食品中の有害衛生微生物を対象としたライブラリーシステム等の構築

文献情報

文献番号
201234009A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の有害衛生微生物を対象としたライブラリーシステム等の構築
課題番号
H22-食品-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小西 良子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤由起子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 野崎 智義(国立感染症研究所)
  • 泉谷 秀昌(国立感染症研究所)
  • 林  賢一(滋賀県衛生科学センター)
  • 堀川 和美(福岡県保健環境研究所)
  • 斉藤 志保子(秋田県健康環境センター)
  • 黒木 俊郎(神奈川県衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
19,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、食品流通が多様化・広域化している現状において、食中毒予防に有用なリスク管理手法を確立するため、公衆衛生上重要視されている食品中の有害衛生微生物に関しての科学的解析情報を集約し、国立試験研究機関(国立医薬品食品衛生研究所および国立感染症研究所)と地方衛生研究所(地研)等の食品安全関係機関の間で、効率的かつ効果的に共有するためのシステムを構築することを目的とした。
研究方法
食品中から分離される食中毒細菌の汚染実態情報、菌株のPFGE解析等による分子疫学情報、病原性マーカー等の関連性を総合的に解析する手法の開発、食品中のカビ等に関する苦情について、地研が蓄積している情報を解析、リスクプロファイルの作成、 馬肉中のザルコシスティスの検査法の開発と実態調査、の情報を集約した効率的なライブラリーシステムを構築するための国立試験研究機関と地研等間での連携モデルの構築の4つの研究手法を用いた。
結果と考察
腸炎ビブリオのストレス抵抗性を調べ、ストレス抵抗性との関連が考えられた遺伝子を設定し、食中毒リスクとなる株のマーカーとして検討できる方向性が示された。MALDI-TO F/MS解析等とパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析を比較し新しいタイピング手法について検討した。腸管出血性大腸菌では、高病原性の指標となる要因を解明するとともに、血清群による高病原性について明らかにするためにその保有性を集団遺伝学的に解析した。その結果、病原性の強さにより血清型を分類したseropathotypeとの間に相関が見られ、病原性の有無は病原遺伝子の有無によって決定づけられていることが示唆された。カンピロバクターでは、2005-2006年の間に国内のニワトリ及びウシより分離された株について、Multi-Locus Sequence Typing(MLST)法による遺伝子型別を行い、国内ヒト臨床分離株との比較を通じて、ヒト食中毒との関連性について検討をおこなった。その結果国内ヒト食中毒に関連性を示すC. jejuniは遺伝形質に一定の宿主特異性を示すことが明らかとなり、その中でも由来の明確な一群を見出すことができた。サルモネラでは、O群型別に関する手法の検討、標準法であるパルスフィールドゲル電気泳動法による多様な血清型に関するライブラリーの作成、病原因子パネルの検討および作成を行った。ライブラリーからクラスター解析を行ったところ、血清型ごとにクラスターを形成し、本法によっても血清型の推定に寄与しうることが示唆された。病原因子パネルの検討から、いくつかの血清型については特異的クラスターを形成することが示唆された。食品中の有害カビを対象にしたライブラリーシステム等構築では、リファレンスセンターおよび地拠点機関を設定し、ネットワークを形成し、危害カビに関するリスクプロファイル集を作成し、厚労省食中毒調査支援システム(NESFD)上に公開した。新規食中毒原因寄生虫であるザルコシスティスに関する研究では、まず食中毒残品より検出されたザルコシスティス(形態的にS.fayeriと同定された)を材料に、18SrDNAを部分増幅(約1,100bp)しそのシークエンスについてBLAST検索を行った。PCR系は国内3ヶ所の地方衛生研究所の協力で実証試験validationを行い、その性能を確認した。国内と畜馬肉では汚染は限局的と考えられた。輸入馬肉においては検体である馬肉の部分により汚染の偏りがあることが示された。国立試験研究機関と地方衛生研究所との連携ネットワークは、5機関の地研で、市販の国産鶏肉(非冷凍)を対象に各機関でサルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌およびウェルシュ菌の汚染実態を調査し、いずれも高い検出率であった。
結論
 本研究から、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラにおいて、食品由来株から人への食中毒を引き起こす病原性を見極めるための遺伝子マーカーの検討を行い、いくつかの新しい病原マーカーおよびストレス因子を見いだした。真菌(カビ)に関しては、地方衛生研で対応に苦慮しているカビ苦情に対する支援としてカビリスクプロファイルを作成し利用されるに至っている。寄生虫に関してはサルコシスティスの検査法と実態調査を行い、予防対策に資された。ネットワーク構築では、地研5カ所が主要な食中毒菌の拠点となり、地方自治体における食品中の食中毒細菌実態調査の実情を把握し、最終年度には鶏肉を対象に実態調査を行った。この結果を基に、各自治体において食中毒の原因不明食品の解明に役立つ情報を検討した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201234009B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の有害衛生微生物を対象としたライブラリーシステム等の構築
課題番号
H22-食品-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小西 良子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 泉谷 秀昌(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部)
  • 野崎 智義(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 林 賢一(滋賀県衛生科学センター)
  • 堀川 和美(福岡県保健環境研究所・病理細菌課)
  • 斉藤 志保子(秋田県健康環境センター保健衛生部)
  • 黒木俊郎(神奈川県衛生研究所・企画情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
毎年広域化食中毒の発生が絶えないが、その背景には食品流通の多様化・広範化が挙げられる。食中毒起因物質としては、食中毒細菌、真菌等の異物および寄生虫等の衛生微生物が挙げられる。そこで、食中毒予防に有用なリスク管理手法を確立するため、これらの起因物質の科学的解析情報を集約し、国立試験研究機関(国立医薬品食品衛生研究所および国立感染症研究所)と地方衛生研究所(地研)等の食品安全関係機関の間で、効率的かつ効果的に共有するためのシステムを構築することを目的とする。
研究方法
1) 食品中から分離される食中毒細菌の汚染実態情報、菌株のPFGE解析等による分子疫学情報等の関連性を総合的に解析する手法を開発する。2) 消費者等から寄せられた食品中のカビ等に関する苦情について、地研が蓄積している情報を解析し、リスクプロファイルを作成する。3) 馬肉中のザルコシスティスの検査法を開発する。 4) 1)~3)の情報を集約した効率的なライブラリーシステムを構築するため、地研等との間で共有を可能とする連携モデルを構築する。の4つの研究を行った。
結果と考察
1)の食品中から分離される食中毒細菌として、腸管出血性大腸菌とサルモネラを対象とした。腸管出血性大腸菌ではこれまでに報告のある多数の病原因子について、様々な血清群の株においてその有無を調べ、包括的に解析することで腸管出血性大腸菌の高病原性の要因となる因子を特定し、腸管出血性大腸菌検出のマーカーとなる遺伝子の検索を試みた。その結果、病原性の有無は病原遺伝子の有無によって決定づけられていることが示唆された。サルモネラでは、主としてヒトからの食中毒細菌を対象にライブラリーシステムの構築を図ることを目的とし、サルモネラの病原因子パネルに基づくライブラリーの検討を行った。次に真菌では、食品中の有害カビを対象にしたライブラリーシステム等の構築を行った。また、分子系統関係を利用したFusarium属菌のマイコトキシン産生能の推定および黒コウジカビのカビ毒産生性を研究対象とした。危害カビに関する最新の情報を集めたリスクプロファイル集10菌種分を作成し、昨年度構築した厚労省食中毒調査支援システム(NESFD)にアップロードを行った。Fusarium属菌の分子系統解析による分類および分子系統関係を元にしたマイコトキシン産生能有無の推定を行い、従来マイコトキシン産生性が明らかにされていなかった数菌種について、潜在的な産生能の有無が示唆された。Sarcocystis. fayeriに関する研究では、カナダ以外の馬肉生産国からの輸入馬肉に関してS. fayeri特異的定量PCR法を用いて、その汚染実態を調べた。生食用馬肉ではベルギー産、アルゼンチン産は残品以下のレベルであったが、メキシコ産において残品同等の食中毒リスクレベルの汚染が見られた。地方衛生研究所との食品中の有害衛生微生物を対象としたネットワーク構築およびライブラリーのための情報発信方法の検討として、地方衛生研究所5機関を拠点としての実態調査機能を検討した。また、発信方法の基礎情報として、市販の国産鶏肉(非冷凍)各機関20検体ずつ合計100検体を対象に、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌およびウェルシュ菌の汚染実態について調査した。
結論
食品中から分離される食中毒細菌のうち、腸管出血性大腸菌、サルモネラ属菌について、新しい病原遺伝子マーカーを特定する事ができた。真菌では、リスクプロファイルの作成とNESFDへの公開を行い、この分野での地方衛生研とのネットワーク構築に成功した。寄生虫に関してはサルコシスティス食中毒の原因となるサルコシスティスフェイヤーの実態調査を行い明らかにした。この結果は今後の予防対策に活かされる。地方衛生研のネットワーク構築は食中毒細菌では、全国5カ所の地研が中心となり、実態調査を行い、その結果を有機的にネットワークに用いるかを検討した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201234009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品中の有害衛生微生物である、食中毒細菌、真菌、寄生虫について、食中毒起因となる病原性マーカーの探索、リスクプロファイルの作成、検査法の開発を行い、それぞれの分野で、国立試験研究機関ー地方衛生研との連携を効率的に機能させるに必要な手段が確立された。
臨床的観点からの成果
臨床的な成果は得られていない
ガイドライン等の開発
2011年6月17日食安発0617第3号
その他行政的観点からの成果
新しい寄生虫性食中毒の予防に資する施策に反映された。
その他のインパクト
上記の予防対策を講じた結果、本食中毒の発生は激減した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe, M., Lee, KI., Goto, K.,et al.,
Rapid and effective DNA extraction method with bead grinding for a large amount of fungal DNA.
Journal of Food Protection. , 73 , 1077-1084  (2010)
原著論文2
Hasegawa, A., Hara-Kudo, Y. Kumagai, S.
Survival of Salmonella strains differing in their biofilm-formation capability upon exposure to hydrochloric and acetic acid and to high salt.
J Vet Med Sci. , 73 , 1163-1168  (2011)
原著論文3
Lee, K. I., Nigel French, P., Hara-Kudo, Y.,et al.,
Multivariate Analyses Revealed Distinctive Features Differentiating Human and Cattle Isolates of Shiga Toxin-Producing Escherichia coli O157 in Japan.
JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY. , 49 , 1495-1500  (2011)
原著論文4
Lee, K.I., French, N. P., Jones, G., Hara-Kudo, Y., et al.
Variation in stress-resistance patterns among stx genotypes and genetic lineages in Shiga toxin-producing Escherichia coli O157.
Appl. Environ. Microbiol. , 78 , 3361-3368  (2012)
原著論文5
Hara-Kudo, Y., Saito, S., Ohtsuka, K., et al.,
Characteristics of a sharp decrease in Vibrio parahaemolyticus infections and seafood contamination in Japan.
Int. J. Food Microbiol. , 157 (1) , 95-101  (2012)
原著論文6
Yamamoto, S., Izumiya, H., Mitobe, J., et al.,
Identification of a Chitin-Induced Small RNA That Regulates Translation of the tfoX Gene, Encoding a Positive Regulator of Natural Competence in Vibrio cholerae
JOURNAL OF BACTERIOLOGY , 193 , 1953-1965  (2011)
原著論文7
Watanabe, M., Yonezawa, T., Sugita- Konishi, Y. et al.,
Utility of the phylotoxigenic relationships among trichothecene-producing Fusarium species for predicting their mycotoxin producing potential.
Food additives and contaminants.  (2013)
in press
原著論文8
Izumiya, H., Terajima, J., Yamamoto,S., Ohnishi, M., et al.,
Genomic Analysis of Salmonella enterica Serovar Typhimurium definitive phage type 104
Emerging Infectious Dieses , 19 , 823-825  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201234009Z