平均12.579 pg-TEQ/g-fat(最低4.8pg-TEQ/g-fat、 最高25.0pg-TEQ/g-fat、中央値12.0 pg-TEQ/g-fat、SD4.735)であり、昨年の11.236 pg-TEQ/g-fatとほぼ同様のレベルであった。母乳中ダイオキシン類レベルは、長期的な傾向として、1997年から2011年までの間で、PCDDs, PCDFs, PCDDs+PCDFs, Co-PCBs(12種)、total dioxinsいずれも有意に低下していた。乳児期の運動発達指標、1歳時の精神発達指標、SDQを用いて評価した3歳以降の行動と母乳からのダイオキシン類の摂取と明らかな関連は認められなかった。現状ではダイオキシン類の環境汚染への影響が胎児や乳児期に発育に大きな影響を与える可能性は少ないか、あっても軽微であると考えられる。
乳児への栄養食品という観点および環境汚染の評価の視点で、母乳中のダイオキシン類濃度は今後も継続して測定していくことが重要であり、発達障害やアレルギー疾患発症に及ぼす影響についてもさらに経年的に観察が必要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201234015B
報告書区分
総合
研究課題名
母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡 明(杏林大学 医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 裕(東邦大学 医学部新生児学教室)
  • 中村 好一(自治医科大学 地域医療学センタ-公衆衛生学部門)
  • 近藤 直実(岐阜大学大学院 医学系研究科小児病態学)
  • 板橋 家頭夫(昭和大学 医学部小児科)
  • 河野 由美(自治医科大学 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母乳中のダイオキシン分泌量は、母体のダイオキシン汚染の状況を反映するものであり、環境汚染の観点からは、母体が長期間生活していた中で採取したダイオキシン量を評価する指標ともいうことができる。厚生労働科学研究として平成9年度より母乳のダイオキシン汚染による影響に関する調査を継続して行ってきており、その結果として母乳中ダイオキシン類濃度は1970年代に比して格段に改善し現在も漸減傾向にあることを報告してきた。これはダイオキシン対策の効果を反映したものを考えられる一方で、乳児について見ると母乳育児ではいまだに耐用一日摂取量(TDI)の20倍近いダイオキシン類を摂取していることとなり、ダイオキシン汚染はいまだに母乳栄養の上で大きな課題となっている。乳児への栄養食品という観点および環境汚染の評価の視点で、これまでに引き続き母乳中のダイオキシン濃度を測定すると共に、ダイオキシン摂取と発育発達への影響を調査した。
研究方法
25~34才の年齢の初産婦より、産後1か月の母乳の提供を受けダイオキシン類濃度を測定した。ダイオキシン類摂取量と1か月および1歳時の身体発育と精神発達指標との関連を検討した。本研究班の調査で母乳からのダイオキシン類の摂取量が分かっている1997年~2009年出生の児の保護者に対し、行動スクリーニング尺度である「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ)の質問用紙を郵送し回収した。SDQのすべての項目に回答した341名についてSDQのtotal Difficulties score(TDS)および5つの分野のサブスコアとダイオキシン類摂取比の相関、スコアから判定した支援の必要度とダイオキシン類摂取比について男女別に検討した。
結果と考察
初産婦の産後1か月の母乳中のダイオキシン濃度(PCDDs+PCDFs+Co-PCBsの合計)は、平成22年度平均13.0 pg-TEQ/g-fat、23年度平均11.236 pg-TEQ/g-fat、24年度平均12.579 pg-TEQ/g-fatであり、さらに低下傾向を示していた。統計的にも1997年から2011年までの回帰分析の結果、有意な低下が観察され、さらに1997-2004年と2005-2011年に区切った場合でも低下は有意であった。
1歳時の血液中のダイオキシン類濃度は、母乳から摂取したダイオキシン類摂取量に強い相関を示し、母乳から摂取されるダイオキシン類が乳児の汚染の主要な経路であることが示された。1歳時のダイオキシン類血中濃度を指標として汚染状況と、1歳時の甲状腺機能検査、免疫機能、アレルギー性疾患との関連を検討したが、明らかな影響は認められなかった。
母乳中のダイオキシン類が児の身体発育に与える影響については、1ヵ月時点の体重や身長に影響する可能性が示唆されたが、その関与はわずかで、さらに1歳になるとその影響は消失した。また、乳児期の運動発達について、ダイオキシン摂取高量群で「お座り」の時期が遅かったが、以後の運動発達指標に有意差を認めず、1歳時の精神発達指標のいずれの発達指標でもダイオキシン類摂取との関連性は認めなかった。
1997年~2009年出生の児でこれまでにダイオキシン濃度を測定した母乳を摂取したコホート群について、発達障害の調査を行った。保護者に対し行動スクリーニング尺度である「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ)の質問用紙を郵送し、SDQのすべての項目に回答した341名について、発達障害に関する指標について検討した。SDQのTDS 、サブスコアとダイオキシン類摂取とにも有意な相関は認めなかった。
1歳のアレルギー性疾患については、発症例はダイオキシン類摂取が多いという傾向を認めなかった。
結論
平成22年度から24年度の母乳中のダイオキシン類濃度は平成19年度から21年度と比較して漸減傾向を示していた。さらに1997年から2011年までの間でも統計的に有意に低下していた。これは、行政による環境対策により、母体が摂取するダイオキシン類の総量が低下しているものと考えられた。
出生体重および乳児期の身体発育からは、現状ではダイオキシン類の環境汚染への影響が胎児や乳児期に発育に大きな影響を与える可能性は少ないか、あっても軽微であると考えられる。
乳児が摂取するダイオキシン類の神経発達に対する影響については、乳児期の運動発達指標、1歳時の精神発達指標、子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)を用いて評価を行った。母乳からのダイオキシン類の摂取と明らかな関連は認められなかった。
乳児への栄養食品という観点および環境汚染の評価の視点で、母乳中のダイオキシン類濃度は今後も継続して測定していくことが重要であり、発達障害やアレルギー疾患発症に及ぼす影響についてもさらに経年的に観察が必要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201234015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
母乳中のダイオキシン類が児の身体発育に与える影響については、1ヵ月時点の体重や身長に影響する可能性が示唆されたが、その関与は他の要因に比べてわずかで、さらに1歳になるとその影響は消失した。また、コホート群での運動発達およびその後の発達障害との関連についても、ダイオキシン類摂取とにも有意な相関は認めなかった。また、1歳のアレルギー性疾患については、発症例はダイオキシン類摂取が多いという傾向を認めなかった。
臨床的観点からの成果
母乳から摂取されるダイオキシン類が乳児の汚染の主要な経路であることが示された。そこで乳児期のダイオキシン類への暴露が環境因子として神経発達やアレルギー性疾患等に影響を与えるかどうかについて1997年から追跡しているコホート集団にて検討を行ったが、明かな関連は認められなかった。乳児への栄養食品という観点および環境汚染の評価の視点で、母乳中のダイオキシン類濃度は今後も継続して測定していくことが重要であると思われる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
乳児への栄養食品という観点および環境汚染の評価の視点で、これまでに引き続き母乳中のダイオキシン濃度を測定したところ、1970年代に比して格段に改善し現在も漸減傾向にあることが確認された。これはダイオキシン対策の効果を反映したものを考えられるが、乳児について見ると母乳育児ではいまだに耐用一日摂取量の20倍近いダイオキシン類を摂取していることとなり、ダイオキシン汚染はいまだに母乳栄養の上で大きな課題となっている。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-30
更新日
2016-10-03

収支報告書

文献番号
201234015Z