食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究

文献情報

文献番号
201234013A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究
課題番号
H22-食品-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 原田 孝則(一般財団法人残留農薬研究所 )
  • 出川 雅邦(静岡県立大学)
  • 中澤 裕之(星薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
13,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は、1. 細胞増殖亢進が酸化的DNA損傷を介した遺伝子突然変異誘発性に及ぼす影響を検討した。2. 外因性のNRF2経路の活性化がそれぞれの化学物質の肝発がん過程後期に与える修飾作用をNRF2経路活性化物質であるスルフォラファン(SFN)を用いて検討した。3. メタミドホスと同一あるいは類似の作用機序を有する農薬を組合せて、代表的な解毒処置の有効性、発達期におけるヒト健康影響へのリスク評価に必要な基礎的毒性情報の収集、獲得免疫能及びアレルギー性皮喘息反応に及ぼす影響について調査した。4. ルシフェラーゼレポーター細胞株を用いて、CYP3A酵素の誘導に対するCURとCYP3A酵素誘導剤の複合影響の発現機構を追究した。5. 食品中に含まれるフェノール性化合物としてケイ皮酸類縁化合物に着目し、Antioxidant作用およびProoxidant作用について評価した。
研究方法
1. 臭素酸カリウム(KBrO3)と水道水汚染物質であり、細胞増殖活性能を有するニトリロ三酢酸(NTA)を用いて、8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)の測定、in vivo変異原性を実施した。2. フランあるいはジエチルニトロソアミン誘発前がん病変へのSFNの修飾効果を検討した。3. 有機リン剤、カーバメート剤、ニコチン製剤を組合せた混合剤に対する活性炭、硫酸アトロピン、プラリドキシムヨウ化メチル及びバルビタールの解毒効果を検討した。パラチオン及びメタミドホスを組み合わせ、非妊娠成熟あるいは妊娠動物に投与した。パラチオンないしはメトキシクロル投与マウスにLocal Lymph Node Assay(LLNA法)を実施した。4. ヒトPXRリガンド検索用細胞株HPL-A3を用いて、被験化合物を添加して、ルシフェラーゼアッセイならびに各種遺伝子のmRNAを測定した。5. DPPH法によるAntioxidant作用の評価は、1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)を用い、DPPHラジカルの消去率を吸光度によって測定することで評価した。
結果と考察
1. KBrO3+NTA併用投与群において酸化的DNA損傷に特徴的なGC-TA transversion及びlarge deletionの頻度が増加していた。従って、NTAはKBrO3による酸化的DNA損傷を介した遺伝子突然変異誘発を増強する作用を有していると考えられた。2. NRF2経路の活性化は遺伝毒性発がん物質により誘導されたGST-P陽性細胞巣の形成には促進的に作用するが、非遺伝毒性肝発がん物質により誘導されたGST-P陽性細胞巣には影響を与えない可能性が示唆された。3. バルビタールはメタミドホスには有効だが、他のほとんどの組合せで不適であった。母動物で認められた死亡を含む重篤な神経症状や血清及び脳ChE活性の有意な低下は、妊娠期間中のPON1活性の低下に伴った有機リン剤の代謝活性の低下に起因する可能性が示唆された。免疫抑制作用をもつ農薬の複合暴露によってその影響が増強された場合、その後の免疫撹乱に及ぼす影響も強まることが示唆された。4. 本細胞では少なくともVDRリガンドとPXRリガンドとの間に複合影響が見られることから、CURによるPXR活性化作用増強にも関わる可能性が考えられた。5. Antioxidant作用の強さはフェノール性水酸基が多い化合物ほど増加していく傾向が認められた。食品中に含有されているフェノール性化合物についても同様に、二価の銅と反応し、ROSを生成することが示唆された。
結論
1. 遺伝毒性を示さないが細胞増殖能を有する食品中の化学物質は、食品中遺伝毒性発がん物質の遺伝毒性を増強する可能性が明らかとなった。2.外因性のNRF2経路の活性化に対するGST-P陽性細胞巣の反応は、GST-P陽性細胞内のNRF2経路の活性化状態により異なる可能性が示された。3. 農薬の経口暴露後早期であれば、活性炭による吸着除去の解毒効果が高いことが確認された。妊娠期間中のPON1活性低下がパラチオン及びメタミドホスの代謝低下に繋がり、毒性を増強させた可能性が示唆された。メトキシクロルとパラチオンあるいはピペロニルブトキシドの複合暴露により、獲得免疫能が相乗的に抑制され、アレルギー喘息作用が相乗的に増悪することが示唆された。4. ヒトPXR活性化レポーター細胞株を用いて、CURとPXRリガンドとの複合影響について解析した結果、これら化合物は複数の機構によりCYP3A酵素の発現に対して複合影響を引き起こす可能性を明らかとした。5. 抗酸化物質と金属を同時に摂取した場合、一部の化合物については生体内で新たな化合物を生成し、ROSが産生される可能性を示唆した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201234013B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究
課題番号
H22-食品-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 原田 孝則(一般財団法人残留農薬研究所)
  • 出川 雅邦(静岡県立大学)
  • 中澤 裕之(星薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中には、食品添加物、残留農薬、加熱調理過程で生成される発がん物質、食品加工中に生じる予期せぬ副産物、種々の汚染物質など多様な化学物質が含まれており、ヒトはそれを長期間摂取する可能性が高い。従って、複数の化学物質による健康影響を解析することの必要性が指摘されている。そこで本研究は、食品中化学物質の複合影響によるin vivo変異原性、神経毒性、代謝および反応生成物を多角的に解析し、実用的な安全性評価に資するデータの蓄積を目的とする。
研究方法
1. gpt delta動物を用いて、単剤では遺伝毒性を有しないが様々な化学発がん過程に作用する食品中化学物質が同時に摂取される可能性のある食品中遺伝毒性発がん物質の突然変異誘発性に及ぼす影響を検討した。2. カフェイン酸(CA)と亜硝酸ナトリウム(NaNO2)の酸化ストレスを介した複合影響を検討した。外因性のNRF2経路の活性化が、それぞれの化学物質の肝発がん過程後期に与える修飾作用を、NRF2経路活性化物質であるスルフォラファン(SFN)を用いて検討した。3. メタミドホスと同一あるいは類似の作用機序を有する農薬を組合せて雌性ラットの成獣に複合投与し、その毒性効果を検索すると共に、メタミドホスとパラチオンを組み合わせて、発達期におけるヒト健康影響へのリスク評価に必要な基礎的毒性情報を収集ならびに残留農薬の複合暴露の免疫系への影響を実験動物で調査した。4. 肝CYP酵素活性に影響を与えることが知られている代表的な食品添加物を用いて、それら化合物のCYP1AおよびCYP3A酵素誘導能やそれら活性への影響を調べるとともに、それら化合物と代表的なCYP1A/3A誘導剤との複合影響の有無を明らかにした。5. 食品中に含まれる抗酸化物質に着目し、金属またはNaNO2を併用することでROSまたはRNSの産生に与える影響についてAntioxidant作用およびProoxidant作用の観点から評価した。
結果と考察
1. CYP誘導剤ではESの突然変異誘発性への影響は認められなかったのに対し、細胞増殖を亢進させるFL及びNTAはMeIQx及びKBrO3の突然変異誘発性を増強することを見出した。2. 肝臓ではCAとNaNO2の複合反応で生成するベンゾキサジン誘導体が検出されたが、酸化ストレスは認められなかった。フラン誘発GST-P陽性細胞巣では、NRF2経路が活性化している可能性が示唆された。SFNはDEN誘発GST-P陽性細胞巣の発生を促進した。3. 多剤混合毒性影響を予測する上で、2剤複合投与の毒性情報が有用であることが示唆された。妊娠期間中のPON1活性低下がパラチオン及びメタミドホスの代謝低下に繋がり、毒性を増強させた可能性が示唆された。メトキシクロルとパラチオンあるいはピペロニルブトキシドの複合暴露により、獲得免疫能が相乗的に抑制され、アレルギー喘息作用が相乗的に増悪することが示唆された。4. AhRあるいはPXRレポーター細胞株を用いて、食品中の化学物質と代表的なAhRあるいはPXRリガンドとの複合影響について解析した結果、それぞれ異なった機構でCYP1Aおよび3A酵素の発現に対して複合影響を引き起こすことを明らかとした。5. フェノール性化合物については、オルト位に水酸基を有する化合物は銅と反応し、ROSを生成することが明らかとなった。チオール化合物とビタミン類については、一部の化合物と銅の反応でROSが生成していることが明らかとなった。
結論
1. 遺伝毒性を示さないが細胞増殖能を有する食品中の化学物質は、食品中遺伝毒性発がん物質の遺伝毒性を増強する可能性が明らかとなった。2.外因性のNRF2経路の活性化に対するGST-P陽性細胞巣の反応は、GST-P陽性細胞内のNRF2経路の活性化状態により異なる可能性が示された。3. 多剤混合毒性影響を予測する上で、2剤複合投与の毒性情報が有用であることが示唆された。妊娠ラットに対する有機リン剤の複合暴露は相加的に毒性が強く発現した。免疫抑制作用をもつ農薬の複合暴露によってその影響が増強された場合、その後の免疫撹乱に及ぼす影響も強まることが示唆された。4. 本研究で用いた2種の食品添加物は、代表的なCYP1A/3A誘導剤による各CYP誘導に対して複合影響をもたらすことが明らかになった。5. フェノール性化合物やビタミンなど抗酸化物質と金属を同時に摂取した場合、一部の化合物については生体内で新たな化合物を生成し、ROSが産生される可能性を示唆した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201234013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品中化学物質の新たな作用点の可能性、新たな組み合わせの可能性を示したin vitroの系でのデータを参考に、in vivoの系を用いて、食品中発がん物質に対する食品中化学物質の新たな作用点を解明し、また、同じ作用点を有する農薬の複合影響予測の可能性を示すことが出来た。これらの成果は、食の安心、安全確保に必要な的確な安全性評価と迅速な厚生労働行政対応に大きく貢献するものと期待される。
臨床的観点からの成果
食品中化学物質の複合影響によるin vivo変異原性、神経毒性、代謝および反応生成物を多角的に解析し、実用的な安全性評価に資するデータの蓄積を行った。
ガイドライン等の開発
特記すべき事項なし
その他行政的観点からの成果
本研究結果は、食品中化学物質複合暴露に対するより的確な安全性評価法の構築に貢献でき、その成果は消費者の複合暴露に対する漠然とした不安を払拭し、ヒトの食生活の安心と安全に大きく寄与することが期待される。
その他のインパクト
特記すべき事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okamura, T., Umemura, T., Nishikawa, A., et al.
Effects of co-treatment of dextran sulfated sodium and MeIQx on genotoxicity and possible carcinogenicity in the colon of p53-deficient mice.
J. Toxicol. Sci. , 35 (5) , 731-741  (2010)
原著論文2
Okamura, T., Umemura, T., Nishikawa, A., et al.
Enhancing effects of carbon tetrachloride on in vivo mutagenicity in the liver of mice fed 2-amino-3,8-dimethylimidazo[4,5-f]quinoxaline (MeIQx).
J. Toxicol. Sci. , 35 (5) , 709-720  (2010)
原著論文3
Ishii, Y.,Umemura, T., Nishikawa, A., et al.
Detection and quantitation of specific DNA adducts by liquid chromatography-tandem mass spectrometry in the livers of rats given estragole at the carcinogenic dose.
Chem. Res. Toxicol. , 24 , 532-541  (2011)
原著論文4
Suzuki, Y., Umemura, T., Nishikawa, A., et al.
Possible involvement of genotoxic mechanisms in estragole-induced hepatocarcinogenesis in rats.
Arch. Toxicol. , 86 , 1593-1601  (2012)
原著論文5
Suzuki, Y., Umemura, T., Nishikawa, A., et al.
Possible involvement of sulfotransferase 1A1 in estragole-induced DNA modification and carcinogenesis in the livers of female mice.
Mutat. Res. , 749 , 23-28  (2012)
原著論文6
Kuroda, K., Kijima, A., Umemura, T., et al
Flumequine enhances the in vivo mutagenicity oyf MeIQx in the mouse liver.
Arch. Toxicol.  (2013)
10.1007/s00204-013-1064-y
原著論文7
Fukuyama, T., Kosaka, T., Harada, T., et al
Prior exposure to organophosphorus and organochlorine pesticides increases the allergic potential of environmental chemical allergens in a local lymph node assay.
Toxicol Lett., , 199 , 347-356  (2010)
原著論文8
Fukuyama, T., Kosaka, T., Harada, T., et al
Detection of thymocytes apoptosis in mice induced by organochlorine pesticides methoxychlor.
Immunopharmacol Immunotoxicol , 33 , 193-200  (2011)
原著論文9
Fukuyama, T., Kosaka, T., Harada, T., et al
Immunotoxicity in mice induced by short-term exposure to methoxychlor, parathion, or piperonyl butoxide.
J Immunotoxicol  (2013)
10.3109/1547691X.2012.703252
原著論文10
Masashi Sekimoto, Shinsuke Sano, Deagawa, M., et al
Establishment of a stable humancell line, HPL-A3, for use in reporter gene assays of CYP3A inducers.
Biol. Pharm. Bull., , 35 , 677-685  (2012)
原著論文11
Iwasaki, Y., Nomoto, M., Nakazawa, H., et al
Characterization of nitrated phenolic compounds for their anti-oxidant, pro-oxidant, and nitration activities.
Arch. Biochem. Biophys., , 513 (1) , 10-18  (2011)
原著論文12
Iwasaki, Y., Mochizuki, K., Nakazawa, H., et al
Comparison of fluorescence reagents for simultaneous determination of hydroxylated phenylalanine and nitrated tyrosine by high-performance liquid chromatography with fluorescence detection.
Biomed. Chromatogr., , 26 (1) , 41-50  (2012)
原著論文13
Fukuyama, T., Kosaka, T., Harada, T., et al
Role of regulatory T cells in the induction of atopic dermatitis by immunosuppressive chemicals.
Toxicol Lett, , 33 (213) , 392-401  (2012)
原著論文14
Iwasaki, Y.. Hirasawa, T., Nakazawa, H., et al
Effect of interaction between phenolic compounds and copper ion on antioxidant and pro-oxidant activities.
Toxicol. in Vitro, , 25 (7) , 1320-1327  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201234013Z